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23.1対867。

 魔力強化を行い村から南に高速移動を開始する。

 オルトファウスは風魔法を使用し、瞬足移動で後方からしっかりと付いてきている。オッサンはシルフに釣られた状態で、味わったことのない速度にただ息を飲んでいた。


 魔力感知(ライブラ・フィールド)を半径三十メートルほど展開しつつ、ゴブリン達の足跡を目印に馬車が通れるほどの道を進む。


 平原を超えると広大な森が広がり、手前には馬車が乗り捨てられている。またこれで襲撃するつもりなのか、馬は静かに待機していた。



 【魔力感知拡大(ライブラ・ワイド)



 

 目の間に地図(マップ)が広がり、地形及び魔物達が表示される。

 入り組んだ森の先に少し開けた場所があり、崖山の洞窟を根城にしているようだ。その出入り口の横に木で出来た牢屋があり、そこに村人は収容されているのが見える。大の大人が蹴りの一つでも入れれば、簡単に壊れてしまいそうなお粗末な作りである。


 しかし、収容されている村人達は逃げようとしない。



 「どうやら村人は無事のようだ。しかし867匹……」


 「……は?何を言っているのだ」


 具合の悪そうなオールドマンが、眉を八の字にして聞いてくる。

 

 「……ゴブリンの数だよ。それと、その茂みから先は侵入者対策の低級結界みたいなものが張られている。入った瞬間、ゴブリン共が一斉に来るから気を付けて……」


 ありえない!という表情でオールドマンが固まる。

 オルトファウスも魔力感知で現状を把握したようで、無言のまま首を横に振る。

 

 「そんなにいるの?私、見えない……」


 「あー、クレアは魔力感知の術式を知らないか……。じゃあコレ」


 と、クレアの額に二本指で触れる。ポワっと光ったかと思うと、クレアは瞬時に理解する。


 「これが、魔力感知の術式(レシピ)なんだね。さっそくやってみる」


 

 これでクレアも状況がわかるだろう。

 しかし、どうしたものか。今になって2人が足手まといの他何者でもなくなってしまったな。

 いや、オルトファウスは戦力になるだろう。だが867匹という異常なゴブリンが巣食っているとなると、作戦は慎重にいきたいところではある。


 3人をここに残して、俺一人で攻め込めば簡単な話しなのだが、出来ることならクレアに経験を積んでもらいたいという気持ちがある。かと言って、2人をここに残して、ゴブリン達が来ないとも言い切れない。


 統括する者がいる限り、闇雲に突っ込むことは避けたほうがいいか?



 あっ!いっその事、この辺り一帯を魔法で……いや、ねーーーわっ!人質だっているし、ゴブリンが俺だけに向かってきてくれれば、話しは簡単なんだけどな。


 「ねぇ、シキ。洞穴の中にいる魔物が、ゴブリン達の親玉なんだよね?」


 「あぁ、間違いねーな。ここらでは見ない魔力の持ち主だからな」


 「あの、わ……私に行かせてくれないかな?」


 「え?」


 「……村の人達にあんなひどいことをした、張本人と話しがしたいの!でもシキが一緒にいたら、私は後ろで見ているだけになってしまう。だから、私が倒さなくてはいけない存在を、しっかりと見定めたいの!」


 クレアの意思がしっかりと伝わってきた。統括する者の魔力量を見ても、クレアが負けるようなことはない。ただし、初陣にしてトラウマにならなければ良いのだが。いや、それは過保護過ぎるか。

 

 今クレアは、自分自身の殻を破ろうとしているのだ。

 ならそれに見合った作戦を立てよう。



 「わかったよ。クレアに親玉はまかせる。雑魚共は俺にまかせておいてくれ」


 「しかし、この数……。一斉にかかってこられたらひとたまりもないぞ?」


 「シキ様、どのように攻め込みましょう?」



 俺はスッと人差し指を天に向ける。


 「空から攻め入る!」


 「「は???」」


 低級結界の中心部に捕らえられている村人。

 その周りには数百に散りばめられたゴブリン。こんな厳重な配備で上空から侵入したらどうなるか?


