67.ブルース・トレイン。
陽に照らされた朝露が、葉っぱのすべり台から雫となって大地に降りる。そんな自然の目覚ましを合図に、河原の茂みから青く透き通るブルースライム達がぴょこぴょこと姿を見せる。
森に異常はないか、川に異物はないかと各々が散らばり活動を始める中、クレアが名付けたブルースだけが村の方向を見つめたまま動きを止めている。
〚……今日はクレア、来てくれるかな?〛
そんな感情が芽生え始めたのはいつの頃からだろうか。思い起こしてみても、記憶の中にはクレアやシキ達が笑っている風景しか出てこない。仲間のスライムも自分と同じ気持ちがあるのかと思いもしたが、彼らは本能的に活動をするだけであり自分とは違うのだと認識をする。
〚この感覚はなんだろう?お日様が出て気持ちがいいはずなのに……寂しい?これはそういった気持ちなのかな?〛
最後にクレアに会ってから、21回目の太陽を迎えた。以前は毎日のように会いに来てくれたが、今は学院という遠い場所に住んでいることを知っている。ブルースは黄色いコアをギュルギュルと回転させ、気持ちを落ち着かせる。
〚あ!そうだ、ボクから会いに行こう〛
そう決心すると仲間達へと視線を向ける。そして自分がこの場所から抜けても、数を調整する為に増殖するからなんの問題もないと本能が告げる。なぜ今まで会いに行くという発想がなかったのか不思議にも思ったが、クレアに会える喜びが勝りどうでも良くなった。ブルースは茂みから一枚の小さな金属プレートを体内に取り込むと、生まれた河原と仲間に挨拶をしフォグリーン村へと飛び跳ねていく。何度かクレアに連れられて来た村ではあったが、自分の意思で訪れるのは初めてであり心が震える。迷うことなく村の入口へと到着すると巡回中の兵士がブルースの存在に気が付く。
「先輩っ!魔物が村に!!」
若い兵士はすぐさま剣を抜き構えるが、先輩兵士は笑いながら落ち着けと宥める。
「そうか、お前はまだ就任したてで知らないか……。ほら、プレートを持っているだろ?大丈夫だ、このスライムはブルースと言ってな、あの勇者クレア様の友達なんだ!下手に攻撃しようものなら、クレア様に嫌われるぞ?」
穏やかに先輩兵士が説明すると、ブルースは挨拶をするように体を震わせる。
「挨拶……してんすかね?なんか、可愛い……」
「ブルースは頭良いからな!さて俺達は仕事に戻るぞ。……ブルースまたな!」
軽く手を上げ挨拶をすると兵士達はその場から離れていく。その後も村の中を進んで行く度に、村の人や兵士達に挨拶をされブルースは魔導列車へと到着をする。
山の上から何度も見たこの黒くて大きな塊は、人や荷物を運んでくれるものだとブルースは知っている。そしてこれに乗れば遠い地にいるクレアに近づくことができるだろうと思うと、ブルースは乗車賃として木の実を改札口に置き、誰に気付かれることなくホームへと辿り着く。
〚キミは本当に大きな魔物なんだね!あのね、ボクも魔物なんだけど、よかったらその背中にのせてくれないかな??遠くにいるクレアに会いに行きたいんだ!〛
そうブルースは想いを込めると、タイミングよく魔導列車は蒸気音を鳴らす。その高い音はお安い御用さ!と言ってくれたようで、ブルースは喜んで屋根の上へと飛び乗った。そして先頭車両の特等席へと移動をして、程なくすると黒い巨体はゆっくりと前身を始める。
〚わぁ動いた!ボクは大丈夫、しっかり掴まっているからね!心配してくれてありがとう〛
次第に列車は速度を増していき、あっという間にフォグリーン村を後にする。軽快に流れていく景色に、どこまでも続く線路。遠い空には、気持ち良さそうに鳥が風に乗っている。それは今まで味わったことのない感覚で、ブルースは自分に羽が生えたと思えるほど楽しい気持ちでいっぱいになった。列車は定期的に駅へと止まり、人を乗せては降ろしてを繰り返し王都へと向かう。そんな中ブルースは嬉しいようで申し訳ない気持ちを味わい始める。
