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途方なるもの

前話:アレスが負けました。


※アレスの視点

 決着後の記憶は定かではない。

 誰かが声をかけてはくれたが、上手く返事ができていなかったように思う。


 気が付けば、いまは独りで自分が地面に埋めたアブラ実を掘り出していた。

 要するに決闘後の後処理だ。この他にも地面に細工を施していたが、これだけは取り除いて置かねば、後々、村にアブラ実の木が生えてしまう可能性があった。


 冒険者なのだから村に定住するわけでもなし、別に構ったことではないのかもしれない。


 それに芽が出た時点で積まれるだろう。だが、文字通り自分で蒔いた種は自分で処理しなければという気持ちが強かったし、村に世話をかけるのは気が引けた。


 という言い訳を自分にしてみるものの、その実は独りになりたいがための口実に過ぎない。

 なんとも惨めなものだ。


 小細工を多々弄したが結果は敗北であった。

 その敗因について、女々しくもあれこれと考えてしまう。


 自身の早計さも間々あったが、最たるものは奴が予想外の攻撃を仕掛けてきたことだろう。

 あの暗黒に全てを覆された。


 幕引きの一撃は機先を潰され、その後も後遺症により起死回生の一振りを空振りに終わらされた。

 あの場では考えが至らなかったが、魔法道具の使用だろう。

 まさかそんなものを持ち合わせているとは……。


 戦場での「まさか」などという思いは自身の愚かさや浅慮の露呈そのものだ。しかし……命を取られていない以上、その思いが浮かぶのを自重することはできなかった。反省や後悔といった類は生者の特権のようなものだ。


「はぁー……」


 最後のアブラ実を掘り出した。

 決闘の疲労を忘れて後処理に勤しんでいたが、当面の目的を達成してその疲れが押し寄せてきた。


 幸い、広場には露天商用に整地された場所があったので、そこに腰を下ろした。座る際、自然と宿屋に背が向いた。宿屋の窓からは広場が一望できるため元パーティーメンバーと視線が合うのを嫌ったのだ。


 まぁ、負けた上に後処理に精を出してる奴と目が合うのは相手も嫌だろう。


 負ける可能性は見積もっていた。だが、負けるつもりで戦ったわけではない。故にその後の展望など考えてはいなかった。


 敗北と同時に去来した現実はアレスの精神的余裕を悉くなめ尽くし、ただただ茫然とさせた。


「アレス」

「!」


 心身ともに緩みきったところへ不意に声をかけられて体が跳ねる。

 呼び掛けられた方へ振り向けば、いま最も顔合わせをしたくない人物がそこに居た。


 元パーティーリーダーだ。


「……どうした?」

「これ……返しておくね」


 そういって手渡してきたのは2本の剣だった。そういえば決闘前に剣を交換してから、こちら側も借り受けたままだった。

 腰帯から鞘ごと不壊の剣を外し、再度トリスへ預けていた剣と交換する。


「わざわざすまんな」

「ううん、この剣どうだった?」

「頼もしい剣だった。おかげで奮戦できたよ」


 損壊する可能性を考慮しなくていいため、敵の攻撃に対して躊躇なく当てがえるのは実に便利だった。


「そっかそっか」

「俺ももうちょっと剣に拘ったほうがいいのかねぇ」


「そうだね、良い考えだと思うよ」

「けど、俺の使用方法だと摩耗が激しいのなんのって」


 事実、魔法を剣に付与して多用するために金属疲労が著しく早い。炎熱を付与した時など、戦闘終了時には剣の形が歪んでいたこともあった。そのため全損前提で安物の剣を買い回しているわけだが……。


