< 門 >なるもの
前話:敵の規模を話しました。
〈 門 〉――大陸の各地に乱出し、魔物を放つ異常存在――その存在が初めて確認されたのは、約一〇〇年ほど前。現在の帝国領と公国領の間に位置する平原に忽然と姿を現した。
初めてそれを発見したのは街道を行き交う行商人であり、突如現れたということ以外にはなんの変哲もない巨大なアーチ状の建造物だと思われていた。
それが魔物を吐き出すまでは。
〈 門 〉と決めるには情報がなさすぎるのだが……。
話し合いの進行役を担っているアレスはトリスの発言にそう思ったが、リーダーの気合が入るのは良いことか、と水を差すのはやめておいた。
「と、ギルドに依頼を出したこの村での収集情報は以上だ」
「まとめよう。依頼書内容の建前は森にある遺跡の再調査。その本音は調査に際し、障害となるコボルトの群れを掃討。そのコボルトの群れは上位者によって統率されている可能性が高い。更なる可能性としては我々の討伐目標である〈 門 〉の存在も少なからず考えられる」
「そんなところだな」
「建前から少しでも依頼料を抑えたいのが推測できちゃうねー」
もう少し建前と本音をわかりにくくしてもらわなければ困る。そうでないがためにこの村では村人と話を合わせるのに、気を遣ってしまって仕方がない。
「せこい考えだぜ」
「でも〈 門 〉だといいなー」
「勇者様は勇ましすぎるのう」
「だって王様からのお願いだよ。頑張って一つでも多くの〈 門 〉を閉じないと」
「お願い、かぁ。言い得て妙だな」
「ま、4人パーティーを組んでから早1年といったところだが、その間の俺らの〈 門 〉閉鎖数は3つだしな」
「十分だと思うがのう。そこいらの冒険者パーティーなど1年に1つ閉鎖しているか否か程度であろう?」
「そりゃそうだが、普通の冒険者は王から勅命を受けてるわけじゃないし、俺たちとは目的意識が違いすぎるだろ」
「そうは言うがの。〈 門 〉を閉鎖するのは凡百の冒険者には務まらんぞ。ゲートキーパーは古代魔法を炸裂させおるし、それに付随して出てきよる魔物は類似の種族より段違いの強さを有しとる。それらを1年で3つも熟しとるのだ、王とて文句は言うまい」
ドロシーが言う事は最もでもあった。
〈 門 〉には、その出現と同時に『ゲートキーパー』と呼称される魔物が1体出現する。
この魔物は『古代魔法』と云われる、現代には使い手のいない魔法を行使してくる。これは詠唱を用いずに自身の体内魔素だけで魔法を発現させるもので、瞬間的に放つことができ、尚且つ高威力という反則染みたものだ。
しかし、体内魔素のみを使用するために消耗量が激しく、人間ではすぐに魔素の枯渇に陥り、卒倒する羽目になる。要するに燃費が悪く継戦能力に欠ける魔法だ。
そういった致死性のデメリットが存在するため、大気中の魔素を利用することが当然となった現代においては廃れた魔法形態である。
「でもでも、〈 門 〉が出来ると、周りの村や町は困るんだから、私たちが頑張って閉鎖していかないと」
ドロシーの発言にトリスが食い下がる。使命感に燃えている人間は自身の言を曲げようとはしないものだ。
「……おい、思いのほか白熱しそうだぞ」
エリアスがうんざりとした顔でこちらに耳打ちをしてくる。そこにはどうにか収めろとの意味合いが含まれているが……咄嗟に出来るものか。
「ま、まぁトリスの意気込みもわからんでもないし、ドロシーの言うように他冒険者よりかは国のために貢献してるのも確かだよ」
「うん」「であろう」
息を合わせたように2人の声が重なる。
狙って間を取り持つような発言をしたのだが、エリアスには睨まれた。
じゃぁ、お前がやれよ、と視線で返す。
「はぁ……〈 門 〉については見つけ次第、閉鎖する。だが、依頼書の内容や実作業は、あくまで遺跡の再調査兼コボルト退治だ、請け負った以上はこっちを最優先に考えようや」
流石、強引にまとめてくれた。後はすかさず流すだけだ。
「んじゃ、依頼内容と周辺情報は話したから次は作戦についてかな」