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間際なるもの

前話:決闘の決着がつきました。


※決着間際のドロシーらの視点です

 アレスの光球が弾けた後、そこからの勝負はあっという間だった。


 光球が致命の一撃を与えるための策であったとは。夕闇を照らし視界を確保するためだけのものだと思わされていた。

 しかし、関心も束の間、その閃光が暗闇に覆われるのを目の当たりにし、一同は言葉を失った。


 ネロの身に付けている黒甲冑から暗黒が飛散、まるで甲冑の色が空間に滲んでいくように広がり、瞬く間に両者が闇に包まれた。


「なんだ……ありゃ」


 半球体の外でエリアスが唸る。

 目に映る現象の把握も儘ならぬ中、両者を包んだ暗黒球からアレスのみが飛び出てきた。


 暗黒球は外部へ出ていくアレスに粘液の如く纏わりつく。粘液染みたものは距離が離れるにつれ次第に引き剥がされ、再び黒球体へ戻っていく。


 飛び出てきたアレスの姿勢からは外的要因によって吹き飛ばされたように見える。五体満足という状態を考えれば、剣戟ではなく突き飛ばされたか、あるいは蹴り飛ばされたといったところか。


 強烈な衝撃で吹き飛ばされたためか、アレスは受け身を取れずに地面を跳ね転がっている。


 辛うじて立ち上がるアレスから視線を暗黒球に戻すと、球体は集束しており、黒甲冑に吸い込まれるように消え去った。


「魔法道具の使用か……」

「チッ……幕引きの一撃を潰されたな」


 アレスが態勢を整える中、ネロは大剣を投擲槍の様に構え、身体を後方へ反らし捻じらせていた。その姿は、限界まで引き絞られた大型弩砲バリスタを彷彿とさせた。


「アレスの負けだ」


 エリアスがぼそりと呟くのを聞き、ドロシーは訝しむ。

 その発言の意味するところが読めない。


 あの大剣が強力無比なのは周知の事実だが、ネロは投擲の構えを取っただけでまだ射ち放ってもいない。何を抜かすか、と。


 魔導師のドロシーにとっては、投擲姿勢を取るネロの行動も不可解だった。唯一の武器である大剣を投げる意図がくみ取れない。

 それは魔導師が舌を抜くが同義のようにも思えたからだ。


「投げるよ」


 傍らでトリスが呟くと同時にネロが大剣を投じた。

 投擲物はそれが大剣とは思えぬほどの豪速で目標へ飛翔していく。


 しかし如何に速かろうが距離さえあれば避けるのは容易い……はずだが、アレスは剣を構えたまま微動だにしていない。


 馬鹿な! 直線上からすれば見えないものなのか?!

 否、大剣は見えずともネロの投擲姿勢は目に見えていたであろうに! そこから飛び退くだけでよいはずだというのに!


 あわや串刺しになる寸前、アレスは紙一重の回避に成功する。

 ただし、その後の行動は観戦する者にとって不可解にすぎるものだった。


 投擲対象にされた男は、あろうことか大剣が飛び去った後の虚空に向かって、全力で剣を振るったのだ。


 その姿に呆気を取られたのも束の間、剣を振りきり……無様……な隙を見せたアレスへ、ネロが拳を繰り出した。

 いつの間にそこへ移動したのかという疑問もさることながら、まるでアレスが空振るのを知っていたかのような行動にドロシーは舌を巻いた。


 一度に理解するには不可解なことが多すぎた。

 結果的にエリアスが呟いた通りになったが、彼にはこの展開が読めていたというのか……。釈然としないものの決着はついてしまった。


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