「うーん……魔法と相性のいい剣ってないかなぁ」

「まぁあっても手出しできんぐらい高額だろう」


「じゃあさ、自分で作っちゃえばいいんだよ」

「……面白いこと考えるな」


 剣は鍛冶屋が作るもので、それを鍛冶屋で直接仕入れるか武具屋で手に入れるといった発想しかなかった。

 しかし、言われてみれば、当たり前すぎることだが、無ければ自分で作ればいいのだ。


 生憎、鍛冶技術は持ち合わせていないため、自分が金槌を振るってといったことは出来ない。代わりに素材を集めて鍛冶屋に提供して作って貰えば事足りる。


 ほぼオーダーメイド品になるため高額だろうが、それでも素材費は浮く。金額的ハードルは幾分か低くなる。


「ねっ、いい案でしょ!」


 ふふんと得意げに鼻を鳴らしている。可愛い。

 無論、求める素材を集めるのは困難だろうが、そこは冒険者だ。持ち前の技量でなんとかするしか……。


 俺、1人で……か……。


 不思議なものだ。顔を合わせるのを躊躇っていたというのに、いざ会話を交わせばそんなことを忘れて、楽し気に喋れてしまう……。


「どうかした?」

「あぁ……いや……いい案だなと感心したんだよ」


 咄嗟に「これからどうするんだ」、なんて言葉が咽喉から出そうになった。しかして、それを言われるのは俺の側である。


 これまでと同じくパーティーで旅する立場の人間が、これから単身で活動する側の人間から掛けられる言葉など在りはしないのだ。


「そういえば、ドロシーたちはどうしてる?」

「え……ド……みんななら荷造りをしてるよ」


 咄嗟に話題を変えてしまったせいか、トリスもその不自然さに解せないといった表情を浮かべている。


 しかし、もう荷造りに入っているとは……まぁ依頼の済んだ場所に冒険者が居座る理由もなし。それが当然の流れといえばそれまでか。


「こんな夜更けに出立するのか?」

「ううん、この後、仮眠をとってから早朝に出ようと思ってるの」


 トリスの喋りがどことなくぎこちなく感じたが、その理由はすぐわかった。


「アレスは……その……どうするの?」


 ドクンと心臓が脈打つ。言われるべくして言われた言葉ではあった。もうメンバーではない者への問いかけだ。


「そうだな……俺は……王国にでも戻ろうかな」


 なんと反応するべきか迷った挙句、決闘前にトリスとの問答で言われた案をそのまま答えてしまった。口から出まかせ程度の発言だが、この後に自問自答して戻るという結論になった際にどう戻ったものか。


 幸いにしてここは王国領内であり、単純に考えれば街道を歩き詰めるだけで都市に到達はできるだろう。


 ただし、行く手には野盗・魔物・路銀・食料といった障害が立ち塞がっている。パーティーであれば、難なく踏破できる道程も単身になっただけで考慮すべき点が山積するとは……。


「そっか、久々にお母さんに会えるね」


 王国という言葉を発した途端、トリスの表情が心なしか明るくなった。故郷の実家を思い出したのだろうか。

 

 俺の方はといえば、トリスへの返答に窮していた。王国に戻れば、家に一時帰宅するのもやぶさかではない。ただ、どんな顔をして帰れるというのか。一人で帰りなんと言えばよいのか。


「パーティーから外されたよ!これからの畑弄りは任せろよ!」と言い放つ自身の姿を想像すると、気が遠くなりかけ頭がふらついた。


 あぁ……とてつもない艱難辛苦だ……。考慮すべきことは山積している……。


「そっちの行先は?」

「私たちは商業都市に戻る予定だよ」


商業都市とは、この依頼を受けることになった街のことだ。王国の血管として機能しており、公国と王国の中間地点に位置している。この村から最も近い都市でもあり、依頼の完了報告に戻るのは至極当然の流れといえた。


 自身の旅路の安全を考えるなら同伴するべきだが……流石にパーティーからの脱退を強いられ、尚且つひと悶着起こた後に、何食わぬ顔で行動を供にできるほど面の皮は厚くない。有り体に言えば気まずすぎる。


「達者でな」


 これ以上話を長引かせても苦しくなっていくばかりだ。


「うん……アレスもね」


 その後、とりとめのない話をしたが、トリスは終始なにかを言いたそうにしては舌を引っ込めていたように見えた。下手な心配を口にされても、こちらもどう返していいかわからないので気に留めなかった。


 最後にエリアスが荷造り後に話したがっているらしいと、トリスは告げ、宿に入っていった。


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