旅立つ前のお話し
母さんからの許可が出て、ボクはすっごく嬉しくて浮かれていた。
『えぇ、約束を果たしましょう。貴方が旅立つ事を許します。』
嬉しい!凄っい嬉しい!
ようやく、旅立てる!母さんの言葉を何度も思い出しながら喜びでくぅっうと喜びで身が震えた。
小躍りをしながら、家の外にでる。
外に出た瞬間、朝の陽射しと供に出迎えた風にブワッと服と髪が巻き上げられるが気にならなかった。
道が開かれるまで、あと1週間。
外では、風でモノが飛ばされない様に庭の置物を布で覆いロープと重石を使ってる固定したり前兆が去って道が開きその後に待つ大陸との交流準備が進められて島の住民達が行き交っている。
(昔はこの時期が来る度に悔しいっ羨ましいてなってたけど、今は違う!)
小走りで母さんから頼まれたお使いのメモと大きめの籠を手に持って、何度も複雑な気持ちで見てきた準備を眺めながらそう、思えた。
そんな浮かれた気持ちでメモの目的地の店に辿りつく。
母さんから頼まれた内容は、母さんが経営する食事処とお守りをはじめとするちょっとした魔法道具を兼ねた店。我が三階建ての1階にて開かれている店の料理に使う食材の買い出しである。
「ケベックおじさーん、前兆と交流祭の準備してる所だと思うけど。今、大丈夫?」
「おぉ、アルネ。来たのかね?アガットさんのお使いかい?うちは今、余裕あるから問題無いよ。」
「良かった!うん、そうだよ!このメモに書かれてる食材がほしいんだ。お願い!!」
気軽よく声をかけて店の扉がひらいて、すっかり見慣れた顔がでてくる。
この店は、香辛料と薬草を専門としたお店で店主は50代後半のおじさんだ。母さんはここの馴染みの客だから必然とボクも小さな頃からここへよくお使いにくる事になる。
「…ふむ、アルネ。お前さん、今日はやけに嬉しそうだな。いつもは前兆の準備には明るく振舞っていても何処か、辛そうだったからなぁ」
「っぅあ、うん!うん!!実はね、母さんから旅の許しがやっと、やぁあっと出たんだ!!!」
「ほう!そいつはめでてぇな…!」
目を丸くして瞬きを2.3回繰り返した後におじさんはボクにガハハっと笑って祝いの言葉をくれた。
その後、ぐっしぐっしと。顔を合わせる前に触っていただろう薬草の匂いが混じった手でボクの頭を豪快にかき撫ぜた。
うん、最早、撫ぜるというより混ぜるといった方が良い手つきだ。
「おじさん、ちょっと痛いよっ」
「ハハッ悪かったな。どれ、アルネ。メモを貸してみろ」
頭を抑え、抗議をするアルネからひょいっとメモをとったケベックおじさんはメモの内容を読み上げた。
「どれ、ラパとロドリ、コトの実。アロエとオレンジピール、スカルキャップ、ハバワードとあと数点。おう、結構、買うねえ〜」
「まぁ、大陸からお客さん来るしね。準備の余裕がある早いうちに買っとかなきゃね。ボクも…そのっ島から出るから…」
「いいんじゃねぇの!お前さん、他の子達よりも島の外に人一倍興味があったていうのに。他の子供は保護者同伴で外に行けて。お前さんは何故か、アガットさんが許してくれなくていじけてたもんな」
昔の事を思い出しているのだろうか。ケベックおじさんは懐かしそうな顔をしている。母さんに許して貰え無くてべそかいて泣いた時。
おじさんとその息子のサエラリにもしっかり目撃されたから。その事件思いだしてるんだろうなぁ…
(うわぁっ…恥ずかしいっ)
「よし、アルネの念願の門出祝いだ!特別にいつもより多めにおまけしてやるよ!」
「ありがとう!太っ腹!」
「ちょいっと、待ってな!今、店の中にサエラリとテミスがいるんだよ。メモの内容は揃えてやるから会っていけ」
そう言って、ケベックおじさんはメモを見ながら店の中に入っていた。ボクもそれに続いて店の中にはいる。
