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05.王様とクランツ王子

 すっと目を覚ますと部屋がうっすら明るい。カーテン越しでも天気がいいことが良く分かる。

 隣のベッドを見ると、掛け布団が綺麗に畳まれているがじいちゃんの姿はない。昨日も夜遅くまで術式を組み上げる作業をしていたはずなのに、朝は誰よりも早く起きている。それも俺を起こさないよう、静かに部屋を出ていったんだと思う。

 俺はというと。昨日も規則正しく八時には寝てしまい、夜中トイレに一回行き今現在六時二十分。

 いやぁ、寝すぎだろ。クレアも同じ時間帯に起きて寝るとは言っていたが、人間の子供ってこんなに寝るんだな。


 「シキ、おっはよーーー!もう少しで朝ごはんできるよー」


 おぉ、今日もこの娘は元気だなー。こいつはきっと、食べ物の匂いを嗅ぎつけ起きたに違いない。

 そんなことを眠たい目をこすりながら思い、一階へと降りていく。


 「じいちゃん、おはよう」


 「おぉ、シキおはよう。もうすぐ朝ごはんができるからのぅ。顔でも洗ってスッキリしてきなさい」


 洗面所で顔を洗う。とろーんとしていた気持ちが一気に引き締まる。横に置かれていたタオルで顔を拭き、居間に戻ると食卓には綺麗に朝ごはんが準備されていた。

 

 今日の朝ごはんは、純白米・雲豆腐と粘着わかめの味噌汁・王様鮭の塩焼き・一心きゅうりの漬物だ。

 三人が席に着き、じいちゃんが感謝の言葉を述べる。

 

 「創造神エリクシア様。本日も我々に糧を恵んでいただき感謝します」


 「エリクシアさま、ありがとうございます」


 「(気に食わねーが)エリクシア様(ババア)、感謝します」


 両手を組み、祈りを捧げる。


 「な、なんじゃろうか。今日はものすごくありがたみを感じるぞい?」


 「きっとおじいさまの祈りが通じたのだと思います」


 二人の様子がおかしい。シルフはいつも荒れ狂うように食すのに、今は行儀よく食べている。

 それもそのはず、今俺の左向かえにエリクシア本人がいるのだから。

 じいちゃんの右隣で、シルフの目の前。エリクシアはニコニコしながら、俺達の食卓を見ていた。

 

 (何しに来たんだ?とっとと帰れよ)

 (ずいぶんな言い方じゃない?干渉できないから観賞しに来ました)

 (アホか!あんまり長居するとこの地の結界が強化されすぎて、じいちゃんが不思議に思うだろうが!)

 (ふーーんだ。ちょっとくらいいいじゃないー)


 子供の用な事を言いつつ、去り際に微笑むと壁をすり抜け飛んで行ってしまった。気配から察するに、また別の地域に足を運んだのだろう。何せ神々の領域なんて、なんにもなくてつまらない場所だからな。

 と、ここでシルフがいつも通りに戻った。

 それにしても、鮭とご飯の相性が抜群だ!箸休めで漬物を食べるが、これもまたご飯が進む。味噌汁に至っては、なんでこんなにもホッとしてしまうのか。朝から幸せすぎる!!


 「本当にシキは、美味しそうにご飯を食べるのう。作り手としては嬉しい限りじゃよ」


 「……そ、そう?あ、そういえば今日は王様が査察に来る日だっけ?」


 「うむ。十時にいらっしゃるそうじゃ」


 俺達の住むこのフォグリーン村から、王都ロンドアークまで二百キロ近く離れている。一ヶ月に一回、邪竜の封印術式の安定具合。軍事施設の内部査察。そして気分転換として来るのだが、わざわざ魔導列車で3時間近く揺られて来るわけではない。


 ではどうするか?空間転移魔法陣を使用して来るのである。

 この魔法陣はNO.sが考案したものであり、一般的には広まってはいない。設置するにも用途の使用書類が必要になってくる。しかもそれが受理されるかは、国の信頼及び重要性が決定打となる。もしこの魔法陣が一般的に使えたら物事が円滑に進むだろう。しかしそうなると運搬業の失業者、犯罪の助長、なにより人と人との交流が損なわれる。そういった事を踏まえ厳しい審査の下、ようやく設置できる代物なのである。

 

 まぁ俺的には行きたい場所に行くまでの過程もあって楽しいわけで、瞬時にいけてしまったらつまらないと思ってしまう。人間の寿命は短い、だからこそ効率よくこういった発想が生まれるのだろう。

