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Alioth memorial  作者: 星畑ゆすら
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ある親友の謝罪と悩み

 アルネとその命の恩人であり言語を一切介さない不思議な異種族のヒトがサエラリ案内でリカルドの港町の観光を楽しんでいる一方その頃ーー


 テミスはソフィを連れて、交流祭で賑わっているリカルドの広場でやっている大道芸を見にきたが、人盛りが凄く大道芸はとても見れそうにない。


 仕方なく広場の隅っこにあるベンチに二人並んで座っていた。


「あの〜、さ…ソフィちゃん、ごめんね」

「テミス?どうして、いきなりあやまるの?」

「おれ、ソフィちゃんに辛く当たっちゃって…」


 テミスにとって親友と呼べる人間は2人いる。幼い頃から共に育ってきたアルネとサエラリである。


 その内の1人、アルネはずっと小さい頃から、ひたすらに島の外に憧れを抱いていて、ずっと島の外を旅したいと願っていた。

 そして16歳になって漸くアガットおばさんの許しを貰って念願の旅を始めることになった。


 アルネの旅立ちが決まってテミスとサエラリはリガルド港町まで立ち会うと決めた。


 大切な親友の門出だ。テミスとサエラリは星珊瑚の孤島で今後も生きていく。アルネと一緒に旅にはいけない。

 だから、せめて、おれはサエラリと出来る最大限まで一緒にいて見送りたかった。


 アルネと一緒にいられる最後の時間を出来るだけ長く、大切にしたかった。


 リガルド港町までの補給地点。アルネがそこで崖先に生えた木の上から降りてこれなくなったソフィちゃんを助けた。ほの直後、突如として巻き起こった強風に煽られて崖先から畝る海へと真っ逆さまに転落してしまった。


 誰の目から見ても落ちれば無事で済むはずのない高さから海へと吸い込まれていくアルネを目撃して俺の頭は真っ白になった。


 あれは事故だ、わかってる。ソフィちゃんに悪気が無いのも、わかっている。数分遅ければ彼女も強風に巻き込まれて海に落ちていただろう。


 それでも、様々な状況が重なったとはいえ、俺の隣に座るこの小さな女の子は大切な親友が海に転落する大元のきっかけ、その一つとなってしまったのだ。


 俺の頭はその考えに染まってしまっていた。


『アルネが目覚めなかったらソフィちゃん君を絶対許さないから』


 あの時の焦りや悲しみ、どうしようも無い自分の黒い感情の行き場をソフィちゃんにぶつけてしまった。

 ソフィちゃんだって目の前で人間が落ちるのを目撃して、さらに一歩間違えれば自分もああだったと幼い子ながらにも理解していた。

 だからアルネが落ちた後に暫く立ち上がれないほど恐怖で震えてあの場所から動けずにいた。


 そんな小さな子相手に俺は八つ当たりをしてしまった。


 正直、最低。


 今だって複雑だ。仲直りしようとするのは罪悪感を軽くしようとするおれの弱さから来ている。


「いいの、テミス。あのね、あの場所、おじいちゃんがきけんだから、いっちゃいけないって。すっごくいわれてたの。なのに、おじいちゃんの言い付けをきかずに危ないとこ、テミスに心配してほしくて知ってていっちゃったの」


 ソフィちゃんは、ぎゅっと小さな手でスカートを握り締めている。可愛らしい色のスカートに皺が残ってしまいそうだ。その手をよく観察してみれば小さく震えていた。


「だからね。わたしが悪いの。ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい。」

「…ソフィちゃん」

「みんながいってた。あの高さから落ちて、ぶじなのは奇跡なんだって」

「そうだねぇ」


 アルネが生きているのが奇跡。

 俺だって、そう思う。


「だから、だからね。わたしね、やくそくする!これから、みんなを泣かせて、かなしませてしまう、めいわくと危ないことはしない」


 目の前の幼女は、想像以上に賢くて強かった。

 その強さを実感する反面、俺は自分の情けなさに落ち込んだ。


「お姉ちゃんにも、ちゃんとやくそくしたの!」


 …ん?


「……お姉ちゃん〜???」


 ソフィちゃんはスカートを握っていた両手を離して、その両手を再度、胸の当たりでグッと握りしめた。

 所謂、ガッツポーズを決めている。明るい声、キリっとした表情で大真面目に宣言した。


「うん!アルネお姉ちゃんと!」


 ソフィちゃんの言うお姉ちゃんとは、やはりアルネのことで間違っていないらしい。


 だがアルネは男だ。どんなに可愛くても、すっごく残念なことに、男だ。


 あっれ〜?おれ、ソフィちゃんにアルネの性別は男だよって紹介した記憶あるんだけど〜。


「わたしが木から落ちそうになった時に優しく抱きしめてくれて、まるでお姉ちゃんのようだったの!!わたしね!きれいで、かぁいいお姉ちゃんが欲しかったの」


 理想の王子様ならぬ理想のお姉ちゃんを見つけた幼女のまあるいおめめは、きらきらと輝かせていた。

眩しい。目を擦りたくなる。


 ソフィちゃん、忘れてるのかなぁ?

