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決着なるもの

前話:ドロシーらが決闘の実況・解説をしました。


※再び、アレス(アレス・ブラウニー)の視点

 都合三度、敵の攻撃に反撃を合わせた。


 そろそろ魔力量が危うい、気力も……頃合いか……。


 最初の反撃からあまり時間は経っていないはずだが、奴が近づいてくるにつれ、心臓が早鐘を打つ。剣を振るわれれば、全身が総毛立ち、目に映るもの全てが遅くなる。


 反撃を食らわせて距離を取ると、心身が削られているのか激しい虚脱感に襲われる。

 物理的に見れば着実に損傷を負わせてはいるが、それと同時にこちらは体力と精神力を根こそぎ食われている印象だ。


 双方の心身のダメージ量を可視化できるのであれば、きっと割に合っていない。


 それに流石の敵も同じ手を二度三度も食らえば学習するというものだ。先の三度目の攻撃は意図して踏み込みが浅かった。恐らく大剣のリーチを生かして、接敵を許そうとしていなかったのだろう。


 敵と同時にこちらが相手側に踏み込んだおかげで反撃には成功したが、その後の追撃も二度目までとは違った。


 こちらは馬鹿の一つ覚えのように【緑樹縛】を使って敵の足止めを図ったが、敵は攻撃の手を止めず、その場で身を捻じらせ、大剣を下段から振りぬいてきたようだ。


 この目で振りぬいたところを視認できたわけではないが、後ろ手から風切り音が聞こえ、背筋には剣圧に押された剣風が感じ取れた。股からの逆唐竹割り、もとい股裂きにする目算だったのだろう。


 どうあっても一撃で俺を死に至らしめたいらしい。

 敵が応用を利かせ始めたのであれば、こちらも手を変えるしかない。


 アレスは剣を片手で構え、敵から目を離さずに自身の服の小物入れを探る。

 そこから取り出したのは小瓶。光球に照らされ青く輝く液体。魔素還元薬だ。


 飲むことで体内へ強制的に魔素を取り込む魔導士御用達の応急回復薬。劇的に魔力量が回復するわけではなく、その回復量はアレスにして最大値の三分の一程度だ。加えて、対外から無理矢理に魔素をねじ込むため、魔力酔いと呼ばれる副作用がある。


 そのため一日の摂取制限が設けられており、小瓶2本分までと言われている。

 ただし、アレスが常備しているのは一本のみである。それも購入して以来、初めて飲む。


 その理由は単に使う機会に恵まれなかったということもあるが、半ば貧乏性のようなものだった。

 というのも魔導士御用達ということもあって一度切りの消耗品の割に高価であり、一本でアレス常用の剣二本の値段に相当するからだ。


 貧乏性に救われたな……アレスはそう思いながら小瓶を一気に飲み干す。

 舌先に残る後味に顔をしかめる。これは……気付け薬として代用できそうな代物だ。恐ろしく不味い。


 飲んだ瞬間はその味覚破壊に気を取られるが、すぐに効果のほどを実感できた。先ほどまで尽き欠けていた魔力に余裕が感じられる。


 畳みかけるには十分な量だ。


 懸念していた魔力酔いの兆候は……いまのところなさそうだ。用法用量を間違えなければ問題ないのだろう。


 薬を飲み干す時間を与えてくれた敵には感謝しなければならない。

 もっとも、これまでの攻防で迂闊に近づけないように意識付けはしていた。


 近付けば反撃を浴びせ、立っている地面は魔法による細工が散りばめられている。短絡思考回路でない限り、こちらがあからさまな隙を見せるのにも裏があるのではと勘ぐるはずだ。


 一見して狂戦士のようであって、その実、慎重なのは非常に厄介な性質だったが、それを逆手に取らせてもらった。


 それでも……これから敵はなりふり構わず、積極果敢に攻めてくるだろう。


 なにせ自分の防御は削られているのに相手は何かしらのアイテムで能力を底上げしたように見えたのだから。アイテムの効果はわからないだろうが察することはできるはず。


 そしてその個数も不明であれば、彼我の距離と時間経過は敵にとって不利に働くようになる。


 これで精神的優劣は無くなったと見なしてよいだろう。


 敵がこちらへ動き出す。

 互いに余裕はない。

 勝敗を決する時が来た。


「終わらせよう」



 【災いの種子よ 轟音を伴いて爆ぜろ】


 アレスの【爆雷】発動により、地面に埋め込んでおいた複数個の油実が爆炎を伴って弾ける。


 ネロの踏みしめた地面からカッと光りが溢れ出し、その一帯が爆散する。

 地面は抉れ、空中に土砂が舞い上がり、土煙が立ち込める。


 アレスは舞い上げられた土砂が降り注ぐより早く、土煙に対して横一線の鋭利な風、【風刃】を切り入れる。


 【纏いしは風 疾らせるは刃】


 衝突音なく、風が土煙を上下に二分する。

 その下方から物体が飛び出す。物体は地面を這うように土煙を纏いながら低空姿勢で駆け抜けてくる。


 その物体へ再び縦の【風刃】を見舞う。

 当たれば、唐竹割りの趣向返しとなるその一撃は未だ空中を漂う土煙を左右に分けるに終わる。


 ネロは衝突の直前に跳躍回避を行ったのだ。


 視界からネロが消えたことへの驚きはなかった。


 あれだけ拘束されれば……否、決闘開始以降、地面からの奇策を見せ続けられれば……当然それを回避しようと動く。


 そしてその地面から逃れる術は跳躍の他にない。

 見ずともわかる。その着地点は俺の背後。


 ネロ……! お前の負けだ……!


 俺が思い描いたルートをそのままなぞってくれた!

 死中に活路と見出した、そこがまさしく死地とも知らずに!


 背後に重量物が落下してきたのを音と肌で感じ取る。

 落下物は着地と同時に旋回を開始し、手に握る質量物を豪速で振るう。


 こちらも落下物の着地と同時に旋回。振るわれた質量物、大剣と視認したそれを不懐の剣で弾く。


 それを織り込み済みか、弾かれた勢いを活かし、ネロは逆方向に回転し、再び大剣を振るおうとする。


 その攻撃は遺跡で既に観た!

 ここで決める!


 【偽りは これを以って償われる】


 決闘を照らし続けていた頭上の光球が内に留めていた光を強烈に散らす。

 閃光が周囲を白く染め上げる。太陽の爆発にも似た【光球破裂】は至近距離に居た術者以外の者の網膜を焼き、全ての視界を奪う。


 勝った!


 その確信にアレスは破顔するのを止められない。

 回転切りを潜り、強化された脚力をバネに下段から全力で腹部目掛けて剣を突き刺す。


 砕けろッ!




 微かな雑音が耳に入る。


 【……は深淵から……なり】


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