2-2 理想の異性像が目の前に出れば誰だって理性が飛ぶ
「よし、それじゃあ召喚するぞ」
「こっちはいつでも大丈夫だよ」
召喚ウィンドウから承認をすると俺の目の前に光の粒子が集まってくる。
それは今まで召喚した下駄やきゅうりの苗と同じだが、今回は大きさが違う。
粒子はやがて人型を取っていき、徐々に光が収まってくる。
光が完全に消えた時、そこに居たのは召喚ウィンドウで設定した通りの和装を身に着け、立派なしっぽと狐耳を生やした金髪の女性が立っていた。
彼女がゆっくり目を開けると、やや瞳孔が縦に避けた金色の綺麗な瞳が見えてきた。
うむ、素晴らしい! 最高だ!!
容姿はコアさんに任せた部分もあるが超一流のスナイパーが狙撃したくらい俺のドストライクゾーンの中央を正確に射抜いている!
いや、これはよほど特殊な性癖をお持ちでない限り中心を外さないだろう。
この美貌なら傾国させた後に女王として建国できるに違いない!
こんな……こんな美女がダンジョンモンスターとして俺の部下に――
歩み寄り、その狐耳を触ろうとして――
ギョッとした表情のコアさんが見えた後、顔面に衝撃が走った!
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――意識が戻ってくるにつれ、顔面がズキズキ痛んでくる。
「うっ……ぐっ……」
「やれやれ、ようやくお目覚めかい?」
声は上から聞こえてきた。
そして意識がはっきりしてくるにつれ、頭が何か柔らかいものに置かれていることに気が付いた。
ゆっくり目を開ける。
最初に見えてきたのは、俺をのぞき込み困ったように苦笑する狐耳の美女だった。
んんー?
1.俺は今寝かせられている状態
2.その正面に見える範囲に狐耳の美女の顔が見える
3.俺の頭はなにか柔らかいものに置かれている
こ、これはもしや……俺は今美女に膝枕をされている!?
「うん、そんな『わが人生に一片の悔いなし』みたいに昇天しそうな笑顔を向けないでおくれよ。そんなに打ち所が悪かったのかい?」
「打ち所……?」
いまいちこうなった記憶が思い出せないので、目の前の美女に説明を求めてみた。
「目を開けたら、君が血走った眼を向けて襲ってきたから反射的に顔面をグーで殴ってしまったんだよ」
Oh……他人から見るとそんな事してたのか俺、それは殴られて当然だわ。
自分では多少なりとも自制してたつもりだったが久しぶりの異性、しかも美女ということで理性とかいろいろ吹っ飛んでいたようだ。
召喚されて、という事はこの美女はコアさんで間違いないだろう。
「ああ……それは非常に申し訳ないことをしたな。すまなかった」
「うん、まぁ理性が戻ってきたようで私としては一安心だよ」
目の前の美女……コアさんが優しく微笑む。この笑顔にはデフォルトで魅了効果があるな。
少なくとも俺には効果大なので、理性をしっかり保っておかないとまた襲いかねない。
「無事に召喚されて何よりだ、体の調子はどうだい?」
「手足があって思い通りに自分で動くことができるのは新鮮だね」
うん、召喚は上手くいったようなので、次は紳士的にお願いをしてみよう。
膝枕は非常に惜しいが今の俺にはさらに優先すべきことがある。
体を半回転させてうつ伏せの状態になり、そのまま額を地面につけたまま手足を縮めて地面につける。
これでいわゆる土下座スタイルの完成だ。
「どうか俺にコアさんの耳としっぽを触らせて頂けないでしょうか? この通りお願いします」
「マスターはそんなキャラだったかな?」
困惑したような声が返ってくるがなんとでも言ってくれ。
こんな美女の耳やしっぽを触れるなら、土下座だってするし全財産だって貢いでやるさ。
「マスターとの付き合いはまだ短いけどDPを稼ぐために頑張ってくれてるからね。理性をもって優しく触ってくれるのなら許可するよ」
ふぉぉぉ!! やったぜ!!
……はっ!? あぶない! また理性が飛んでしまう所だった。
コアさんは理性的に触ってほしいと言っていた。ならばこちらは紳士にならなければならない。
「俺は紳士、俺は紳士、俺は紳士――」
自分に暗示をかけるようにつぶやく、よしもう大丈夫。
サバイバル生活で大分無精ひげが生えているが、心はもう紳士だ。
土下座スタイルを解除しゆっくり立ち上がる。
コアさんは「ほんとにやさしく頼むよ」と苦笑しながら、しっぽを触りやすいように立ち上がって後ろを向いてくれた。
「サンキューな、じゃあ触らせてもらうが嫌な箇所とかはないか?」
「初めて触られるしなんとも言えないね」
一言詫びながらゆっくり近づいて、しっぽの中央のやや先端よりの方に触れ、そのまま軽く握りこむように両手で包み込む。
ゆっくり力を入れるとふさふさのしっぽはその弾力でそのまま押し返してきた!
そのままブラシをかけるように、右手の指を少ししっぽに通してなでる。
ふさふさの感触と共に体温のような温かさが手を通して脳に伝わってきた。
「ん、なんか変な感覚だね」
「このまま触ってて大丈夫か?」
「その付近なら大丈夫だよ」
できればこのままずっとしていたいが、これはあくまでコアさんの厚意によるものなのでそろそろ切り上げた方がいいだろう。2、3回なでてからゆっくり手をしっぽから離す。
それにメインイベントはもう一つ残ってるんだ、今度はそっちを堪能させてもらおう。
「――じゃあ次は耳を触るぞ」
「ん、このまま優しく頼むよ」
軽く頭をなでるように耳の裏側に触れる。
コアさんの耳はもこもこで……そう! もこもこなんだよ!
やべぇ……あまりの感動で言葉が浮かんでこねぇ! だって、ついにケモミミ美女の耳に触れたんだぞ!
なでると少しピクピク動くんだぞ! これが感動しないわけがない。
「うっ、ぐすっ……。生きててよかった」
「泣きながら触らないでおくれよ……」
キモくてすまん。
だが今はあふれてくる感動が止まらないんだ!
名残惜しいが困惑しているしほどほどにするのが紳士だろう。
そっと手を離すとコアさんがゆっくり振り返ってきた。
「満足できたかな?」
「うん、満足した。ありがとうコアさん」
流しっぱなしだった涙をぬぐって前を見ると、コアさんはとってもいい笑顔をしていた。
「じゃあ次は私のお願いを聞いてもらおうかな?」
……ゑ?