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6-72 エピローグ 祭祀4

 うまい飯とうまい酒、それに加えて談笑していれば時間がたつのも早い。

 もうとっくに日も沈み切っているが、あちこちにある篝火のおかげで周りは明るい。


 これ遠くから見ると、下手したら山火事に見えるんじゃね?


「皆の者ー飲んでるかー!?」

「うぉぉぉー!!」


 サエモドさんに歓声を返す白犬族の皆さん。

 みんな酒が入ってテンションたっかいなー!


「私もまだまだいけますよぉー!!」


 四人組にツタを巻いた半裸のククノチが叫ぶ。

 チビッコたちはもう寝てしまったので、ギリギリセーフだ!


 だがお前ら! 苦しそうでうれしそうな顔をするんじゃねぇ!


「だが祭りはここからが本番じゃ! わかっておるな皆の衆!」

「もちろんだぁーーーー!!」

「よろしい! では点火するのじゃぁぁぁ!!」

「おおーーー!!」


 サエモドさんの発破の声とともに、供物を乗せられていた祭壇に松明が投げ込まれる!

 もともと燃えやすい素材でできていたのか、祭壇は一気に火がつき燃え上がった!


 これは……さながらキャンプファイアー!


「それではミュージック! スタートじゃ!」


 サエモドさんが音楽隊を指をさすと、太鼓を持っていた男がうなづく。

 同時に数人がサエモドさんのところに集まって隊列を作った。

 

「仙人様。どうぞ」

「あ、どうも」


 空になった俺のグラスを見て、すかさずアイリが酒を注いでくれる。

 いいね! 酒を飲みながら舞踊を見させてもらうとするか!


 そして音楽が始まり、サエモドさんたちが音楽にのせて踊り始めて――


 ……え?


「ブフゥーー!!」

「仙人様!?」


 ぶぁっ!? 酒が鼻に入った!!


「ア、アイリ。あれって……」

「はい、”ぽっぷす”といって、大国ではやっている音楽ですけど」


 なるほど、白犬族たちは交易も営んでいるから、よその国の情報に明るいのも納得だ。

 だが、今演奏されているのは地球でも大ヒットしたキングオブポップと呼ばれたあの人の名曲だぞ!?


「アイリ、これも……ギフトなのか?」

「え? いや、そこまではさすがにわかりませんが」


 いやいや、どう考えてもギフトだろこれは!

 曲調とダンスがまるっきり一緒なのは、偶然の域を超えている。


 なんか歌ってはいるけど、これ英語じゃないな。意味がわからん。

 歌詞を知らない洋楽を聞いてるような感じだ。


 まぁでもいっか。


 サエモドさん達のキレッキレのダンスを見てたら、そんな細かいことどうでもよくなってきたわ。

 完璧な体重移動のムーンウォークを披露し、周りから喝さいを浴びている。


「うぁー! すごい! 後ろに歩いてる!? あれどうやってやるのぉ!?」


 特にオルフェは目を輝かせてダンスに魅入っているようだ。

 おもいかえせばウチには楽器も歌も音楽というものがなかったな。


 俺が演奏ができないから今まで敬遠してたけど、いい機会だしそろそろ音楽にも触れさせてもいいか。

 何よりみんな楽しそうだし。


 サエモドさんたちが完璧なフィニッシュを決め、割れんばかりの拍手を巻き起こした。


「センキュウ! センキューウ!」


 サエモドさん酒が入っているとはいえ、そんなキャラだったっけ?

 彼は拍手を全身で受けた後、某有名コメディアンのように拍手を止める。


「続きましてぇー! 舞踊の神にささげる東西舞蹴(まいける)対決ぅぅーーー!!」

「ちょっと待てぇ! 舞蹴まいける対決って何だ!?」


 俺の全力を込めたツッコミも割れんばかりの歓声にかき消されてしまった。

 

「東コーナー! 現チャンピオン! マナミ様チィィィム!!」

「いくよみんな! 今年も勝利をかっさらうさね!」


 姿を見せたのはマナミさん率いる4人の男たち! というか誰だよお前ら!


「西コーナー! 挑戦者! アイリ様チィィィム!!」

「行きますよ皆さん! 今年こそ勝利をわが手に!」

「うぉぉぉー!!」


 あれ!? いつのまにかいないと思ったらあんなところに!

 ちょっとまって! アイリさんがいないとルールが聞けないじゃないか!

 周りの人たちも熱狂してそれどころじゃないし!


「先鋒! 前へ!」


 司会のサエモドさんと観客の歓声に押されるかのように二人の男が前にでて、お互いにメンチを切る。

 距離が近くなるほど歓声も大きくなり、ボルテージは最高潮へと達した!


「さぁそれでは盛り上がっていきましょう! スリー! トゥー! ワン! ~~~~~~~っ!」


 ここでわざとらしくためを作るサエモドさん。

 歓声も一気に静かになるあたり、一体感がすごい。  


 サエモドさんはためにためて――


「GO!!!」

「ポォウ!」

「ポォォゥ!」


 合図とともに同時にポージングする中央の男たち!

 いやそれもあの人のポーズでしょ!?


