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戦闘なるもの

前話:コボルトの斥候が現れました。

「GURUAAUOOッ!」


 ほぼ横並びに全速力でこちらに向かってくる3匹のコボルト。そのすべてが刃渡りの異なる錆びた剣を手に持っている。うち一匹は皮製の鎧を着ているようだ。各々が牙をむき出し、涎を垂らしながら、殺意と共に駆けてくる。


 子ども程度の大きさとはいえ、脚力は野生の獣と変わりはしない。瞬く間に距離を詰めてくる。


 彼我の距離が未だある中、アレスは剣の柄を両手で握り、刀身を肩に乗せた。続けて魔法詠唱を始める。


【纏いしは風 疾らせるは刃】


 瞬間、握る剣の刀身から風鳴りが響く。

 自身が唱えた魔法【風刃】を感じとったアレスは剣を地面に叩きつけるように振るう。

 まだ刃渡りからはほど遠いコボルトに向けて。


 風鳴り音がアレスの剣からコボルトめがけて飛んでいき、先頭の皮鎧を着たコボルトに吹き付けられた。


「GUOッ? GUGYAッ」


 風が被弾したコボルトは次の一歩を踏んだ際に地面を踏み外したようにバランスを崩し、転げる。

 

 その身を縦半分に別けながら。


 続く2匹のコボルトは、先頭中央を駆けていた仲間が突如倒れたことに対して、さして驚いた様子を見せない。必然、全速の歩を止めはしない。

 気に留めていないのか、または疑る知能がないのかは定かではないが、個々の役割に変化は来していないようだ。


 片方のコボルトはトリスめがけて諸手をあげて飛びかかる。


 トリスは剣を胸の高さに構え、切っ先を正面に向ける。立っていた位置から飛び掛かるコボルトに対して一歩踏み込む形で前進、コボルトの勢いを活かして、その首元に剣を刺し込んだ。


「GUUGAU……GAAAッ」


 飛び込んだ勢いの強さ故に、刺し込まれた剣が肉を滑らせるように入っていく。鍔元に牙をむき出しにしたコボルトの顔が迫ってくる。


 トリスは地面を踏みしめ、それを払うように手首と体を捻り、左へ剣を振るう。

 コボルトが剣から抜け落ちる。


「GYAU……ッ」


 首への一撃は致命傷ではあったが、即死に至るものではなかったようで、高い呻きを挙げながら地面をのたうっている。


 もう一方のコボルトは、全速のままアレスに突進。敵は距離があるにも関わらず、そのまま剣を振るう。

 直後、身構えていたアレスの目に飛び込んできたのは白刃であった。コボルトは剣を投擲し、アレスをけん制したのだ。


 アレスは投げつけられた剣を弾き落とすが、コボルトはその隙をつき、アレスとトリスの合間を抜け、無防備なドロシーに食らいつく。


 コボルトの牙がドロシーの肩口に食い込む。


ボゥッベキャッ……


 かに思われたが、コボルトの牙が噛み締めたのは、人肉ではなく、鋼。鋭さを持ち合わせた鉄塊。

 エリアスの剛腕が振るったソードメイスはコボルトの牙をへし折り、鼻顎を砕き散らした。生々しい衝突音が耳に残る。


 鉄塊と衝突したコボルトは地面に崩れ落ちる。原型がなくなったその顔がエリアスの膂力と衝撃の威力を物語る。


 死体が地面に崩れ落ちた時、またしても風切り音が鳴り、矢の接近を告げる。

 矢は射線から見るにドロシーを射抜かんとしているが、アレスが汚名返上とばかりにドロシーと矢の間に剣の腹を割って入らせ、難なく矢を弾く。


「同じ位置から撃つとは射手失格ぞ、アレス撃つぞ」


「火の粉を散らすなよ」と忠告するよりも早く魔法の詠唱が始まる。


【この火は汝に降りかかる最後の辛苦となろう】


 ドロシーの眼前に火の矢が形成されたかと思うと、それは瞬時に放たれ、自身を狙った矢の射線をなぞる様に飛ぶ。


「GYAッ」


 数瞬後、犬の悶える声が聞こえ、地面に岩が落下したかのようなドスンと鈍い音がした。


「手ごたえは?」

「落ち方次第では二度死んでおる」


 自信満々の返答だ。


「火も燃え広がってないようでなにより」


 ドロシーは、ふん、と鼻を鳴らす。


「もう1匹はー?」

「わしが【火矢】を放った時に踵を返して逃げおったわ」


「情報を持ち帰られたな」

「いま程度の情報でこちらが不利になるものはないさ」


「しかし、中々に嫌らしい攻め方をしてきおったな」

「軽装からか真っ先にドロシーから殺そうとしてたねー」

「殺せそうな奴から殺すというのは定石ではあるがな」

「見くびられたものよ」


 パーティーの最大火力である魔導師は鼻で笑う。

 恐らく、いまの強襲も単騎で殲滅することが可能だったはずだ。

 とはいえ、それはメンバー全員に共通して言えることではある。だが、それをやってしまえば、パーティーとしての意味はなく、相乗効果や省力といった作用が期待できない。

 故に役割は分担されるのだ。


「それよりもだ、アレスよ。金庫番殿に武器を振るわせるのは前衛としていかがなものかの」

「面目ない」


 痛いところを突いてくる。

 フェイントをかけてくるとは思っていなかった。しかし、そんなことは言い訳にはならない。ただの油断である。

 前衛が易々と抜かれたのでは、後衛はたまったものではないのは事実だ。


「まぁ、こっちとしてはちょうどいい肩慣らしにはなった」


エリアスが助け舟のようにフォローしてくれる。なんて頼れる男だ。


 だが、反省せねばならない。敵を過小評価してしまっている節がある。パーティーの弊害とでも言うべきか……自身の実力以上に力を感じるのはよろしくないな。


「先に行こうよー」


 トリスはいまの強襲に微塵も動揺しておらず、一同を先へと促す。


「急いても遺跡は逃げはせぬぞ」

「ゴルドーは意外に戦闘狂な面があるよな」

「ひどい言い方だなー」


「……」アレスは不甲斐なさを覚える。


「遺跡までは後どのぐらいだ?」

「残り1000以内ってところだ」

「ふむ、気を引き締めねばならんな」


 しばらく歩を進めていると、先ほどの弱弓の射手と思しきコボルトが苦悶の表情を浮かべたまま地面に若干埋もれ気味になって死んでいた。

 死んだふりを警戒して、剣を突き刺すが反応はない。


「2度死んでおるはず、と言うたろう」

「念のためだよ」


「それにしても【火矢】が当たったにしては黒焦げになってないな」

「よくぞ気づいた。おぬしが森を燃やすことを懸念しておったからな、今回に限っては、対象の内部で魔法を炸裂させてくれたわ」


 ……やはり桁違いである。

 標的を目で捉えずに緻密な魔法制御を行うなど、アレスには真似できそうになかった。


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