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決闘なるもの

前話:アレスによる殺し間が整いました。

 刻限となった。

 宿屋からパーティーメンバーとあの男……ネロが出てくる。


 あえて、こちらからは近づかない。

 決闘の場の詳細を詳しく詰めたわけではないからだ。この場合、両者が接近した位置が決闘の場になってしまう可能性がある。


 もしこちらから歩み寄って、宿屋前で決闘となった場合、これまで中央広場付近で行ってきた下準備が水泡と化す。


 故に、事前に中央広場に陣取り、相手をこちらに誘導する。


 しかしまぁ、夜半に静まり返った村で武装した人間が複数名集まるのは奇怪でしかないな……。

 特に黒甲冑で完全防備している男は見るものに恐怖すら与えかねない。


 こちらへ歩を進める怪しげな集団に対して、村を巡回していた自警団員の青年が近寄っていった。恐らく先ほど俺に対しても行われた事情聴取だろう。


 トリスらが、「夜間での戦闘を想定した模擬戦の準備です」という俺の苦しい言い訳に合わせてくれることを祈るのみだ。


 筋肉の塊もといエリアスがこちらを指差して青年になにかを伝えているのが見える。いまからあいつの金をぶんどるとでも言っているのだろうか。まぁ、とりあえず手を挙げて応答しておけばいいだろう。


 それを見て、青年は軽く頭を下げてどこかへ走り去っていった。

 程なくして、一行が傍に着いた。


「根回しご苦労」


 開口一番にそう言い放つエリアス。なんとも皮肉げな挨拶ではあるが、端的に俺の言い訳に合わせてくれたのだとわかる。


「そっちも口裏合わせご苦労」

「しかし、自警団員複数名で立ち会うと言うておったぞ」


 それで他の自警団員を呼び集めに青年は走り去っていったのか。


「衆目に晒すのは不本意だが、村の治安を預かる組織としては当然の行動かもな」


 自警団と言っても、専業ではなくその大半が軽武装した村民にすぎない。そんな村民に毛が生えた程度の衆では、臨戦態勢の戦闘集団を抑えられるわけがないのだが……。

 まぁ、寒村では物珍しい見世物のような感覚なのだろう。つまりは娯楽と聞いてほっておくわけにはいかないのだ。


「それじゃその観客を待ちながら、最終確認でもすっかね」

「ああ」


淡々と決闘の取り決めが述べられていく。


 戦うのはアレスとネロ。闘技場はエリアスが防御魔法で反球体を形成し、その内部で決闘を行う。反球体内部には、闘士2人の他にトリスとドロシーが入り、それぞれ無効化系防御魔法を闘士に付与する。


 トリスはアレスに、ドロシーはネロに。勝敗の判定は戦闘によりこの無効化系防御魔法を先に破壊された側が負けとする。


 宿部屋で出る前に話していた内容と別段変わった点はなかった。ルール変更されて不利な条件下での戦闘を強いられる可能性も考慮に入れていたが、杞憂に終わったようだ。


 エリアスによる朗読が終わった当たりで、先ほどの青年自警団員が他の団員を引き連れて戻ってきた。


 青年を含めて合計4人。少なすぎる。正直言って警戒対象であろうこちら側よりも少ない人数だ。

 自警団員は全員男で、1人は青年。1人は青年と歳近い友人。1人は壮年。1人はしわがれた老人だ。


 本当に観客にしかならない。

 実際、自警団員らの顔には緊張感が感じられない。こちらの言い分を疑ってなどいないのだろう。まぁ、大人数に見せるような戦いでもなし、この程度の観客のほうが気負わずに済む。


