表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/84

24.それぞれの世界。

 シキが先行して敵陣地に入ってから、10分程経とうとしている。


 教えてもらった魔力感知(ライブラ・フィールド)では青点のシキに、赤点が光を求めてやってくる虫のように集まってくる。


 しかし青点に近づいた途端赤点はパッと消え去り、青点(シキ)は別の場所に転々と現れては赤点(ゴブリン)を消している。

 

 私と同じようにオルトファウスさんも魔力感知(ライブラ・フィールド)を展開しているようで、アゴに手を当てながらうぅ~んと唸っている。


 「さすがシキ様ですね。この数のゴブリン等、相手にならないほど圧勝ではありませんか……。それにこの動き……。一体どのような鍛錬を積めば、ここまでの動きと魔力操作を可能にできるのか……」


 「やはり俺の目に狂いはなかったなッ!さすがシキだ!」


 オールドマンさんは、まるで自分の子供を褒めているように活き活きとしている。

 でもシキがこれを見たら、「何言ってんだ!ついさっきまで疑ってたじゃねーかっ!」なんて言いそうで、少し笑えてきた。


 「クレアん。そろそろ頃合いかと思うよ?一人で大丈夫??」


 「うん。少し怖いけど、私自身で確かめなきゃ……。ありがと、ミーちゃん」



 再度地図(マップ)を観てみると、洞窟側のゴブリン達の数が少なくなっている。

 きっとこれはシキからの合図なんだと思う。

 

 道は作ってやった、親玉はまかせる。



 全体的にもゴブリンの数は減ってきているし、いつ洞窟から親玉が出てくるかわからない。

 外の状況を見て怒り狂い、対話の機会を逃してしまっては元も子もない。


 「じゃあ、私も行ってきます。ミーちゃん、二人をよろしくね」


 「まっかせといてよっっ!」


 「クレアよ。きっとお前もシキと同じように、特別な子供なのだろう。だが辛かったら、いつでも逃げておいで。そしてまた考えればいい……だから無理はしないようにな」


 「クレア様、検討を祈ります」


 「ありがとうございます。私なりにがんばります!」


 そう言うとスッと魔力強化を行い、高速移動で森に足を踏み入れる。

 木々を潜り抜けるそよ風のように、無駄なく突き進む。


 が、前方からゴブリンの群れが20匹ほど向かってくるのがわかる。きっと私が足を踏み入れた場所に向かっているに違いないと判断する。


 ここは足を止めて対峙した方がいいか?とも思ったが、それは私の役目ではないと自覚しなおす。

 もしここで足を止めゴブリンの相手をしたら、もっと集まってくるかもしれない。そんな事になったら、みんなに迷惑をかけてしまう。


 だから今回の一件で、私は成長しないと……。



 一旦木の上に身を隠し、ゴブリン達に見つからないようにやり過ごす。

 魔力感知(ライブラ・フィールド)では、周辺に魔物の気配はない。このまま一直線に進めば洞窟だ。

 再び走り出し、洞窟手前に差し掛かる。


 ふと左方面に目を向けると、そこには数十匹のゴブリンに囲まれたシキが、赤いオーラを(まと)った愛用の枝を振り回しているのが見えた。

 そして気のせいだっかもしれないけども、目が合った時に声が聞こえた気がした。



 『思う存分、話して来い!』


 

 私は「うんっ!」と頷くと、そのまま洞窟内部に突入した。

 地図(マップ)を見ると一本道になっており、奥に進むにつれ暗さと寒さが増していった。


 「どうしよう……。魔力感知(ライブラ・フィールド)で地形は分かるけど、真っ暗なのが心細い……」


 ――クレア。あなた意外と考えなしなのですね?しょうがないわね。これを使用なさい。


 「……球体照明魔法(ライト・ボール)


 エーデル・ワイスからもらった術式(レシピ)を唱えると、20センチ程の球体が宙に浮き辺りを照らし出す。


 「おぉ~、明るい」


 うん、これなら怖くないかも!!

