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08.子供達の社交場。

 国民管理局を後にし、俺らは早めの昼食を取ることとなった。移動用の馬車に乗り、揺られながらクレア達と景色を眺め堪能した。


 『和処・クラク』じいちゃんの元教え子さんが営んでいる、大衆食堂のようだ。この世界ではめずらしい引き戸の入り口を開ける。店の中はカウンター席が7つと、テーブル席が5つのこじんまりとした店である。

 壁にはお札ののように、旬物のメニューが張り付けられていた。


 「先生お久しぶりです。さぁ、みんなも座ってちょうだい」


 「すまんなエリーナ。開店前だというのに」


 「あはは。いいんですよ!前もって寄ってくれるって仰ってましたし。亭主共々、先生には感謝しているんですから。いつでも来てくださいな」


 笑いながらおおらかな態度で、空気が明るい。俺達を気持ちよく出迎えてくれて、皆が笑顔になる。


 「ところで、この坊やがシキくん?ずいぶん大きくなったわね~!」


 「は、はじめまして。シキです」


 「さすがに3年前のことは覚えてないかぁ~。シキくんが二歳のころ、私がよくご飯を作って上げてたのよ」


 ――はい。しっかりと覚えておりますとも。

 このエリーナさんの作ってくれたミルク粥で、俺は【楽の封珠】を解除出来たといっても過言ではない。それくらい食べるという事は、幸せな事なんだと教わった。

 本当ならあの時の気持ちを、今すぐにでも熱弁したいところなのだが……。さすがにそれは控えておこう。


 「さて、ご注文は何にしますっ!?」



―――――――――――――――――――――――


 食事を終えた俺らは、しばし休憩していた。

 格安な上に味も絶品、量が多くてクレアは途中で残していたが、しっかりシルフが平らげていた。


 エリーナさんとじいちゃんの話しが弾んでいる。国境付近に現れた魔物の大群を討伐したり、巨大マンドラゴラを吸血鬼(ヴァンパイア)と共に封印したこと。ギルドと手を組み悪魔族を押しのけたり、海上での大王イカの死闘を繰り広げたこと。さらに旦那さんのグルタンさんも加わり、思い出話しは白熱していた。

 俺の知らないじいちゃんの歴史を知ることができ、そしてかつての仲間達との変わらぬ絆がそこにあった。


 そういえば俺が死を迎える直前、仲間達からの思念伝達がすごかったな。

 考え抜いて選択し、今があることに後悔はない。しかし誰にも相談せずに答えを出してしまったことは、さすがに悪い気がしてきた。あの時はこんな余裕すらなかったからな。

 今こうして考えを改めることができるのは、人間に生まれ変わり色々な体験をしてきたからであろうか?


 そんなことを考えていると、一人二人とお客さんが入ってきた。


 「そろそろお昼時で忙しくなりそうじゃな。ワシらはこの辺でお(いとま)させていただくかのう」


 「あらやだ、もうこんな時間?先生またいらしてくださいね」


 「坊主達もいつでも遊びに来てくれよ?」


 二人はお辞儀をするとエリーナさんは接客へ、グルタンさんは厨房へ戻っていった。

 俺たちは外へ出て活気ある街並みを見渡す。この後はもう一軒、じいちゃんの知り合いの店に顔を出すことになっている。

 雑貨店が立ち並ぶ場所のようで、俺たちに好きなものを買っていいとお小遣いをもらった。


 銅貨(大)を一枚。これはどれほどの価値があるのだろう?

 村での買い物は、じいちゃんが後払いで支払っている。俺は大抵欲しいものは森で手に入れるし、お金を使うという習慣はない。

 何かお手伝いをすると銅貨(小)を一枚貰えたりするのだが、特に欲しいものも無いためガラス瓶に入れてある。いい機会だし、ここでお金の使い方を覚えよう。



 雑貨街は王都内で暮らす一般人向けに立ち並んでいるような気がする。先程では見ることのできなかった亜人種や、馬の代わりに荷物を引く体長二mの大鳥クルアカン。そしてなにより子供達の姿をよく目にすることができる。


