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2-3 美女の頼みは断れないのが男のサガ



 肉が焼けるいい匂いが河原に充満してきた。

 よく熱した平べったい石に、輪切りにしたダンゴウサギのしっぽを乗せてじっくり焼いていく。


 両面が良く焼けたら鉈で食べやすい大きさに切って、カレーを召喚した時の皿にもる。


 そしてドクリンゴモドキを半分に切り、片方をしぼって肉の半分につけ、もう半分をそのまま添える。

 最後に召喚したライス(茶碗)をつければ……


「ほい、ダンゴウサギのしっぽステーキ定食お待ちっ!」

「お、いい匂いだね。おいしそうだ」


 サラダとスープがないから定食と言っていいのかは微妙だけどな。


 コアさんのお願い、それは今までに俺が食べたものを食べたいという事だった。

 なんでも今まで俺が木の実やカレーに一喜一憂しながら食べてるのを見て、前々から気になっていたらしい。


 この度晴れてダンジョンモンスターとして召喚されたから、今までのものを()()食べてみたいんだそうだ。


 尚、全部というとカレーが含まれるわけだが、DPがきついのでご飯だけで妥協してもらった。その代わりのステーキ定食というわけだ。


「えっと……こういう場合は『いただきます』って言うんだったかな?」

「それであってる。口に合うといいんだがな」


 別に俺は料理人でもなんでもなくて、たまーに自炊をしてた程度だからなぁ。

 

「まずはご飯を頂くよ。これが君の故郷の主食なんだね」

 

 そういってコアさんはまずご飯を一口食べ、目を閉じてじっくり味わうように咀嚼している。

 

「やわらかいけど、主食という割には思ったより味がしないね?」

「味というよりは炭水化物とかのエネルギー関係のほうで主食という理由だったかな?」


 今まであんまり意識してなかったから、その辺りの事はよく覚えてない。


「それよりもご飯の真価はほぼ何にでも合う事だろ。このまえ俺が喰ったカレーもそうだし、地球の料理にはかつ丼とかステーキ丼みたいにコメと肉を合わせた料理もある。だからその肉にも合うと思うぞ」

「それなら最初は肉だけで食べてみようかな」

 

 スプーンで一切れすくって口に運ぶ。コアさんは咀嚼して「これが肉の味か……」とつぶやいた後、次にモドキで味を付けた方を食べる。

 しっぽが少し揺れている。これは気に入ってくれたんだろうか?


「うん、ご飯より味が濃いし噛み応えもある。モドキを付けた方も濃い味に違う味がまざってこれはこれでなかなかだ。では、いよいよ次はご飯と肉を合わせてみようか」


 そういってご飯に肉を乗せて一緒に口に運ぶ。目を閉じて何度か咀嚼していたコアさんだが……

 突然目を見開く! そしてしっぽがぶんぶんと大きく左右に揺れる。


「ご飯に肉汁がしみて味が付いたのがすんなり喉に通る! コメと肉が合わさって丁度いい味になっている! これが『美味しい』というやつか!?」


 多分、膝に皿と茶碗が乗ってなければ立ち上がって叫んでいただろう。

 テーブルもそろそろほしいところだが、召喚するにも木工細工の能力を得るにもDPが足りない。

 

 コアさんは興奮した様子でステーキ定食をがっつく。

 うん、美人が台無しだからもう少しお淑やかに食べてほしいと願うのは俺のエゴなんだろうか?


 結局、そのままの勢いであっという間に平らげてしまった。結構な量があったと思うんだが……


「満足できたかな?」


 意趣返し。というわけでもないが、さっきのコアさんのセリフを食器を受け取りながらそのまま返す。


「いいや。満足できないね」 


 え!? しっぽぶんぶん振って興奮してたじゃん!?

 それとも量か? 量なのか?


 もしかして大食い属性がコアさんについちゃったのか!?

 妖狐コアさんダンジョンモンスターだから本来食事は必要ないはずじゃん!?


「君は元の世界ではこんな料理のほかにも『カレー』とか『ラーメン』とか『ハンバーガー』とか他にも美味しい物を沢山食べてきたんだろ? ずるいじゃないか。私も同じのを食べるまでは満足しないよ?」


 違った。グルメ属性がついたのか。


「じゃあ、そのためにも沢山DPを稼いで地球から沢山召喚しないとな。期待してるぜ相棒?」

「うん、微力ながら協力させてもらうよ。あらためてよろしく頼むよマスター」


 がっちり握手を交わしながら俺たちは笑いあった。



「そういえば、私の寝床はどこになるのかな?」

「あ……」


 考えてなかった。とりあえずいくつか作った寝床のどれかを使ってもらおう。




 ――後日

 

「マスターが今まで食べたものはカレーを除けばこれが最後だね」


 そういってコアさんが掌に載せているのは……イズマソクの実。


「いや、それだけはやめておいたほうが……」

「なに、マスターがまずいというものを知っておきたいのさ」


 そこまで言うならこれ食っても死なないから止めないけどさ。まずいにしても程があんだよ。


「さて、じゃあ実食といこうか」


 そういうとコアさんはイズマソクを一口かじる。


「!? ゲフッ!! gig〇▽◆!!」


 耳としっぽを逆立て、声にならない声をあげ、美人にあるまじき顔をしながら床を転げまわる。

 ああ、コアさんが残念な美人に……だから言ったのに。


 俺がそっとイナガジアとドクリンゴモドキを差し出すと、奪い取るように取られた。

 そしてコアさんはイナガジアをかじっては吐き出し、最後にドクリンゴモドキをかじって……むせた。


「ゲホッ! ゲホッ! ……あれはもはや味がどうこうというレベルじゃないね」

「だからやめろと言ったのに」


 涙目になりながら感想をいうコアさんに背中をさすりながら、小さめのハンカチを召喚して軽く拭ってやった。


「ああ、すまない。ちゃんとマスターの忠告は聞くべきだった」

「味に対するその探求心には敬意を表するけどな」

 

 ある意味食材が増えた時に、率先して毒見をやってくれるって事だろうけど……

 その度にコアさんのイメージが崩壊するのは、正直勘弁してほしい。


「あれだけクソマズイと、逆に正しい調理法で料理すれば美味しい木の実にならないかな?」

「マンガの常識を鵜呑みにすると、火傷するからやめとけ」


 懲りてないなとは思うけど、なんだかんだダンジョンモンスターとしての生活をエンジョイしてるようで、俺としては何よりだよ。



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