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35.ん兄貴ッッッ!!!!。

 面接を終え試験会場入口に足を運ぶ。

 昨日の朝はここに長蛇の列ができていたのだが、今は帰路につく者達が目につく。

 談笑しながら帰る者や、足取り軽やかに帰る者。難しそうな顔をしているが、時折口元がにやけている者。

 様々な表情が通り過ぎていくが、どの顔からも重圧から解放された清々しい印象を受けた。


 この2日間の為に一生懸命励んできたのだ。

 寝る時間も惜しんで勉強をし、少しの時間も無駄にせず鍛練してきたのであろう。そう考えれば彼らの表情にも納得がいった。


 俺も一つあくびを欠くと、大きく背伸びをする。

 とここで試験が終わったというのに足早ではあるが、凛とした態度で横を通り過ぎて行く者がいた。


 面接前に俺に不服を申し立ててきた貴族の青年であった。

 あきらかに向こうも俺に気付いている雰囲気であったが、挨拶もなしに通りすぎていく。


 出会った形はどうであれ顔見知りになったのに寂しいなと思っていると、ピタリと足を止めきびすを返し俺の目の前までやってくる。


 「……お前は一体なんなんだっ!?」


 「え?」


 「え?じゃねぇよ!あの面接の事だ!」


 「あぁ!なんかすげぇ怒ってたな?」


 「怒ってたって?当たり前じゃないか!あんな国を否定するような発言をしたんだぞ?面接はその人間性を見るんだ!お前は……」


 なんだよ?お前は何しに来たんだと言いたそうな顔である。

 もちろん学校に通うための試験をしにきたのだが、建前でも嘘をついた方がよかったのか?


 しかしそれでは意味がない。

 嘘をついてまで、自分の想いを殺してまで学校に通いたいとは思っていない。だから周りの人間がどう思おうと、俺は自分の想いに正直でいたいと思った。

 ……だって前世であんな苦痛な時間を過ごしたんだ。今ある人生は楽しく過ごしたいからな。

 そんな事を思っていると彼は周りの目も気にせず、俺に指を向け豪語する。


 「俺の名前はギルス・ハルバード。いずれ魔法騎士団に所属し、さらに我が領地をより豊かにすることが目標だ!お前の思う万が一など来ないようにしてやる!今回は良い勉強になったと思って、他の学院の試験の時はふざけたことなど言わないことだな!」



 そういうなりギルスは、俺の返答を聞かず去っていく。

 他の学院の試験ってなんだよ?と思っていると、後ろから声をかけられ振り替えると、そこにはアカリとリズがいる。

 しかしアカリはまるで幽霊のように肩を落とし、リズは相変わらずの冷たい目で腕組みをしてこちらを見ている。


 「よ、よぉ。試験お疲れっ!つぅか、どうしたんだ?」


 試験が終わったというのに、まったく晴れやかな顔をしていないアカリに質問をしてみる。

 うっすらと涙を浮かべ、申し訳なさそうに声を絞りだす。


 「わ、私がお昼に声なんかかけたから……。シキくんに面接であんなことを言わせてしまってごめんなさい……」


 「別にアカリのせいではないでしょう?こいつが勝手に挑発にのったんだから、私達は別に……」


 どうやら面接での俺の発言は昼食時のリズの煽りによるもので、その原因を作ってしまったのは勘違いで声をかけたアカリの責任だと思ってしまっているらしい。


 二人のせいではまったくないので、すぐに誤解をとく。

 

 「二人共心配してくれてありがとう。でもあれは本心だから、二人が気に病むことはないよ!」


 下手に長くしゃべるより、ズバッと言いきってしまったほうがいい。

 本当は他の学院の試験ってなんだ?と続けて聞きたかったのだが、なんだかリズからの呆れた罵声とともに、アカリの落胆する姿が想像できたので聞かないことにした。


 「ほらアカリ!彼もケロッとした顔でこう言っているんだし、元気を出しなさい」


 「う、うん。でもシキくん……」


 「……大丈夫よ!アカリの言う通り試験での腕が確かなら、他校の試験で面接さえしっかり対応できれば問題ないわよ!貴方もこれだけの受験人数で印象の残る面接をしたかったのでしょうけど、勉強になったでしょう?」


