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「お客さん、どちらまで?」


 大きなキャリーバックをタクシーのトランクに詰め乗り込むなり運転手はそう聞いてくる。

 僕は引っ越しのために用意していたマンションの場所を告げる。

 その際に中の制服を見た運転手は彼の持っている制服に驚く。


「おや、お客さん。天川学園の生徒さん?あそこ学生の有名人さん多いからいいよね~。それに新型学習制度、VR学習だっけ?すごいよね~。おじさんの時代じゃ考えられないよ」


 運転手は上機嫌にそんなことを言う。


 トゥルル・・・トゥルル・・・


「・・・でないのかい?」


「・・・」


「・・・私は君が何を考えているかは知らない。それと同じように君も君以外の気持ちもしかすると君自身の気持ちもわからないかもしれない。ただ一つだけいいことを教えてあげる―――」


 タクシーは赤信号で止まるとおじさんは後ろを振り返り僕を見て言う。


「―――人は自分の考えを共有するために言葉を生み出した」


 その言葉に僕は息をのむ。

 かつて似た言葉を恩師より聞かされたからだ。


「フフ、少し説教臭さいかな?」


 運転手は僕の反応に照れたようにそう言った。

 僕は顔をあげて彼に決意を決めた顔を見せると、僕は電話に出る。


『あ、兄さんですか!・・・って、あ、ちょっとレイナさん!』


 電話に出たのは僕の下にいる双子の片割れである弟。

 彼は僕が電話に出るなり誰かに電話を取られてようでゴソゴソと言う音が聞こえる。

 その向こうでは弟と女性のが電話の取合いをしているようで言い争っている。

 もう一人いる双子の片割れの妹かと思ったがどこかヨーロッパの訛りのある日本語、そして声。

 今弟から携帯を取ろうとしている人物の検討が付いた。


 ・・・どうやら、今は会談中だったようだ。


 電話の向こうの言い争いを少し待つと決着がついたようで、電話の向こうから女性の声が聞こえる。


『もしもし、聞こえてます?』


「・・・ああ、聞こえているよ」


 僕は彼女の声を聞き、返事をするか一瞬迷ったがそんなことは固めた決意に従い彼女に声を聞かせる。


『―――!今どこですの!私の発信機も効かないですし、住んでた家にもおらず、戸籍は抹消されて・・・。婚約も破棄・・・いえ、元よりなかったことにされて・・・』


 彼女の声がどこかさびしそうに感じるのは僕の…甘さなのだろう。

 彼女に心配されてどこかうれしい気持ちになる自分がいる。

 だが・・・それはいけない。もう彼女に僕必要ない・・・。


『せっかく本家まで来てあなたに会おうと思ったら・・・あなたと言う人を家のだれもが口にせず、まるで存在を知らぬかのようにふるまい、分家は無くなり弟は本家に召し抱えあげられ、付き添いとしてあなたの付き人だった英傑彼の下へ移動させてはいたけど・・・』


 彼女の口にするあの家の変わりようにはほとんど自分の行動の結果だ。

 ただ、そう言ったところを気にしてくれる彼女に思わず笑みがこぼれてしまう。

 だから僕は少し冷たい態度で、嫌味のように言った。


「相変わらず、騒がしいね・・・人前とは大違いだ」


 ・・・できない。


 今の言葉が僕にできる最大限の厭味だった。

 それでも僕は携帯を持っていない手で胸元をつかみ、タクシーの背もたれに背を預け、震える声を押し殺し、彼女にそういう。


『また強がって!!私は知ってますの!あなたがそう言って心にふたをして己を欺き、他者を欺き、ぼろぼろになるのを!それで、お金は?住む場所は?学校はどうするのですか!?』


 彼女の心配そうな声音、その優しさなど彼女の良さを先ほどから感じさせられ、それらに僕は一筋の涙を流す。


 ・・・ああ、やっぱり僕は惚れていたのかな?


 あの家から出たことに後悔はない。

 ただ、彼女に何も言わなかったことだけは心残りだった。

 幼いころに顔を合わさせられ、婚約者と言われ、彼女と多くの事を経験し、多くの原動力となった彼女。そんな彼女に声を聞かせることどころか、伝言すらいえなかった。

 本当は数年前には自覚していた・・・だけど、最後まで言うことはできなかった。

 言えお出ることは決めていたし、それに彼女を巻き込むつもりはな方からだ。


 ・・・これは、幼き頃の約束を果たすため


 僕は自分位そう言い聞かせる。

 彼女はまだ色々な心配をしている。


「・・・レイナ、安心しろ。元々していた仕事は隠れてやっていたから偽名だし、続けられる。またそれによる貯金もあれば、住む家も通う学校から近くて安い物を借りれた」


『じゃあ、学校は・・・』


「学校に関しては・・・転校っというかあの学校は家柄的にもう無理だし退学届も出されているはず。まあ、わかっていたからもう一つの併願校に行くけどね・・・」


 決まっていた付属大学の高等学校は戸籍の抹消に際して消されただろうし、家柄を重視するあの学校では今の自分は入れない。

 今の日本ではそう言った特殊な子供の学校が少数だが設立されている。

 僕がこれから通う天川学園もその一つだ。


『本当ですの・・・?アルバイトでお金を稼ごうとでも考えているのなら私の会社に・・・』


「・・・ふふ」


 僕はついに笑ってしまった。


『むっ、いきなり笑ってなんですの?』


 彼女はそれを小ばかにされたと思ったのか電話越しだが声音が怒気を含んでいるようであもある。


「すまない。なんだかんだ言って君は優しいなと思ってしまってね・・・それは君のいいところだしできれば身近な人以外の所でも見せてくれると君はもっと人気になれる…かもしれないね」


