1-EX IFストーリー: コアさんの問いに「帰りたい」を選択した場合[打ち切りエンド]
本編のIFストーリーとなります。
この内容は本編とは関係ありません。
「マスターは地球に帰りたいと思ってるかい?」
「今はまだ帰りたくないね」
->「あんな怖いのは御免だ。帰れるなら帰りたい」
最初は乗せられていたのもあって、この世界は例え死が隣り合わせでも魅力的と思っていたが、今日熊に殺されかけて考えが変わった。
やっぱり命あっての物種だ!
死んでしまえばハーレムはおろか、全てが無意味になってしまう。
「そっか、まぁ今日は大分起きてるしもう寝たらどうかな?」
「確かにそうだな、じゃあそろそろ寝るわ」
焚火の火を消して草の布団に倒れこむ。
睡魔はすぐにやってきた……
♦♦♦
……チチチチ、チュンチュン。
睡眠から覚めて意識がだんだんはっきりしてきた時、遠くからすずめの鳴き声が聞こえてきた。
――すずめ?
そんなのあの森に居たっけか?
目を開けながらゆっくりと起き上がる。ぼやけた視界が段々鮮明になっていき、よく見知った押入れの襖の模様がはっきり見えてきた。
それは間違いなく俺の家の襖だ、ということは……
「あれは夢だったのか?」
夢だとしたら随分と長く……そして今開発しているゲームの内容にそっくりだった。
――ん? 開発?
冷や汗を書きながらゆっくりと首を左に向き視線を下に落とす。
嫌な予感は当たっていた、見えてきたのは愛用のPCと、その手前にある出社時間をとうに過ぎた時刻を示している時計だった。
「うぉぁ! やっべぇ!」
布団を跳ね除け、昨日来てたままだった服を脱ぐ。
体を軽くふいてから着替えた後に、布団の横に投げ捨ててあった携帯を拾って上司に遅刻の連絡を入れる。
最後になぜか久しぶりに食べたと思う程懐かしく感じる食パンを加えて俺は家を飛び出した。
♦
「やぁ、散々だったね」
「まったくだ、ひどい目にあった」
茶化してくる新人に、気の無い返答をして自分の席に座る。
「それで、なんで今日はこんなにひどい遅刻をしたんだい?」
「……昨日終電間際まで仕事してたから、疲れがたまってたんだろ」
異世界に行った夢を見てたら遅れました。
――とは恥ずかしすぎて言えないので、もっともらしい理由を言っておくことにする。
「あはは、現在絶賛炎上中だからね。みんな目が死んでるよね」
「まったく。機能を盛りすぎるから、こういう目にあうんだ」
しゃべりながら俺は与えられた仕事――
ダンジョンモンスターエディット機能のプログラムを行っていく。
今俺たちが開発してるのは、リアルタイムタワーディフェンス式ダンジョン経営ゲームとかいうわけのわからないものだった。
タワーディフェンスによくあるウェーブ制ではなく、プレイヤーは常にダンジョン内で食料や素材からDPを集める。
それを使ってダンジョンの拡張やモンスターの召喚、果ては自分自身を強化して定期的に襲ってくる敵を殲滅していくというゲームだった。
そんなゲームで、プロデューサーがウリとして重視してるのが「自由度」だった。
ダンジョンの拡張は言うに及ばず、ダンジョンモンスターの能力はともかく容姿も複数種類から選択できるようにした上に、果ては主人公自身も今どき珍しいネームエントリー式だ。
当然容姿も変更できるようにするという仕様になっていた。
プロデューサー曰く、その方が愛着がわくからという理由だそうだが……
まぁ、言い分はわかる。わかるんだけど制作する下っ端はたまったもんじゃない。
自由度を上げるほどパーツが増える、パーツが増えれば複雑度が増す、複雑度が増せばバグが増える、バグが増えれば予定が遅れる――
こんなのは炎上しない方がおかしい。
おかげでダンジョン拡張機能はある程度進んではいるが、敵キャラはサンプル用に巨大熊型が1匹だけ。ダンジョン外の仕様、設定はまだ白紙という有様である。
このデスマーチのせいでチーム員の何人かが失踪している。
そのしわ寄せは当然残された俺たちに降りかかっている。
俺も今日遅刻の連絡入れるんじゃなくて、そのまま辞めちゃった方がよかったかなぁ……
「ぼーっとしてどうしたんだい?」
「いや、この仕事がつらいから、そろそろ転職してダンジョンマスターにでもなろうかと」
軽く笑いながら冗談を飛ばす。
当然地球にはそんな職業存在しないからな。
「お、また私のマスターになってくれるのかい?」
「……え?」
貴方、今なんて言いました?
マスターになれとか俺の聞き間違いじゃないよね?
あれ? 気軽に話してたけど、そういえばこの新人とは面識がないぞ?
新人の予想だにしてなかった返答と記憶の相違で脳がフリーズしていた時、遠くでチャイムが聞こえた気がした。
「お、どうやら昼休みになったようだね。さぁ一緒にCo-Co-カレーを食べに行こうじゃないか。君が泣きながら美味しそうに食べてたから、私は今日ずっと楽しみにしてたんだよ?」
――確定だ。
俺が泣きながらカレーを食うところを見た事がある奴は、夢の中だと思ってたあいつしかいない。
夢じゃなかったのか?
まだ状況が整理できていない俺の手を引っ張ってコアさん? が催促してくる。
俺は流されるままにつられて立ち上がった頃に、ようやく脳が再起動を終え――
「な、なぁ。あんたもしかして――」
「そんなことはどうだっていいじゃないか、それよりもまずはカレーだよ。昼休みは有限だからね」
俺の質問は見事にはぐらかされた。
まぁ遅刻したせいで俺も腹が減ってるし、まずカレーを食う事には賛成だ。
おとなしくついていこう。
♦
「ふぅ、ご馳走様でした。うん、期待していた通り中々の味だった」
一皿食べ終えて満足そうにコアさんが呟く。
あまりにもいい笑顔で食べていたので、質問するのもなんか悪い気がして結局一言も話していない。
「さて、そろそろ帰らないといけないから、悪いんだけどここの会計を任せてもいいかな?」
「ああ、それはかまわないけど――」
席を立ちながらこちらに聞いてくるコアさんに向かって、気の抜けた返事をする。
帰るって会社にか? 昼休みが終わるにはまだ時間があるんだが――
食休みをしつつそんな事を考えていた時、席を立ったコアさんがこちらを向く。
「また現実逃避をしたくなったら君もダンジョンに来るといいよ。私は何時でも待ってるからね」
俺の返答を待たずにコアさんはさっさと店を出て行ってしまった。
――その後、やはりというべきか、昼休みを終えて会社に戻ってきた時、そこにコアさんの姿はなかった。
コアさんがいないのに周りが何も反応をしていなかった事が不思議でしょうがなかったが、向こうの世界ではDPさえあれば割と何でもできる世界だったので、コアさんが何かしたんだろうということで自分を納得させた。
結局死の恐怖に負けて逃げ帰ってきたわけだが、コアさんは再挑戦を許してくれるらしい。
自分から向こうの世界に行く方法はわからないが、きっと追い込まれたらまた召喚されるんだろう。
次こそは恐怖に打ち勝って、ケモミミ美女ハーレムを作るんだ!
そう心に誓って、まずは炎上プロジェクトを片付けるべく仕事を再開したのだった。