2-10 後始末
笹月風雲様よりレビューを頂戴致しました!
感謝の極みでございます!
今回は第2章最終話となります。
作務衣に血がつくのが嫌だったので襤褸に着替えてから、死体を新しく作成した迷宮の胃袋に運んでいく。
心を無にして作業に没頭していると、入り口から荷物をしょったロバ……にしてはかなりずんぐりしてる動物を、9頭引き連れたコアさんが戻ってきた。
「お帰り、そのロバみたいな動物は一体なんだ?」
「こいつは……まぁロバでいいんじゃないかな? あのゴブリン達は荒地を移動してきた割りには軽装すぎると思ってたんだ。だから、外に出たらこいつらが繋ぎとめてあったからつれてきたんだ」
確かに言われてみれば連中は武器くらいしかもってなかった。
普通ダンジョン探査といえばしっかり装備を整えてから入りそうなもんだが、ちょっと偵察して帰るつもりだったのか他に理由があったのか……
荷物の中身を確認しようと思ったが、今の俺はスプラッタ死体を運んでいたためにホラー映画の殺人鬼みたいに血がついてる。
一輪車とか召喚しようかと思ったけど、DPがお高い事もあったので、結局引きずったり素手でもっていくしかなくてなぁ。
「じゃあ、コアさんも死体運ぶの手伝ってくれよ、こいつら結構重くて大変なんだよ」
「せっかくマスターが作ってくれた服が汚れるから嫌だよ。私は迷宮の胃袋で連中の荷物を整理してるから、それはマスター一人でやっておくれよ。私はマスターが乙女に死体運びしろっていう命令なんてしないって信じてるからね?」
しっぽふりふり、上目遣いで耳をピコピコさせて言ってきた。
あざとい! さすが女狐あざとい!
だがそれがいい! 俺にはこうかはばつぐんだ!
「しょうがねぇなぁ、じゃあコアさんは荷物整理を頼むよ」
「ふふ、じゃあ作業が終わったら胃袋に来ておくれよ」
胃袋ならいらないものはそのままDPにできるし、道具整理するなら最適な場所だろう。
コアさんはロバ……? を連れて行ってしまったし、さっさと作業を再開しよう。
♦
「はぁ……やっと終わった」
「お疲れ様マスター」
ようやく18匹分を死体を運び終わって一息吐くと、コアさんの声が脳裏に響いた。
とりあえずは運び終わったんだけど……
「流石に飛び散った血は回収できないからなー。これはもうこのままにしておくしかないか」
特に3匹をスライスした曲がり角付近が酷い。
あちこち血がこびりついてるし細かすぎて回収できなかった”モノ”が散乱している。
俺の目には認知フィルターもモザイクもかけれないし、この景観の悪さはどうにかならないものか……
「あ、それは大丈夫だよ。管理ウィンドウから”ダンジョン修復機能”を選べば綺麗になるよ」
そんな便利な機能があるのか!
試しに使ってみると、こびりついていた血や散乱していたモノが地面や壁に浸み込んで消えていった。
しまいには戦闘などなかったかのような綺麗な洞窟に戻っていた。
すごい! 手間いらず!
「あれ? 迷宮の胃袋以外じゃ吸収できないんじゃなかったっけ?」
「うん、この方法だとDPは増えない。本当に掃除してるだけさ、だからマスターに死体を運んでもらったんだよ」
ああ……吸収できないってそういう……
「整理はもう少し時間がかかるから、体を洗って着替えておいでよ」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
防衛エリアからコアルームを抜けて、森林エリアの河原に向かう。
ロバがのんびり水を飲む傍らでボロを脱ぎ捨て水に浸かる。ちめたい。
「ロバは1,2匹屠殺してDPにするかな」
「ロバってどんな味がするんだろうね? 後ゴブリンも1匹分食べてもいいかな?」
「コアさんチャレンジャーっすね。ロバはともかくゴブリンは俺に食わすなよ」
森林エリアで取れる木の実は大体網羅してしまったので、量はともかく種類は頭打ちになっていた。
ロバは家畜化して肉やDPの供給源になって頂こう。
畜産をやったことはないが知識の強化があればどうにでもなるし、コアさんと2人になったことで労働力にはまだ余裕がある。
水浴びを終えて着替えてから、迷宮の胃袋に入る。
そこには戦利品が種類ごとに綺麗に並べられていた。
「きたね、丁度整理を終えたところだよ」
「待たせたな、じゃあ仕分けを始めるとしようか」
なんせ18匹分だ、予備用を含めた必要数だけ残しておけばいいだろう。
品質を維持したまま保存しておける迷宮の胃袋も有限だからな。
♦
コアさんと一つ一つ戦利品の要不要を精査して、以下の戦利品を残しておくことに決まった。
・食料全部
・水筒用革袋全部
・荷物を包んでいた布全部
・マント(ゴブリンサイズ)18匹分全部
・ロバをけん引してたロープのようなもの
・剣2本
・槍2本
・弓2つ(2つは壊れていたので破棄)
・矢筒と矢
・こん棒5つ
特に布が増えるのはありがたい。縫って袋にすれば草籠より多くの物を運べるからな。
マントはちょっと匂うが、洗濯してから布団の代わりにする予定だ。
「それにしても奪う殺すを俺たちがやってしまったな。犯すのはこちらからノーサンキューだけど」
「それは迷惑料という事にしておけばいいんじゃないかな」
ダンジョンに潜伏して入ってきた奴を殺して物資を奪う、これって盗賊の所業だな。
まぁ、これで戦利品の精査もできた。ようやく戦いの後始末も終わったということだ。
「ねぇ、マスター」
「ん? なんだ?」
「マスターは前に熊を倒してDPにしたとき、カレーを出してたよね?」
あ、大体何を要求したいのかわかった。
コアさんはしっぽをふりながら四つん這いの姿勢でこっちに迫ってくる。
妙にエロい、でもそこがいい!
