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11.オフィーリアの森。

 昨夜の宴会……いや、お祝いから一夜明け、今日も穏やかな一日が始まった。

 お昼の列車にグレイス兄ちゃんが乗車するという事で、多くの村人や警備隊員が見送りに来た。


 昨日は只でさえ酒に弱いのに飲みに飲まされたものだから、現在顔色すぐれないのは明らかである。しかしその腰には、ポーラ姉ちゃんから貰った長剣がしっかりと下げられていた。

 半目を開けながら絶不調で敬礼する姿は、なんともグレイス兄ちゃんらしかった。

見送ったあとポーラ姉ちゃんは何故だか顔が緩んでいた。もっと寂しい表情になっていると思っていたのだが、明らかに機嫌が良く見える。

 どうやらコーネリア王国との会談が終了した後に、王都でご飯を食べる約束をしたらしい。

 たったそれだけのことで?とも思ったが、この二人にとってはとても大きな意味を持っているに違いないと理解した。



 さて今日はこれから、遥か北西に位置するオフィーリアの森という場所まで移動する。目的は三十年以上前に封印を施した、巨大マンドラゴラの定期保守点検である。

 六日後にはコーネリア王国との会談が控えており、その席に邪竜を封印したじいちゃんも出席しなければならない。その為、遅延は厳禁。


 今回俺が同行する理由。それはじいちゃんと俺との将来の目標が、食い違っている事から始まっている。

 

 じいちゃんは俺を国に仕える魔法騎士になって欲しいと願っている。

 しかし俺は違う。異国の地・秘境・深海の奥底にわんさかといる生物や魔物を狩り、人々に糧を与える存在になりたいのだ。


 おそらくじいちゃんは、この同行にて現実というものを俺に教えようとしているのだろう。


 整備され凶悪な魔物の入ってこないエリアと、日夜弱肉強食がおりなす世界。もちろん国の騎士ともなれば、最前線で魔物と戦うことになる。しかしそこには仲間がいる。

 だが俺の目指す開拓する冒険家(トレジャー・ハンター)は、孤独の世界。助けてくれる仲間もいないだろうし、何より個人の力が全てになるのであろう。


 じいちゃんの想いはしっかりと伝わっている。

 今まで様々な経験があっての発言であり、決して俺のことを過小評価しての考えではない。むしろ幸せになって欲しいという気持ちから来ているのであろう。

 だから今回のこの同行で、俺はここまで出来るんだぞ!という所をしっかり見せておきたい。


 旅人用のマントを羽織り、携帯食料と水筒が入ったバッグを肩から下げる。よし!と意気込んだところで村の北東に位置する軍専用の出入り口に到着する。


 「さてシキよ、これより北に向かって高速移動をする。もちろん道中に村などないし、きっとシキの見たことがない魔物も多く存在することじゃろう。途中で引き返すことなど出来ぬが、それでもついてくるか?」


 「もちろんだよ!じいちゃんの仕事の内容も知りたいし、他の地域を見て回りたいしね」


 「うむ。シキの気持ちはわかった。しかし六日後には王都にて、会談があるからのう。もし道中で遅れそうだと判断した場合――」


 「俺を封印して、持ち運ぶ!だろ?大丈夫だって、そんなことにはならないから」


 「うむ。そうならぬよう、しっかりと付いてくるのじゃぞ?」


 じいちゃんの厳しい表情の裏には、心配する親心がしっかりと見て取れた。

 まずはこの村から平原沿いに真北に直進する。そこからグルヌット湿地帯を抜けて、北西のガトスラン荒野を目指す。

 魔力身体強化によって高速移動か……。前世では高速飛行魔法で、隕石並の移動が可能だったからな。

 景色を見て楽しむ感覚等なかったし、過程などなくすぐ結果だったから今回はゆっくり楽しむとしよう。


 「シキーーーーーっっ。お待たせ~」


 「はぁっはぁっ。す、すいません遅れました」


 後方からやって来たのは、シルフとエルク警備隊長であった。



 「エルク警備隊長、見送りなどよかったのにのぅ」


 「いえいえ!そんな訳にはいきませんよ。今日からここの隊長になった訳ですから、しっかりとグレイス先輩の心を引き継いでいかないと。それより道中お気を付けて。シキくんも無理しないで、辛くなったらオルフェス様に言うんだよ?」