〚ボクもね……キミと同じように毎日やらなくちゃいけないことがあったんだ。……でもね、ボクの意思でその生き方から外れたんだ。こんなことしたらカミサマに怒られちゃうかなぁ?〛
無機質な列車は答えることなく風を切るのみである。しかし小さな体にタタンタタンと振動が伝わり、景色が変わっても力強く直進するその姿は、どこへ行っても変わらず自分らしくあれと応えてくれているようであった。
ブルースは少し嬉しくなり、見知らぬ先へと身体を起こす。するとここで南西の方角へ気を取られる。草原の先には森が広がっているが、何とも不穏な空気を感じ取るとより意識を集中する。
〚ここまで乗せてくれてありがとう。ボク……行かなくちゃ〛
そう挨拶をすると迷うことなく列車から飛び降りる。強烈な風圧を全身で浴び形が一瞬変わるが、すぐさま球体へ戻り弾むように着地すると急いで森へと駆け寄る。そして森の中からクレアと同年代の男女が飛び出してくる。
「よし!森を抜けたぞっ!!態勢を整え……って、スライム!??」
「クソっ!とりあえずスライムは放置して、アイツを足止めするぞ!」
その言葉に男女は戦闘態勢に入ろうとするのだが、いち早く森から一匹の魔物が飛び出して来る。緑色の体に目が五つ、何十本とある足をギチギチと動かしながらそそり立つ。その魔物は毒王蟲と呼ばれる毒虫の親玉であり、通常の毒虫でさえ1メートルあるのだがそれを優に超える。3メートル近い毒王蟲はブルースに目をくれることも無く、その巨体を男女へと向ける。間一髪その巨体を避けるのだが、疲弊した身体は悲鳴を上げ思考とは裏腹に地面から起き上がれないでいる。なんとか男性は剣を構えるのだが、その思い虚しく毒王蟲は体力の低い女性へと牙を向けた。
その場の誰もが最悪の事態を巡らせたのだが、ブルースの強烈な体当たりにより毒王蟲は数メートル吹き飛ばされる。
「え……!?ス、スライムが守ってくれたの?」
女性は目の前に現れたスライムに驚きを隠せないでいるが、すぐさま毒王蟲は身体をくねらせ再び襲いかかって来る。――がブルースもまた体当たりをぶちかまし、顔面へと張り付き毒王蟲を苦しませている。
「ま、マジで?スライムが……俺達を助けてくれているのか……」
「今の内に私達も態勢を整えましょう!第一騎が来るまで持ちこたえないと!」
その言葉にブルースはピクリと反応を示す。
〚第一騎って……クレアのことっ!?キミたちはクレアのお友達なの??〛
喋ることは勿論、意思の疎通すら出来はしない。しかしブルースは女性の言葉を理解し、尚のこと毒王蟲を彼らから遠ざけなければと奮起する。と次の瞬間、上空より炎の矢が毒王蟲を貫き焼き殺す。ブルースは火の粉を浴びることなく回避し着地すると森へと身体を向ける。
「フン、貴様らにしてはよく耐えた方だな……。ところでそのスライムはなんだ?」
軽蔑する視線をブルースへと送り返答を待つ。汚れ一つない紺青のローブに大型の杖を軽々と片手で持つ男は、バレンシア校二学年第一騎クラウス・ディナレスであった。
「クラウスッッ!た、助かった……けど、巣食ってた毒虫の群れは!?お前は大丈夫……だよな」
「……貴様の問に答えるならば、雑魚の群れは一掃してやったよ。魔力感知拡大を使用し、一匹残らず消し炭にしてやった。しかしなんだ?私の質問に質問を返してくるとは、どんな脳みそをしているんだ?」
同学年の生徒達はクラウスを心配しての発言であったが、埃を払うように返される。
「あ、あのねクラウス!このスライムは私達を助けてくれたのよ。しかも二度も体当たりして毒王蟲の気を引いてくれたの……」
女子生徒の発言にクラウスは軽くため息を着くと銀色の眼鏡をかけ直し、静かに居座るブルースへと再び視線を向ける。