 素晴らしいとは思うが、俺は自分の足で行きたい場所に行こうと思う。


 「今日はお主たち取って、素晴らしい日になることじゃろう」


 そういうと、じいちゃんはいつもの笑顔でお茶をすすった。その後はご飯をおかわりして、他愛もない話しをしていつも通りの食事を終えた。


―――――――――――――――――



 「おはようございます。クレアだよーーー」

 玄関からクレアの呼び声が聞こえる。我一番にとシルフが出迎え、続いて俺も足を運ぶ。


 「おう!おはよ」

 

 「クレア―!今日はアタシ達にとって、スペシャルな日になるんだよー」

 

 「すぺしゃるぅ?」


 クレアが首をかしげて俺を見るが、俺もわかっていないのでとりあえず笑ってごまかした。

 そうこうしている内に王様が来る時間になり、グレイス警備隊長も合流し五人でお出迎えに外に出た。さてその魔法陣がどこにあるか、一見するとわからない。なぜならこの木造家屋の隣のボロボロの倉庫にあるのだから。

 見た目は本当に資材置き場のボロ倉庫に見えるのだが、鍵を開け中に入ると外見からは想像も出来ないしっかりとした内装になっている。強度も優れており、並大抵のことでは倒壊することはないだろう。


 奥には祭壇のような造りになっており、その中心部に魔法陣が描かれている。そしてその魔法陣の上に透明なプレートが引かれており、今か今かと待ち構えていた。

 予定の時間を三分程経過した所で魔法陣が光りだし、光の粒子と共に黄金の鎧に赤いマントを羽織った三十代の男性が現れた。


 「お待ちしておりました。レオン王」

 じいちゃんが一礼し、グレイスは敬礼をする。


 「おぉ、オルフェス。グレイス警備隊長も出迎えご苦労」


 気品溢れる身のこなし、威厳のある容姿から挨拶を返す。

 ロンドアーク王国を収めるレオン王であった。


 「王様おはようございます」

 

 「おはようございます」

 

 「レオンやほ~~~」


 「おぉクレアにシキそれにシルフ様まで、出迎えありがとう」


 優しい笑顔で俺達のそばに寄ってくる。クレアは嬉しさのあまり、レオン王に走り寄り抱きつく。まるで自分の娘のように頭を撫で、笑顔を絶やさない。

 そんないつもの光景を見ていると、再び魔法陣が光だし一人の子供が現れた。

 見た目は俺と同い年くらい。身なりのいい服装に、整った橙色の髪。少し俯き加減でレオン王の横に着いた。


 「きたか。皆に紹介しよう、私の息子クランツだ」


 「あ、あの。初めまして……クランツです。よろしくお願いします」


 「初めまして、俺はシキ。よろしくな」


 「わたしはクレアです。よろしくね」


 「クランツ、よろしくね~」


 少し顔を赤くしながら、コクンと頷いて黙ってしまった。すると後ろから黒いスーツに白いシャツ、手袋を付けたじいちゃんくらいの老人が現れた。背筋を伸ばし凛とした足取りで、クランツの後方に静かに着く。


 「皆々様。(わたくし)クランツ様の執事をしております、ラフロスと申します。以後お見知りおきを」


 「……うむ、これで挨拶は済んだな。クランツよ、今日は一日思う存分遊んできなさい」


 「よ……よろしいのですか?」


 「今日は人生に置いて、もっとも大切な日になるだろう。行ってきなさい」


 「ありがとうございます」


 おいおいおい、これが親子の会話なのか?堅すぎるだろ。やっぱり王族ともなるとこれが普通になるのか?いやぁ、俺じいちゃんの孫でよかった。


 「シキや、今朝作ったお弁当が玄関に置いてある。それを持っていきなさい。くれぐれも結界の外には出ないようにのう」


 「はーいっ。じゃ、遊びに行こうぜ」


 「う、うん」


 クレアとシルフも嬉しそうに駆け出し、俺達は倉庫から出る。


 「オルフェスよ、恩に着る。ではグレイス警備隊長、我々は仕事に精を出すか」


 「はい!では参りましょう」


 緊張気味のグレイスが扉を開け外に出る。丁度子供たちが階段の方へ走っていく姿が見え、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。そして四人は子供たちとは逆の方向、山頂に足を運んだ。



―――――――――――――――――


 村とは反対側の、山の横を流れる川にやってきた。幅もそんなにある訳でも、流れも急な川ではない。じいちゃん達とピクニックに来た場所であり、よく三人で遊ぶ河原に到着した。