 「大丈夫だって!というか、そんな事言ったら封印されちゃうよ」


 「シキの魔力は、シルフ様の加護があるからのう。魔力が尽きるとしたらワシが先じゃろう。それよりも魔力のコントロールが大事じゃからな!」


 そういうとじいちゃんは、流れるように魔力身体強化を行った。

 俺も魔力身体強化を行い、いつでも出発できることを伝える。


 「では、行くとするかのう」


 「エルクさん、警備よろしくね~」


 「ご武運を!!」


 挨拶をすまし、一気に門から平原に飛び出す。

 風を切り、大地を蹴り景色が流れていく。


 「は、早いなぁ。もうあんなところまで……。」


 二人の姿が見えなくなるまで、エルクはその場に留まっていた。そして完全に目視出来なくなると一礼し、フォグリーン村へと戻って行った。



―――――――――――――――――




 正午を過ぎ、一番熱い時間帯に突入している。遠くの景色は陽炎が漂い、日差しと地面からの熱気で体力を持っていかれる。魔物や動物達もこの時間帯は活発ではないようで、辺りににはそれらしい気配はない。

 通常ならば脱水症状に陥るのに、そう時間もかからないだろう。


 しかし俺達は魔導具である旅人用のマントを羽織っている。

 少量の魔力を流すことで、暑さ寒さを軽減する実用的なものである。それに加え魔力身体強化により、体力の減少を抑えてもいる。これにより長距離でもそう疲れることなく移動が可能な訳である。

 ただし魔力の枯渇は避けられないため、休憩をしながら移動をする。だが俺の前を走るじいちゃんは、周りからの自然エネルギーを魔力に変換しながら移動をしている。


 さらには魔力感知(ライブラ・フィールド)魔力探知(ライブラ・スコープ)を併用しながら行く先々の情報を取得し、安全性を知ったうえで先導してくれている。

 年を取るにつれて筋肉は落ちていくが、魔力は落ちてはいかない。そして経験と熟練された魔力操作によりこの高速移動を実現している。


 今現在の時速は八十キロ程だろうか?


 「じいちゃん!もっと速度上げても問題ないよ!!じゃないとガトスラン荒野に入れないんじゃない?」


 「ぬっ!さすがシキよのう。ではもう少し速度を上げつつ、それでもシキに問題がないようであれば本来の速度で移動するとしよう。じゃが、決して無理はせぬようにな。」


 「オルじい!安心してぇ。アタシがしっかり横についててみてるからさぁ」


 シルフの言葉に安心してニッコリと笑うと、さらに速度を上げた。

 シルフも意気揚々と、俺の隣で気持ちよさそうに飛んでついてきている。


 ――ところで。


 「クレアの機嫌は良くなってた?」


 「クレアんムスゥっとしてたよ。だからお土産持ってくるから、今回はお留守番しててねって言っといた」


 「お土産って……道中なにもないんだぞ?適当なこと言いやがって。それにピクニックに行くんじゃないのになぁ」


 「シキは単刀直入に言いすぎなんだよぉ~。もっとこうやんわり言ってあげないと」


 シルフのお小言を聞きながら平原を駆けていく。次第に景色も大きく変わっていき、小山を超え森を抜けグルヌット湿地帯に突入していく。

 少し湿気が高くなり、豊富な水場が多いため魔物達の縄張りに入らぬよう少し迂回したりしながら速度を緩めることなく進んでいく。

 俺も魔力感知(ライブラ・フィールド)を広範囲で張り巡ってみる。平原に比べ魔物達の数が多くなっている。しかし、じいちゃんは上手い具合に魔物達を避け前進していくのがよくわかった。



 「シキよ、疲れてはいないか?」


 「全然問題ないよ!」


 「ではこのまま湿地帯を進み、荒野に入る前に一旦休憩をするぞい」


 出発してから5時間は立っただろうか。随分と日が傾き、湿地帯に入ってからは涼しさも増している。

 俺達は見通しも良く少し高台になっている場所を休憩地点とし、日が暮れるギリギリまで走り続けガトスラン荒野に足を踏み入れた。


 湿地帯とは打って変わって、岩山と荒れ果てた野が地平の彼方まで続いていた。

 草木も少なく夜になると一気に寒くなるので、岩石を風避けに使用し焚き火の準備をする。

 じいちゃんはバッグの中から結界式魔導具(セイブ・サークル)を取り出し、直径三メートルほどの安全地帯を確保する。問題がない事を官能で判断すると、安堵の息をもらした。