 気を取り直し、道なりに奥へと進む。しばらく進むと何やら地響きに似た音が聞こえてくる。



 ぐごごごぉぉおお~~~……ぐごごごぉぉおおお~~~……



 

 これは!お父さんのイビキを、数十倍以上酷くしたイビキだ……。

 洞窟の奥は広い空間になっており、高さも十分にある。そしてその中央奥に藁を敷き詰めた上に、仰向けになって寝ている巨漢の魔物がいた。


 灰色に近い肌に、大きなお腹。顔はゴブリンに似ていて、魔獣の毛皮を着こんでいる。

 そしてその横には、大樽3個分の高さに匹敵するこん棒が立てかけられていた。



 「この魔物が……統率者?」


 ――クレア。これはトロルよ。でもただのトロルじゃないわね。この匂い……恐らくトロルゾンビかしら。


 

 たしかにこの洞窟内に入ってから、腐ったような嫌な臭いがするとは思っていた。

 でもそれは洞窟内を根城にする、コウモリや動物の糞尿なのかと思い込んでいたが、まさかこの魔物から発せられているとは驚いた。


 

 通常死んでしまったら生と死の調律樹(ユグドラシル)へと魂が帰還する。しかし悪い気の溜まり場で亡くなったりすると、その者は未来永劫迷える不死者へと変わり果ててしまう。


 生前の強い思いを元に、ただ現世をさまよう存在。


 しかしこの目の前にいる魔物は、ただ不死者へと変わり果てただけではない。  

 なぜならただの不死者であれば、寝るという行為はしないのだから



 そんな事を思っていると大きな右手が動き、球体照明魔法(ライト・ボール)の光りを遮るように額へと動かす。



 「ぬぅぅううん?なんだこの光りは?」


 太い声が洞窟に響く。のっそりと起き上がりその場にあぐらを掻くと、こちらに視線を向ける。


 「んん?なぜここに人間の小娘がいるのだ?外のゴブリン共は何をしている?」


 頭をボリボリと掻きながら、大きなあくびを一つとる。


 「あのっ!!私はココール村からやって来たクレアと言います。聞きたいことがあるのですが……」


 「んあ?ココール村……おぉ!そうだった、人間共をさらってくるよう命じたが、しかしこの場に入れて良いとは言ってはいないのだがな……」


 やっぱりこの魔物がゴブリン達に命令していた者なんだ……。そして会話も通じている!


 「あなたはなぜ村の人達に酷いことをしたり、さらったり命令したんですかっ!?もう少しで死者だって出ていたのかもしれないのに……」


 「なんだァ?死人すら出ていないのか……それは残念だな」


 「!?」


 

 ざ、残念?今確かにそう聞こえた。何が?死者が出なかったことに?なぜ?

 考えても考えても、その答えにはたどり着けそうにもない……。


 そのたどり着けそうにもない。という答えが出た時には、トロルゾンビは目の前にまでやってきていた。

 

 向かい合うと分かる巨漢の身体。私の2倍以上は体格差があるだろうか?

 そしてその右手には、あの大きなこん棒がしっかりと握られていた。



 「……オレはな、嘆きの魂を集めているんだよ。そう言う訳でさよならだ……」



 ビュウォンッッ!



 「――え?」




 こん棒が勢いよく私に振るわれる。

 正直物凄くゆっくりに見えたので、避けることは可能だった。


 でも……私は避けない。




 この者の一撃は何を背負っているのか?いや、そんな格好いいものではない……。

 単純に何も考えたくなかっただけなのかもしれないし。答えの出ない答えを、未だに出そうとしていたのかもしれない。



 ドォンンッッ!!!!と壁に叩きつけられ、その場にグシャリと倒れ込む。

 壁から剥がれ落ちてくる石が、ぱらぱらと体をノックする。


 トロルゾンビは満足そうな顔をすると、ゆっくりとこちらに近づいてくる。きっと私を一撃で葬り去ったと思い込んでいるのだろう。しかし――


 「ごめんなさい。まったく効かなかったわ……」


 パッと立ち上がり、服に付いた土埃と小石を払い落とす。

 そして、冷めた目でトロルゾンビを見る。


 

