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39.暴風かざぐるま!

 試験を受けてから一週間と少しが経過したころ、1枚の通知が届く。

 封筒には厳重と書かれた印が押されており、魔法蝋印がしっかりと封を閉じていた。


 パキッと蝋を割り中の用紙を取り出す。


 「えっと……以下の者を魔法騎士高等部・第一学院、八騎星・第八騎に命ずる……」


 よくわからない文章の後に、シキ・グランファニア合格と記載されている。

 それが目に飛び込んできた瞬間、大きく目を見開き声を上げてしまった。


 「ぉぉおおおおおおおお!合格したぁーーーーーーっっ!!」


 正直ここまで嬉しいものだとは思いもしてなかった。

 試験を受けていた時はこの学校でなくてもいいだなんて思っていたりもしたが、内心ビクビクしていたのだ。なぜならクランツに面接内容を話した際、鬼の形相でお叱りを受けたからである。

 最初はその顔に笑ってもいたのだが、徐々に不安へと変わっていた。


 しかしこれで面目は保てそうなので一安心だ。

 

 と、ここで家の中にいたじいちゃんとシルフが、何事かと玄関先まで駆けつけてくる。


 「シキーーーっ!どうしたのさーーー!」


 「ふっふっふ……これを見たまえ!」


 目の前に飛んで来たシルフに、ビシッと合格通知の用紙を見せる。


 「おぉーーーーーっっ!合格してるぅ!!」


 「へっへっへ。じいちゃんもどーよコレ?しっかり合格したよ!」


 「いやぁ、ワシは内心不安でしょうがなかったのじゃが、朗報が聞けてなによりじゃぁぁ」


 じいちゃんは俺以上に張りつめていた心の糸が切れたようで、語尾は力なく答える。しかしその顔は本当に嬉しそうで、俺自身も本当に合格ができてよかったと実感する。


 「あ~、これで春からはクレアんと一緒に学校生活かぁ~。友達に勉強!美味しい王都の食べ物にワクワクだなぁ。ねっシキ!!」


 「え?」


 「ん?」


 キョトンとした表情で俺を見つめてくるシルフ。

 なんだこの流れは……というか、シルフの発言からするにコイツも学校に行けるものだとおもっているのだろうか?


 「シルフは……学院には行かない……よな?」


 「はぁ??何言ってるのさっ!アタシはこの日を楽しみにしていたんだよ!!シキの行くところには必然的にアタシもついて行くに決まってるじゃーーーーんっ!」


 待て待て待て!!世界の均衡を保ち調律存在が、人間の学校に通おうって言っているのか!?

 というか、お前は風の調律神であろう。いつも食っちゃ寝、食っちゃ寝しているが仕事をしている所を見たことがない。


 「いや、あの……シルフ。お前は自分の役割をしっかりと果たさないと……な?じいちゃんだってそう思うだろ?学院に風の調律神が通うだなんて、聞いたことも考えたこともないよね?」


 「うむぅ、たしかに前例なんぞないからのう。しかしシルフ様が通いたければ、加護もちのシキに付いていくのは問題ないと思うが……」


 「ほらぁぁーーーーっ!オルじぃだってこう言ってるのに、なんでシキはアタシをのけ者にしようとするのさーーーーっ!!」


 そう言うなりシルフは家の中に飛び込んでいく。

 拗ねて口も利かないのかと思ったが、即座に俺の前に戻ってくる。その手にはボロッボロになった学院のパンフレットが握られていた。そして俺の目の前に突きだし、しっかり読んでいるのか?と言わんばかりの目で睨み付けてきた。


 「これがなんだよ?」


 「いーい?このパンフレットに調律神は学校に通っては行けませんとは書いてないんだよ!だからアタシだって通っていいに決まってるんんんん!!!」


 「はぁ!!?書いてある訳ないだろッッ!!調律神が通うだなんて、学院側が想定している訳ないだろう!」


 目ん玉が飛び出るんじゃないかと思うくらいの表情で、シルフを一喝する。

 するとシルフはシュンとなり垂直に地面に落ちる。

 落ちただけならまだいい、シルフは地べたに大の字に寝っ転がり……そして――


 

 「やだやだやだーーーーーーーーーーーーーっっ!!アタシも学校に行きたい!行きたい!!行きたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」


 両手足をバタバタさせ、全身でアピールしてきた。

 

 「勉強もしたいし、友達もいっぱい作りたいんんんんんん!!!!」


 そしてその場でクルクルと回転をし始めた。

 しかし一向に口を開かない俺に対し、表情を伺うためピタリと回転を止める。姿勢も顔も青空を向いているが、目だけをこちらに向けて様子を見てくる。


 「そんな駄々こねたって……ダメだぞ?」


 これがシルフの心の引き金を引いてしまった。

 そうだな。昔からの腐れ縁であるんだから、もう少しシルフの気持ちを汲んでやればよかったと思う。

 だが自由奔放なシルフの駄々を見たことにより、そんな気持ちはまったくなかった。


 「ぶえぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんん!!シキのアホーーーーーーッッ!!!」


 