 「ふぅ、今日はよう走ったわぃ。シキよ魔法の力で身体に疲労の蓄積はないと思われがちじゃが、いつもより大きい魔力を流しておったからのう。精神面ではしっかり疲労が来ておるはずじゃ、今日はゆっくり休むのじゃぞ?」


 「うん。それにしてじいちゃんはすごいね!走りながらも魔力補給をしっかりしているから、魔力枯渇を起こさないようにしているんだね」


 「はっはっは。よくわかったのう。さすがにこれだけの距離を走るに、己の魔力だけではとうに尽きてしまうからのう。自然界のエネルギーを変換することで消耗を極力減らしておったのじゃよ」


 満天の星の下、焚き火が赤く辺りを照らす。マントで身を包み、携帯食料を口に運ぶがなんとも粉っぽく水で流し込んだ。シルフも同様に不味いという表情で俺を見てくる。が口はしっかり動いていた。



 「シキはどうしてそこまで開拓する冒険家(トレジャー・ハンター)になりたいんじゃ?」


 「ん~、やっぱり美味いものをお腹いっぱい食べたいからかなぁ?」


 「しかし昨今農作物や畜産物は安定しておるし、美味い物なら王都にいくらでもあるとおもうが?」


 「それは裕福なこの国だから言えることなんだよ。俺は本当に幸せ者なんだと思う……。じいちゃんの美味い飯を毎日食べて、勉強して友達もいてさ。でも中にはそうじゃない国や家庭もあるし、危険を冒してでも魔物を相手にして日々の糧を得る者だっていると思うんだ。それに、美味いものを食べて怒る人っていないでしょ?」


 「ふはははは!たしかにそうじゃな。そうか、シキはそのように考え目標を立てておったのか」


 「だからじいちゃんが期待してくれているのは嬉しいんだけど、国の騎士になるのは今の俺には考えられないって言うか……」


 「よく話してくれた。そうかそうか、シキもしっかりと考えて大人になっておったんじゃな」



そこからはじいちゃんの昔話しや、明日の予定などの話しをしている内に寝入ってしまった。

 翌朝目が覚めると焚き火はすっかり消えており、夏だというのに肌寒さを感じる。再度火をともし、簡易スープと固形食で朝食を済ませると二日目の出発に準備を進める。


 「思ったよりも順調に来ておるからな。この調子なら夕刻前には到着できぞうじゃ」


 「よっし!体調も万全だし、じいちゃんの最高速移動で出発していいよ」


 「うむ。では行くとしようか」


 野営をはった場所を後にし、ガトスラン荒野を駆けていく。道中大型の魔物や小型の魔物の群れを遠目に見ながら、じいちゃんが説明をしてくれる。土埃が舞う嵐が近づいて来たりもしたが、シルフの一息で進路変更することなく目的のオフィーリアの森に到着した。


 荒野を抜け緑生い茂る森の色彩に、目が憂いているのか辺りが眩しく見える。それまで聞こえなかった鳥の鳴き声に、木々が揺れる音が心地よい。木漏れ日から射す光が優しく、夏の暑さを忘れさせてくれていた。

 しばらく景色に見とれていると、奥から数人のエルフ達がやってきた。


 「オルフェス様、お久しぶりでございます」


 金髪の長髪に青い瞳、高身長で白い肌がまるで人形のように思わせる。彼女がこの森の管理者なのだろう。後ろに控えているエルフ達は一歩下がり、彼女のやり取りを邪魔しないように優しく見守っていた。