 夢を壊すみたいで悪いけど。アルネの為にも、ここは、もう1回ちゃんと言っておこう。


「ソフィちゃん。アルネは男の子だからお兄ちゃんなんだよ〜」

「しってるよ!サエラリがいってたじゃん。アルネさん。とっても可愛いんだもん。だからお姉ちゃん!お兄ちゃんっていうよりもお姉ちゃんだもん!」

「そうだねぇ。あの可愛さについては俺も完全同意で納得するよ〜。けど男なんだよ」

「わたし、お姉ちゃんにお姉ちゃんってよんでいい?ってきいたよ!そしたらお姉ちゃん、いいよっていってくれたよ!」


 おっと、本人による許可を貰った上でのお姉ちゃん呼びだったか。


「ソフィちゃん、すっごいねぇえ」


 おれは少し感嘆した。


 ソフィちゃんや星珊瑚の孤島のみんなが言う様にアルネはとても可愛らしい容姿をしている。

 それが原因で良いことも悪いことも…今までの思い出を振り返ってみると悪い出来事の方が多いかもしれない。


 これから先、アルネはあの容姿で苦労する。絶対に。それは、あいつ自身もきっと自覚してると思う。


 アルネは初対面で女の子だと間違われるのには慣れているし最早諦めている。


 だけど、親しい者以外から男だと知っているのに女の子扱いをしてくるやつは嫌いだと思っている節あった。


 そのアルネにお姉ちゃん呼びを承諾させたのは少し驚いた。幼女の勢いつよぉい。


「テミスいいの?」

「ん?なにが」

「おじいちゃんから、きいたよ。お姉ちゃん、すっごく遠い場所に1人でいっちゃうって」

「うん、そうなんだよ〜」

「テミスは寂しくないの?お姉ちゃんとは、ずぅっと仲良しのともだちだったんでしょ?」

「そうだよ〜。すっごく寂しくなるよ」

「そんなにさびしくなるなら、お姉ちゃんのところにいってきなよ!」


 おじいちゃんからアルネの旅立ちについて聞かされていたのか。

 それで、この子なりにおれを気遣ってくれているのか。やさしいなぁ。


「いや、今はいいんだ。ありがとう、ソフィちゃん」


 たぶん、あいつは今頃初めての島の外を満喫中だろうから。

 ちょっとギスギス状態のおれのことは頭の片隅にでも押しやってると思うしその方がいい。

 今のおれは待ち望んだお楽しみを邪魔しちゃいそうだし。



「でも、」

「おれは、もうちょっとだけこのままでいたいからさぁ。アルネにはサエラリも角が生えてる名無しさんも付いてるし大丈夫だよ」


 おれは少し呼吸を整えてから次の言葉を切り出した。


「ソフィちゃん。あのさぁ、虫がいい…おれの自分勝手なお願い聞いてくれる?」

「なあに」

「おれと仲直りして欲しい」

「うん、いいよ!」


 おれが差し出した手をソフィちゃんは躊躇いもなく握り返す。

 その小さな手と明るい声に安堵した。

 おれの罪悪感を埋める為の仲直りをソフィちゃんはそれ以上の勇気と優しさで埋めてくれた。


 気を遣うつもりが逆に気を遣わせてしまうとは。

 情けないけれど、今はこの小さな女の子に甘えて癒されている。


「おれ、アルネに贈り物したいんだけどさ〜。良かったら一緒に探してくれる?」

「お姉ちゃんにプレゼント!もちろん、いいよ!テミス」


 広場に出来た人盛りからピエロがぴょんと飛び出した。ぐらぐらと左右に揺れながらも器用にバランスを取っている。

人の密度で下半身が全く見えないがきっと玉乗りでも披露しているんだろうな。


「ね、テミス。サエラリとあの人がいるけど、やっぱりお姉ちゃんしんぱいだね。きっと、あっちこっちでモテモテだよ」

「あはは〜、たぶん大丈夫じゃないけど大丈夫だとおもうな〜」

「?」


ソフィちゃんは不思議そうな顔で俺を見あげている。


 ソフィちゃんの言う通り心配ではあるがアルネと付き合いの長いおれとサエラリは知ってる。


 アルネがただ可愛いだけの存在じゃないって。


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