 「お、おう!そうだな!」


 

 し、知らねーーーーーーーっっ!!知らねぇけど、まだアカリは疑っているような目でこちらを見ているので、リズに合わせるしかねぇ……。

 それにしてもギルスとリズはなんだかんだで心配してくれている。アカリはそれ以上に気にかけてくれている。きっとこいつらと一緒に勉強が出来たら楽しいんだろうな……。


 いやいやいや!なんか俺まで試験に落ちる前提で考えてしまったが、大丈夫だよな?なんだか少し不安になってきたんだが……。



 「シキーーっ!遅れてごめんねー!」


 とここでクレアの元気な声が聞こえてくる。

 小走りで駆け寄ってくると、二人を見つめる。


 「あぁ!お昼に会った……。あ、会話を遮っちゃった……かな?」


 「いいえ。もう話しは終わったわ……。そうだ、最後に一つ。貴女、若いとはいえあんなに食事をとるのはよくないわよ?若いうちから成人病になりたくないでしょう?それに淑女たるもの、体型だって気にかけていかなくちゃ……」


 冷めた瞳の奥に優しさを感じる。それは大手の病院の娘ということもあるのだろうが、クレアの異常な食事量を一人の女性として心配してくれている言葉だった。


 ――のだが……。




 ぐぅぅぅぅううーーーーー!!




 クレアはそれを腹音で返事しやがった!!

 リズ……すまん!この子は本当に悪気があってやっているんじゃないんだ!むしろ勇者として健全な身体反応なんだっっ!!

 言ってやりたい……。そう言いきってしまいたいほど、俺が申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。


 「あはは。あの……その、リズちゃんごめんね。お腹で返事しちゃった」


 クレアは頬を赤くしながら、申し訳なさそうに謝る。


 「い、いえ。その……食事をとるという事は、元気な証拠だからいいことよ……。でも間食は控えておいたほうがいいわよ……」


 そう言うとリズは一礼し、門へ向けて歩き出す。

 アカリは今の出来事で張りつめていた気持ちが和らぎ、少し笑顔になる。


 「……シキくん、今日は本当にありがとう。お互い合格して入学式で会えるといいね!」


 ぺこりとお辞儀をし、にっこりと俺達に微笑むとリズを追いかけていく。

 クレアもまたねとお辞儀ををし、振り返ることのない二人に手を振る。

 さて、俺達も帰るかと歩みだそうとしたがクレアが静止する。


 「あ!シキごめん。私校長先生に呼ばれているから、もう少し待っててくれる?」


 「そうなのか……じゃあ、俺はシルフの土産でも購買で見てくるよ。慌てなくていいからな?多分勇者として、改めて話しをしたいと思うから」


 「うん!ありがとねー」


 そう言うなりクレアは急ぎ足でもと来た廊下を戻っていった。

 俺は一人購買に足を運ぶ。クレアにとっては足しにならないであろう菓子パンがズラリと並んでいる。

 シルフに土産と言ったが、ここではアイツのご機嫌をなだめそうな物はなさそうだ……。


 とここで売店のおじさんが飲んでいた物が目に留まる。

 それはラムネ瓶であった。


 浅葱色(あさぎいろ)に透き通る瓶が美しく輝いている。気泡が壁面から上へ移動し、中のビー玉に付着しては転がすようにまた上へと泳いでいく。


 そういえばシルフは、ドングリやら形の綺麗な小石なんかを集めてる。これなら美味(ウマ)いし、中のビー玉を取りだせば思い出にもなるだろう。丁度いいお土産だ。

 