 「おぉ、カルネアよ久しぶりじゃな。どうじゃ変わりはないか?」


 「えぇ。オルフェス様の魔封結界式により、依然この地は安泰でございます」


 「いやいや、お主の話しじゃよ。相変わらず真面目じゃなー」


 「あら、そうでしたか。ところでそちらのお方は……」


 少し緊張気味に目をシルフに向ける。


 「やほぉー、アタシはシルフだよ。ここの森はすごく綺麗に管理されているんだね。風が喜んでいるよ」


 「「「!!!!!!」」」


 カルネアとその仲間たちがざわつき、片膝を地に着け頭を下げる。


 「ほ、本当に風の調律神(シルフ)様だったとは、以前オルフェス様からお話しは聞いてはおりましたが……まさか本当に……」


 「ちょっとちょっとカルネア、そんなことしないでよ~」


 「ということはこちらの子供が、シルフ様が認めた人間なのですね?」


 「え?あ、まぁ。そのシキと言います。よろしく」


 カルネアがじぃーっと俺を見つめてくる。自由気ままな風の調律神(シルフ)の加護を受けている人間が、どのような輩なのか見定めているのだろう。

 いや、こいつ(シルフ)が勝手に居候しているだけで、俺は加護なんて受けていません!!と言ってやりたかったが、じいちゃんもいるし取り合えず静かにしていよう。


 「わかりました。私はカルネアと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 そういうとカルネアは俺達を集落まで案内し始めてくれた。

 森の中心部に生活拠点があり、木の上に家々が立てられている。途中じいちゃんが若い男性エルフ達から挨拶をされ足を止めていると、俺の方にエルフの子供達が寄ってくる。

 どうやらじいちゃん以外の人間を見ることが初めての様子で、珍獣でも見るかのようにキラキラした目で見られている。


 挨拶もそこそこに更に奥へと進むと、そこには一本の立派な木が立っていた。少し銀色に輝くその木は、先代の管理者オフィーリアの木だという。


 エルフの寿命は約千年。進化をすることにより更に寿命は延びるが、病気や戦において命を落としてしまう者もいる。そして死という結末に抗う事はしない。その運命を受け入れ土に還り、一本の木に姿を変え森を育む精霊樹となりその地を見守るのである。


 シルフがオフィーリアの木の周りを飛び、静かに手を握り話しかけていた。


 オフィーリアの木を後にし、石で造られた祠に入る。

 中心部には鏡が二枚合わせに立てられ、土台を石膏(せっこう)のようなもので固められ周りには柵が設けられていた。


 「うむ。見たところ劣化はないようじゃし、魔力の乱れもない。カルネアたちの管理が行き届いておるのう」


 「じいちゃん、この封印術式は?」


 「これは最強にして最弱の封印術。鏡式封印術・無限牢獄(ミラージュ・ワールド)じゃよ。無限に続く回廊から出ることは何人たりとも出来ぬじゃろう。しかし少しのズレで封印は解けてしまうし、何より封印した土地から鏡をズラさず移動させることが困難じゃからのう。メリットは大きいがデメリットも特大なのじゃよ」


 「先代の管理者オフィーリア様と、あの吸血鬼が手を貸してくれたことにより封印に成功したのです。オルフェス様には感謝してもしきれない。死にゆくこの森を守ってくださったのですから」


 「ところでカルネア。なにかアタシたちにお願いしたいことがあるんじゃない?」


 唐突にシルフが口を開く。


 「な、なぜそれを?!」


 「オフィーリアが力を貸して上げてほしいって言ってたもの」


 「ワシらに出来ることなら話しを聞こう」



 「……はい。実は数年前からこの森を出て南西の方角に暴食一角竜(セイバー・レックス)が住み着きまして……。もちろんオルフェス様の多重結界魔導具と私達の魔力防壁によりこの森は安全なのですが。小さな子供達が遊びがてらに森を抜けだしてしまうことも多々ありまして。どうにか討伐を試みたのですが、ただの魔物ではなく亜種のようでして手を焼いている状態なのです」


