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その者ら②

前話:質疑応答はじめました。

「質問。そんな帽子かぶってて、前はちゃんと見えてるのか?」


 これはドロシーがパーティーに加入することになった当初から気になっていたことだった。目元が完全に隠れているのに、どうやって視界を確保しているのだ、と。


「ふっ、無論見えている。これは魔法道具だからの!」


 ドロシーは座りを正し、無い胸を張ってなんとも誇らしげに答えてくれた。


 『魔法道具』とは、魔力が付与された特殊な道具の総称である。

 魔力が付与された道具がもたらす効果は多種多様だ。単純に道具の耐久性が向上するもの。使用者の身体能力を底上げさせるもの。身体的ダメージの回復を早めるもの。他者を精神支配するもの。


 中には、目の前の帽子のように用途がよくわからない魔法道具も少なくない。


 魔力が付与された道具は製造困難な上、需要が高く、非常に高価な代物である。

 そのため貴族や冒険者の間ではそれらを所有、または身に着けることがステータスといった傾向がある。国家においても富や権威の象徴として、国宝指定されている魔法道具が存在するほどだ。


 ドロシーいわく、あのくたびれた帽子は、相手に視線と表情を悟られず、尚且つ使用者からは帽子が透けて視えるという特性があるらしい。


 装備する者に怪要素を含ませるこんな帽子でも、自分が持つ安物剣が数十本分は買えるぐらいの値がするのだろうと、アレスは遠い目をしながら思う。


「なるほど……伊達や酔狂でかぶってるわけじゃないんだな」

「いや、魔導師然としててカッコいいとは思っておる」


 ……趣味と実益を兼ねてるようでなによりだ。ドロシーの中での魔導師像は怪しさをカッコよさとする存在なのだろうか。


「次は私の番だな!」

「どうぞ」


 アレスは手を差し伸べる動作をしつつ答えた。それにしてもドロシーはやけに上機嫌な気がする。それほど暇をしていたのか。もしくは、この自己紹介がドロシーの仲間意識を刺激しているのかもしれない。


「質問だ。アレスは何故魔法を学んだのだ?」


 その割には知ってか知らずか、人が若干気にしている話題に突っ込んできた。


「うーん……その素養があったからだな」


 魔法を使うことが出来るのは、先天的に『魔素』を貯蔵できる器官を体内に有する者だけとされている。これを持つ人間は、大凡100人に1人の割合で生まれてくると言われる。


 そもそも魔素とは、空気中に満ちている存在であり、あらゆる生物の体内に呼吸等と共に自然と取り込まれ、自然と排出される流動的なものだ。

 だが、貯蔵器官がある人間は取り込まれた魔素を一定量まで体内に貯蔵していく。ただし、その貯蔵容量には個人差があり、満足に魔法を使えるものというのは、そこから更に一握りの存在となる。


 アレスは運良くその一握りの存在だったから学んだだけだ、と答えたものの聞いてきたドロシーはその回答に満足していないようだった。


「では、何故剣の使い方も学んでおるのだ?」

「連続質問だぞ」

「こちらの意味合いも含んでおったのだ」


 ドロシーからは、それを悟らぬ方が悪いと言った返事をされた。

 アレスからしてみれば、あえて躱したつもりだったのだが……せっかくの上機嫌を損ねるのも無粋かという気がした。


「逆だよ。剣から学び始めて、魔法に手を出したんだよ」

「ほぉ」

「幼馴染が勇者の子孫っていう個性に溢れてたからな、俺も自分なりの個性が欲しかったんだよ」

「ふむ、それで現在の……言うなれば、魔法剣士という立場に行きついたわけか」


「ただの器用貧乏とも言うがな」

「謙遜だ」

「だと良いんだが」


 事実、鍛練の時間を魔法に割いた分、剣の熟練度は他の剣士と比べ、低い気がしてならない。それに魔法に関しては明らかに魔導師よりも低級である。


 それはドロシーの魔法戦を肌で感じ、つくづく実感させられている。

 自分では器用貧乏と言ったものの、言い換えてみれば、やはり半端ものなのだ。


「さてと、次は俺だな」

「まぁ良かろう、来い」


 まだ聞きたいことがあったのだろうか、ドロシーは妥協したような言い方をした。魔導師は研究職としての側面もあるせいか、その探究心に火がつくと止まらないのかもしれない。


