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1:モーニングセット

 ピピっ、ピピっ、ぴ――


 目覚まし時計を止めて目覚めると、そこにはようやく見慣れてきた天井。


「そう言えば引っ越したんだった」


 そう言って僕はまだ眠たい瞼をこすって部屋を出る。

 洗面所で顔を洗うと制服に着替え、部屋を出る。

 ここに越してきて1週間が過ぎる。


「・・・しまった。食材切らしてた」


 最低限の生活用品を買いそろえたもののそのせいで本日入学式を迎えてしまった。


「・・・しかたない。あそこで食べるか」


 そう言って僕は鞄を持て家を後にした。

 家は学校から徒歩20分ほどにあるマンションだ。

 学校には寮もあるが、学校指定生徒のみの為マンションを借りるほかなかった。

 ちなみにこのマンションを自分が選んだのは立地でもあった。


 自転車で20分ほど学校より少し右へ直進すれば駅があり、学校とは反対側に10分ほど歩くと大型スーパーがあり、その隣には世界の富豪または財閥の息子・娘の中でも天才と呼ばれる種類の人たちの通う私立神宮寺大学付属高校があった。

 ちなみにこの地域で学生と言えばなんらかの天才と思われる。

 それは先に行った神宮寺高校と僕の通う天川学園が原因である。

 向こうが貴族の天才の学校とすれば、こっちは平民の天才の学校と言った感じだ。

 まあ、貴族と言ったってそう言った制度があるわけでもなければ、向こうがこっちを見下しているわけでもない。


 むしろ、積極的にこちらの優秀な生徒を卒業後に自分の下に引き抜こうとしているくらいだ。

 ただ、天川学園に置いて大学進学または公務員試験合格以外は卒業が認められず、留年決定=退学(在学履歴削除)が行われるほど厳しい学校である。

 そんな天川学園は進学・就職率100%と有名でテストという思考的思考だけではなく性格や特技、などその人のあらゆる情報を調べつくし、合否を精査される。


 故に天才しかいない学園と称され、中でも最近作られた特別クラスは若き俳優やアイドルなど昼間忙しい人の為にVR授業と呼ばれる時間と場所を取らない授業をおこなっている。

 このクラスの特徴としては最新鋭のVR機器「ダイブ」により、意識を電脳空間へと移送。

 内部では外の2倍の時間で進むので受けるべき授業にかかる時間が外の半分になるのと、身体の休息も兼ねるということで内部で複数の授業を展開し、その間音声を切って睡眠をしていてもいい。ただ、これはかなり費用が掛かるようで公立の天川学園のみ試験的に行っているところだ。


 そのため、3年前から導入されて今年特別クラスに配属される6名を合わせた17名が川上学園の特別クラス生徒の総数となっている。

 特別クラスは仕事で忙しい人用のクラスであるもの、少なくとも一度は授業を見なくてはいけなくそれによってテストも作られる。

 そして年五回のテストで85以上取れればそれまで受けた授業の単位がもらえる。

 これは近年芸能界入りを果たした学生の学力低下の為である。

 ちなみに僕は普通の授業を受けるクラスだ。


 ただし、学校としてはこき使うつもりなのか、あんなもの用意して・・・。



 ※※※



 ―――カラン、カラン


 ドアに付けられたベルが鳴りドアが開き僕は中に入る。


「あ、先輩!おはようございます!


「おはよう、玲奈ちゃん。モーニングセットをお願い。飲み物はコーヒー、オリジナルありますか?」


「・・・あるよ」


「了解しました、センパイ!」


 ここはカフェ「エリーテ」。

 1週間前とある用事で学園に行く際、朝食を取ろうとして立ち寄ったのがきっかけだ。

 このカフェ、某美少女+謎ウサギのカフェに内装そっくりでマスターが某検事ドラマの酒場のマスターに雰囲気と声がそっくりなのだ。(見た目はハリウッド映画に出てきそうなくらい渋面のかっこいおじ様。そしてここ、意外と隠れた有名店だったりする)


 先ほど僕を先輩呼びしたのは、マスターの娘さんである高坂 玲奈さん。


 一個下で天川学園中等部3年生。(天川学園は中高一貫校)

 すぐれた観察眼と高い計算能力、料理センスを持っており、彼女に頼め番でも作ってくれる。(材料持込みは店が暇ならOK。予約もOK。)


 天川学園は中高一貫校だが、中等部では徹底した英才教育(3年間で最低でもセンター試験で全教科6割を取れるくらい)施し文武両道を最低限とし、部活動をしているのは生徒の約3分の1と少ない。

 その代わり高等部では一部の例外を除き、部活(委員会を含む)に所属しなければならなくなる。中等部からそのままエスカレーターで上がる者は意外と少なく半分いるかいないかと言ったところだ。

 そのエスカレーターに乗らなかったもの大半がどこに行くかと言うと・・・神宮寺大学付属高校に行く。


 つまり神宮寺高校には天川学園中等部の生徒が多く在籍し、彼らすら悲鳴をが得るような教育を乗り越えた同級生。これも彼らが天川学園を下に見ない理由の一つでもあるのだろう。


 さて話を天川学園の事に戻し、天川学園には七才天と呼ばれる7人の天才が存在する。


 その7人は統率能力、学習能力、運動能力、将来性、資金運営・管理、情報収集能力、など多種多彩な才能吟味した上位7名であり、学校生活において一部の権限の付与、義務の免除など学校において優遇措置を取る代わりに学校運営に置いて協力することを確約された者たちである。