 俺はラムネ瓶を一本購入すると玄関口に移動する。これが悪夢の飲み物だとこの時は知る由もない。




 しばらく会場を歩き回り時間を潰す。

 その後クレアと合流し、試験会場を後にした。



 そして今俺達は街道をまっすぐ東に向かっている。

 本来であれば魔導列車に乗って帰宅するつもりでいたのだが、夕暮れ時と受験生の多さから混雑が予想される。それを踏まえ高速移動で帰宅することにした。

 活気ある街から外壁を潜ると、徐々に人が少なくなっていく。

 それでも街道には王都に向けて歩く者や、馬車が定期的に通り過ぎていくのが目に付く。


 「クレア。今日はこっちの道から迂回して行こう」


 俺は東に延びる整備された街道とは別の方向を指さす。

 それは北東に進む道。馬車二台が横並びで通れそうな、整備のされていない道である。その脇には看板が立てられており、ランクEと表記されていた。

 

 この看板が意味するもの。それは魔物が出没する危険性を示している。まぁ、とは言えランクEは初級のスクブルク。成人を迎え、そこそこの技量がある者ならば大したことのない魔物ばかりである。

 もちろん大通りの街道にも魔物が出ない訳ではない。しかし定期的に巡回する警備隊に加え、等間隔で設置されている警備所が存在する。その為一般的には安全を優先し、大通りを通るのが普通なのである。しかし俺とクレアが高速移動をすれば行き交う人々を脅かしかねないので、こちらの道を選択した訳である。


 クレアに説明をすると快く了承してくれた。


 そして俺達は遠くの山に太陽が沈む直前に走りだした。

 道なりにグングンと進んで行く。念のため魔力感知(ライブラ・フィールド)を展開しつつ移動するが特に気になるような事もない。


 と、ここでクレアが北に視線を向け立ち止まる。


 「どうしたクレア?」


 「……ここから1キロ先で、戦闘が行われてる。気になるから行こう!シキ!!」


 軽く頷くとクレアが一気に駆けだす。

 そういえば初めてオフィーリアの森に行った時も、クレアの一言からココール村の危機を救ったんだった。そのことから俺はクレアの意思を尊重している。

 

 道から外れ草原を突き進む。前方には森が生い茂っているが、クレアは迷うことなく勢いそのまま大きくジャンプをする。森を追い越すには少し足りない飛距離であったが、上空から森は大して大きくないことを確認するとその先にまで目を向ける。


 「居たっ!クレアあそこだ!」


 「うんっ!!」


 と返事を聞くと同時に、下降が始まる。

 目の前に森が迫ってくるが空気層魔法(エア・フィールド)を使用し、木々が避けるような形でかすり傷一つなく着地する。

 そしてそのまま走りだし、森を抜ける。


 前方30メートル程先から怒鳴り声が聞こえてくる。


 「ゴラァ!!ジジィにババアーっ!!騒いでんじゃねーぞ!!!」


 目視にて確認すると、男3人が馬車を襲っている。

 そしてそれを一人の男性が耐え忍んでいる事に気が付く。


 「ま、魔物じゃなくて盗賊!?」

 

 「クレア!上手い事気絶させる方向で!!」


 「うん!やってみる」


 そういうとクレアは男3人の正面に入り込むように進路を向ける。

 それにしても妙な違和感を感じる。

 多少王都から離れているとは言え、たかだが3人で馬車を襲うものだろうか?そして近づけば近づく程、盗賊にしては小奇麗な装備品を着用している。


 そして一番の違和感。


 森から離れた草原に、真冬だというのに赤紫の葉をこしらえた3メートル程の木が経っている事であった。


 【魔力探知(ライブラ・スコープ)



 こいつは……魔物だ!しかも滅多に姿を現すことのない、この時期限定の魔物。

 幻惑キノコ(マリオネット・レッド)であった。


 「クレア!その横にいる木が魔物だ!」


 そう呼びかけるとすぐに進行方向を変え、殲滅しようと剣を抜く。がそれに気が付いた幻惑キノコが幹をバリッと口のように裂いたかと思うと、赤ピンクの煙のような物を吹きかけてきた。


