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07.いざ、王都へ。

 「じいちゃん朝だーーーっ!起きろーーー!!」


 「ま、まだ夜明け前ではないか?」


 今日の俺はテンションが高い。じいちゃんよりもシルフよりも早くに起きて、今か今かとその時を待つ。

 だって念願の魔導列車に乗って、王都に行くんだからな!


 以前より言われていた、国民証(ステータスカード)の更新にいくのである。

 この国民証とはどこの国でも発行されており、自身のパラメータを見たり身分証明になるものである。生まれた時に発行され、五年おきにに更新を義務付けられている。


 いやまぁ、ぶっちゃけこの国民証はどうでもいい。魔導列車に乗って、王都を満喫したいというのが本音である。

 この話しをクランツにしたところ、空間転移魔法陣を使用しておいでよ。なんて言われたが、冗談ではない。そんな事したら、旅の醍醐味が失われる。なのでクランツには悪いが、丁重にお断りをさせてもらった。


 「ちと早いが、シキが楽しみにしていることは知っておったしな。どれ朝ごはんの支度をして、行く支度をするかのう」


 「じいちゃん、俺もなにか手伝うよ」


 そういうと一目散に台所に駆け下り、とりあえず食器の準備をし始めた。

 じいちゃんは手際よくフライパンに油を引き、ベーコンと卵を焼き始めた。


 「朝だーーーっっ!おはよー!」


 匂いにつられて起きてきやがった。さっき散々起こしたのに起きなかったくせに、なんてチョロくてわかりやすいんだ。


 朝ご飯なのに、まだ外は薄暗い。なんか不思議な感覚の中、朝ごはんを食べ終わり支度を始める。

 じいちゃんから国民証を受け取り、首から掛ける。そうこうしている内に日が昇り始めていた。


 「よし、戸締り良し!お財布良し!火の元良し!」


 いつもの三拍子で家を後にし、荷物用エレベーターで下りていく。

 駅まで歩いて行くと、クレアとおばさんが待っていた。


 「オルフェス様、おはようございます。今日は本当によろしいのですか?」


 「なぁに、問題ない。クレアも家族同然じゃからな」


 「おじいちゃん……おはよう」


 クレアは眠たそうに挨拶をする。クレアのお父さんは魔導整備士で、今も東部国境域で仕事をバリバリこなしているはずだ。家族ぐるみの付き合いをしているから、俺からしてみても親のような存在である。


 「シキ、今日もクレアの事よろしくね」


 まかせろと言わんばかりに、胸を叩く。

 朝日が村を照らし出し、清々しい一日が始まろうとしていた。俺達はおばさんに挨拶を済ませると、切符を買い列車に乗車した。


 「うぉぉおおぉお……俺乗っちゃってるよ」

 列車内は温かみのある木で作られている。向かい合わせの四人掛けの椅子に座ると、早く発車しないかと胸が躍り始めた。しばらくすると鐘の音がけたたましく鳴り、出入り口が自動で閉まった。


 カタン……コトン……


 静かにゆっくりと進み始める。それは魔導列車の鼓動を感じるに充分なものであった。徐々に速度を上げ、外の景色が流れていく。遠くの景色はゆっくりと、近くの景色は目を離すとすぐさま違う顔を見せてくる。転移魔法や飛行魔法ではなく、車輪が大地に足を着き確実に前と進む。


 タタンタタン……タタンタタン


 一定のリズムで身体に呼びかけてくる。

 それがなぜだか、たまらなく嬉しいのであった。


 「おはようございます。切符をよろしいですかな?」

 車掌さんが切符を切りに現れた。パチっと音と共に、切符の端が切られる。ヤバい、これはもう宝物箱行き確定だな。

 じいちゃんと車掌さんが、他愛もない話しをしている。ものの数十秒だったと思うが、知らない人と心が触れた瞬間だと思った。なんだか優しい気持ちになって、窓の外を見返す。

 そこはもう、俺の慣れ親しんだ風景ではなかった。



――――――――――――


 随分と走った。途中で乗り降りする人も多く、色々な人が目的を持ってこの列車を使用している。

 このまま一日乗っていたい気分であったが、どうやら次が王都らしい。クレアとシルフはずっとぶつぶつ言いながら窓の外を眺めているし、じいちゃんは腕を組みながら寝息を立てていた。


 「187本!」


 「え、なにが??」


 「みかんの木だよー」


 発車からぶつぶつ言っていたのはこれか!よくもまぁ飽きずにそんなことを……。いや、俺も似たようなものか、色々な人を観察したりしてたし。本人が楽しければそれでいい訳だ。


 じいちゃんを起こして、王都に降りる。さすがに五大国の一つと言われるだけあって、駅のホームの時点で人が多い。警備兵もあちこちにいるし、フォグリーン村とは比べ物にならないくらい人の声が多い。


 「よし、みな迷子にならぬよう、しっかりとついてくるのじゃぞ」


 そう言うとじいちゃんは俺の手とクレアの手を取り、慣れた足取りでゆっくりと歩きだす。子供の背丈では、前も後ろも人の足でどこを歩いているのかわからなくなってくる。まるで人間の迷路に迷い込んだようだ。