「眼鏡越しで見てもそいつは魔物にしか見えないのだが、貴様達は狂言者なのか?」
「たしかにコイツは魔物だけど、本当に俺らを助けてくれたんだ。今だって襲ってくる気配はないし……」
「……はぁ。ここまで来ると貴様達は本当に能天気だと認識させられるな。いいか?学院の任務でこの森の調査、及び脅威になりうる存在の駆逐が貴様達の仕事だ。期日を二日も遅れたが救援依頼を要請したことは無能なりに評価はしてやろう。しかしだ、魔物に救って貰ったなどと情けないにも程がある。恥を知れ、そして私に喋りかけるな。……だが私の指示で毒王蟲を森の外へ連れ出したことは評価してやる。だから尻拭いは私がしてやろう」
クラウスは嫌悪感を表し杖を突き出す。そしてランプに火を灯す様に自然な振る舞いで火球を作り上げると、有無も言わさずブルースへと撃ち放つ。毒王蟲ですら一撃で仕留め、スライムなど一瞬で蒸発する高火力であったがブルースは難なくクラウスの魔法を躱す。
「バカなっ!なぜスライムごときに!?」
その場にいた全員が驚きを隠せないでいたが、ブルースにとっては驚くことではなかった。フォグリーン村にて邪竜が復活し、自分以外の生き物はその土地から逃げ去って行ったあの時。本当に恐ろしく、弾けてしまうのではないかと恐怖した。またクレア達の異常なまでの模擬戦をずっと見ていたこともあり、毒王蟲やクラウスと対峙しても心に余裕を持つことも出来ていた。そして当時は危ないからと遊んで貰えなかったことから、躊躇なく攻撃してきたクラウスに感謝さえ感じている。よし、じゃあ今度はボクの番だ!と仕掛けようとしたが、ここでブルースはあることを思い出し金属プレートを女子生徒へと渡す。勇敢に毒王蟲へと立ち向かい、クラウスの攻撃すら簡単に避けた存在に驚きながらプレートに目を向ける。
『ボクの名前はブルースです。どうかいじめないでね。クレア・シルフィーユ』
「ちょ、ちょっと何これっ!!クレア・シルフィーユって……勇者様の事じゃないの!!あ、あなたはクレア様の……知り合い??」
その発言に皆が目を見開き、クラウスはプレートを取り上げるとわなわなと震え始める。
「これは……なんのイタズラだ!?こんな物、信用に値する訳がない!そ、そうだ……」
クラウスはズレ落ちそうな眼鏡を正すと、魔物解析魔法を唱える。
【種族】スライム
【個体】ブルースライム
【名前】ブルース
【特技・スキル】体当たり・自己再生・消化・勇者の加護
「こ、こんな事が!!?」
紛れもなくクラウス自身が使用した解析魔法は、しっかりと名前の表示がされている。さらに決定づけた勇者の加護というスキルに、誰もが息を飲んだ。
「ま、マジでか……。しかし何だってこんな場所にいるんだ?まさか勇者様もこの近くにいるとか??」
「いや、一学年のこの時期はアレだからさ……。さすがに学院に居るんじゃないか?だから、えっと……迷子??」
「もしかしてだけど……この子、クレア様に会いに行こうとしているんじゃない?ほら、クレア様の出身はフォグリーン村でしょ!すぐそこに線路もあるし、列車に乗ってきたのなら……」
「いやいや!魔物が列車に乗れる訳ないだろ?防壁結界だってあるし、そもそも会いに行くとかありえるのか?」
「ううーん……とりあえず学院に戻ってクレア様に聞いて見た方がいいよね?今から戻れば夕方には着くだろうし……」
「まぁ、それが現実的だな……。いやしかし、超魔物嫌いのクラウスが同行を許すか??」
憶測であったが話をまとめた生徒達は一同にクラウスへと視線を向ける。クラウスは考える様に口に手を当て、苦渋の決断をする。
「本来であれば王都内に魔物を入れるなどあってはならない事だ。しかし……ぐ、本当にクレア様の知る魔物であれば手をかける訳にはいかない……。仕方がないが同行を許可するとしよう。しかし少しでも妙な真似をしたら、私が排除するからなっ!」
