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条件なるもの

前話:交代案に憤慨、その座を賭けて決闘を申し付けました。

「待て……勝手に話を進めおって」


 ドロシーが口をはさんだ。


「別の代替案でもあるのか?」

「出したところでその剣幕では納得せぬであろう……ワシが言いたいのは別じゃ。このまま実際に斬り合うことになれば、落命の可能性は免れぬ、そこの対処を明確にしておかねばなるまい」


 勝敗の決め方ということか。確かにルールがあれば安全性は高まるが、それで力量が図れるのかといえば疑問符が残る。

 もし仮に剣術のみで戦う羽目になれば、勝機がないのは自覚できている。

 

 いかに安全を考慮してくれた案であっても、行動に制限が付くようなルールであれば拒否しなければ。


「具体的には?」

「木剣を使え、などということは言わん。互いに防御魔法がかかった上で戦えばよい」


 ふむ、ひとまずは安心できる……が。


「防御魔法をかけて戦う程度では戦闘が長引くだけで根本的解決に至らないのでは?」

「軽減を目的とした防御魔法ならそうであろうな。じゃが、今回使うのは無効を目的とした防御魔法じゃ」


 無効系……探索等においてエリアスが被膜として展開するそれだ。

 一定以上の負荷が与えられれば雲散霧消化する類のもので、詠唱者の魔力と熟練度によって無効化できる衝撃の幅に差がでる。


 詠唱者の力量が不足していると防御性能が薄氷の如く頼りないものとなり、対抗すべき負荷が防御を素通りしたかのように加わりかねない。


 更に言えば、不動である物体や空間に対して展開するのは容易だが、動き回る生命体などに対して、その行動を阻害しないように密着して付与するのは難しいとされる。


「この防御魔法の上から叩き斬られるのであれば、身体へのダメージは軽度もしくは無傷で済むであろう」

「その魔法をかけるのと命を落とさず勝敗を決めるのになんの関係が?」


 ドロシーがため息をつく。


「どちらかが致命傷を負わねば決着がつけられぬようなものは容認できん。故にいまの防御魔法案なのじゃ。攻撃が相手に触れ、防御魔法が雲散霧消してしまえば、消えた方が負け。わかりやすかろう」


 ……確かに、この方法なら相手の命など気にすることなく剣を振ることができるかもしれない。

 ただ、その防御魔法の詠唱者は誰が担う。


 妥当なのはエリアスだが、彼の防御魔法であれば致命的なダメージも無効化してしまいそうだ。

 そのことは一見、有利に働くのではと思えるが、その実、アレスにとって不利にしか働かない。

 

 敵はその身体能力から攻撃の機会に幾度となく恵まれるだろう。一方の俺はその身体能力に向けて、数えられるほどしか攻撃を浴びせられない可能性が高い。


 そんな中、仮に俺が捨て身の一撃を食らわせたとしても、このルールでは防御魔法を破壊しなければ勝利にはならない。

 そしてそんな攻撃を何度も繰り出せるほど相手に隙はない。


 つまり俺にとって、防御魔法の薄さこそが勝機に厚みを生む大事な要素なのだ。


「防御魔法は俺が二人にかけるのか?」

「いや、ドロシーの案を採用するのであれば、エリアスには試合場を防御被膜で形成してもらいたいと思う。決められた戦闘領域があれば無用な被害もでないだろう」


「となると……ドロシーかトリスにかけてもらうのか? 付与型の無効系防御魔法は言うほど簡単じゃないぞ?」


「ああ、1人で2人のを行うとなると難しいだろう。そこで両者に頼みたい」


 気落ちしているトリスは突如自分の名前が挙がり、驚いた表情を浮かべていた。


「両者が防御魔法を得意としていないことは承知の上だ。そこで一方がネロさんへ、もう一方が俺へといった形式をとる」

「ふむ……それだけに専念するのであれば出来なくはないなのう」

「……うん」


 ここで初めてトリスが口を開いた。思えば、トリスを置き去りにして話を進めてしまっていた。

 それほどまでに頭に血が上っているということか……戦闘が始まる前までには冷静にならねば。こんな視野狭窄の状態では負けにいくようなものだ。


 後は、誰が誰に防御をかけるかだが……。


「わしがネロ殿の防御を受け持とう、トリスはアレスを見やれ」


 ドロシーがネロ側への名乗りをあげた。まさかトリスがこちら側に付くことになるとは。

 それを聞いたトリスが戸惑いながらも許諾の返事をする。


「よし、他になにか決め事はないか?」


「「ない」」


 2人の発言が重なる。

 忌々しいやつめ、どうあってもその口を利けなくしてやる……。


「んじゃ、夜半までは時間がある。各々準備してくれや」


 準備か、十分にさせてもらおうじゃないか。


 他の者を置いて、アレスは部屋を後にする。



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