6-9 一日限りの難民キャンプ
今日分の食料の確保が出来た事を伝えて、早く皆を安心させてやりたいというマナミさんの提案を受け入れ、会談は一時お開きとなった。
こちらの質問に答えるのは飯時にという事で合意した。
別に急いでしないといけない質問はないし、飯時の話題が増えるからこっちとしても都合がいい。
「あ、すまん。一つ忠告を出すの忘れてた」
「はいよ、なんだい?」
立ち上がり座敷をでようとしたマナミさん達を呼び止める。
「俺たちは本来部外者をここに置くことはしたくない。中には見せたくないものもあるからな」
「まぁ、この部屋もあたいらが初めて見るものばかりだからねぇ」
「だからあなた達が居てもいいのはあの入り口付近までにしてもらいたい。奥には危険な罠もあるし、俺たちの許可なく奥に行こうとした場合、命の保証はしない」
「わかった。よく言い聞かせておくよ。ちょいと約束を破りそうな連中がいるけどねぇ」
あー、初対面で殺気をぶつけてきた奴の事かな。
「話がまとまったからぶっちゃけるけど、最初は物資を奪うっていう意見もあったんだよ。おそらく筋狼族を殺した奴らだろうからってね。一応その意見はあたいが抑え込んだけど、連中が納得してるかまではわからない」
「俺の外部に対する基本方針は”取引する者は拒まないが、侵略するものは決して許さない”なんでな。連中が賢明な判断を下すことを願う」
そう、俺たちはこの世界から見ればよそ者だから、こちらから外の世界を変えるのは最小限でいたい。
ただし、向こうから変わりたいと言ってきたのなら取引には応じてもいい。
これが俺の外に対する基本方針である。
次に隣りにいるコアさんに目を向ける。
「コアさん、すまないけど白犬族の晩飯も作ってやってくれ。できるか?」
「誰に聞いてるんだい? あの人数分はちょっと骨だけどね」
「ちょっとあんた! 嫁さん一人に作らせようってのかい!?」
俺たちの会話を聞いたマナミさんが振り向きざまに抗議してきた。
まぁ、今の会話を知らない人が聞いたら、完全に亭主関白のそれだもんな。
「料理の下処理はほとんど自動化されてるから問題ないよ」
「はい?」
コアさんの返答にマナミさんが聞き返すのも無理はない……のか?
フードラボはコアさんが最も力を入れている施設だけあって、今やちょっとした食品工場レベルの加工設備が備わっている。
なので、基本的にコアさんは味付けのみに専念し、特殊技能が必要なやつだけ腕を振るうのだ。
「ところでお二人とも、食事習慣について少し聞きたいんだけどいいかな?」
「はい、なんなりとお聞きください」
まだ固まってるマナミさんに代わりアイリさんが答える。
いくつか質問をし、納得したようにコアさんはうなづく。
「よし、調理は私に任せて二人はゆっくり休みたまえ」
「はぁ、じゃあそうさせてもらおうかねぇ」
硬直から戻ったマナミさんは間の抜けた返事をしてポータルに向かう。
「あ、後せっかくだからもう一つ訂正させてもらおうかな」
「まだ何かあるんかい?」
コアさんの言葉が再びマナミさんを振り向かせる。
「私とマスターは伴侶じゃないよ。主従だよ」
人差し指を立てて訂正するコアさん。そここだわるところなんだ。
まぁ、現状男一人のこの環境じゃ、婚姻もあんまり影響ないからねぇ。
♦
調理はコアさんに任せて、俺たち3人はダンジョン入り口付近まで戻る。
マナミさんは会談の内容を伝えるために、皆の所に戻っていった。
入り口奥、集落から少し離れた場所にポータルを発生させて、温泉エリアにつなげて入る。
白犬族のみなさんが利用できるように調整を入れるためだ。
「すごい、これも仙人様のお力なのですか?」
「いや、これはどちらかというとコアさんの力だ。俺は管理してるだけにすぎない」
一緒に温泉エリアに入ってきたアイリさんがエリアを見渡し、感嘆の声をもらす。
「アイリさんは入浴の習慣とかはあります?」
「そうですね、公衆浴場とかは部族共同で使ってました。ここまで豪華なものじゃありませんけどね」
「ウチは、一人……いや二人ほど風呂好きがいるからこうなったんだ」
「お二人のためにここまでの施設を作ったんですか……?」
少し引かれてしまった。
だが、自分が風呂好きな上にアマツのおねだり攻撃を耐えられるやつがいたら、ぜひお目にかかりたいね。
しゃべりつつも入ってきたポータル以外を消す。白犬族が入ってもいいのは岩盤の温泉エリアまでにしたい。脱衣所を見られたらめんどうな事になりそうだからな。
封鎖ができたら次は必要なものを整備していこう。
まずは水風呂用水源を拡張して飲料水をくめる場所を作る。
「水が必要ならここでくんでください。いくらでもご自由に」
「はい、ありがとうございます」
説明に深々と頭を下げるアイリさん。
これで白犬族が連れている家畜の水も確保できた。
次は足湯を10人くらいが並んで座れるくらい伸ばしてみる。そうすれば――
「洗濯できる水場を用意しました。洗剤も自由に使っていいです。簡単に掃除できるので」
説明にこくこくうなづくアイリさん。驚きが前にでて言葉が出てこないらしい。
後は乾かす場所も用意しないとな。
温泉エリアの最奥、源泉が湧き出る崖の上でいいか。
崖一面に洗濯紐を引っかけて洗濯物が干せるスペースを確保する。
300人分ともなると量も多そうなので、早く乾くように風も吹かせてみた。
「洗濯物はここで干してください。今日一日はここを貸し出すのでみなさんでうまく使ってね」
「はい、なにからなにまでありがとうございます。仙人様」
アイリさんも慣れたのか、お礼を言ってくるだけにとどまった。
風呂場を一日貸し出す事に、アマツがブーたれるかもしれんがガマンしてもらおう。
「他に必要な物や質問はあるかな?」
「あの崖にいくつもある部屋は何でしょうか? 私たちが入ってもよろしいのですか?」
「ああ、あれね」
アイリさんがさした方向には、崖に取り付けられた3つの扉。
「右からドライサウナ、その隣がスチームサウナ、で一番左がメディケーションサウナ。まぁ、要は全部蒸し風呂ですわ。これも自由に使っていいよ」
「はぁ、こだわりがすごいですね」
そしてみんなサウナーになるがいい。でも子供は使っちゃだめだよ。
「蒸し風呂なら私たちの集落にもありました。特に筋狼族のような毛深い種族の方々が好んで入ってましたよ」
なるほど、サウナーとしてなら友になれた……そんなわけないな。
もっとも今なら素手でタイマンしてもこちらが圧勝するほど実力差があるだろうがね。
「そういえば、部族連合って言ってたな。他にどんな種族がいるんだ?」
「そうですね、例えば――」
そういうと手ぶりを交えて話し出すアイリさん。
話してるうちに緊張もほどけてきたのか、時折笑みも見せてくれるようになった。
やはり、ケモミミ娘は笑っているのが一番だな!
100話だー!
長かったような短かったようなそんな気分ですね