「質問。ドロシーの口調は癖なのか?」

「む?」

「その枯れた口調だ。外見からしては珍しいと思ったんだが」


 アレスから観たドロシーの容姿は、その顔立ちこそ深くかぶった帽子により判断できないものの、体つきはすらりとしており、萎びや弛みといったマイナスイメージを一切感じることができないものであった。


 これでその実、老婆の年齢であるのなら魔法を超越した力が作用していると言われても信じてしまう。いや……魔導院の存在を考えると、信ぴょう性は少なくない、か。


「ふむ……やはりおかしく思うか」


 その口ぶりから、本人も少なからず不自然さを自覚しているということがわかった。老婆説に一歩近づく。


「これについては、癖という段階には至っておらん」


 癖ではない、という発言に早くも老婆説が遠のいていく。

 いかん、何に一喜一憂しているのだ。


「……ということは、意識して用いているのか?」

「少なからずの」


 何のためにそんなことをしているのだろう。考えられるとすれば、想像力の強化か。

 魔法の発現には使用者の想像力が必要不可欠かつ最重要であるとされる。そのための訓練であるならば馬鹿には出来ない。


 想像力が重要視される所以は、魔法がどういったものになるのかを具体的に意識できていなければ、発動できない事にある。


 水を思い描きながらでは、火を起こすことは出来ないといった具合だ。但し、熟練の魔導師ともなれば、流水のような動きを持つ火炎を生むこともできる。それ故に想像力が魔法にとって最重要要素とされるのだ。


 その想像力を補完するために詠唱が用いられ、その詠唱音声に体内の魔素が含まれ、大気中の魔素と結合、魔法の発現へと至るのだ。


 そういった理由かな、とあたりを付けつつ、アレスもドロシーを見習って、日常生活に想像力の糧となるものを探してみようかと考えた。


 では次は、とドロシーが質問の手番が替わったことを告げる。

 ……しばらくの間この〝自己紹介〟は続いたが、次第にお互いが何か質問することはないものかと頭を捻るようになってきた。


「大分出尽くした気がするな」


 どちらともなくそう言うと、両者共々この発言に同意した。

 そろそろ外出したパーティーリーダーとそのお付きが戻ってもよさそうなものだと思い、アレスは椅子から立ちあがり、窓から部屋の外を眺めた。


 アレスらが泊まった宿部屋は二階にあり、窓からは、村の中央広場と疎らに開かれている露店、そこで売買をする村人や行商人の姿などが目に付いた。


 もしかしたら、2人が見えるかもと思ったが、どうにも見当たらない。いくらリーダーが好奇心旺盛の聞かん坊とはいえ、村から出ようとすれば金庫番と揶揄されるエリアスが流石に止めるはずだが……。


 そんなことを考えていた時、部屋の外から勢いの良い足音が聞こえてきた。

 足音は瞬く間に部屋の前を通り過ぎ、それに遅れて、足音を制止するかのような太く力強さを感じさせる声が聞こえてきた。


「ゴルドー、ここだ」


 その声の後、遠くへ行った足音が再度勢い良く戻ってくる。足音はアレスらの部屋前に到達したかと思えば、直後に部屋の扉を豪快に開け放った。

 扉と替わって現れたのは、黄金色の短髪をした小柄な女だった。


「おはよう! アレス! ドロシー!」


 扉を開けるなり、開口一番にそう言った女は、暴風のような勢いと太陽のような明るさを併せ持っていた。


 この一見して少女かと見紛う女が、彼の有名な勇者の子孫であり、アレスの幼馴染にして、パーティーのリーダー、ベアトリス・ゴルドー。


愛称 トリス だ。


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