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2-6 煮込めば大抵の物はなんとかなる、ならなきゃあきらめろ

「ねぇマスター、召喚してほしいものがあるんだけどいいかな?」

「ん、何がほしいんだ?」


 キュウリの摘芯をしていると、ダンゴウサギのしっぽをかかえたコアさんがやってきた。

 コアさんは召喚することはできないので、何か欲しいものがあるときは俺に言うしかない。


「土鍋がほしいんだ」

「土鍋かー」

 

 DPはあるし土鍋程度なら特に問題はない。まぁ、コアさんにもDPは稼いでもらってるし余程高い物じゃない限り反対はしない方針ではある。


 しかし、土鍋か……言われてみれば川の水を煮沸したりできるのに、これまで何故出さなかったんだろうな。

 余裕がなかったから思い至らなかったということにしておこう。


「それを煮るのか?」

「ごく少量だけど塩も取れ始めたし、焼くだけだと飽きてくるからね」


 先日拡張した海洋エリアに作った天日塩田からわずかに塩が取れるようになった。

 実際の塩田を見た事がないから比較はできないが、こちらはダンジョン機能をいじって海水を蒸発させやすい環境にしてあるので相当早いんじゃないだろうか?


 品質は地球産のものに比べるのもおこがましいが、それでも塩味をつけれるようになったのは俺たちにとって重要な進歩だ。


 現在海洋エリアにはコアさんと相談した上で異世界の稚魚を数種類と海藻を出してある。

 1日1回ミンチにしたダンゴウサギの肉を餌として撒いておけば大丈夫だそうだ。


 召喚ウィンドウを開いて土鍋を召喚し、コアさんに手渡す。


「ほれ、いいのができたら食わせてくれよ」

「ん、わかった。ありがとうマスター」


 コアさんはダンゴウサギを追い回してる時以外には、取れる木の実を焼いてみたり肉にかけてみたりと新しい味の発見に情熱を注いでいるようだ。

 もっと美味いものが食えるようになるのは俺も嬉しいので、そのうち料理スキルを付与してやるのもいいかもしれない。

 

 今日はひさしぶりに塩肉鍋が食えるかも、はやる気持ちを抑えながらキュウリの世話をしよう。

 キュウリも後2週くらいあれば収穫できるだろう、食生活も本当に少しずつではあるが豊かになりつつある。


 最初に呼ばれた時はどうしようかと思ったが、ここまで環境が整ってくればケモミミ美女は召喚できるし、うるさい上司もきついノルマもないしで身も心も軽くなってきた!


 もう何も……いやいや、これ以上は思うまい。


 あんな熊がまたくるのはもう御免です。

 外敵怖い、超怖い。だから来ないでくださいお願いします!





「マスター、ちょっと河原に来てくれないかな!」


 森林エリアで腐葉土をかき回してると興奮したコアさんがやってきた。


「おー、どした?」

「いいからいいから、早く来てくれ!」


 急かすのは珍しい。作業を中断して一緒に河原に向かうと、そこには何か白い物を煮ている土鍋があった。

 これは……イマウトルニか、原形がなくても名前とかわかるんだな。


「まずは食べてみてくれないか?」


 コアさんはそういうとスプーンで掬って差し出してきたので反射的に受け取る。

 しかし、イマウトルニね……イズマソクの実ほどではないが、渋くてあんまり好んで食べたくないものだったけど。


 まぁ、コアさんは幻術で化かしてくることはあっても騙そうとすることはない。

 言わないことはよくあるけど……


 まぁ、いいのができたら食わせてくれと言ったからな。ここはありがたく頂こう。

 ちょっと熱そうだったので息を吹きかけてさましてから、一気に口の中に運ぶ。


「おいちい!」

 

 え? これがあのイマウトルニ?

 渋さがまったくなくなっていて、煮込まれたからかほどよい噛み応えになってるし!

 おそらく煮込むことによって渋みが薄くなり、丁度いい感じになったんだ!