「お待たせしました。今日当番の自警団員を集めました」


 小さな村だ。これだけの自警団員をねん出しているのは、むしろ褒めるべきなのかもしれない。


「流石に物見の団員まで呼ぶことはできませんでした」

「当たり前だろ、またコボルトがでたらどうするんだよ」


 青年とその友人が掛け合いをはじめる


「この方たちがコボルトを退治してくれたおかげでその心配もないだろ」


 甘い。依頼書に記載されていた数より多くのコボルトは死体になっていたが、あれが全てとは言い切れない。物見は必要最低限でしかない。


「まぁまぁ、観きゃ……立ち合い人も集まったことだし、始めるかね」


 そう言いながら、エリアスは自警団員を引き連れて中央広場から離れていく。


 こちらから距離にして約100離れた場所で防御魔法を詠唱する。俺とネロを中心とした反球体を形成。 半径約100程度のコロシアムといったところか。高さも十分にある。


「こっちの準備は完了だ、後はそっちの息で始めてくれや」


 立地条件としては想定通り。こちらの術中に完全に嵌ってくれた形だ。


「それではトリスよ、ワシらは邪魔にならぬようエリアスの居る位置まで離れてから魔法をかけようぞ」

「うん、でもその前に……」


 トリスは俺の方を向き、自身の腰に下げていた剣を渡してきた。


「アレス、この剣を使って」


 これはトリスが父親から餞別がてらに譲り受けた剣。不壊の剣だ。


 事ここに至るまで策を練ってきてはいたが、武器については如何ともしがたい性能差があった。ネロの良質軽量大剣に対し、こちらは安物鉄剣。


 戦闘時に相手の打ち込みに耐え切れず折れた場合、こちらの攻防手段がなくなり敗北は必至。その一点が大きな敗因となりうるはずだったのだが……まさかここでこんな話が出てくるとは……!


「……いいのか?」


 喜び勇んで受け取りたいのは山々だが、大見得を切って決闘を申し出たのだ、それでは格好がつかない。


「うん、対等じゃないとね」


 対等か……耳が痛いが……装備品ぐらいは対等じゃないとな。


「そうだな……ありがたく、使わせてもらうぞ」


 トリスが差し出した剣を受け取り、自身の剣二本を交換する形で渡した。


 初めて使うことになるが、やはり悪くない。これまで数多くの剣を使ってきた俺にとってはさして問題のない触感だ。それに旅に出てからずっと近くで見てきた剣であり、たまに握らせては貰っていた。イメージ通り振ることは容易だ。


 トリスには悪いが、この温情が俺の敗因をかぎりなく小さくさせた。

 手持ちの安物剣が折れた時のために予備の剣を所持しておく予定だったが、この不懐の剣があるなら必要はなかったな。


 遺跡の時のように二刀流で戦うことは有利に働かないとも学んでいる。

 装備が軽くなった分、動作も早くなりそうだ。


 剣を交換後、トリスとドロシーはエリアス側の魔法障壁まで歩き去っていった。


「剣を貸してやるとは、粋なことをするのう」

「ネロさんだけが不利なのは釈然としないからね」

「……というと?」


「記憶喪失だからなのかもしれないけど、大剣が手元に戻った時に重量感に戸惑ってたでしょ」

「うむ」

「だから、アレスもほぼ初めて使う剣でないと対等じゃないなって思ってね」

「……あー……そうじゃな……」


「アレスにはとても言えない」と、ドロシーは帽子の中で表情を曇らせた。


「あなたはこれが終わったらどうするのだ?」


 これまで無言だった黒甲冑が喋りかけてきた。


「どうするって、あんたをしかるべき場所に届けるだけだよ」

「もし私に負ければ?」


 いまから戦う相手にそれを聞いてくるのか。


「考えてないな。なにしろ負けるつもりで戦うわけじゃない」

「……そうだな、愚問だった」

「話はそれだけか?」


 出来れば、早急に距離をとりたい。彼我の位置関係が不利すぎる。こちらの剣は一歩踏み出さねば届かないのに対し、相手の大剣はその場から振るだけで届くという状況だ。


 開始の合図を決めなかったがために、魔法がかけられたらそれが合図となって戦闘が始まってしまいかねない。そうなれば反射神経次第では、即座に一刀両断されて終わりだ。


「……私も負けるつもりはない」

「そうかい」


 当然だろうな。負ければ投獄すると伝えたのだ。死に物狂いでも勝ちを狙うだろうよ。

 こいつからどう離れようかと思っていたが、無言で遠ざかればいいだけの話か。


 黒甲冑に背を向け、距離をとろうと走りかけようとしたその時、またも黒甲冑が問いかけてきた。


「待ってくれ、これだけは言わせてもらいたいんだが……」


 ……心理戦のつもりか?  これ以上、付き合う義理はない。

 無視を決め込もうと、一瞬踏みとどまった足を前に運ぼうとした時、身体が被膜に包まれた。


 ある種の安心感を覚える。防御魔法が付与された瞬間だ。


 次の瞬間、アレスの背後、完全な死角から不意打ちの大剣が振り下ろされた。


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