第2話 同棲
夢から覚めた俺は、そのまま冷蔵庫に向かい、冷やして置いたミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干した。
頭がスッキリしたところで、そっとTシャツを捲り、胸毛の有無を確認した。
無い!良かったー。
いつもと変わらない自分の姿に安心すると、今度は、例え夢でも、久しぶりに彼女に会えたという嬉しさを感じた。
そして、その後に何とも言えない寂しさも湧いてきた。
ごめんよ。
お前を守れなかったくせに、たかが直毛の胸毛くらいであんなに嫌がって…。
つくづく思うよ、俺は小さい人間だって。
お前みたいな良い女は他に居なかったのにな…。
そんな事を思いながらベッドの前に来た時、俺は今さっきまで頭に浮かんでいた言葉を完全に打ち消したくなった。
何故なら、俺のベッドには彼女が横たわっていたからだ。
「おい、起きろ!何でここに居るんだ?」
「だって、まーちゃんが大好きだから!」
「だ・大好きなのは知ってるけど、俺が聞きたいのは、死んだお前が何故ここに居るかって事だよ!」
「だからー、大好きだからじゃない。大好きなまーちゃんに会ったら、離れたくなくなっちゃたんだもん!」
「だもん!って…それで済むのか?」
「知らない。でもこうなっちゃったから仕方ないじゃない。それよりも、これからはいつも一緒だよ。憧れの同棲生活だね!」
そう言って、彼女は満面の笑みを俺に向ける。
釣られて俺もつい笑ってしまったが、この状況に決して納得したわけではない。
「あと一つだけ聞いていいか?」
「何?なーんでも聞いていいよ。私達、同棲したての恋人同士なんだから!」
「あのさぁ…何で服を着てないの?」
「えっ、いやー!!何でもっと早く言ってくれなかったの?まーちゃんのエッチー!」
そう言いながら、彼女は一応両手で胸と前を隠した。
幽霊とはいえ、その姿はちょっと色っぽい。
紫外線なんか気にせず、普通に生活していた彼女は、特別色白というほどではなかった。
しかし、目の前の彼女は肌が透けるように白い。いや、半分透けているような気がする。
それが、何とも新鮮で…彼女に言うのが少しだけ遅れた。
「あー、ごめんごめん。ところで何故?普通は白い服とか、死んだ時に着ていた服とかじゃないの?」
「知らない。でも、死んだ時の服だったら血まみれで気持ち悪いじゃなーい。私、そんなの駄目!白い服は……きっと何かの手違いで支給されなかったのね。
あっ、だからじゃない?私がここに居られるのは!私ってラッキ〜。」
ラッキ〜って、他人を庇って死んだくせによく言うよ。
前から感じてたけど、こいつどっか変なんだよな。
「あのさぁー、もう一つだけ聞いていい?」
「なーに?さっき一つって言ったくせに!でも、仕方ないから答えてあ・げ・る」
へたくそなウインクをしながらそう言った彼女は、俺には少し前から、幽霊ではなく小悪魔に見える。
「お前、さっきからわざとあぐらを掻いてるだろ?さっきから丸見えなんだよ!」
「だとしたらどうする?」
「そんなヤツには、お仕置きだな!」
「どうやって?私に触りたくても、触れないでしょう?ほら!」
「お前、随分と大胆になったな。」
「だって、死んだら恐いもの無しだもん!」
そう言っている彼女は、さっきから俺の顔を跨いでいる。
こいつ、やっぱり幽霊じゃなくて小悪魔だ!