 「おぉ、ここじゃここじゃ」


 着いた場所はお茶屋さんだった。アルミ缶の中に各国様々なお茶の葉が入っており、計り売りをしている場所である。じいちゃんは店主と握手を交わし、店の入り口の長椅子に腰かける。ここからは広場を見渡せるので、俺達は遠くに行かない程度の自由行動を取っていいと言われる。

 もし迷子になったとしても、国民証に設定されている探知機能があるので問題もなさそうだ。


 俺はクレアとシルフの三人で、広場中央の噴水までやってくる。円型の大きな噴水の周りにはたくさんの人達がくつろいでいた。

 噴水の真ん中には、鎧を来た石像が剣を天に向けている。すると石像を見ていた俺に、お爺さんが説明してくれた。これは百年も昔の王様、バレンシア様の石像で今も民を見守ってくれているんだとか。

 今こうして安心して暮らせているのも、民に最も近いと言われたバレンシア様が築き上げてきてくれたからなんだよと。お爺さんはそう言うとにこやかに帽子を上げ、去って行った。



 「ねぇ、シキ。さっき来る途中に、駄菓子屋さんがあったんだけど行ってみたい」


 「ん、いいよ。行ってみよう」


 広場からすぐの所にお店はあった。小さいながらもお店の中は子供達で溢れかえっている。あめ玉やビスケット、乾物やくじ引きまで色々揃っている。

 中でも子供達が声を上げて迷っている物があった。第二弾・ルシアースチョコと呼ばれるものである。

 この世界の人物・魔物なんかをおまけシールにして、チョコと一緒に販売されている。


 「おい、ポーどうするんだ?第一弾か?二弾か?」


 「一弾はコンプ済だから、2弾にするよ!ギルくんは?」


 「迷うよな~。一弾はほぼコンプなんだけど、出たばかりの二弾も気になる!」


 どうやら人気商品のようで、一日に一弾は3個まで二弾は出たばかりで一個までと店側で決めているらしい。そんなことより、よく店のばぁちゃんは誰がいくつ買ったかなんて覚えているよなぁ。


 さて、俺はどうしようか。意外と冷静にいるようでいて、実のところ興奮している。

 駄菓子のところに値札が付いている。アメ玉・小1枚、ルシアースチョコ・小5枚。恐らくこれは銅貨の枚数なのだと思う。そして銅貨には、大・中・小と価値が違うことから、俺の手持ちで十分足りることがわかる。

 とりあえず……。


 「おばちゃん、これ頂戴。あとくじ引き一回」


 「はいよ、全部で小銅貨十三枚になるよ」


 アメ玉とスナック菓子、それに子供達に大人気のルシアースチョコを一つ。それからクジ引きを一回購入して、銅貨(大)を手渡す。お釣りとして銅貨(中)が三枚と銅貨(小)が七枚だった。

 くじを引くと残念賞ではあったが、じいちゃんのローブの色に近い紫のビー玉にした。これは後でじいちゃんにあげよう。


 クレアとシルフはあーでもない、こーでもないと目移りばかりしているので先に噴水広場に戻っていることにした。

 噴水を背に腰かけ、駄菓子の美味いっす棒くんを袋から取り出し口に運ぼうとすると……。


 「よう!アルディアじゃないか。えらく久しぶりだな」


 そこには橙色の髪に、王国の鎧を着た若い騎士が同じように噴水に背を向け立っていた。


 「ん?あぁ。久しぶりだな」


 「はは。お前がいなくなっちまってから大変だったんだぜ?抑止力がなくなると世界はああも変わるもんかね?」


 「お前はそれを見てきたんだろ?ならそれが事実なんだよ」


 「あぁ、本当に色々な事があった。楽しいことや嬉しいこと、悲しい事もいっぱいあった」


 騎士は少し寂しそうな表情で遠くを見る。


 「アルディア……この国はまだ呪われている。俺達ではどうすることもできなかった。親から子へ、子から孫へとその呪いは今も続いている。もしお前がそれに気が付けたなら力になってやってくれ」