 ちなみに対象は中等部3年生から高校2年生まで。(高校3年生は1学期のみ登校義務があり、それ以降は自由登校になるため、元7才天としての助力要請はあるが基本的に対象外としている)


 4月1日に当事者に通達が届き、基本的に秘匿される。


 その人たちは羽のようなバッチが配布され、在学中は持っていなければならない。

 彼らは基本非公開存在であり、毎年7人の内5名ほどは明るみに出るが残り2名は知られずに卒業して行く。

 玲奈ちゃんは将来性を見込まれた7才天の一人だ。


 この間、まだその7才天という言葉を知らない時に思わず聞いてしまった。

 彼女は襟のバッチの裏に付けており、蒼色の羽根だ。

 ぼくはジャケットを少し引き、内ポケットに付けた薄緑の羽根を見る。

 僕もその7才天の一人。自分は管理者の才としての採用らしい。

 これは7才天と言う体裁を取って、特殊な事情の僕を守るためらしい。(もともと7才天はわけありばかりらしい)

 まあ、その代わりに色々とこき使われるらしいけど。


「先輩、今日の始業式後理事長と生徒会長に一緒に呼ばれているんで2階のラウンジで待っていてもらえますか?」


 学校の事を考えながら、朝のニュース番組を呆然と見ていると朝食を作っている玲奈にそう言われる。


「理事長・・・か。」


 天川学園は学園長と理事長が兼職しており、資金周りも学校運営についても大きな権力を持っている。

 その理事長と僕は少しばかり知り合いであり、今回の急な編入も彼が僕を押し込んだからである。


 ―――カラン、カラン


 カフェの扉が開き、1人の男が入ってくる。


「・・・おや、こんな時間いお客さんが。それも同じ学校か」


 彼はメガネのよう似合う青年で身長は自分より少し高いくらい。


「・・・」


 僕は彼を一目見てすぐに興味を失う。


「一年生・・・か?まあいい。・・・マスター、いつものあるか?」


「・・・あるよ」


 マスターはそう言って店の奥に入り、生春巻きに冷たい麦茶を出す。


「ありがとう、マスター」


 彼はそう言ってそれを食べる。

 生春巻きの中はマロニーやハム、キュウリに人参と生野菜ばかりだ。


「・・・八龍 叡二さんですよね?最年少で永世の竜王と名人を取った生きる伝説」


 彼は有名な将棋指しだ。

 かなりテレビで見る。将棋がかなり強いうえに細マッチョイケメンだ。

 彼のクリアファイルやカレンダーは売り出し即日完売は当り前の有名人だ。


「・・・貴様にそう言われてもうれしくないな(ボソッ)」


「え?」


「・・・いや、なんでもない」


 彼はそのままコーヒーを頼む。


「はい、センパイ。モーニングセットです!」


 このカフェのモーニングセットはピザパンにコーヒー(お代わり自由)、コーンスープ、サラダのセットだ。料金は420円。かなり安いと個人的には思う。

 ここのコーヒーはマスターが豆から仕入れるなど徹底している。


「・・・おいしい」


 僕はまずコーヒーから手を付け、そのあとパンを食べる。


「おい、貴様。そう言えば同級生だが名前を聞いていなかったな」


 僕は目を細め、彼を見る。

 彼は今失言をした。


「・・・東郷 仁です」


「そうか、仁か。よろしくな」


 彼はそう言って手を差し出してくる。意外だ…

 無いがと言うと、彼は将棋を指さない人との人づきあいを好まない。

 僕もたしなむ程度にできるだけで、べつにプロでもなかればアマチュアでもない。

 そんな彼が僕に仲良くしようと思うことに何か裏があるように感じたが、とりあえず手を握る。・・・おそらく彼は特別クラス。一般クラスの自分とはこれ以上のかかわりは無いと思うがここで手を握らないほど僕も無粋ではない。


 ・・・と言うか、いきなり名前呼びとは馴れ馴れしくないか?


 そうは考えたがきっとこれが彼の素なのであろうと僕は言葉をぐっと抑えた。


「・・・では、自分は先に学園へと向かわせてもらおう。またあとでな、仁。玲奈、代金おいておくぞ」


「・・・あ、はい。叡二君、行ってらっしゃい」


 玲奈は僕と叡二じっと見つめていて驚いたようにそう言って彼を見送った。


「・・・ふむ。玲奈ちゃんは八龍の事が好きなのか?」


「え?・・・ち、違いますよ!彼、幼馴染なんです。昔彼ともう一人男の子を含めてよく遊んでまして。遊ぶって言っても、ほとんど将棋なんですけどね」


 彼女は顔を真っ赤にしながら否定する。

 なんだが僕にいわけしているように聞こえるのは気のせいだろうか?


「へぇー、強いのかい?」


「ええ、それなりにですけど」


 玲奈はそうい言って店の端の棚を指さす。


『町内会将棋大会 第3位』


 この天才だらけの地域で行われる将棋大会で3位・・・それはつまり十分プロとしてやっていけるレベルじゃないのか?


 僕は少し戦慄を感じながら話を続ける。


「へえ、3位か。すごいね。大人に勝てなかった?」


「いいえ、準決勝で叡二君に当たって・・・」


「それは災難だったね」


 では実質、2位か。


「4時間もかかる大勝負でした」


 ・・・さすが。町の将棋大会で4時間越え。ありえない。


「今度指しましょうよ、センパイ!」


「まあ、いいが。お手柔らかにな・・・」


 僕は苦笑いでそういうしかなかった。



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