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27.払拭する心。

2018.6.8 奮闘するクランツ その2。→払拭する心。にサブタイトル変更しました。

 初めて真王の儀を体験してから、早くも2ヵ月が過ぎようとしている。

 

 日々の学院生活、公務に自身の鍛錬と忙しい日課を送っているが、それでも気力と体調が万全であれば真王の儀に挑戦はしている。


 初手での火炎息放(ファイヤ・ブレス)でやられること3回。

 回避して立て直そうとするも、強烈な殴打に4回はやられている。


 それでも徐々に慣れつつあるのは、離脱後に意識があるということだろうか。

 といっても、戦闘後は精神的疲労が凄まじく、自室に戻ると同時に朝まで寝てしまう事が多々ある。


 そして翌日、何が悪かったのか反省と疑問を投げかけ対策を練るのだが……。

 現時点では勝利するという未来が見えない。


 なぜなら心と思考が、噛み合っていないからである。


 原因はあの日抱いた、嫉妬の感情。



 シキのような魔力操作と、思い切りの良い行動が取れれば……。


 クレアのように神具を扱えることが出来れば……。


 そして何より、2人に追いつきたいという想い……。




 「僕は……なんて図々しい人間なんだ……」


 ガックリと項垂れ、頭を抱える。

 今ではあの2人の前で、どうやって笑っていたか思い出せない。


 そこへノック音が聞こえ、失礼しますの声に一呼吸置いてラフロスが扉越しに話し始める。


 

 「クランツ様。シキ様ならびにクレア様が訪問されましたが、いかがなさいましょう?」



 そう……訪問されました。ではなく、いかがなさいましょうである。

 この2ヶ月間、僕は2人に会っていない……。


 とても会える気持ちではないのだ。


 「……ラフロス、すまない。僕は……」


 「かしこまりました。もうすぐ真王の儀に挑まれますゆえ、その旨を伝えましょう」


 そう言うとラフロスは、静かに部屋の前から立ち去って行った。

 

 もちろん嘘などではない。もう間もなく試練に挑むのは本当なのだから……。

 当初は公務があるから。二度目は、私用により席を外しているから。そして代々伝わる試練を言い訳に、今回も遠方から来てくれた友人に会うことなくやり過ごしてしまった。



 今の僕では彼らに会う事はできない……。

 もし会うことが出来るとしたら、この試練を一刻も早く終え加護竜の剣を手にすることに他ならない。


 決意を新たに勢いよく立ち上がり、試練の間へと足を運ぶ。

 部屋に入ると宮廷術師が一同に会釈をする。


 そしてどっかりと玉座に腰を掛け、挨拶とともに魔法陣を起動させてもらう。

 さすがに8回目ともなると、すんなりとイグヴァーナー様の下にたどり着く。


 『おぉ、クランツ。体調はもう良いのかね?先週は――』


 僕は言葉に耳を貸さず、剣を抜き盾を構え戦闘態勢に入る。

 そして国宝級の装備品に魔力を流し、その効果を起動させる。


 自身の魔力を大きく持っていかれたが、この装備であるからこそ活路が見いだせるというものであろう。

 試練の際に先人の王達が使用してきた、間違いようのない装備品なのだから。


 大丈夫だ。焦るな……。

 思考は問題ない。炎だろうが引っ掻きだろうが、全て見極め回避すればいい。

 それに全属性耐性も大きく向上しているから、もし炎を受けても問題はない……。

 

 さぁ、来い!いつでも動けるように集中するんだ。



 


 『ふぅ……お主は一体、何をそんなに焦っているのだ?心が大きく乱れておるぞ……』



 何を言う。たしかにこの嫌な気持ちは拭いされない……。

 しかし、それも貴方に勝利すれば解決するはずだっ!





 『……お主。目先の事ばかり考えておるな。そうだな、一つヒントを授けよう。お主が火炎息放(ファイヤ・ブレス)だと思っているものは、ただの吐息よ……』


 

 そう言うなり首を上げ、口に膨大な魔力が集まり始める。

 紅く光る粒子なのか、それとも火の粉なのか見当もつかなかったが一つ言えることがあった。


 それは恐ろしく、そして美しい光景であった。






 【【火炎息放(ファイヤ・ブレス)】】




 









 怒涛に放出される火炎が、まるで水のように飛び散る。

 そして爆風により流れていた雲は蒸発し、辺り一面が荒れ狂う炎に包まれた。


 

 時間の流れがゆっくりに感じる。

 なんだこれは……。これが本当の火炎息放(ファイヤ・ブレス)なのだとしたら、僕はこの方に一生勝てるはずもない。


 

 力を示す?



 勝利する?




 そんなことは……不可能だ。


 僕はただただ出来事を受け入れ、意識が途絶えた。









 ん?これは……。あぁ夢か。

 この場所は、フォグリーン村……。


 いつもの河原にいるのは、シキとクレアにシャル……そして幼い頃の僕だ。

 4人とも笑いあって、魔力の修行をして、ただその時間が尊いものであった。


 はは。シキと模擬戦をしているな。

 クレアはシャルと水手玉か……。



 あ、僕が負けて降参してる。

 でも、とても穏やかでいい笑顔だな……。



 今の僕はどんな顔をしているのだろう?




