2-4 八畳間のプライベートビーチ
注意
今回裸表現があります。
閲覧のさいはご注意ください。
見上げれば、雲一つないどころか太陽すらない青い空――
眼前には、遥か彼方の水平線が見える青い海――
ゴミどころか砂以外何一つない白い砂浜――
俺とコアさんは今、新しく作成した海洋エリアの砂浜にいる。
そもそもこうなったのは、最低限の調味料は早くほしいというコアさんの熱いもふもふの説得があったからだ。
実に俺の扱い方をわかっている。
正直、塩程度なら量が少なければDPでだしてもよかったんだが……
「うんうん、きれいな海ができたね。貝に魚にその他海鮮、実においしく育ちそうじゃないか」
熱いもふもふの説得の中には、早く海産物を毎日食べたいというコアさんの確かな意思があったわけだ。
まぁ、調味料や海産物がほしいのは俺も同じだから、反対する気はさらさらない。
だからDPがないとしぶる振りをして、たっぷりもふもふを堪能させてもらった。
非常に美味であった!
ただ、DPがつらいでこのエリアは八畳間ほどしかない。
海水に浸かっている部分はおよそ半分なので、養殖というよりは生け簀みたいなものになるだろう。
増えた維持費はコアさんがダンゴウサギを追い掛け回すようになった事。
そして収穫できる木の実が倍増したことで、ペイどころか大幅にプラスになっている。
あいつらは俺に殺す気がないのがわかってきたのか、最近脅してもしっぽを切り離してくれないからなかなかしっぽを取れなくなってしまった。
しかし、コアさんは違う。
しっぽを差し出さないと殺して食う。差しだしても丸々太ってたら殺して食う。
そんな意思をこめた絶対捕食者としての眼を輝かせながら、静かに殺気を放って襲ってくる。
あれは例え殺されないとわかっててもびびるわ。
森林エリアではそんな鬼ごっこが連日開催されるようになっていた。
ちなみにダンゴウサギが最近子供を産んだらしく、これで収穫量がさらに増えるとコアさんが喜んで言っていた。
――おっと話がそれた。
つまりこの海岸エリアは塩や生け簀、あるいは砂等の収穫をする予定で出したわけだが、せっかくのビーチなので今日くらいは設備を作らずに遊ぼうという事になったのだ。
決して大きくはないが、ケモミミ美女と2人きりでビーチ……最高だな!
「はは、すっかりグルメキャラが定着しちゃったな」
「私をこういう風にしたのは君のせいだからね?」
その言い方はドキッとするのでやめてください。
「それにしても水着がないのが惜しい、着替えもないし海水浴はやめといたほうがいいかなぁ。砂浜でトンネル山とかでも作るか?」
水着姿を見れないのは非常に残念だが、このエリアを出したことでDPがないからしょうがないのだ。
コアさんは顎に手をあてて何かを考えるようにしていたが、「よしっ」と一言呟いた後――
服を脱ぎだした。
――えっ!?
いきなり何してるのこの人!?
突然の事に俺の脳がショートしてる間にも、コアさんは服を脱ぎ捨て全裸になる!
まるで作られたような……いや、実際作ったんだった。
完璧なプロポーションを惜しげもなく晒す。
動けない俺を尻目に、コアさんは脱いだ服をポータルに押し込む。
そしてさほど距離もない砂浜を一足飛びして海水に飛び込んだ!
――大海や 狐飛び込む 水の音――
はっ!? その音でようやく脳が再起動できた!
「コ……コアさん、あんた何やってますのん?」
「今は2人きりだし別にいいじゃないか、それよりマスターも入っておいでよ。冷たくて気持ちいいよ?」
ああ、コアさん元は全裸(?)だったもんな。
あんまり羞恥心とかないのかも。
いや、しかし俺は……ここで裸になろうもんならきっと歯止めが……でもせっかくのお誘いだし……
うわっぷ! 顔に水が!
なんだこれしょっぱい! 海水か!?
「コアさん! 何すんだ!」
「ふふ、マスターはずっとDPを稼ぐために頑張ってくれてたからね。たまには忘れて童心に返っちゃいなよ」
海水でしみる目をこする。目をつぶって真っ暗になった視界の中に、ふと知らないおじさんと何かわからないスイッチが思い浮かぶ。
「ふふ……せっかく海を作って、童心に返れと言われたんだ。押さんでどうする? 童心スイッチを……!」
妙な言葉遣いで変な説得をしてくる知らないおじさん。
だが、なぜかあらがえない。
心の中の俺はそっと童心スイッチに近づき――
そして、スイッチを――
――押した。
♦
僕は服を脱いでコアお姉ちゃんと同じようにポータルに投げ入れてから、海に向かって飛び込む。
「うんうん、それでいいんだ。そらっ!」
うわっ!?