 「わぁーおっ!び、びっくりしたぁ!」


 常人であれば直撃は免れない距離であったが、クレアは瞬時に回避したのであった。


 「シキ、この魔物は……人面樹?にしては色が……」


 「コイツは幻惑キノコ。ランクDの魔物だ……恐らくそこの3人は幻惑により混乱し、操られている……」


 「え?木の魔物にしか見えないけど、キノコ……なの?」


 「今クレアがくらいそうになった煙あるだろ?あれはあの人面樹のなかに無数に存在するキノコ達の幻惑胞子だよ。まぁ、この冬を乗り切ろうと人面樹の体内を寝床にしているんだけど……。当の人面樹もしっかり操られているな」


 ギシギシと音を立てながら間合いを詰めようとしてくる。

 人面樹本体にダメージを与えても、中にいるキノコどもは無傷なうえ危険だと察知すれば森に逃げてしまうだろう。なんの考えもなしに倒すのだとしたら、火炎魔法で楽に倒せるのだがそれは避けたい……。

 なぜならこの幻惑キノコ。希少性に加え、薬品として高値で取引されるのである。

 そして俺の夢は開拓する冒険家(トレジャー・ハンター)。たかだかランクDの魔物くらい、原形をしっかりと留めた状態で討伐しないことには話にならない。


 とここで後方から声を掛けられる。


 「お、おいアンタ……まさか……」


 「あぁ!原形を残すよう討伐するつもりだ!」


 男は両ひざを地に着け、右手を俺に向けカタカタと震えている。

 見るからに冒険者なのだろう。瞬時にこの魔物の希少性と、俺がそれを傷つけず討伐することを悟ったのだろう。

 この男の仲間も未だ操られているし、いい気分ではないだろう。さて、どう傷つけず討伐しようか……。

 そう考えているとふと名案が思い付く。


 「あっ!ちょいちょいクレア!見ててくれよっ!!」


 クレアはきょとんとした顔で俺を見つめている。そしておもむろに両手を広げ、詠唱もどきを始める。


 「全ての生命に活力を与える光よ。漆黒の闇を切り裂く一筋の光よ。……今ここに集約し、邪なる者を撃ち抜けッッ!!!」


 そう高らかに言い終えると、目の前にそれっぽい魔法陣を展開させ右手を突き出す。



 【光針熱線(ニードル・レーザー)



 夕暮れ時の平原一帯が、眩い光に照らされる。

 そして右手から閃光が48本撃ちだされ、幻惑キノコ腹部を撃ち抜く。


 ギシャっと幻惑キノコは崩れ落ち、そのまま動くことはなかった。そして満面の笑みでクレアに自慢する。


 「どーよコレ!?詠唱からの魔法陣の流れで魔法使ったぽいだろ?あ、まぁ、魔法は使っているんだけど……」


 おぉ~~!とクレアはパチパチ手を叩いている。

 魔力探知(ライブラ・スコープ)で本体であるキノコ達の位置を網羅し、更に核となる部分を狙い撃ちした訳である。何体かは重なっていたから、多少の傷はあるかもしれないが、それでも針の穴程度であろう。


 「いやぁ~、昼間の試験で名前決めきれなかったからな!まさかこのタイミングで決められるとは思ってなかったわ!」


 俺はそう言いながら緩んだ目元で操られていた男たちに、幻惑解除魔法を詠唱無しで施す。

 ハッと目線を馬車に向けると、唯一正気だった男がワナワナと震えながらこちらに近づいてくる。


 あ、あぁ~。これだけの魔法を使用したのだから、驚いて当然か……。

 そう思っていると。


 「んんんんんん兄貴ッッッ!!!!まさかこんな所で再開できるとはッッ!!!」

 

 「……へ?」


 まったく覚えのない人間からの兄貴発言に驚き、一歩後退してしまう。

 気が付くと男は俺の両手を握り、嬉しそうにブンブンと上下していた。


 そしてそれを見ていたクレアはまたしても「おぉ~~っ!」と声を上げパチパチと手を叩いているのであった。

















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