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出立なるもの

前話:神官の武器とアレスの懐事情について話しました。

「さっきのゴルドーらの話に戻るが、個人の資金面だけを考えたら、〈門〉の閉鎖もやぶさかではないがな」


「閉鎖すれば王国から報酬が出るからか」


 〈 門 〉1つの閉鎖につき一〇〇万ツーカ。それに加えて、ゲートキーパーの一部と新種魔物の一部をもって帰れば、冒険者ギルドからも報酬。

 冒険者ギルドで依頼を受けて熟すよりも、はるかに実入りが良い。


「謳われてる報酬だけを見れば、かなりの魅力だ」

「言うは易し、行うは難しだが……」

「この稼業で身の危険は常だ。それにそういった金回りから俺はお前らについてる」


「正直だな」

「まぁな。だから、俺はゴルドーの意欲を嬉しく思っているのさ」


「んー? 私の話ー?」

「なんでもない」


 自分の名前に反応したのか、トリスがこちらに顔を覗かせた。しかし、即座に違うと否定する。この話にトリスを巻き込んでしまえばドロシーまで加わってしまい、先ほどの不毛な会話の延長が繰り広げられるのが目に見えたからだ。


「えー、なによー」

「ゴルドーは準備終わったのか?」

「もう万全だよ」


 ガッツポーズを取りながら答えるトリス。

 髪は短いながら髪留めで固定されており、視界を遮らぬようになっている。その上からヘルムをかぶり、頭を保護。腕には刺々しい黄金の手甲をはめ、胴体部は鉄の胸当てなどで身を固めている。当然のことながら女っ気が極端に薄まる完全武装。


「……エリアスは、やっぱ手甲が気になるー?」


 トリスの手甲を食い入るように見つめるエリアス。その様子に思わず、トリス本人が問いただす。


「ああ、純金製なら莫大な金になる。後やたらと攻撃的なフォルムも目を引くな」


 自身の本心を全く偽ろうとせず言葉にして投げ返す。こういった解り易さは、エリアスの長所でもあり短所でもある。


「お父さんが使ってたものなんだって」

「ゴルドーの父親が?」

「うん、元冒険者だったらしくて、私が冒険者になるって言ったら餞別としてくれたの」


「親父さんは全身こんな装備だったのか……?」

「それはわからないけど、そうだとちょっと派手すぎだよねー」


 エリアスがぶつぶつと呟き始める。

 純金だと仮定して、全身そうだとしたら、云々。神への信仰心は影を潜めている。少し話題を変えないと、このままではこの守銭奴が神罰を食らうか破門されかねない。


「手甲もさることながら、トリスは剣も特殊だよな」

「ほう……そういえばブラウニーと違って、買い替えたりはしてないな。感心だ」


 今一歩金のことから頭が離れていないようだが、食いついた。


「えへへー、これもお父さんがくれたんだよ」


 はにかみながらトリスが応える。可愛い。

 しかし、刺々しい手甲と剣を持って笑っている様は一見すると戦闘狂のそれだ。


「何の変哲もない両刃の幅広剣だな、刀身は柄に向かって末広がりになってるが、ありきたりな作り……戦闘中に特殊な能力を発揮したところも見たこともないが……?」

「いやいや、この剣の真価はエリアスも目の当たりにしてるよ」

「言われなきゃわかんないよね」


「んん……? 身に付けてるだけで身体機能を強化するって類か?」

「そういった能力も欲しいところだけど、違う」

「種明かしするとね、この剣壊れないんだ」


「ふむ? もの凄く強度が高い剣なのか?」


 あまり熱がこもっていない反応だ。確かにいまの説明では、さして珍しくないものだと思われても仕方ない。


「二人して冒険に出た当初はそう思ってたんだが、実際のところは違うみたいだ」

「ん?」


 眉を顰め不可解そうな顔をする。そこにトリスの補足が入る。


「うん。壊れないっていうよりか、どんな使い方をしても傷一つ付かないって言ったほうが、正確かな」


「なんと」

「できれば俺が使いたいが、流石に親父さんからの餞別を他人が使うわけにもいかない」

「気にしなくてもいいって言ってるのにー」


「トリスも剣に魔法をかけることがあるだろ、取り換えたところで大差ないさ。それにリーダーには気兼ねなく剣を振るっていて貰いたい」

「まぁ戦闘中にリーダーの剣が折れたのでは、洒落にならんな」

「そうそう、それに俺は常時2本装備してるから、折れたところでどうとでもなる」

「そんなこといって、2本とも折れたらどうすんのさー」


「その時は、エリアスの背に隠れる」


 俺の発言を聞いた大男は、とんだ前衛だと嫌な顔した。トリスはそれを見て笑っている。


「……おぬしら、いつもワシの瞑想を邪魔しおるな」


 座して黙していた帽子が喋り出す。


「ごめんねドロシー」

「ようやく起きたか」

「多少、雑音があったほうが集中力を鍛えるのに最適って聞くぞ」


 アレスとエリアスは2人しておどけるが、ドロシーはそれを鼻であしらう。


「悪びれもせんと」

「ドロシーも準備が整ったのー?」

「うむ、問題ない」


「それじゃ、全員携行品の最終確認」


 回復薬・油・携行食糧・水・縄、等々。後、トリスは『観測球』も。


 念のため回復薬は多めに持っておきたかったが、当てにしていた村の薬屋は品薄状態だった。現地調達しようという考えが甘かったのだが、嘆いても仕方ない。


「ぬかりない」「大丈夫」「同じく」


 一同が一様の返事をする。


「よし、行こう」


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