『そこははっきり断言して欲しいですわ!』


 電話の向こうで弟の笑い声が聞こえる。


「いや、だって君その外面の毒舌冷静キャラになってしまっているだろ?まあ、最近は随分とやわらかくなった気もするけど・・・まあ、ツンデレキャラ?ってことならいけるか?」


『もう!そうやって私を馬鹿にして!』


「あ、いや。決してそんなつもりじゃ・・・」


 そこまで言って僕は自らの失言に気づく。

 僕は彼女ともう話すことは無いだろう。いままでの癖でつい彼女のイメージ改革の方法を考えてしまったが彼女はもう十分であるし、依存の傾向がみられてきたので婚約者としての縁が切られた今の自分としてはこれ以上接するのはまずいと感じる。


「・・・婚約解消したのは家との縁切り唯一の後悔かな」


『えっ!?』


 電話の向こうで彼女のが驚く声を聞き、僕は思っていたことが口に出ていたことを察した。


『だったら―――』


「だめだ。君は恋愛結婚がしたいのだろ?だったらこれからじゃないか、Teenager(ティーンエイジャー)。高校生と言う青春の最高地点。僕よりいい人を見つけて、恋をしなさい」


 僕はやさしく彼女にそう言った。すると、彼女は少しばかり沈黙する。

 僕が「もしもし」と問いかけると彼女は息を吹き返したように「あ、えっと・・・」とと言葉に詰まる。相変わらず焦るとテンパるのは直らないようでその間僕は黙って彼女の次の言葉を待つ。


『そ、それならあなたは・・・』


「僕を心配してくれるのかい?嬉しいけど・・・そうだな。僕も恋してみようかな。僕はあまりモテないし、片思いで終わりそうだけど・・・」


『だ、だめ!』


 僕が話をしていると彼女はそれを遮るように声を上げる。


「・・・ダメ、ですか?」


『あ、えっと、・・・そうです。だめなのです』


「うーん、理由を聞いても?」


『あなたが私の婚約者だからですの』


 ここで元ですよ・・・と無粋なことは言わない。

 確かに彼女の元婚約者としてあまり時間も立ってないのに彼女を作るというのは双方に悪い印象、噂が付きかねない。


「・・・そうですね。それに関しては貴方の方が正しい」


『・・・!そうでしょ!だったら―――』


「では一年です」


『もう一度私と・・・え?』


 彼女のもう一度私と、と言う言葉も気になるが自分の意見を先にすべて言っておく。


「一年、僕もあなたも彼氏または彼女を作らないクールタイムとしましょう。そしてその間、学校生活を楽しむことに注力しましょう」


『・・・えっと、1年間恋愛とかおいておいて友達作って楽しい学校生活をするということでいいのかしら?』


「そうです。その一年を通してできるだけ多くの人とかかわりを持ってください。そのための訓練は散々しましたし、もう心も決まったのでしょ?」


『そうですけど・・・』


「そして1年たったらその人に思い切って告白してみましょう」


『え!?・・・それは同じ学校外の人でもいいんですわよね?』


 確かに校外活動や他校生とかかわりを持つことだってあるだろう。


「そんなの自分の決められることじゃないですよ。これはただの提案。あくまでやるやらないは貴方の自由です」


『・・・わかった。その代わり1年後。私とあの場所で二人っきりでお話をしてくださいませんか?』


「・・・わかりました」


 これは嘘だ。

 今日、日付が変わればもう僕は彼女とこうして放すことすら不可能になるだろう。


『本当!?絶対よ!絶対ね!・・・私、頑張るから!』


 ああ、視界がぼやける。

 だけど・・・いや、だからこそ。彼女との楽しかった思い出が脳裏に色濃く思い出される。

 彼女は不器用な努力家。見ていて楽しくもあり、一目ぼれにして初恋にして僕のファーストキスを奪っていった人・・・。


「・・・あなたのそういう不器用で真っ直ぐなところ好きですよ」


『なッ!』


「弟によろしく言っておいて。また、一年後にね・・・」


『あ、待ちなさ―――(ブチッ)』


 これ以上話すと僕はぼろが出そうなのでここらで話を切り上げる。


「そう言えばさようならって言えなかったな・・・まるで、」


 ―――無意識のうちに言わないようにしていたようだ。


 と思いながらも口に出すようなことはしなかった。


「お客さん、着きましたよ」


 丁度いいタイミングでタクシーが止まる。

 料金を払い、タクシーから降りようとすると運転手は僕の方を見て優しげな声で言った。


「話せてよかったですね」


 そういう運転手に僕は言う。


「・・・ああ、そうですね。ありがとう」


 僕は荷物を持ってマンションへと消えてゆく。

 後ろの扉を閉めた運転手はふと何気なく見た後部座席に一台の携帯があることに気づく。


「・・・おや」


 その携帯にはある一通のメッセージが届いていた。




『ご利用契約期間の終了のためこのケータイは使えません』




 これでもう僕を知る人物は無い。

 これからは東郷 仁と言う新たな人物として歩いてゆくのだから・・・


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