 僕は…僕は…………






 「僕は、君たちと肩を並べたいッッ!!」


 

 右手を突き出し、大きな声を上げていた。

 そこは自分のベッドの上である。そして隣にはシャルが驚いた顔でこちらを見ていた。


 

 「クランツ様!お目覚めになられたのですねっ!本当によかった……」


 「シャル……僕は……」


 「試練をお受けになったのですが、意識なくこちらに戻られまして2日間目を覚まさなかったんですよ?」


 そ、そんなに長い時間寝ていたのか。

 いや、納得できる。なぜならあのような凄まじい攻撃を受けたのだから……。


 それにしても国宝級の装備がなかったら、僕は一体どうなっていたのだろうか?

 考えたくもないが、今は生還できたことを噛みしめよう。


 両手を見つめると、少しジンジンとしている。

 そして懐かしいあの夢。


 なんだか自然と笑みがこぼれた。



 「あ!こうしてはいられません。すぐに皆さま方を呼んでまいりますので、少々お待ちください!」


 「シャル待って!……その、聞きたいことがあるんだ」



 あの時聞けなかった、シャルの気持ち。

 同じ時期にシキ達に出会い、どのように見て感じているのか……。


 僕と同じ気持ちなのか。


 聞くことも、その答えを知ることも怖い。


 

 「ねぇ、シャル。その……僕はシキ達に出会って、大きく変われたと思っているんだ。一緒に遊んだり、模擬戦をしたりふざけ合ったり。とてもかけがえのない時間を過ごしてきた。自分でも日に日に強くなっていく実感は湧いているよ……。でもあの2人を前にすると、とてつもない溝を感じて嫉妬してしまう自分がいるんだよ……」


 シャルは静かに僕の話しを聞いてくれている。

 自分で自分が情けない話しをている事は、重々理解している。

 

 しかし時間と共に膨らんでいくこの嫌な感情を、吐き出さずにはいられなかった。



 「……シャルは2人を前に、焦りや不安というものを感じたことはないの?」


 「ふふふ。最近元気がなかった理由がわかりました」


 

 優しい表情で、僕の目を見て笑う。

 というか、周りからは元気がないように見えていたのか。

 自分ではまったく気が付かなかったが……。


 「そうですね……。焦りや不安はありましたよ?でもそれはシキとクレアに出会う以前の気持ちです。あの頃は一日でも早く爆発魔法を習得したくて、色々と動き回っていましたから……」


 でも2人に出会ってシャルは変わった。

 目標に到達する為には、近道などない事を教わったのだ。


 昨日より今日。

 今日より明日。


 出来なかったことが出来るようになり、確実に成長をしていく自分が嬉しくてたまらないそうだ。



 「それに今すぐシキやクレアに追いつこうなど、絶ェェェェェっ対不可能ですわ!」



 え?言い切った!

 


 「嫉妬する気持ちも分からなくはありません。でも私は私です。弱くても強くても、きっとあの二人は同じ目線で歩んでくれますよ?だって友達ですもの」



 シャルの言葉が心に響く。

 何が肩を並べたいだ……。並べる以前に、僕から距離を取っていたんじゃないか。


 自分の殻に閉じこもり自問自答した結果、心が腐敗していく。

 


 シャルに心の内を相談できてよかった。



 「ふふふ。やっぱりクランツ様も、男の子なのですね」



 うん。そうなんだよ。

 やっぱり友達が先に行ってしまうと、自分も追い付きたくなる。

 

 強くなりたい。負けたくない。同じ目線で話しがしたい。

 でも不安や焦りが生じる……。心とは裏腹な態度を取ってしまう。



 僕はまだまだ子供だな。同い年のシャルが大人に見えてきた。



 「あ、そうだ。僕はあの2人に酷い事をしてしまったんだった……」


 「なら、今の話しをしてみてはいかがですか?」


 「え!?でも……許してくれるかな」


 「シキなら、『それが人間ってもんだろ?』とかいいそうじゃありませんか?」


 

 その一言で大爆笑してしまった。

 いつぶりだろう、こんなに笑ってしまったのは。


 シャルもシキの事をよく見ているなとも思えたし、それを見て大笑いしてしまった自分も大概だなと思えた。口に手を当てながらクスクスと笑っていたが、落ち着きを取り戻すと皆を呼んでまいりますと退出していった。

 


 僕はベッドから起き上がり、大きく背伸びをする。

 ふと窓を見ると、レースから冬の優しい光が射しこんでいる。


 窓を開けたら寒いんだろうなとわかっていたが、躊躇することなく窓を開ける。

 冷え込んだ空気が一気に入り込むが、それは新鮮な空気が部屋を満たしたことを感じとる。



 加護竜の剣の事など忘れていた。

 それよりもどうやってイグヴァーナー様に一泡吹かせようか、まるで悪戯をする子供のような気持ちで冬の青空を眺めていた。


 


 

 

 


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