「だから私もDPでカレーが食べたいなぁ♪」
別にいいんじゃなかろうか、今回はゴブリンのDP以外にもにロバや布とか戦利品が多かったし。
「出すのはカレーライスがいいのか?」
「んー、ライスは前に食べたから今度は別のがいいかな」
「じゃあ、カレーうどんにするか? 今回はカツもつけてやろう」
「やった♪ DPを独り占めしないマスターのそういうところが好きだよ」
コアさんは頬に軽くキスすると立ち上がった。
「食べる前に私も水浴びしてきてもいいかな?」
「ああ……じゃあ、あがってきたら飯にしよう……」
半ば放心状態で返答するとコアさんは軽く手を振って行ってしまった。
キスされた頬を軽く撫でる……異世界に来てよかった。今は心からそう思う。
♦
コアさんが水浴びをしている場所より上流の所で火を焚いて、ついでに土鍋で水を蒸留して待つ。
大体水浴びならここ、食事ならここという風に大体の位置は決まっていた。
これが逆なら……いやいやそんな事は思うまい。
監視ウィンドウを使えば覗きもし放題ではあるが、そんなことはしない。
ビーチの1件で羞恥心がないのはわかったので、例え堂々と見てても許してくれそうではある。
だが、わざわざ好感度を下げるような真似をする必要もないだろう。
手持ち無沙汰だったのでカレーうどん以外に変換するゴブリンのDPの使い道を考えておこう。
まずは防衛エリアの強化は必須だろう。
食料の生産は少しづつ増えているので、食料枯渇によるDP切れはもうなくなったと言ってもいい。
となると、現状で俺たちが破滅エンドを迎える要因の中で一番可能性が高いのは、ダンジョン外から防衛エリアで対処できない敵対物が入ってくる事ぐらいか。
今回はゴブリンだけだったので物理的な罠で対処可能だったが、ここは異世界である。
霊体の奴や物理無効の奴などあらゆるケースを想定しておいたほうがいいだろう。
やりなおしはできないので「想定外で手も足もでません!」は死に直結する。
後でコアさんにも相談してみよう。
面倒だけどこれも俺の円満なハーレム生活のため、決して遠回りではないのだ!
「やぁ、待たせたね」
「おう、じゃあ始めるとするか」
髪を纏めたコアさんがやってきたので、この続きはまた今度にしよう。
普段の降ろしてる髪型もいいが、こうして纏めている髪型も実に似合っている。
むしろ似合わない髪型を探す方が難しいだろうな。
召喚ウィンドウからカレーうどんと総菜用トンカツを召喚し、トンカツをうどんに乗せて手渡す。
「ほれ、カレーを飛ばして服につけないよう注意して食えよ」
「そんなことで装備の修復機能は使いたくないね、気を付けるよ」
しっぽを振りながらコアさんが受け取る。余程楽しみだったらしい。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
コアさんは最初にカレー部分をすくって味を確かめているようだ。
「これがカレーか、あんまり辛くはないね?」
「俺の場合うどん用のカレーは、だしとか入れてマイルドにしてるからなぁ」
召喚されたカレーうどんがどこのうどんなのかはわからないので、あくまで俺の場合だけど……
コアさんは俺の答えに一応納得はしたのか、次に麺にカレーをよくつけて口に運ぶ。
最後にカツを一口食べると、しっぽを振りながら目を閉じて何時ものようにじっくり味わっていた。
「うん、このカツは外の衣もサクサクしてるし、カレーとの相性も抜群でとても美味しい」
「カツは揚げたてだとまた違った美味さがあるぞ」
「揚げたてかぁ……ねぇマスター、なんとかこれ作れるようにならないかな?」
カツを相当気に入ったようだ、ダンゴウサギのステーキを気に入ったことからもどうやらコアさんは肉のほうが好みらしい。
しかし、揚げ物を召喚なしで作ろうとすると――
「まず鉄鍋はDPで出さないといけないよな」
そう、DPで出せるにしても今の俺たちにはまだ製鉄技術すらない。
外から来たゴブリンが鉄剣を持っていたので、奪ったにしろ作ったにしろ外に最低でも製鉄技術を持つ文明があるのは間違いない。
そう意味で技術レベルは、遥かに負けていると思っておいた方がいいだろう。
実際今回の戦闘でも俺たちが圧勝できたのはダンジョン内で地形有利・視界有利という状況だったからだ。
もしこれが何もない荒野で2対18だったら袋叩きにされて終わっていた。
荒野の外がどうなっているかは気になるが、まだまだ引きこもりは継続だな。
おっと、また思考がそれた。
えっと、後揚げ物で必要なのは――
「肉はダンゴウサギのを使うとして後は油があれば一応素揚げはできるな。衣をつけたいなら卵とか小麦粉とかいるなぁ」
「うーん、道は遠そうだね」
「ま、知識の強化もあるし今まで通り一つ一つ作っていけば何時かたどり着けるさ。これも今後の楽しみってやつだろ? わくわくしないか?」
「ふふっ、そうだった。これでお互いに楽しみができたね」
お互いに笑いあう。
そうだな、まだまだ足りないものは多いが一つ一つ作っていけばいい。
そしてゆくゆくはケモミミ美女もまた召喚して増やしていけばいいのだ。
そう、俺のケモミミ美女ハーレム生活はまだこれからなのだ!