 きっとはにかみながら俺の方を見ているのだろう。だが俺は見向きもせずに駄菓子を口にする。

 駆けっこをする子供や、本を読んでいる若者、買い物ついでに談笑する奥様方。

 本当にいい国だと思う。俺の国はどうだったのだろうか?思い出すことは出来ない。


 「ま、久しぶりにお前に会えてよかったよ。それとレオンに言っておいてくれよ、この石像はいい加減取り替えてくれってな。似てねぇーから」


 右手を上げ去って行く。と同時に俺の足元に黄金色の子犬が走り寄って来た。

 騎士がいたであろう場所を振り向くが、そこに彼の姿はなかった。


 「機会があったら言っとくわ。じゃあなバレンシア」


 どんな顔で会えばよかったのかわからなかったので、直視することは出来なかった。しかしそれだけを言う為に、幽霊になってまで会いに来なくてもいいだろうと少し笑った。


 「あの、うちのこがごめんなさい。まだちいさくてくびわがぬけちゃったの」


 そう言われて正面を見ると、栗色をした髪の同い年くらいの女の子が立っていた。申し訳なさそうに子犬に抱き上げると、子犬は遊んでくれているのだと思いじゃれていた。


 「あぁ、大丈夫!きっと駄菓子につられたんだよ」

 

 女の子の持っていた首輪を借り、圧縮した魔力を針のように尖らせ穴を一つ開けてあげる。


 「わぁ、すごいね!これだったらぬけちゃわないかもー」

 

 そういうとまた子犬は別の場所に走りだし始めた。


 「あ、ありがとね。っわわ、アルフまってってばぁー」


 (せわ)しなく女の子は子犬に連れられて行ってしまった。ふと大空を見上げる、雲がゆっくり流れていく。人の声に馬車の音、この雑音がとても穏やかな気持ちにさせてくれる。