 俺の悪口を言いながら叫び始め、先程よりも早く回転し始める。

 あー、また始まったか。と思っていたのも束の間。俺の足元の落ち葉がシルフへと吸い寄せられていく。いや、落ち葉だけではない。小石も弧を描くように吸い寄せられ、土煙がその形を目視できるよう整えていく。

 シルフはというと、最早何が回転しているのかわからない状態である。


 そしてそれは俺らの前に立ち昇る……。

 これは……竜巻だ。


 「待て待て!!シルフ止まれって!!!わかったから!!お前の話しをしっかり聞いてやるから、まずは落ち着けッッ!!」


 驚きと焦りから大声で竜巻に向かって発する。

 ビタッ!と動きを止めるシルフと連動するように、魔力の塊であった竜巻も消失する。

 いや、今の竜巻はヤバかった……。何がヤバいってもう数秒静観していたら邪竜が復活した時と同じように警報が鳴り響いていたことだろう。

 瞬間的な事に、じいちゃんも目を点にして口を開けっぱなしにしている。


 「アタシも学校……行きたい」


 「ぁあ、わかってるよ。ただそれは俺らが勝手に決めていいことじゃない。俺だって試験を受けて合格したから通えるんだからな?」


 依然シルフは目だけをこちらに向けている。

 するとじいちゃんが冷や汗を拭きながら俺に提案してくる。


 「シキや。シルフ様も我らの家族同然じゃ。お前やクレアが学院に行っている間に一人ぼっちだなんて可哀想じゃないか。どうだろうか、一緒に学院に通ってみては?」


 たしかにそうだ。一人の……孤独の辛さは俺がよく理解しているじゃないか。

 別にシルフのことが嫌いな訳で拒んでいるつもりはない。ただ役割があるのに学院に行こうとしているこに疑問を持っただけだ。

 じいちゃんの言う通り、こいつもグランファニアの家族の一員なんだ。幼い頃からなにをするにも引っ付いてきたし、クレアとも仲が良い。

 それを急に付いてくるな発言をされたら悲しいよな……。


 「たしかアランが現校長であったな。彼は良き指導者じゃ。相談すればきっと理解してくれると思うぞい」


 「あー、そう言えば面接の時に「今日は一緒ではないのかね?」と聞かれていたな……。じゃあ、入学式の時に聞いてみるか。それでいいかシルフ?」


 「……がいぃ」


 「え、なんて?」


 先程の勢いはどこへ行ったのか、ポツリとしゃべり聞き取れなかった。

 もう一度聞き返そうと近づこうとした瞬間――


 「今がいいッッッ!!!!今すぐ学校に行って、アランに許可を取ろうッ!」


 うぁあああ……。また無茶苦茶なこと言いだしたよ。

 つぅか、アラン校長の家は学院じゃないだろうし、確実に居るとは限らないのに何を言いだすんだ。


 「オルじぃ!アランは学校にいるのかなぁ??」


 大の字になっていた地べたからピョンと飛び起き、くるりと回ってじいちゃんの前にやってくる。

 先程まで駄々をこねていた暗黒時代を彷彿させる表情とは異なり、ピッカピカの太陽のような目でじいちゃんを見つめている。


 「そうじゃなぁ。この時期は卒業生と新入生と行事毎が多いからのぅ。恐らくは学院におるとは思うがのう」


 「おっしゃー!そうと決まれば急いで行くよシキっ!」


 「な、なんで今何だ?入学式後じゃダメなのか?」


 「アタシも入学式出たいんん!というか、入学式出てないのに、その後から学校に通えるとかおかしいじゃん」


 あ、はい。ごもっともな意見です。

 俺は目をつむりながら髪ををワシャワシャとすると、まるで一大決心をしたかのようにシルフに答える。


 「わぁーったよ!今すぐに行こう。それで文句ないな?ただしアラン校長がダメだと言えばそれまでだからな?そこはしっかり受け入れろよ!」


 シルフは親指を立て、問題ないとアピールしてくる。

 今日は昼からまったりと本を読もうと思っていたが仕方ない。高速で王都まで向かうとするか……。


 「さて、大急ぎで行くなら迂回して旧街道を……」


 「そんな必要はないんっ!アタシがビシッとシキを送り届けるから!それに学校案内のパンフレットも丸暗記してあるから、場所も内部構造もバッチリ!!」


 うぉぉおおお!シルフさんが頼もしい。

 本当に自分の好きな事に関しては脳ミソをフル回転させるんだな。いや、それは誰しもが同じことか。

 それより、俺を送り届けるとは?


 「オルじぃ、今日の晩御飯はアタシの合格祝いもプラスして、盛大にお祭り騒ぎだからね!」

 

 ただ了承してくれるか聞くだけなのに、合格も何もないと思うのだが……。

 そんなことを思っていると、シルフに襟首を掴まれる。そして天高く舞い上がり、山頂から見える景色よりもさらに広大な世界が目に飛び込んでくる。


 「よぉぉーーーし!張り切って行こうーーーー!」


 その言葉を最後に身体が風圧を受ける。

 俺は声にならない声を出したのだが、そんなものは澄み切った青空へと消えていく。


 俺は気持ちの準備も何もしていない状態で、シルフに連れられ王都へと向かうこととなった。



 



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