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送先なるもの

前話:エリアスを密偵として雇いました。

「流石、俺が見込んだ男だ」


 いつ見込まれて、どんな男に思われているのかはわからないが、眼鏡に適ったようでなによりだ。


「当面の報酬は前払いで貰っとくぞ」


 そう言いながら、エリアスは見覚えのある財布を物色しはじめた。

 俺の財布である。


「なッ、いつの間に?!」

「いまから1人になるんだから用心しろよー」


 物色を終えたのか財布を投げ返してくる。

 なんて手癖の悪い奴だ……。二度と掏られまいと急ぎ荷物入れに財布をしまい込んだ。


「神官職ってのは、窃盗も習うのか?」

「人聞きが悪いな。我らが神は強く生きろと説いてるだけだ」


 ……故に手癖を備えたというのだろうか……拡大解釈も甚だしい気もする。


「……前々から聞いてみたかったんだが、なんで人並み以上に体を鍛えて、金に執着してんだ?」

「だから、神の教えにだな」


「いやいや、他の信徒はエリアス程じゃない。むしろひ弱な印象すら覚えるのが大半だぞ。金については言わずもがなだ」

「……餞別がてら答えてやってもいいが」


 返答を出し渋る様子を見せる。この期に及んで、まだ絞り取れる機会を逃さないつもりか。


「得意先になる相手に本心を見せるのは心証を良くする好機だぞ」


 瞬間、目を見開いたかと思うと、エリアスは息を吐きながら笑ってみせた。


「神と金と筋肉は俺を裏切らないからだ」


 こちらの提案に納得したのか、エリアスは含蓄深げな事を言い放つ。

 裏切らない、という発言から、男の過去に暗い影があったことを窺わせた。


 しかし、神、金、筋肉か……。

 生憎、信神深くないため神について言及しようと思わないが、信徒を無下に扱う神がいないのは確かだ。


 金に関して言えば、大陸全土で使用できる【ツーカ】は人間社会が崩壊するか、この大陸が消えない限り存在し続けるはず。少なくとも男の人生の中で唐突に幕を下ろす文化ではないだろう。


 筋肉は……最後に頼れるのは己が身だけ、という解釈もできそうだ。とても神官職が発した言葉とは思えないが、戦士職に身を置くものとして留めておこう。


 総じて、正しいと言えば正しいが……。


「ふーむ……教会から異端児扱いされないか?」


 ふんと鼻を鳴らし「さてな」と、はぐらかすように短く答えられた。

 その様子から、良好な関係だけを築けているわけではないと察することができた。まぁ、他人の眼を気にするような奴は筋肉を隆起させるほど鍛えあげはしないか。


「俺の信条を無償で聞いたからには、上得意先になって貰わないとな」

「上得意って……ケツの毛まで毟り取るような相手を指すわけじゃないよな?」

「お前の毛に価値がありゃそうするかもしれん」


 悪魔みたいな奴と取引をした気になってくる。


「でだ、情報を伝達するにしても肝心のお前の居場所がわからんことには届けようがない。加えて、特定の住所に送り続ける方がこちらとしても手間を食わずに済むんだが、適当な届け先はあるか?」


 最もな意見だ。この広い大陸で、これから根無し草になる奴に物を伝えるのは至難の業だ。

 自分自身明日以降どこに居るのか見当もついていないのだから、他人がわかる由もない。


 しかし、当面の情報受信先として最適な場所ならすぐに思い付く。そこならまず間違いなく受け取ることが可能な場所だ。


「俺の実家に送ってくれ」


 しばらく帰ってはいないが、実家の位置は変わっていないはずだ。ただ、俺が居ないにも関わらず、俺宛の物が定期的に届くのは事情を知らない両親からすれば不気味かもしれない。

 更に言えば、この歳と冒険者というなりであるにも関わらず実家の世話になることには、若干の羞恥心が沸く。


 だが、背に腹は代えられない。


「俺は構わんが、秘匿性はあるのか?」

「それについては俺が事前に一報入れておく」


 対策としては順当なはずだが、「俺宛の手紙には目を通さないでくれ」と云うのは割と滑稽な気がする。文言と適当な理由を考えておかねば……。


 口頭で実家の住所を告げた後、エリアスは数度それを繰り返し呟き、記憶に定着させていた。紙切れか何かに書いて渡した方が確実では、と思ったが、その提案はエリアスに拒否された。曰く、文字より言葉を記憶する方が慣れているからだとか。


「さて、時間を取らせて悪かったな。俺の話は以上だ」

「あぁ、こっちもいい取引ができた。次回会う時はより良いものを期待しておくよ」


「言うねぇ」


 エリアスは肩を竦ませながら笑った。

 その後、トリスが仮眠をとると言っていたようにエリアスも寝ると言い残し、宿へ去っていった。


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