 「はいっ!安定のアタシいっちばぁーーーん!」


 「だぁから!お前、空飛んでんじゃねぇかっ!」


 「さ……さすがはシルフ様ですね。シキさんも早いです」


 「まってぇ~~~~」


 息切れしながらその場に膝をついたクランツだったが、どこか嬉しそうに晴れ晴れしたような感じであった。少ししてクレアも到着し、皆息を整える為、木陰に移動し腰を下ろした。


 「いつも皆さんは、このように遊んでいらっしゃるのですか?」


 「あぁ午前中はじいちゃんが勉強を教えてくれて、その後は大体こんな感じかな。クランツは?」


 「あ、えっと。その……」


 なんだどうした急に。なんか変な事言ったか?クレアもシルフもきょとんとして、クランツの顔色を窺っている。


 「あの、僕……じゃなくて私はその……」


 「え?いいよ無理しなくて、ゆっくり自分の言葉でしゃべってくれれば」


 そういうとクランツは、目を大きく驚いたような表情のあと嬉しそうに話しだした。


 「王宮内だと、みんな僕の事をクランツ様って言うんだ。もちろん僕が王子であるからなんだけど――」


 あーなるほど、つまりだ。ついさっき会ったばかりの同年代の子供に呼び捨てにされて、嬉しく思っている訳だ。

 その後もクランツの話しは止まらなかった。地位で言えば王族の自分に敬意を払って、親しみを込めて呼ばれてはいるがそれが重荷になっていると。日々の公務で会う年上の管理職に兵士達、貴族の子供に至っては友達と呼べる間柄ではない。全てが国王の息子だからという理由を、幼いながらに感じ取ってしまっている。そりゃ窮屈な日常だ、なんかわかる気がする。

 

 自分は特別な存在、だからみんなが期待する。それに応えられなかったら……。そんな気持ちで一杯なんだろうな。だったら俺がすることは一つだ!


 「なぁ、クランツ。俺はもうお前のことを友達だと思ってるんだよ。だからお前もシキって呼んでくれよ」


 「わたしのこともクレアって呼んで」


 「アタシの事はミーちゃんでいいよ?」


 「み、みんなありがとう!僕すごく嬉しいよ。今日友達がこんなにも出来るなんて」

 嬉しさと興奮で心が震えた声でクランツは答えた。


 「それにクランツは特別な存在かもしれないけど、上には上がいることを教えてやろう」

 そういうと俺は草むらに入り、棒切れを二本拾ってくる。そして一本をクランツに渡す。


 「ロンドアークといえば剣術に長けてるよな。クランツだって学んでいるんだろ?」


 「う…うん」


 「いつも鍛錬は素振りか?大人との手合わせより、背格好同じの俺と手合わせしようぜ」


 クランツの顔がパァっと明るくなる。よろしくお願いしますとお互い一礼し、棒切れを構える。

 おぉ、さすがレオン王の息子なだけある。これが五歳児の構えか?微動だに一つしないで、しっかりと俺を見据えている。日々の鍛錬を真面目に取り組んでいる事が良く分かる。


 だけどな、お前はまだ五歳の子供なんだ。だからこそ負けたという事実が必要であり、周りの尊敬する扱いがとか難しい事は考えなくていい。もっと上を目指せるよう、俺が教えてやる。


 そんな事を考えていると、クランツからの綺麗な一太刀が撃ち込まれる。――が、しっかりと受け流す。


 「す、すごい!」


 嬉しそうにクランツが声に出す。その後も綺麗な剣筋で打ち込んでくるが、それを全て受け流す。

 言葉には出していないが、どう動けば最善なのかという事を少しづつ隙を見せては払い落としていく。


 「全然当たらないや……」


 そう言うとクランツは驚いた顔で地面に腰を落とし、走ってきた時よりも息を切らしていた。

 そして頭部にポコんと軽く棒切れで(はた)いた。


 「僕の負けだね。シキはすごいね!まるで大人の人と喋ってるみたいだし、指南を受けているようだったよ」


 「いやいや、クランツの剣筋もすごかったぜ?俺は受けきるのに精いっぱいだけだったし、体力があるのは毎日山を駆けているおかげかな?」


 もっともらしい言い訳を並べてみた。とりあえずこんなもんか?クランツの顔からやる気を感じられた。

 なんかイリスを思い出した。アイツともこんな感じで鍛錬に付き合ってたんだよなぁ。今度、線香の一つでもあげに行くかぁ。


 川のせせらぎと木々が揺れる中、シルフの腹の虫が鳴った所でお昼にすることになった。


 



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