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2-5 黒歴史を量産させられる程度の魔法

 目を閉じて精神を集中させ、指先に火を灯し、そのまま約1メートルほど離れた的に向けて放つ。

 炎はチロチロとゆっくりと進んでいき、的にあたるとはじけて消えた。


「ふぅ、ようやくここまでできるようになったか」

「戦闘面ではまだ使えないけど、この短期間にここまで出来るようになったのはすごい事だよ」


 そりゃあ優秀な家庭教師がついてるからな。

 普段は夜に魔法の練習をしているが、時々こうして昼間でもコアさんについてもらって練習をさせてもらってるしね。


 というのも先日の「ソルトビーチ子供返り事件」で、今の俺には魔法に対する抵抗手段がない事がわかった。


 たまたま先日は味方のコアさんが、きっと俺のためを思って幻術をかけてくれたんだと思う。

 しかし! コアさんが使えるという事は、外から来た敵も使ってくる可能性があることを考えなければならない。


 なのに、ダンジョンマスターという総大将といっていい俺が、魔法攻撃に弱いのはなんとかしないといけないと考えたわけだ。


 もちろんDPを使って完全魔法耐性を得ることは可能だ。

 ただし今のDP供給量では高くてとても無理なので、独力で抵抗力を身に着ける必要があった。


 その方法は簡単で、魔力の「意思の力を現実世界に出す力」を「そんな事はありえない」と精神力で否定してやればいい。


 ただし、それには結局魔法への理解を必要とする。

 単純に思うだけではダメなのだ。


 焚火に火をつける前に、指先に出した火が消えることはなくなった。

 次は指先に出した火を飛ばす練習をしている。


 コアさんは水をかけるだけで俺に幻術をかけていたので、まだ魔法では遥かに及ばないがそれでも進歩があるのは嬉しいね。


「じゃあ、そろそろ幻術に抵抗する練習でもやってみるかい?」

「そうだな、挑戦してみるか」


 コアさんは俺の鼻をツンとつつく。


 ああ、いま幻術をかけたな……これから一体何をされるんだ?

 コアさんはそでから何かを取り出して、俺の前に見せる。

 

「さて、君にわかりやすく幻術をかけたけど、私が今手にもっているのはイナガジアに見えるだろう? でも、実際には違うものなんだ。さぁ、私の幻術を打ち破って当ててみたまえ」


 コアさんの手の上にあるものは、どうみてもイナガジアにしか見えない。

 本当に違うものなんだろうか?


 まぁでも、違うというなら違うんだろう。意識を集中させて見えているものが違うと否定する。


 ――ダメだ。どうみてもイナガジアにしか見えない。


「最初は精神力だけで破るのは難しいかな? じゃあ今回は特別に触覚も使ってみてもいいよ」

 

 そういって俺の手にイナガジア(?)を乗せる。

 触ってみるとイナガジアのブツブツした感じではなく、なんかつぶつぶした――


 わかったぞ! これはよく食べているアレだ。

 改めて幻術を破るために、目を閉じて意識を集中させる。


 頃合いを見てゆっくり目を開ける。

 手のひらにあったイナガジアがドクリンゴモドキになっていた。


「破ったぞ、こいつはドクリンゴモドキだな」

「正解、これが幻術の破り方だよ。一人で幻術を破る必要があるなら必須技術だね」


 コアさんはピッと俺の方に()()()()()微笑む。


 なるほどなー。今回は触覚を使って違うことがわかったからできたけど、精神力だけで破るのはできないとは言わないがきつそうだ。

 やっぱり幻術使いに対抗するには数で勝つのがセオリーだな。


「それじゃ、ちょっと休憩にしようか。ほら、これでも食べて頭を休めるといい」


 コアさんはそう言って俺に()()()()()()()ドクリンゴモドキを俺に手渡す。


 ここで気が付くべきだったんだ。

 ドクリンゴモドキを口に運ぶために軽く握った時、その感覚が見えてるものより小さかった事に……

 だが、見た目に騙された俺はまったく気が付かずにソレを一口かじる。


 味覚が感じたのは甘い果物の感覚ではなく――


 思い出したくもない、耐えがたいあの苦痛。

 

「ブギャグェグホァ!?」


 ぎゃぁぁぁぁ!! 俺の……俺のお口が大災害!

 苦い辛い酸っぱい痛い気持ち悪い!


「油断大敵だね。ほら、本物のイナガジアとドクリンゴモドキだ。大丈夫、今こんだけ過敏になってたら幻術なんか効きやしないから」

 

 コアさんからイナガジアを奪い取り、かじっては吐き出す!

 少し収まってきたところでドクリンゴモドキをかじる。


 苦痛で砂漠地帯となっていた俺の口の中に甘みが広がり、ようやく落ち着いてくる。

 地面に転がっている吐き出したものを見てみると――


 そこにはイズマソクが転がっていた。

 

「幻術を破るには精神力で跳ね返す以外には、外部からショックを与える方法があるね。そういう意味ではこのイズマソクは最適だといえる。もっとも、食べるたびに転げ回っていては戦闘面では使えないだろうけどね」

 

 だからと言って実践させんでくださいよ……

 

「さて、幻術に抵抗するには実際に幻術にかかって破っていくのが一番の訓練になる。だから私がマスターに気が付かれないように幻術をかけるからそれを破るのが手っ取り早いんだけど……」

「お願いしますからそれはまだ勘弁してください」


 思わず土下座して懇願する。


 飯が実はイズマソクだったり通路だと思ってたのが壁だったりとかすると、日常生活に支障がでるから!

 何よりコアさんが信じられなくなってしまう。

 

「今はこうして魔法の練習をするのが一番いいかな。少ない魔力で炎を飛ばせれば、魔力が強くなった時に効率よく扱うことができるようになるし自然に抵抗することもできるようになる」

 

 結局は練習あるのみだな。


「でもね」


 コアさんが話を続ける。


「妖狐になったせいかな? 時々無性にマスターを化かしたくなるときがあるんだよ。だからね、早く抵抗できるようにならないといつまでも狐に化かされ続けるよ?」


 ……コアさんは絶対怒らせないようにしよう。きっと黒歴史を量産させられる。

 

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