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処遇なるもの

前話:森から街道に着きました。

「街道到着―!」


「歩き疲れたぜ」

「エリアスは余計にだろうな」

「その筋肉が最大限活用されておるのう」


 エリアスは額の汗を手でぬぐいながら、誇らしげに一笑している。加えて、こういった不測の事態に備えて俺のように鍛えろと忠告された。


 確かに筋肉はあって困るものではないが、エリアス程に鍛えるのはかなりの期間を要する。そのことを思うといつも気持ちが萎える。


大きすぎる山というのは挑む前に心が折れるものだ。


「この人どうしようか」


街道から村までの道のり、そう長い距離ではない。

しかし、ただ歩いているだけでは暇を持て余すと思ってか、パーティーリーダーであるベアトリスが口を開いた。


話題も直近の懸案事項であり、十分に暇をつぶす役目を果たしそうだ。


とはいえ、それに対する答えは既にあるのだが。


「どうしようもなにも突き出して終わりだろう」

「突き出すってもどこに出すよ?」


「そうさな、こやつが冒険者であれば冒険者ギルド、殺人狂であれば騎士団、儀式がらみならば魔導院といったところなども候補にあがるのう」


個人的には冒険者ギルドしかないと思い込んでいたが、行き先は複数考えられることに気づかされた。


「お尋ね者なら騎士団に突き出しゃ恩賞がもらえるな」

「金に結び付けるのが好きじゃのう」


「こっちは命を取られかけてんだぜ、慰謝料で身も心も癒させてもらわなきゃ話が合わん」


「わしは魔導院でこやつの武具を調べてもらいたいがのう」


「俺は冒険者ギルドが良いとは思う。今回の依頼で討伐した魔物は大半がこいつの手柄だ、観測球を提示したときの説明のややこしさはこいつに背負ってもらいたい」


 できれば全ての願いを叶えたいところではあるが、それは難しい。


 騎士団に突き出せば、冒険者ギルドへの依頼完了の説明に支障を来す。


 冒険者ギルドに突き出せば、そこからは冒険者ギルドの預かりとなり騎士団へは突き出せなくなる。

 

 魔導院に武具だけを提出した場合も騎士団と冒険者ギルドでの説明に支障を来し、最悪自分たちへの心証を悪くするだけになる。

 犯人の武具は自分たちで処分しました、など誰が聞いても怪しがられる。


「勇者殿はどうすればよいと思うかの?」


 確かに、言い出した本人であり、パーティーリーダーの意見を聞かなければ、このままでは処遇に困る。


「私はー……まずこの人と話してみたいなー……なんて」

「こいつと? 話通じるのか?」


 流石ベアトリス、新鮮な発想だ。

 しかしエリアスがすかさず疑問を投げかけた。その疑問は最もである。


 戦闘中の黒甲冑は殺意の塊でしかなく、言語を介すのかすら怪しい状態だった。戦闘前もこちらの発言には耳を貸していた素振りもなく、急に斬りかかってきたほどだ。目を覚ました時に会話が成り立つ保証はどこにもない。


「通じる通じないに関わらず、こやつもずっとは気を失っていてくれぬであろう」

「トリスは話をした後どうしたいんだ?」

「うーん、強さの秘訣? とか知りたいの」


「なんとも……こやつに負けず劣らずの戦闘狂よ」

「えへへ、それほどでも」


 飽きれたようにドロシーが言うが、トリスは褒められたようにはにかむ。

 可愛い。ただし、疑問形が含まれた言葉が気になる。


「……う……ぁ」


 噂をすれば渦中の人物がうめいた。

 咄嗟に剣の柄に手が向かう。ドロシーは身構え、エリアスはうめき声の主の首に手を這わせ、いつでもへし折れるようにしていた。


 遺跡での戦闘が忘れられないのは、トリスに限ったことではないのかもしれない。


「……」


 再び黙りこくる黒髪の男。


「死んでないよって意思表示だけみたいだったねー」


 トリスが笑いながら言い、その言葉に安堵し脱力した。

 村が見えてきた。宿で一休みしつつ、こいつを起こして今後の方策を立てよう。




 村に着くと村の自警団員が出迎えてくれ、村長を呼んできてくれた。

 立ち話になるかと思ったが、そこは配慮してくれたのか村長の家に招待された。


 パーティー全員で押し掛けるのも気が引けるので、他のメンバーには先に宿屋に戻ってもらおう。

 黒甲冑を抱えて村の中を行ったり来たりするのも憚られる。大剣もベアトリスに手渡し、黒甲冑と離して置いておくように伝えた。


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