 「暴食一角竜(セイバー・レックス)・亜種ともなるとギルドランクBから、A−にまで格上げされる存在じゃな。うむ、なんとかワシがしてみるかのう」


 「本当ですか!?もしあの脅威がいなくなれば、私たちにも穏やかな日常が戻ってきます」


 「では、カルネアよ案内を頼む」


 そういうとカルネアは俺達を森の入り口まで連れて行く。他のエルフ達に待機命令をだし、戦闘準備をする。


 「あの、シキくんも一緒に?」


 「もちろんじゃよ。いい経験になるじゃろう」


 「わかりました。くれぐれも感づかれないよう慎重に行動をお願いします」


 カルネアの注意を受け、俺達は魔力強化を行いない南西に高速移動をする。

 先程までの森とは変わり、剥き出しの岩肌が視界を遮る。先陣を切るカルネアは広範囲の魔力感知(ライブラ・フィールド)を展開し、その後をじいちゃんと追いかけていく。


 風のように駆けていたカルネアがピタリと止まり、額には汗を掻いていた。



 「あ、あれが暴食一角竜(セイバー・レックス)です。」


 ゆっくりと岩陰からのぞき込む。前方三百メートル程先に、赤茶色の巨体で二足歩行をして獲物をさがす巨竜がいる。体長は二十メートルはあるだろう。

 鉄すら軽く引き裂く爪に強靭的な足、そして一番目に付くのが鼻の先端から天に向かって煌めく角であった。

 じいちゃんもカルネアも微動だにせず、額から落ちる汗すら拭わずじっと息を殺している。


 「なんとも強大な魔力に、あの体格か……。さすがのワシも少し考えが甘かったかもしれん」


 「オルフェス様……」


 「なぁに、心配はいらぬ。帰りの魔力温存をしておきたかったが、本気でいくとしようか。シキよわかるかな?」


 「え?なにが??」


 じいちゃんの顔が真剣そのものになり俺に問いかけてくる。


 「おぬしの進みたいと言った世界は、こういった魔物が蠢く場所なのじゃよ。それもただ討伐すれば良いという訳ではない。加工品になりうる爪や皮膚に骨、そしてあの一角を傷つけず討伐しなくてはならぬのじゃよ?」


 「うんうん」


 「あれくらいの魔物を一人で倒すことができるくらいになれば、ワシもシキの夢を応援してやるのじゃがな」


 汗を垂らしながら真面目にじいちゃんが言った。そして覚悟を決めた顔で少し笑う。

 

 じいちゃん、覚悟を決めたところ申し訳ないのだけども。あれを極力傷つけず討伐すれば俺の夢を応援してくれるって言ったよな?いや、絶対に言った!

 だとしたら答えは決まっている。


 「じいちゃん、本当にあれを討伐できるくらいなら夢を応援してくれるの?」


 「へ?も、もちろんじゃ!しかし、おぬしにはまだまだ早――」


 じいちゃんが何かを言いかけていたが、それを聞き終えることなく俺は飛び出した。

 

 なんだよそんなことだったら、もっと前から本気見せてたよ俺?

 さてさて、前方にいる暴食一角竜(トカゲ)を極力傷つけず討伐か。生前の俺なら片腕一振りして終わりだったが今は違う。この数年で魔力制御や、術式の勉強にも力を入れてきた。

 だからこそ今の俺だから出来る魔法で仕留めよう。


 魔力身体強化により南東の岩山の上に到着する。

 そして六角の皿のようなものをイメージし、それを何枚も自分の頭上に造り上げていく。そしてその一枚一枚に魔力探知(ライブラ・スコープ)を施し、標準を暴食一角竜(トカゲ)にセットする。


 今俺から見えているのはお尻だから、とりあえずこっちを向いてもらわないと……。


 「オイこら!トカゲーーーーーっっ!こっち見ろーーーー!!!」


 でかい声で挑発し、こちらの存在を気付かせる。

 後方の俺に気が付いた暴食一角竜(トカゲ)が、身体をこちらに向けようと態勢を横に向けた瞬間。


 六角の皿が瞬時に太陽光を反射し、一か所へと打ち放たれる。



 【魔力増幅・太陽光反射(リフレクト・レーザー)



 一瞬。


 ほんの一瞬ピカっと光ったかと思うと、ものすごい熱量を帯びた光の筋が標的に伸び。

 暴食一角竜(トカゲ)の心臓を瞬時に貫き、大きな音とともにその場に倒れた。



 「よっしゃぁぁああ!!どーよ、じいちゃん?これなら問題ないんじゃ……ない?」


 ん?あれ??


 大喜びで二人のもとに駆け寄っていったが、目を点にして暴食一角竜(トカゲ)の方を見ている。

 え、なんだよ?言われた通りほぼ無傷で討伐したのだが、なにか間違ったのか?


 風に乗って肉の焼けた香ばしい匂いが流れてくる。

 シルフが美味しそうだと呑気に飛び回り、二人の空いた口が閉じるのを待つことにした。





 

 

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