第6話 月の夜に
アパートの下に着いた時、俺の部屋だけ灯りが点いていなかった。
彼女が来てからは、ずっと暗くなる前に帰宅していたのに、今日は辞めていく同僚の送別会で、すっかり遅くなってしまった。
しまった!電気を点けていってやれば良かった。
俺は、急いで階段を上った。
「ただいま!」
あれ?出てこない。
いつもなら飛んでくるのに……
「どうした?寝ちゃったのか?」
そのまま部屋の中に入ると、テレビの青白い光の中に彼女は居た。
窓際で外を眺め、体育座りをしていた。
俺が帰宅しているのを気付いていながら振り向こうとしないのは、きっと、今の顔を見られたくないからなんだろう。
その後ろ姿は、何だか淋しげで、つい後ろから抱き締めてやりたくなる。
しかし、そんなことさえも出来ないもどかしさを、俺はいつも感じていた。
自分の無力さを痛感して、情けなくなる。
俺は服を脱いで、彼女の隣に座った。
「ただいま!」
「あっ、まーちゃんお帰り〜。」
俺の存在に、今、初めて気付いた振りをした彼女は、そう言いながらいつものように笑った。
「さっきから、何を見てるんだ?」
「月だよ。あの満月が欠けて、1番ほそーい三日月になったら、まーちゃんにプレゼントをあげようと思ってね。」
「プレゼントって何?」
「それまでは、ナイショだよ!」
「何だよ、勿体ぶらないで教えろよ!」
「だーめ!今夜、帰りが遅かったから教えない。」
「送別会だったんだから仕方ないだろ?これでも、二次会断って帰ってきたんだぞ。」
「あら、駄目じゃない。お付き合いもちゃんとしなきゃ。でも、可愛い恋人が待ってるんだから仕方ないわよね?」
「可愛い恋人ってどこ?」
「ここ!」
「恋人は居るけど、可愛い人は居ないなー。」
「何、照れてるの?毎日ペアルックで居るのに……」
「ペアルック?ただの裸族だろ?」
「そんなことを言う意地悪男には、お仕置きだー」
「何してくれる?」
「何もしない!」
「えー?俺は触れないんだから、自分から開いてくれないと無理だよ。」
「だから、それがお仕置きなの。」
「それじゃー、今後は何も食べられなくても良いってこと?」
「そんな〜」
「じゃー、俺の言う通りにするんだな。
今夜は、色んなことして見せてもらおう〜。」
「えぇー!まーちゃんケダモノ〜」
「お前は化け物〜」
「ひどいよー!うぇーん……まーちゃん、今、私泣いてる〜」
「ごめん、冗談だよ。」
「本当?」
「当たり前だろ。だからさ…………」
俺は、わざと彼女に小さく耳打ちをした。
「えぇー、出来ないよ〜」
そう言って照れている彼女の白い顔は、少し赤くなっていた……ような気がした。