その言葉に生徒達の表情は明るくなり、スライムに言葉が通じているか分からないが事情を説明する。ブルースは友達が増えたと喜びもしたが、内心クラウスと遊びたかったとも思い渋々用意してくれた空きバッグへと入り込む。そしてクラウスは横たわる毒王蟲を完全に消し炭にすると、森に異常がないか確認しその場を後にした。事の真相が気にかかる生徒達は疲弊した事など忘れ昼過ぎには学院へと到着する。そして驚いたことに学院の門をくぐった所でクレアが走り寄ってきたのであった。
「ブルースぅぅーーーっ!!」
その一声に静かに収まっていたバッグからブルースは飛び出し、まるでご主人様に甘える子犬のように胸に飛び込んだ。
「もしかしてと思ったけど、やっぱりブルースだぁ!どうしてここにいるの!?」
ブルースは喋るように身体を動かし、それに対してクレアは相槌を打っている。そしてクレアは生徒達に近寄ると感謝の言葉を述べる。
「皆さん、ブルースがお世話になりました!この子寂しかったみたいで列車に乗ってここまで来ようとしていたんです。皆さんとも友達になれたって喜んでいます」
「え、あ……言葉がわかるのね?……というか感謝したいのは私達の方です!ブルースがいなかったら私は大怪我していたし、本当に助かりました!」
和気あいあいとする中、クラウスは一人会釈をするとその場から立ち去る。すると女子生徒は言葉が漏れぬよう口に手を当て、小声でクレアへと耳打ちをする。
「クラウスってば魔物が超嫌いだから、物凄く複雑な心境なんだと思いますよ!ほら、クレア様は勇者だから……。でもここまで大事なく来れたのは彼のお陰なんです。列車や王都検問所で率先してブルースの説明してくれたので問題なく来れました」
ブルースも同調する様にコクコクと縦に揺れ、身体の一部を尖らせると手を振る仕草をする。背中越しであったが、クレアは去っていくクラウスに大きな声で感謝を述べる。
「クラウスさぁーーーーん!ブルースの面倒を見てくれてありがとぉーーっ!!!」
決して振り向くことはなかったが気持ちは伝わっていたようで、後日よりブルースに対して嫌悪の視線を送ることはなくなっていた。
そしてその日の夜。屋敷へと連れ帰ったブルースを使用人達にも紹介をし、クレアは今まで会えなかった時間を埋めるように常に抱き抱えていた。
「ブルース、今日は疲れたでしょう?お風呂入って、今日からは一緒に寝ようね」
「え……ブルースを風呂に入れんの?」
「もちろんだよっ!それに女の子同士だから、なんの問題もないよ。あ、ミーちゃんも一緒に入る??」
「入る入るーっ!よし、アタシのお風呂セット、アヒル大佐を見せてあげよう!ふひひー」
クレアは意気込んでお風呂へと向かって行くが、俺はピースケを呼び止める。
「なぁ、大丈夫なのか?」
「え?まぁ、アタシもブルースが女の子だってことは初めて知ったけど……スライムに性別ってあるんだね!」
「いや、そうじゃなくて。ブルースが生まれた土地から離れて、この王都で問題なく生きていけるかって事だよ」
「んー……、正直難しいかもね。でも今はクレアんも喜んでいるし、今日の所は見守ってあげたら?」
やはりピースケにも思う所はあったようだが、あれだけ喜んでいるクレアに水を差すのは気が引ける。とりあえず様子を見るという事でそれ以上この話を出すことはしなかったのだが、翌朝自体は急変する。部屋がうっすらと明るみを帯び、カーテン越しでも陽が昇ったのだと認識できる早朝に血相を変えたクレアが訪れた。
「シ、シキっ!ブルースの様子がおかしいの!!呼びかけても反応しないし、とっても具合が悪そうなの」
泣きそうなクレアに連れられ走り急ぐと、クレアの枕元でブルースはぐったりとしている。満月の様に黄色かったコアは少し黒く変色し、透き通っていた身体は藍鉄色に濁りを見せていた。