 そして改札をでる。目の前には活気溢れる王都が広がっていた。


 整備された道路に、手入れされている街路樹。白い壁に赤煉瓦色の屋根が統一されている。行き交う人の靴の音が心地よく、馬車の音も聞こえてくる。

 ベランダで植物に水をやる人や、お店の開店準備をする人。仕事の話しをする人に、日常会話を楽しむ声。


 王都ロンドアークの一日が始まっているのである。



 「うぉお!すげぇ人ぉ!!」


 じいちゃんに連れられながら、色々なお店や景色を通り過ぎていく。場所によって匂いが異なり、なんだかウキウキしてくる。王城はかなり遠くに見えるが、あそこにクランツがいるんだなって思うと、ウキウキもしてくる。

 ショーウインドウには新作の鎧や衣服、装飾品に魔導具なんかも置いてあって見ているだけで楽しい。

 そんな中よく知っているポニーテールの人物がいた。


 「あれ?オルじいにシキ、クレアとシルフ様まで奇遇だね。どしたの?」

 

 「ワシらはこれから国民管理局に行って、国民証の更新じゃよ。お主はどうしたんじゃ?」


 村の鍛冶屋を経営している、ポーラ姉ちゃんだった。どうやら昨日は鍛冶屋連盟の会合があったらしく、王都に一泊して村に帰宅するところだという。

 

 女は鍛冶場に入るな!という逆境すらものともせず、女性独特の観点とセンスで男どもを黙らせたらしい。

 鍛冶場は火の神が宿り、女性を嫌うという伝統から当初は酷い待遇を受けていた。

 しかし火入れをした鋼を叩くその姿は、まるで火の神と対話をするように美しいと評判だ。だが本人曰く、火の神に嫌われてるんなら尻に敷いてやると言っていた。

そんな男勝りなところが、ポーラ姉ちゃんっぽいなと納得した。 


 「そうだオルじい!あほのグレイスに説教垂れてやってよ!あいつ酒が弱いくせに、すごい突っかかってくるのよ?」


 「そら、お主に惚れておるんじゃないか?」


 じいちゃんが笑いながらポーラを茶化すと、真っ赤な顔して口が回っていなかった。

 それからしばらく雑談し、国民管理局に向かう。ポーラと会話していたおかげで、ちょうど開局時間となりスムーズに入ることができた。

 白い建物で五階建て。石を研磨してピカピカの床に、天井から案内掲示板らしき物が垂れ下がっている。

 じいちゃんが必要書類を提出し、名前が呼ばれたので子供用カウンターに向かう。係りのお姉さんの指示に従い、目の前にある白い箱の上に手を乗せる。


 ピピッ!


 終了したであろう効果音とともに、係の女性がカウンター内のモニターをみて驚いている。


 「ごめんね。もう一回乗せてもらえるかな?」


 なんの疑いもなくまた手を乗せる。すると同じように効果音がなり終了したかに思えたが、今度は上司を連れてきて何か話している。


 なんなんだよ?ボソボソしゃべって聞き取りづらいが、なにやら不具合が起きているようだ。俺としてはとっとと終わらせて、王都を見物したいのだが……。

 後ろを振り返ると、クレアとシルフがまだぁ?と言いたげな顔でこちらを見ている。

 いやいや、俺が言いてぇよ!


 「シキくん、保護者の方はいるかな?」


 「あそこに座っているじいちゃんです」


 そう答えると上司らしき人は、じいちゃんの下に走って行った。なにやら驚いた顔をしたり、お互いペコペコ頭を下げ合ったりしている。カウンターのお姉さんは、もう少し待っててねと言って笑顔でいる。


 しばらくして上司らしき人が戻ってくる。白い箱にセットされていたカードを抜き取り、丁寧な態度でカードを手渡しされた。


 「シキくん、君の将来がとても楽しみだ。応援してるよ」


 そういうと二人の職員はお辞儀をして、笑顔で見送ってくれた。

 国民管理局を出て、結局なんだったのかじいちゃんに尋ねてみる。


 「国民証(ステータスカード)に魔力を込めてみるとわかるぞい」


 よくわからないままカードに魔力を込める。すると目の前にステータス表示のウインドウとよばれるものが出てきた。


 〚ステータス・オンリー〛

 体調・良好。

 腕力・6

 体力・11

 抵抗・9

 精神・安定

 魔力・NC


 「じいちゃん、魔力のところNCって文字なんだけど何コレ⁇」


 「それは測定不能って意味じゃ」


 「…………。」

 


 ああああああああああああああ!!それであの人達は慌ててた訳だ!

 魔力供給を止めて制御していたつもりだったけど、しっかり計測されていた訳か……。

 そりゃ五歳児がこんな数値持ってるわけねーもんな。


 「じゃから、この子は風の調律神(シルフ)様の加護を得ておるから問題ないと言っておいたぞい」


 「ほ、他には?」


 「将来は、ぜひ我が王国の為にと言われたからのぉ、無論そのつもりじゃ!と答えておいたわ」


 優越感に浸るじいちゃんの顔が嬉しそうだったから、何にも言えなかったが……。

 風の調律神(食いしん坊)の加護も受けてもいなければ、皆の期待するレールから脱線したいとも言えなかった。これは今後、身の回りに注意しないとだな。


 「オルじい、お腹空いたぁーーー」


 シルフは我が道をゆく。俺も我が道を歩みたい……。




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