奥の方にある薬草の専用スペースにいた2人は薬草を分ける作業をしていた。アルネに気付くと作業を止めて挨拶をした。
「おはよう、アルネ。風が強いけどいい朝だね」
「よ、アルネ!なんか扉の前で親父が騒いでたけど何かあったか?」
「おはよう、2人とも。実は…実は!」
「よ う や く !! ボクが島から出る許可が母さんから で た ので す !!!」
2人はボクの幼馴染でよく遊んでいる。サエラリはこの店の店主、ケベックおじさんの息子で黒い短髪で少し浅黒い肌をしていておじさんに似たのか活発な性格をしている。テミスはその向かい側にある家に住んでいて薄茶の髪の毛とひょろっとした体格でよくケベックおじさんの店に遊びにきたり手伝いに来ている聞き上手で話していると楽しい。因みに2人とも島の外にいったことがある。超羨ましい経験者である。
「「本当か!!」」
「穏やかだけで大抵の事は許すけど、お前の大陸への外出は頑なに許さなくて怖かったあのアガットおばさんがっ!」
「アルネを島から出す事を許した!?」
「そうだよ!!」
思わずといって感じで2人は身を乗り出して声を合わせながらボクに尋ねた。
アルネはエッヘン。胸を張りながら昨日の事を二人に報告した。
「そういや、アルネって17歳になってたんだよな。見た目が幼いし美少女だし、男にしては小柄だから忘れてたわ」
「サエラリ、アルネが島一番の美少女(男)だからって
…俺たちと同い年だよ?」
「…ボク、確かに願掛けとして伸ばした髪は腰まであるし顔つき女の子に似てるしも体格も同世代に比べて小柄だけど。年は間違えないで欲しいなぁ」
アルネは自分の長い髪をひと房弄りながら男として見られていない事よりも年齢を友達が覚えていない事に少し拗ねた様に言った。
「ごめんごめん。お前って相変わらず女に間違えられる事よりもそっちに拘るんだな。普通、男しては女かな間違えられることに怒ったりするべきじゃねぇのかよ?」
「今更だよ、サエラリ。ボクが小さい頃からずっと女の子、女の子言われて続けてきて…2年前、気が付いたら島の美少女部門コンテストの表彰台に立った時にはとっくに諦めの域に達してるよ」
「あの時のアルネ、おばさん達にノリノリでヘソ出しのかわいいけど大人っぽい服着せられて。紅い目が綺麗に映える様に薄く化粧もして。桃色で日に透かしたら金色にみえる長い髪はハーフアップにして大きめの花が編み込まれた花冠を頭にかぶせて本当に可愛かったよね〜」
当時の事をからかっているのか、細かく語りはじめたテミスにアルネが慌てて口封じをする。
「うわっっテミス!この話を持ち出したのボクだけどそんな詳細に語らなくてもいいって!」
「本当に可愛かったよ?」
「それは、どうもありがとう!」
真顔で答えるテミスにヤケクソでお礼を叫んだ所で、サエラリがふと、思い出したようで訪ねてきた。
「そういやさ、俺たち。お前の親父に会った事無いけど。お前の桃色の髪とその紅い目ってさ」
「うん、父さんの遺伝子だって母さんがいってた」
「アガットおばさんは、茶色の髪に緑の瞳としているもんな。顔立ちは母親似で色彩は父親似か」
この瞳と髪の色は、父さんの事をあまり覚えていないボクに父さんがくれた言葉と旅立った父さんの部屋以外で1番父さんとの繋がりを感じる物だ。
島では目立つけど、大陸にいけばきっとこの色彩をもつ種族がいるのだろう。
「アルネは、一時的に大陸にいくんじゃなくて。旅をしたいって言っていたから。道が開いたらもう島には戻って来ないの?」
「そのつもりだよ。しっかり旅の準備もしてるし、何があっても対処出来るように武術とか魔法の特訓も頑張ったしね」
「そうか、寂しくなるね…」