 「な、なんだオマエは!??あの一撃で何故死なないッッ!」


 「……うん。そうだよね。あんなのを普通の人が受けたら、即死してしまうと思う」


 再度トロルゾンビは、躊躇なくこん棒を振り下ろしてくる。

 ――が、右手から先には何もない。それもそのはず、振り上げた瞬間に切り落としたのだ。


 私は小剣を突き出し、構える。ゴブリンと対峙した時の様な震えは一切なく、今はただ穏やかな心境であった。


 「ふはっ!ふははははははっ!なるほどな!こんな所に一人で来るような小娘だ!見た目とは裏腹に、実力を隠し持っていたか!しかしな――」


 トロルゾンビは右腕を突き出し、魔力を込めだす。

 しかしなにも起こらない。


 「なぜだっ!なぜ再生しないのだ!ま、まさか貴様、浄化魔法を??」


 特に意識した訳ではなかったが、小剣の周りにうっすらと青白いオーラが放たれている。

 エーデル・ワイスを使用している感覚で小剣を振るったことにより、力が滲み出たのであろうか?そしてその効力は絶大なモノであった。


 切り捨てた右手が、光と共に灰へと変わっていったのである。そしてトロルゾンビの右腕は再生することはなかった。



 「ま、待ってくれ!これには訳があるっ!オレの話しを聞いてくれ」


 トロルゾンビは再生することのない右腕を抑えながら、困惑した表情で話し始めた。

 どうやらここから遥か北西に、不死王と呼ばれる魔王が新たに誕生したらしい。そして、その魔王が儀式の際に必要な魂を集めているという。そこで各地に不死者を放ち、残忍の限りを尽くした上で魂を献上しろと言うものであった。


 「……で、その魔王の名前は?」


 静かに小剣を鞘に納める。


 「……その方の名は、魅了の不死王・ゾルアート様だ」


 トロルゾンビはうつむき加減で巨体をカタカタと震わせ、そして満面の笑みで言い放つ。


 「ガハハッ!話しを聞いてくれてありがとよっ!いい時間稼ぎになったぜ!」


 

 【魅了の赤宝石(ゾルアート・レイジ)


 

 真っ赤な宝石から光がほとばしる。


 「この宝石は、上級・魅了魔法と同等の効果が得られる優れものよ!これで思う存分いたぶって……」



 「なるほど、それでゴブリン達を手懐けた訳ね……」


 トロルゾンビの表情が、一瞬にして青ざめる。取って置きの手段として残しておいた奥の手。相当の魔力を消費するが、効果は絶大なモノであると大群のゴブリン達で検証済みであった。

 

 それがまったく効かない……。答えはただ一つ。


 「圧倒的なまでの魔力量の差によって、完全無効になるようね?」


 「ふ、ふ、ふざけるなぁっぁぁああぁあああ!!!!」










 



 【エーデル・ワイス】










 瞬時に神具を解き放ち、トロルゾンビを後方へと置き去りにする。

 エーデル・ワイスから溢れ出た蒼い閃光が軌跡を残し、剣先にはトロルゾンビの魔力核が突き刺さっていた。


 「あ……がぁ……。こんな、小娘に……オ…デがぁ……」



 ドォーン!と大きな音と共にその場に倒れ込み、魔力核と同時にトロルゾンビは灰となり消えていく。

 

 深く呼吸をし息を整える。

 初めて魔物を討伐したのだけれども、それに対して嬉しいという気持ちはなかった。ただこの先被害は出ないのだと思うと、私のとった行動はよかったのかな?とも思えた。


 この答えも、トロルゾンビの発言の答えも今の私には出すことは出来ないのかもしれない。



 私は人の世界に生まれた。たくさんの人から愛情をもらって今まで生きてきた。きっと他の人、種族、魔物にもそれぞれの価値観という世界があるのだろう。


 私は私の世界しか知らない……。きっと成長するという事は、自分以外の世界を知ることなんだと思えた。

 今はこれしか答えが出せない……かな。



 トロルゾンビが倒れた場所に、赤い宝石が転がっている。

 私はそれを拾い上げ、誰もいない静かな洞窟を後にした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