コアお姉ちゃんがまた顔に水を飛ばしてきた。僕もお返しだ!
「必殺! レップーハ!」
昔よくやっていたTV格闘ゲームの悪い奴の動きを真似して、水をコアお姉ちゃんに向けて飛ばす。
でも、コアお姉ちゃんはひょいっと横に動いちゃったから当たらなかった。
「レップーハ! レップーハ! レップーハ!!」
「ふふ、あたらなければどうという事もないんだよ」
……うう、何回やっても当たらない。
「じゃあ、そろそろお返しだ」
そういうとしっぽを海水につけてしみ込ませていく。
そのままくるっと回ってしっぽについていた海水を僕に向かって飛ばしてきた。
勢いよく飛んできた水を顔に受けて尻もちをつく。
水が鼻に入ってツーンとする。
「じゃあ次は砂浜でお城でも作ってみようか」
「うん、やるー」
その後も、コアお姉ちゃんとお城を作ったり、ダムを作ったり、埋められたりしてたらあっという間に日暮れになっちゃたんだ。
「今日は楽しかったかな?」
「うん!」
「それはなにより、じゃあそろそろ解除しようかな」
解除? お姉ちゃん何言ってるの?
そんなことを思ってたら、コアお姉ちゃんは僕に近づいて目の前でパチーンと手を叩いた。
…………。
「わあぁぁぁぁぁぁ!!」
何をしてたんだ俺はぁぁぁ!?
黒歴史をほじくられたような恥ずかしさがこみ上げてくる。
普段の俺を考えればあんなにハメをはずすことなど考えられない、となると可能性としてあるのは――
「コアさん! 俺に一体何をした!?」
「最初に水をかけた時に幻術と妖術をかけたんだよ」
うわ、さらりと言いやがったよこの女狐!
つか、幻術と妖術ってこんなこともできんのかよ!? ほとんど精神操作みたいなもんじゃないか!?
「いやいや、精神操作なんかできないよ。君は内心ではこうやって遊びたいと思ってたはずだ。私はちょっと君の背中を押してあげただけだよ」
いやいや、十分操作してただろ。心の中でツッコミを入れてると――
「それに……楽しかっただろ?」
見惚れるような笑顔で聞いてくる。
…………。
ああ、そうだよ。超楽しかったよチクショウ!
ここに召喚された頃からはもちろん。もしかしたら社会人になってから、今までで一番楽しかったかもしれない。
「そんな聞き方されたら、もう怒るにおこれないじゃないか」
「ふふふ、楽しんでもらったようで何よりだよ」
まったく、かなわないな。
「さてと、そろそろ砂と海水を洗い流したいんだけどいいかな? マスターなら雨を降らせることもできるだろ?」
言われて管理ウィンドウを開く。
――ただし、このままやられっぱなしは癪だったので風雨設定を「台風並み」に設定する。
すぐに辺りが曇り、豪雨が吹き荒れてきた。
全裸のこの状態だと強い雨は打たせ湯みたいで心地よい。
吹き荒れる風もやや気温が高いこの海洋エリアなら、なかなか乙なものだ。
もうそろそろいいだろう、設定を「通常」に戻す。
顔についた雨を拭って目を開ける。
目の前には乱れきった長髪を顔にベトつかせて、恨めしそうにこちらを見るコアさんが居た。
そこには色気も何もない。
「もう少し優しく洗い流してほしかったんだけどな」
「すまんね、童心に返ったせいでついイタズラ心がわきあがってな。さぁ、コアルームに戻るぞ。戻ったらタオルとブラシを召喚してやる」
コアさんがDP集めに協力してくれているおかげで、少しづつ小物も召喚できる余裕もでてきた。
まだまだ物は足りないが、少しづつ増やしていけばいいだろう。
思いっきりはしゃぎ回ったせいで今日は疲れた。
今日はもうさっさと寝よう。
言いたいことがあるが、いい気分転換にはなった。
そういう意味ではコアさんに感謝しよう。
水着がないから仕方ないよね!