「ま、いつでも帰って来いよ。といっても俺は今回、交流祭中は店を開ける親父に変わって今、大陸の港町リカトルにいるおふくろに会いにいくから道中まで一緒にいこうぜ」
「あ、サエラリとアルネがいって俺だけ一人って辛いからやっぱり俺もいく!」
「ありがとう、助かるよ!」
二人ともリカトルまでは一緒に来てくれるみたいではじめて心強い。
その時、ケベックおじさんからメモの商品取り揃えたから取りに来いと声をかけられて、すぐにいくねと返事をしてアルネは踵を返してサエラリとテミスに別れを告げた。
「じゃあ、また道が開く時にね!」
おじさんから荷物を受け取り。お互いに気をつけてと声を掛け合って。道が開くまであと1週間あるけど、今日旅立つ様な感じでボクは店を後にした。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
本当にたくさんおまけしてくれたのだろう。想像よりもずっしりと重くなった籠を手に持ちながら帰宅したその日の夜。
ボクは母さんに呼び出された。
「母さん、話ってなに?」
「道が開くまでに時間がある内にアルネに聞いておこうって思うことがあるあるの…」
「?」
アルネは首を傾げながらも、うんっと頷いた。
それをみたアガットは少し憂いた顔で口を開いて話しはじめた。
「アルネ、貴方はこの【星珊瑚の孤島】が好き?」
母さんの質問はそれだけだった。
「母さん、ボクのフルネームってさ。アルネ・シーフェンス。シーフェンスがね。」
「海で囲まれたアルネって感じで小さい頃はこの名前が表には出さなかったけどコンプレックスだった」
「でも、この星珊瑚の孤島でボクは形成されて。今はこうやって旅にでられる。だから決して嫌いじゃない。沢山の楽しい思い出も母さんもいるここは好きだよ」
「だけど」
「だけど、ボクは自分の為に、どうしても旅をしたいんだ」
凄く真剣な声と眼差しで思っている事を吐き出したボクに母さんは微笑を浮かべて。
「それが聞けて良かった。私、その答えが聞けたから父さんの種族について知ってる事を話しておこうって思うの」
「本当に!?知りたい!」
すぐに食い付いた。だってずっと教えてくれなかった謎と憧れをくれた父さんの事だから。知っておきたい。
「興味深々で悪いけど、父さんの種族、私、名前も教えて貰え無かったの危険だからって。とても珍しくて魔力が強い希少種である事は確かだわ。過去に争いが起きて狩られたみたい。だからね、アルネが大きくなるまでせめて自分の身を守れると判断出来るまで私、自身の手元に残したかった。」
母さんは浮かべた微笑から不安そうに目尻を下げながら話を続ける。
目尻を不安そうに下げる。この行為は母さんの後ろめたい時の癖だ。母さんはきっとまだ何か…隠してるのかな。母さんがボクの癖や父さんの部屋に忍び込んでいるのを知っている様にボクも母さんの癖を知っている。
「私、怖くて不安なの。今だって。アルネは大切な息子であると同時にあの人が私に託した宝物だから。このエゴで貴方をこの【星珊瑚の孤島】に留めていたけれど、それにも限界がある。その時はきっと今だわ。」
「あなたは、私が思っているより父さんの血のせいか十分に強くなった。これ以上、押し込めたらきっとこの家を母さんに何も言わずに飛び出したでしょう。そんな別れは絶対嫌だったから」
「ごめんね。貴方の旅の武運を祈ってるわ」
ボクの手を取りながら母さんは、でもいつかここに戻ってきてと囁いた。
母さんが父さんの事を少し教えて貰ったのと1人残された母親としてボクを手放したく無かった事をうちあけられたボクは「うん。また帰って来るよ」って安心出来る様にすぐに返事を返そうとしたのに。
「母さん、ありがとう。」
何故か、島にまた帰ってくるという言葉がこの時でなかった。
そして望んでいたボクの旅立ちは最悪のモノとなった。