 混乱の中、集中して襲い掛かってくるであろう。しかもその着地点は牢屋の真ん前。

 この段階でかなりの数を減らすことが俺の役目になる。


 「俺が上空から攻め入って、ゴブリンを引き付ける。クレアはゴブリンの配置を見計らって、ここから一気に洞窟まで駆け抜けてくれ。邪魔者は入れさせないから」


 「うんっ!」


 「オルトファウスさんと、オッサンはシルフと一緒に森の外に逃げるゴブリンを退治してくれ。もし逃げたとしても、無理に追わなくていいや。あそこの村は脅威だと認識させて、逃がすのも手の内だから」

 

 「シキ一人でこの大群を……いや、もう無茶だと言うのはよそう。お前は信じられない力で重傷者を救ってくれたのだ。シキの言う通りに動かせてもらおう」


 「あぁ、みんな無茶はしないようにな」


 俺はそう言うと来た道を100メートル程引き返し、その場で魔力強化を行い大地を蹴り上げ一気に上空へと翔け上る。雲にこそ届きはしないが大山をも優に超え、辺りに遮蔽物は勿論なく世界を見渡す。


 この空と大地の境界が懐かしい。以前は縦横無尽に飛び回っていたが、今はそのような事はしていない。

 自分の足で大地を駆ける喜び。変わってゆく景色を大事な人達と、同じ目線で楽しむことを知ってしまったからだ。


 さて、着地点を見失わないよう魔力探知(ライブラ・スコープ)で確認をしつつ、少量の風魔法で軌道を微調整する。



 落下中身体にぶつかる空気を軽減させ、徐々に地面が近づいてくる。

 そして着地の間際に衝撃緩和・風魔法(エア・クッション)を発動させ、ふわりと牢屋前に着地する。




 と、同時に周囲にいたゴブリン7匹を瞬殺する。



 

 一瞬の出来事で、死んでしまった事にすら気が付かず地面に転げ落ちる。死んでしまったと気が付いたのは、周囲にいる他のゴブリン達である。


 まぁ、それを認識するのはほんの数秒後になるのだが……。



 後方を振り返ると、お粗末な牢の中で怯える村人が数十人後方へと下がるのが目に付く。



 「だ、誰だアンタ!!?どこから来たっ!?」


 「あー、俺はシキと言います。ココール村の事情も知っていますし、オッサ……オールドマン村長も助けに来ています」


 「え?村長が!?俺達を助けに来てくれたのか!」


 「はい。なので、もうしばらくそこで静観していてくれると助かります」


 「そ、そんなことより!後ろから――」


 もちろんわかっている。魔力感知(ライブラ・フィールド)を発動させているので、全体を把握している。

 仲間の死骸と、どこから侵入したか分からない俺を発見するなり奇声が響き渡る。

 近場の者は慌てふためいているが、奇声で集まってきた他のゴブリンは臆することなく俺に攻撃を仕掛けてくる。


 俺は愛用の枝に魔力を流し、振り向きざまに4匹を粉微塵にする。

 右上から3匹が飛びかかり、左から7匹。さらにその後ろから8匹のゴブリンが押し寄せる。

 

 さらに全方位から数百もの群れがが、俺を中心に集まってくるのが分かる。


 よし。思いのほか順調に事が進んでいるな。

 こいつらは単純だ。

 目の前で仲間が殺されようが、数に理があると過信しているのだろう。

 その証拠に団子状態で突撃してきている。


 ――しかし無駄な事である。


 左手を突き出し、魔力を放つ。大した量ではなかったが、それでも20匹は蒸発しただろうか?

 接近では稲妻のように地上を走り抜け、ゴブリンは苦痛を感じることなく崩れ去る。


 後方からは火矢が飛んできたが、それを素手でつかみ取りすぐさま投げ返して殺った。


 「あ……、やべぇ。考え無しに殺りすぎたわ……」


 辺りは真っ赤に染まった草木と、ゴブリンであったであろう肉塊。

 そして、異臭が立ち込めていた。


 このままではこの地が腐敗してしまうので、灯柱火葬(レイジング・バーナー)で死骸を除去する。

 

 火柱を見た瞬間、ビクンと動きが止まるゴブリン達。

 しかし1匹が襲い掛かってくると、それに続いて後から同じようになだれ込んでくる。


 俺は一定の流れを崩すことなく、半ば作業のような感覚で殲滅を遂行していった。

 


 


 


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