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Alioth memorial  作者: 星畑ゆすら
9/10

リカルド港町

 生まれ育った星珊瑚の孤島以外の人々の営みをアルネは初めて目にしていた。


 海から流れてくる潮風の匂い。何処からか聴こえてくる陽気な音楽。港町の市場には新鮮な魚介を中心に様々な商品が並んでいる。

 目当ての品を買い求めて市場に訪れる沢山の人々の活気が凄かった。


 リカルドの港町は賑やかだ。


「わぁ…!ここがリカルド!星珊瑚の孤島も交流祭の祭りは賑やかだけど、また違った雰囲気だね!」


「だろう?俺が色々案内してやるから、楽しみにしてろ!」


「ありがとう、サエラリ。案内よろしくね」


「おう、その前にアルネと異種族のひと。これ付けとけ」


 サエラリが自分のポケットに手を入れてゴゾゴゾと取り出したのは、それなりの長さがある一本の丈夫な紐だった。サエラリは紐をアルネの手首とアルネの手を繋いでいる彼の手首に巻き付けて結んだ。


「迷子防止策だ。異種族のひと、ぽや〜としてるだろ。はぐれたら困る!だから、お前ら2人仲良くこれで結ばれておけよ。こうすれば、はぐれないし、ずっと手を繋がずに済むだろ?長さも十分あるから離れずに両手を使って行動出来る」


 いい笑顔で得意げに親指を立ててくるサエラリに対してアルネは盛大に口元を引き攣せる。


「迷子防止って…これは、無いよ。悪い意味で目立つだろ。絶対にさ」


「大丈夫だ、お前ら既に目立ってるから。周囲から目立つポイントが1つ追加された所で問題ないさ」


「問題あるって!」


 これでは、小さな子供が親とはぐれないように手を繋いで歩くというより、飼い主とペットの散歩だ。


 違う、断じて違う。

 ボクと彼の関係は飼い主とペットではない。


 アルネは紐を解こうとしたが、途中で辞めた。


 サエラリが言った通り既に船から降りた時点で、アルネと彼には、容姿の珍しさから周囲の視線をそれなりに集めてしまっていた。


(一部の視線から値踏みしている様な不快な奴を感じる…絶対、危ない人間がこの中にいる)


 視線の大半はアルネと異種族の彼へ物珍しさからの好奇心っが占めてるみたいだけど、その合間を縫って背筋をゆっくりねっとりと撫でられ品定めをしている不愉快な視線を感知して背中がゾワッとした。


 昔、星珊瑚の孤島でも、この様な不快な視線を向けられた経験はそれなりにある。

 …一度だけ誘拐されて乱暴な扱いをされかけたことがあった。その事件以降、ボクに対してある意味で過保護になった母は、交流祭で外部からの人が訪れている時はボクが絶対に1人にならないようにサエラリとテミスをボクにつけた。


「星珊瑚の孤島にいた時は俺とテミスでお前の傍にいたけれど、今は用事があって居ないだろ?お前のお目付けが1人減ってる」


「サエラリ…言い方が酷い…」


 サエラリは昔からサバサバした性格で、物事を直球で言ってくる。言葉の切れ端に棘をも感じせる。心にグサッとくる言葉の緩衝材を果たしていたのが、のんびり屋のテミスだった。

 その緩衝材こと、テミスはボクとサエラリの隣には今はいない。船から降りて直ぐに大切な用事が出来たといって、ソフィちゃんを連れて何処かへ行ってしまった。

 用事というのは、多分だけどソフィちゃんにキツく言い過ぎた事を謝る為なんだろうな。

 テミスとソフィちゃん、仲直りしてくれるといいんだけど。


 テミスが抜けたリカルド観光チームは美少女(年)アルネ、見た目は普通の年相応少年サエラリ、めっちゃ目立つ要素100点満点の異種族の彼。


 目立つ事、間違い無しの組み合わせメンバーである。


 珍しい異種族とひ弱な子供2人(片方、美少女)は人攫いの目には、格好の餌食に映っているに違いない。


 更にいえば、今のアルネ達には大人の同伴がいなかった。


 ソフィの祖父や船の大人達は商品の荷卸・配送の指示、急な来客の対応に忙しく本日丸一日は船内に閉じ込められる見通しだ。


 アルネ達は、せっかくリカルドに着いたのに船内に引きこもるなんて退屈だ!自分達はそこまで小さな子供じゃない!人目が多い所であれば、逆に周りの目が自分達を危険から守ってくれる!(アルネが言うと説得力0)と大人達を勢いで出し抜いて外に繰り出したのだ。


 結果、不吉な視線を感じ取ったので注意深く行動せねば、危ない目に遭ってしまう状況だ。


 アルネの鍛えられた危険察知の直感がそう囁いた。

 アルネの直感は外す事の方が珍しい。


 異種族の彼は貴重性の観点からいえば、アルネ以上に誘拐される危険性を背負っている。


 かなしいかな。サエラリのふざけてるだろって思っていた提案が有用性を帯びてきた。


 誘拐等の危険を防ぐ為には…悔しいがサエラリの提案は合理的に正しい。手を仲良く繋いでいるより、手が離れてもお互いを離さない紐で結びつけている方が間違いなく安全である。後は…



「あ、そうだ!これ貸してあげるよ。しっかり被っててね!」


 アルネは身に纏っていた母お手製のフード付きマントを彼に被せてた。


 フードは見事に彼の綺麗な薄緑の髪、空を映したかの様な湖の如く澄んだ蒼い瞳、太陽の光を浴びて金色に鈍く輝く角をその布地の中にすっぽりと隠した。

 彼が周囲の視線を集めてしまうのは、神秘的な美しい容姿。そして、ヒューレムが持ち合わせない頭の二対の金色の角が最も大きな要因だ。


 アルネの知る限りでは、金色の角を持つ種族というのは異種族の割合が多いこの国でもかなり珍しいはずだ。


 目立ってしまうのは、当然だった。


 早い話、穏便に行動を伴にする為には目立ってしまう彼の容姿を、特に角を隠してしまうのが1番手っ取り早い。


「貴方の容姿、特にその頭の角は目立っちゃうから、勿体ないけど隠しちゃうね。あと、このマント、母さんがボクの為に作ってくれた特別製なので大事にしてください」


 素顔が隠れた彼に軽くそう伝える。


 アルネから話しかけるだけで相手の反応は全くない一方通行な会話。

 邂逅したその時から、言葉も1つどころか声すらも発さない彼にアルネが話しかける言葉の意味や意図が通じているかは不明だ。


  これから、彼との意思疎通が通じるかどうかなんて、分からない。どうしようもないので、今は置いておこう。


 アルネにとって彼との意思疎通よりも大事な優先順位が、今は別にある。

 初めて、星珊瑚の孤島以外の地に足を踏み入れている。この現状を実感したい。


 その気持ちを胸にサエラリの案内の元、周囲を警戒しつつもリカルドの街の観光に勤しむとした。



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