「そうだろう、私もびっくりしたよ。だから今日はこれにウサギシッポの肉を入れて鍋ものにしようと思うんだけどどうかな?」

「是非そうしてくれ。そしたら今日は特別に酒でもだそうか? ワンカップだけどな」

「ふふ、初めての酒か。いいね、楽しみにしておくよ」


 おっとその前に……召喚ウィンドウを開いてお玉を出して、コアさんに渡す。

 いつまでもカレー用スプーンだけじゃ大変だろうからな。


「じゃあ、もう少し腐葉土かき混ぜてからまたくる」


 そう言って、作業を再開させるために腐葉土置き場に戻る。

 今日の夕飯が楽しみ!



 


「お、来たね。丁度よく煮えてる頃だよ」

「いいねぇ、いい香りだよ」


 頃合いを見て作業を中断し、肉が煮えるいい匂いが立ち込める河原に戻る。

 土鍋の近くの石に座って召喚ウィンドウを開き、箸とお椀とワンカップをそれぞれ2つだして片方コアさんに渡してやる。


「ありがと。ほら、マスターの分もよそうから渡しなよ」

「ん、サンキューな」

 

 コアさんからお椀を受け取ると膝にのせてから、ワンカップの蓋を開ける。


「それじゃ、乾杯」

「乾杯」


 カチンとビンを鳴らしてから一口飲む。喉が熱くなって頭が少しぼぉーっとする。

 いい気分に浸りながらワンカップを地面に置いてお椀を手に取り、ダンゴウサギの肉を口に入れる。


「うん、美味いな」 

 

 味付けは塩のみだが、イマウトルニの煮汁……薄くなった果汁を吸った肉が噛むごとに肉汁と一緒に口の中に広がっていく。

 主に甘いドクリンゴモドキが主食になっていた俺にとって、久しぶりの塩辛さは格別だな。


「これが酒の味か、体が温かくなってきていい感じだね」


 しっぽを振りながらコアさんが呟く。頬が少し赤くなっていて実に艶めかしい。

 そのままコアさんはお椀を取って肉を口に運んで目を閉じる。じっくり味わっているのだ。


「うん、鍋も美味しい」

「欲を言えばもう少し具材がほしいところだな」


 具が2種類なのはちょっと寂しい。


「そこは今後の楽しみという事でいいんじゃないかな? キュウリの収穫が終わったら他の野菜も育てるつもりだろ? それに今後、海産物も増えてくる。わくわくしないか?」

「それもそうだな、今回はこれで満足することにしよう」

「あ! そうだマスター。この鍋の汁は残しておいてくれるかい?」


 ん? コメがないのに雑炊でもするのか? まぁ、別にいいので了承しておく。

 

 この後も鍋と酒を楽しみつつコアさんと談笑する。

 ちょっと饒舌になりすぎた気もするが、きっと余計な事は言っていないと信じよう。





 食が止まることもなく、気づけば鍋の具がなくなっていた。


「言われた通り残したけど、そろそろ雑炊でもするのか?」

「いやいや、煮るのはこれさ」


 そういってコアさんが取り出したのは……イズマソクの実。


「イマウトルニだって煮たら美味しかったんだ。きっとこれも煮たら美味くなるはずさ」


 そういってイズマソクの実を鍋のなかに落とす。

 ……鍋の汁がどんどんドス黒くなってるんだけど、これ絶対ダメなやつだよね?


「ほら、多分これでクソマズイ成分が抜けて、この木の実は美味しくなってるはずだよ」


 ええー、コアさんそういう解釈しちゃうの?

 あなたもしかして酔ってます?


 なんか凝縮した漢方薬を煮だしたような、古臭いにおいがしてきてるんだけど……

 これ絶対ダメなやつだよね?


「そろそろ煮えてきたかな? それじゃそろそろ味見してみるとしようか」

「いや……これは……やめといたほうが……」


 ダメだ、俺にはもうコアさんの好奇心を止める事はできない。

 コアさんはイズマソクを箸でつまむとそのままひょいと口の中に入れた。

 そのまま咀嚼しようとして――


「…………ガフッ!?」


 ――噴き出した。やっぱりイズマソクは煮てもクソまずかったようだ。


 普段は冷静で凛々しくて頼れる相棒なんだがねぇ。

 こういう事だけはどこまでも残念な美人というキャラを確立してしまったようだ。

 

 

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