講釈なるもの
前話:調査が終わり、村へ帰ることに。
※文中の『何か』=『酸素』ですが当世界では解明に至っていないものとしています。
村へ帰る道中、ベアトリスが思い出したかのように黒甲冑が倒れた理由を聞いてきた。エリアスもそういえばといった様子だ。
待っていました。ようやく聞いてきてくれた。
説明するといっておいて説明できずにいたのは後味が悪かった。だが、自分から語りだすのはドロシーの手前気恥ずかしい。
しかし、聞かれたからには答えねばならない。これにて満を持して説明に臨めるというものだ。
といっても原理は至極単純だ。
「あー、簡単に説明するとだな、火も人も空気がなければ生きられないってことだよ」
「然り」
反応してくれたのはドロシーだけだった。背中を通してではあるが、よくわかっていないであろう2人の姿が目に浮かぶ。
「ランプを消すのを想像してほしい」
「ランプって照明器具の?」
「ああ、その火を消す方法と同じだ」
「息を吹きかける」
脳筋め。
「……それも一般的ではあるが、もう一つ方法があるだろう」
「蓋をする?」
「正解」
「ああ、そういうことか」
「えー、ランプとこの人とが倒れたのに何の関係があるのさー」
エリアスは納得がいったようだが、トリスはまだ説明不足だと文句を飛ばしてくる。できれば、自分で答えを見つけるのが好ましいのだが、あまりリーダーを責めて知恵熱を出されても困るか。
「ベアトリスは呼吸をしてるよな」
「当たり前だよ」
「それは空気があるからだよな」
「うん」
「火も空気がないと点かないんだよ、だからランプに蓋をするとランプ内の空気がなくなって消えるわけだ」
「なんで空気がなくなるの?」
「んん? えーと、それはだな」
火が空気を燃やしているからだと言おうとしたが、果たして、燃やした後に本当に空気が消えているのか疑問に思えてきた。
空気は目に見えないものであり、あるかないかなど確認したことがないからだ。だが、実際に黒甲冑が倒れたのは空気がなくなったからでは……。
トリスの質問に言い淀んでいると、ドロシーが代わって答えてくれた。
「正確に言えば、空気はなくなっておらん」
新展開だ。
空気がなくなっていないというのは、どういうことだろう。俺の知っている知識ではない。
「魔導院にいた際に得た知識なんじゃが……」
そこからはドロシーの独壇場だった。
密閉した容器に火を灯して放置すれば、いずれ火は消える。
俺の言を借りれば、空気が消えたためということであったが、ここで火が消えた容器に鼠を入れる。すると、鼠は活動困難に陥るかと思いきや、普通に活動を行う。
つまり、火が消えた後も生物に必要な空気は存在するということになる。だが、この容器と鼠をしばらく置いておくと、鼠は次第に衰弱し、意識不明となり、程なくして息絶える結果となった。
この実験でわかったことは、火は空気を燃やしてはいるが失くすのではなく、空気に含まれる何かを燃やしている。生物もまた空気中のその何かで呼吸をしている。更に、火は生物よりもそれを多く必要とするといったことがわかった。
その空気中の『何か』については、同じように人体や空気中に存在する魔素と似たようなものと言われているが、解明には至っていない。
といった説明が、魔導士の学者気質な側面をいかんなく発揮し、回りくどく滔々となされた。
個人的には非常に興味がある話なので聞き入っていたのだが、質問したベアトリスは途中から相槌の言葉も発さなくなり、エリアスもため息まじりに話を聞くに至っていた。
話し手であるドロシー本人はそれらを意に介しておらず、自身の持つ知識と経験を存分に語ることができて、満足していた。
恐らく、俺以外の聞き手は今後魔法について、ドロシーに質問することを自重しようと心に誓ったかだろう。
「要するに、俺がドロシーとエリアスにやってもらったことは、容器の中の空気と……、まぁ空気を燃やして、黒甲冑が呼吸できないようにさせたってことだよ」
「なるほどー!」
「うむ、この程度の知識であればいくらでも話すぞ」
「いやぁ、すごく参考になった! いまの話を噛み締めたいからまた今度で頼む!」
「うん、またにしよう!」
早速、2人の誓いが顕わになった。
ドロシーの説明が終わる頃には、森の端近くまで歩き通しており、街道が木々の隙間から見える場所まで着いていた。