 そうだな、もう少し大人になったら昔の仲間に謝罪しにいってもいいのかもな。


 「シキ、なにを見ているのさ?」


 シルフが感傷に浸っている俺を邪魔してきた。クレアは俺と同じように空をじーーっと見つめている。


 「シキあれってなぁに??あれ見てたんでしょう?」


 クレアが空に向かって指をさす。鳥が十数羽、綺麗に飛んでいた。


 「鳥だろっ?種類はわからないが。てか、お前たちは何買ってきたんだ?」


 くそ。なんか恥ずかしい……。二人はえっとねーと、言いながら紙袋をガサゴソし始めた。

 中心部がガムになっているアメ玉や、スナック菓子にルシアースチョコ。そしてくじ引き一等賞(女の子版)の可愛らしい人形が入っている。

 くぅーーー。クレアって運がいいな!他にも村では買えないお菓子がいっぱい入っていた。


 そしてクレアがルシアースチョコを開けると……。


 「やったぁーー。大当たりだぁ」


 クレアにしては珍しい、歓喜の声を上げる。すると周りにいた子供達がかけより、何々?とクレアに押し寄せてきた。


 「それはアタリじゃないよー」


 「第一弾のアタリはエリクシアさまだよ?」


 「おれももう一個かってこようかなー」


 急にわいわいし出し、ポケットからシールの束を取り出すとみんなで見せ合いっこが始まった。

 都会の子のステータスはこっちだったか。俺も開けようかと思ったが、なんだか気恥ずかしくて帰ってから開けようと決めた。

 ちなみにクレアが出したシールは、ブルースライムだった。うん、クレアにしたら大当たりだな。

 あっという間に知らない子供から、年長者の子供まで集まり噴水の前は活気に溢れた。が――



 「うるせーぞっ!クソガキ共っ!家に帰って静かにしてろっ!」


 そう怒鳴る三十代前半のガラの悪い男性が、こちらに目を向け歩きながら睨みを利かせていた。

 子供達は静かになり、泣き出しそうな子までいる。

 そして、こちらを見ながら怒鳴っていたものだから、前方の老婆にぶつかる。もちろん非があるのはこの男だろうに、転んでしまった老婆にさえ文句を垂れ流している。


 「おいっババア!どこに目付いてんだ?まっすぐ歩けてねぇじゃねぇか!」


 周りにいた大人たちが老婆に駆け寄り、大丈夫ですか?と声をかける。そんな態度はないだろう?と男に言うが男はまったく反省の色を見せることなく唾を吐く。


 「おいおい。俺はドルトニア商会のアニーってんだ。お前ら偉そうにしているが、どういう意味か分かるよな?」


 この一言で空気が凍り付く。たしかドルトニア商会と言えば、各国の物資・物流を全般に取り扱う大手の商会なのだが黒い噂も多い。立て突いた者が姿を消しただとか、ライバル会社の役員が失踪しただの叩けばホコリが山のように出てきそうだとグレイス兄ちゃんが愚痴っていた。

 老婆の安否を気遣っていた大人達は一歩後退する。


 「おいババア、お前のせいで時間を無駄にした。慰謝料として出すもの出したら見なかったことにしてやるわ!それとも周りのお前らが払ってくれるのか??」


 なんだこいつ?子供が駄々こねて、そのまま大きくなりましたーと言わんばかりの態度は。こんな奴がこの国にのさばっているのかと思うと腹が立ってきた。


 「ねぇ、おじさん。どう考えても前を見ないで歩いてた、自分が悪いんじゃないの?子供でもわかるし、むしろ壁にぶつからなくてよかったじゃん?」


 「なんだクソガキ。俺はな忙しい身分なんだよ!それともドルトニア商会に立て突くのか?お?」


 「いや、俺はおじさんに立て突いているんだよ?それにドルトニア商会は各国に物資を運ぶ、ものすごく立派な商会であってすごいと思うよ?でもね、それと今現在の状況がどう結びつくのさ?すごいのは商会であって、おじさんではないんだよ?」


 「うるせぇーーーなっ!ガキは黙って……家…………で……その、え?なんだお前?え?」


 【元・魔王威圧(超極小)】


 「あ、その……おま、本当に子ども……?なんだその目は」


 ドサッと尻もちを着く男であったが、もはや先程までの威勢はなくなっている。そんな男の目の前まで歩み寄り、小声で男にささやく。






 (年配の人を(うやま)えないようなら、その狼の着ぐるみ引っぺがすぞ?羊くん……)





 「ぁわわぁあわぁあああ!!ばあさん、俺が悪かったよ!今度からはしっかり前みて歩くようにするから、本当勘弁してくれ!!」


 さっきまでの態度とは異なり、顔色を変えて謝罪する男に周囲の大人たちも困惑している。そして頭を下げながら、前方に注意しながら男は去って行った。

 しばらくすると子供達が俺の前にやってきて、すげーー!と声を上げている。大人達もスカッとしたよ坊や!としゃがみ込み笑顔で頭を撫でてくる。おばあさんはお礼にと、お煎餅をくれた。

 

 「くくく、それにしてもあの顔はなかったなー」


 「きっと、坊やの方にいる妖精(ピクシー)を見て、君がただものではないと思ったんだろうね」


 「それにしても、この年で妖精(ピクシー)を使役しているなんてすごいな!」


 大人達の勘違いでこの場はなんとか収まりそうだ。しかしシルフのご機嫌がななめになりそうだったので、アメ玉を一つ口の中に放り込んでおいた。

 仲良くなった子供達と駄菓子屋に再度出向き、お菓子の話しやシールの話しであっという間に時間は過ぎていった。

 なんで子供の頃は分け隔てなく仲良くなれるのに、大人になるとああも壁を作りたがるのだろうか?

 考えても分からないから、俺は今この時間を楽しもう。


 夕方になる手前で、じいちゃん達と列車に乗り込む。クレアとシルフは遊び疲れて、車内の心地いい揺れに寝息を立てる。

 俺は忘れないうちにと、クジ引き景品のビー玉をじいちゃんに渡す。じいちゃんは嬉しそうに、紫のビー玉を見つめていた。


 タタンタタン……タタンタタン……


 

 紅く染まる世界から、闇夜の世界に黒鉄色の列車が突き進む。

 そういえば!と思い出したようにルシアースチョコを開ける。


 キラキラとは違った光り方をしているシール、創造神・エリクシア(大ハズレ)だった。





 

 


 

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