 そして――


「勝者! 西軍!!」

 

 一瞬の沈黙ののち、会場は大歓声につつまれた!

 いや、だからルールは!? 何を判定するのこれ!?


「くっ!? やるじゃないか。去年とは違うようだねぇアイリ!」

「私たちだって、成長しているのですよ姉さま!」


 二人とも酒が入ってるせいか煽る煽る。つーか、マナミさんはともかくあんなに声をはりあげて叫ぶアイリは初めて見たわ。


「それは楽しみだねぇ! 次! 次鋒! 行きなっ!」

「次鋒レオドン行きます!!」


 負けた先鋒と入れ替わるように走り出したのは、白犬族のなかでも比較的たっぱに恵まれた風貌(ふうぼう)のレオドンさん。

 あの人は俺の狩りの師匠でもある。いかつい顔をしているが、話してみると結構気さくでいい人だぞ!


「ポォウ!」

「ポォォウ!」

「勝者! 西軍!」


 あ、負けた。

 意気消沈し、しょんぼり歩きながら退場していくレオドンさん。


「あのレオドンを瞬殺するとはやるじゃないか!」


 いや、勝負が決まるのは一瞬なのに何言ってるんだマナミさんは。


「しかし! アタイ達はまだ実力の半分も出しちゃいないさ! 勝負はこれからさね!」


 マナミさんのこの宣言は間違っていなかった。

 中堅戦と副将戦は東軍の勝利に終わり、これで2対2。


 そして――


「大将戦勝者! マナミ様!」


 歓声に包まれたステージでそのまま勝者のポーズを決めるマナミさん。

 対して地に両手をつき、がっくりうなだれるアイリさん。


「いいところまで行ったけど、まだまだチャンピオンの座は渡せないねぇ!」


 マナミさんの煽りに対して、キッと顔を上げるアイリ。


「いいえ! まだ終わりませんよ姉さま! 指名権を使います! 仙人様!」


 はい?

 アイリのその宣言に静まり返る会場。


「確かに! 東西舞蹴まいける対決! ルール第4条! ”指名権の行使”の条件を満たしております! よって有効! 仙人様前へ!」


 ちょっと待て! なんだそのルールは!?

 おいこら待て! 勝手に再び盛り上がるんじゃない! やめろ! 仙人コールはやめろ!


「マスター! きちっと決めてよ!」

「ご主人がんばぁ~!!」


 この酔っ払いどもも無責任に煽りやがって!

 しかしここまで煽られて、なお出ないとなれば場はしらけるし何より俺の沽券にかかわる。


 拍手や歓声が沸く花道を歩いてマナミさんの前へと立つ。


「ま、誰が相手でもアタイは負けないけどねぇ」

「それよりもだな、まずはルールを――」

「仙人様は”ぽっぷす”にもお詳しかったですから! 絶対負けませんよ!」


 そりゃまぁ知ってるけどさ! 声を張り上げて俺の声をかき消すより先に、まずはルールを教えて!


「これは世紀の一戦となるかもしれませんな! ではいきましょう! スリー! ツー! 」


 だめだ! この三人も酒が入ってるせいでまともな会話にならん!

 こうなったら俺が知る限り最も有名なポーズで勝負するしかねぇ!


「ワン! GO!」

「ポォウ!」

「ポォォウ!」


 ポーズをとった瞬間、会場が静まり返る。

 ちらりと横目でサエモドさんを見ると、発表を伸ばすように右手をグーにかまえてためる。


 ためてためてためまくってー


「仙人様! 反則! しっかぁぁぁくっ!」

「いや、だからまず最初にルールを教えろっつってんだろうが!」

 

 完璧なタイミングのツッコミに、会場は大いに盛り上がった!


 ――と信じたい。


 その後は俺たちが花見の時にやった宴会芸を披露し、白犬族の祭祀は大盛況のうちに幕を閉じた。



 白犬族に用意してもらった寝床にて、ケモミミ娘たちの寝息を聞きながら一人考える。

 祭祀の熱気や酒の酔いをさまして考えるのはここ最近の出来事。


 DPで未来のマンガを出せた事。

 神器と呼ばれる道具がある事。

 段ボールが希少価値があるものとして流通している事。

 地球で流行っていたポップスが普及している事などなど――


 なんかどうも俺が想像してた異世界とは、大分勝手が違うんだよなぁ。

 今まではできるだけダンジョンに引きこもっていたかったけど、これからはもっと外の世界に目を向けてもいいのかもしれない。


 幸い白犬族は交易もやっているから、いずれ彼らに同行させてもらうのもいいだろう。

 だが、ここには整備された道がない。交易が再開できるのはもう少し先になるかな?


 となれば、それまでは引き続きダンジョンの改良にいそしむとするか。


 考え事をまとめたら、眠くなってきたわ。

 明日は片付けもせにゃならんし、さっさと寝ちまおう。

執筆初めて2年半

初めて日刊(158位)に乗りました!


ありがとうございます!


んでもって、ようやく騒動も一区切り!

これでしばらくは日常回に戻れる

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マナミは5人の男を率いて出てきて、対戦が2対2の時、大将としてマナミ本人が出陣? だとすると、出番のなかった男が1人いるのだが(;^_^A
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