やはりと言うべきか、ブルースは今の環境に順応出来ないでいる。これは魔物特有の生息地に大きく関係し、生まれ育った土地、水、空気と様々であるがその場所だから生きていけるのである。勿論全ての魔物がこれに当てはまる訳ではないのだが、環境を崩され絶滅した魔物は数知れずいる。
そしてブルースの場合はフォグリーン村の森だ。豊かな土壌に清らかな川が森を育み、その森を管理することがブルースの生き方だ。人間で言うならいきなり地上から深海に落とされたのと同じようなもので苦しくて当然だ。これは一刻も早くフォグリーン村へと帰さないといけないのだが、二人の想いを汲み取ると素直に言い出せないのが現状だ。
というかそもそもスライムが明確な意志を持ち、クレアに会うためここまで来たこと自体がイレギュラー過ぎる……。恐らく森に帰したとしても二度と会いに来ないという保証はないし、今回は手助けがあったからこそ辿り着けたが次回の保証もない。
帰した方が良いという答えは出ているのだが、どうしたものかと悩み俺は一つの良案を思いつく。
「あ、そうだ!二人ともそこで待ってろ」
俺は自分の部屋へと戻るとクローゼットの中から1本の小枝を取り出す。ピースケのように木の実や小石を収集する趣味はない。これは幼少期より俺が使用してきたフォグリーン村の森の小枝である。模擬戦でずっと使用してきた事で魔力が蓄積され、先端に生えている葉っぱの色すら瑞々しい。コレをブルースに与え上手いこと取り込んでくれれば、永久とまではいかないが王都での生活も出来るのではないかと考える。期待を込め部屋を後にし、ブルースへと駆け寄ると手を伸ばすように小枝を掴み体内へと取り込んでいく。鋼鉄並みに強度を増している小枝はゆっくりと溶け始め、ものの数分で跡形もなく消え去った。
そしてブルースは大きく脈打つと変化が訪れる。濁っていた身体は美しい浅葱色へと変わり、黒ずんでいたコアは金色へと輝きを見せる。
「ジ、ジギぃい、ありがどうぅぅ!!ブルーズもよがっだねぇえ……」
クレアは涙をボロボロと流しブルースに抱きつく。俺としては処分するにも捨てられない小枝だったので、こんな所で役に立つとは思わなかった。まぁそんな気持ちは二の次で、二人を見ていると本当によかったと思う。
この日よりクレアはどこへ行くにもブルースを連れて行くと、その丸くて愛らしい仕草はすぐに国民に受け入れられることとなる。さらに子供から大人までスライムに興味を持ち、魔物ではあるが害のない存在なのだと理解が深まる。
そしてブルースを助けた日の夜、俺は夢を見たんだと思う。
静まり返った真夜中に、俺は寝ぼけ眼でうっすらと目を開ける。そこには月明かり射す絨毯の上に、ブルースがちょこんと嬉しそうにこちらを見ている。
あぁ、夢だこれ。どこから見ても同じ形なのに、嬉しそうだなんて分かるわけがない。まぶたが重い……このまま気持ち良く眠れそう……だ。
〚シキ、助けてくれてありがとう。ボクはみんなに会えて嬉しいよ〛
声が聞こえた気がした。それは小さな女の子の声で、とても優しく昔から知っている声。
まさか!?と思い勢いよく起き上がるのだが、そこには俺を起こしに来たクレアとブルースが声をかける前に起きた俺に驚いているのであった。
「んあ?……あ、朝!?」
珍しく俺が寝ぼけているのでクレアは笑い始める。ブルースもプルプルと震え笑っているように見える。俺は無言で頭を一搔きするとブルースに耳を向ける。……んん~、やっぱり夢……だよなぁ。でも何だろう?すげぇ嬉しい気持ちが残っているんだが……。
俺は大きなあくびを一つ搔くと涙をにじませ二人に挨拶をする。こうして新しい家族も増え、また一段と賑やかな日常を迎えるのであった。




