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2-7 どの世界線でも大体同じ姿のアレ

 風を切る音が洞窟に響く、次に聞こえるのは布と布がぶつかる音。最後に聞こえるのは俺の悲鳴。

 俺とコアさんは今、防衛エリアで枝に布を巻いた練習用のの剣で戦闘訓練をしていた。


 いや、それを果たして剣の訓練と言っていいのだろうか?

 コアさんは俺より基礎能力が上回ってる上に刀術スキル持ち、対して俺はDPで体育大生並みの身体能力にはなったが戦闘系のスキルはまだ持っていない。

 つまりこれは訓練ではない、俺はコアさんの実験台にされていた。


 コアさんは召喚された際に刀術スキルを持ったことで刀の振り方はわかるが、それを幻術・妖術と組み合わせて使う方法は一から模索する必要があった。

 なので、魔法の練習を見てもらった後に、こうしてコアさんの戦術の実験台にされているのよね。


 いやぁ、自分でこういう風になってほしいって設定しただけあって、それを自ら食らってわかるこのエグさ。


 こっちは本気でやっているのだが、まず当たらない。

 当てたと思っても幻で横から一撃をもらう。距離感覚や方位感覚を狂わされて壁に激突する。

 突然幻覚が見えてビビるし、幻聴が聞こえてビビる。ビビったところに一発もらう。


 まぁ、これもダンジョンモンスターに強くなってもらうためのダンジョンマスターの大切な仕事。

 自分にそう言い聞かせて今日もボコボコにされていた。

 

「うん、大分戦術の幅が広がってきたよ。ありがとうマスター」

「お役に立てて何より……うっぷ、気持ち悪ぃ……」


 コアさんのお礼の言葉を合図に地面に倒れこむ。

 幻術の食らいすぎで視界がぐるぐるする。これ、例の幻術を破る訓練も兼ねてるんですわ。

 ただ、タイマンの戦闘中に精神統一なんて無理な話なので一方的に食らうだけになっていた。


「今日はこのくらいにしようか、そろそろお昼を食べたい頃だしね」


 時計がないので、ウチの昼飯は適度にお腹が空いたら食べるようにしている。

 

「そうするか、いろいろと気分をリセットしたい……」


 ようやく視界がまともになってきたので起き上がる。

 コアさんが再び視界に入ってくると通路の反対側……ダンジョンの入り口方面を見ていた。


「どうした? 何かあったか?」

「侵入者……いや、侵入者達だね」


 え? 今度は複数なの?


 いやいや思考停止してる場合じゃないか。

 監視ウィンドウを開いて侵入者を確認する。


 奴らは今入り口近くにいた。ここにくるまでには長い通路があるのでまだ猶予はある。


 人型で身長は俺より低く、多分俺の腹くらいだろう。ただ、肌の色はよくわからないが牙と角を生やしていて割と醜悪な面構えをしている。


 これは……まるで……


「まさにゴブリンってやつか」


 地球にはいない種族を見ると、改めて異世界に来たんだという事をしみじみ感じる。

 

「こいつら多分、前マスターと同類だね」


 前マスター……ああ、そういえばゴブリンに近いって言ってたな。男の夢に生きて死んだ奴だっけか。


 とすると、前マスターに会いに来たとかか?

 いや、それは違うな、少なくともあいつらの装備は友好的じゃない。


 数は1、2、……全部で18匹? 人?

 まぁいいや、全部で18匹で装備の内訳が剣が2、槍が2、弓が4で残りはこん棒か、防具はなく全員ボロい布の服を纏っている。

 剣があるってことはあいつら最低でも製鉄技術は持ってるのか? それともどこかから奪ったか……


 いや、そこは今考える所じゃないな。武装して若干警戒しながら進んでるところを見るとこの場所を知っていたわけじゃなさそうだ。


 穏便に済むならそれに越したことはない、友好的に対処して外の情報とか聞き出せればベストなんだが……


「コアさん、前マスターとも記憶の共有ができてたなら、あいつらと会話ってできるか?」

「確かに言語はわかるけど知能的に会話が成り立つかは疑問だね。前マスターはほとんど本能のままに生きてたし」


 望み薄か、


「次の質問、単純な戦闘力としてはあの集団をどう見る?」

「戦闘経験のないマスターは1対1でも危険だね。私の場合は囲まれなければ大丈夫だろうけど、おそらく体力がもたない」


 俺は足手まといで戦力外、コアさんも一人では無理か。

 となれば防衛エリアの罠で撃退するのが一番か……


「マスター、私が迎撃に行くけど最初に会話してみるよ。だからマスターはダメだった場合に罠でサポートしてもらえないかな?」

「大丈夫か?」

「最初に幻術かけるからある程度は大丈夫だよ。それにこの私はダンジョンモンスターだからね、ダンジョンを守るのが本分さ」


 ああ、そうだったな。一緒にビーチで遊んだり飯を食ったり農作業してたからすっかり忘れてた。


「よし、接触と状況によっては迎撃を任せる。罠のサポートは任せておけ」

「承りました。マスター」


 こちらに向かって恭しく一礼してくる。実に様になっている。

 しかし、礼が終わってこちらに向き直ってきたとき、お互いにふきだしてしまった。

 

「ダメだ、慣れないことをすると笑いがこみ上げてくる」

「マスターはいつも命令するっていうよりはお願いするという感じだからね」


 コアさんはそういうとくるりと入り口の方に体をむける。


「じゃあ、そろそろ行ってくるよ」

「ああ、ケガするんじゃねぇぞ」


 ひらひらと手を振って答えるコアさんを見送り、俺はコアルームに戻る。

 その後、管理ウィンドウを開いて防衛エリアの罠の種類と位置を確認し、罠の発動権限を俺に移す。


 最後に侵入者の位置を確認――

 今、連中は一つ目の曲がり角をまがってすぐのところにいる。

 コアさんは2番目の曲がり角で待つようなので、接触はもう少し後だ。


 コアルームの壁によりかかって座り、目を閉じたまま深呼吸をする。

 コアさんとゴブリンの会話が失敗すればどう考えても戦闘になる。そしてその可能性はかなり高い。 


 熊の時はある意味勝手に落とし穴にかかって死んでいった。

 だが、今回は直接狙って殺す必要がある。


 日本人の俺にそれができるかと自問自答する。

 出た答えは――可。

 思い込みたいだけかもしれないが自分でも驚くほど冷酷な答えがでた。


 理由はいくつかあるが1つは熊に死の恐怖を味わわされた事。

 仮に罠を発動させるのを躊躇した場合、コアさんは間違いなく殺され、防衛エリアを突破される。

 そうなれば俺もコアさんと同じ運命をたどるだろう。そんなのは御免だ、それならやられる前にやってやる。


 だが、最大の理由はやはりコアさんを守りたいという事だ。

 そのためならどこから来たのかわからないゴブリンの10や20、いくらでも殺してやるさ。

 

 静かに覚悟を決めたころ、ついにその時がやってきた。

 心の隅で穏便に済むことを願いつつ、事の成り行きを見守ることにした。

心の中では穏便にとか言ってるけどもうフラグにしかならない。

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