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泣けないバンシー

作者: みかんネコ


若干細かくされすぎたかんのある玉ねぎを前に私たち二人は大変焦っていた。


「どうしようティーン。泣けない」

「うん。ここまで来ればすげーよお前」


ティーンが苦笑いでそういう。

うんその気持ちよくわかる。なんせ実は私も若干引いている。


「何でタマネギ切っても涙がでないんだよ。」

「ほんとだよ。どうしよう私」

「ほんとまじでどうすんだよ」

「どうしよう、わたしバンシーなのに!」



   泣けないバンシー



 バンシー。それは家に着くイキモノではない何か。高貴な家についてその家の家人が亡くなるのを泣いて知らせる。と言っても私は見習いも良いところで一回もその役目を果たしたことがない。

 何故なら私は泣くことが出来ないから。出来ないんだもん、しょうがないじゃん。だってどうしたら目から液体がでてくるの!?ほんとに謎!


「泣きかたが分からないっていわれてもな」


ティーンが玉ねぎによってやられた目を洗う。ちなみに彼はブラウニー。靴屋の小人なんかに出てくるお手伝い妖精。今も見るも無残になったなった玉ねぎを美味しいオニオンスープに変えてくれている。







「人間だったときも泣かなかったのか?」


ティーンがそんなことを言ってくる。うーん、どうだったかな?


「確かに泣いた記憶はないなぁ」

「・・・まじで?忘れてるとかじゃなくて?」

「うん、たぶん。だって私夫に二股かけられて子供残してトンズラされたり、子供が逮捕されたりとか、カントウされたのに介護が必要だからって無理に実家に戻されたりしたけれど泣いてないみたいだし」

「・・・それは・・・すごいな」

「私もちょっと思う」

「因みにカントウされたって言うのは?」

「高校に行きたいって言ったら殴られたから、家出してそのまま。親のハンコ貰いに行ったら既に私の部屋がなかった」

「・・・なにそれ」


ティーンに大いに引かれた。

うん、分かるよ。私でもそれが自分じゃなかったら引いている。


「何でそんな奴がバンシーやってるんだよ」

「しょうがないじゃない。選べなかったんだから」


気がついたらバンシーだったんだもの。しょうがないじゃない。


「ここのうちの人は良い人たちだから最後ぐらい、と思ったのだけど間に合わないかしら」


バンシーが泣くような家には幸せな家庭であると呼ばれる。

私たちはそういうイキモノらしい。


「間に合わせるために俺が手伝ってるんだろ、頑張れよ」

「でももう、手がないわよ」


感動ものの映画を見る。失敗。

寒い外で一晩過ごして温かいミルクに感動しよう作戦、失敗。

怖い話で泣かせよう作戦、失敗。

ペットの死に際に立ち会おう作戦、失敗。

高いところで宙づり作戦、失敗。

顔面殴ってもらって物理的に泣こうぜ作戦失敗。

こうなったらもう自棄だ、タマネギ作戦、失敗。


正直、出尽くした感がある。


「もう少し、強く殴ってもらえたら泣けるかも」

「それはヤダね。ていうかその作戦俺は反対したんだからな」

「でも人間だったときにお父さんに殴られたときの方が痛かったわよ」

「」

「こうなったら崖から飛び降りでもしようかしら」


あまりの怖さに少しぐらい泣けるかもしれない。


「やめろ。やるなよ絶対やるなよ」

「やらないわよ。下手したら死んでしまうもの。恩返しが出来てないうちに死ぬ気はないわ」

「恩返しが出来てもやるなよ」

「なんで」

「なんでって・・・そうだ、あれだ。俺、おまえに恩を返してもらってないだろ」

「そうだったわね。じゃあ、返してからにするわね」

「お前やる前に俺に聞けよ。恩は返し終えたかって」

「わかったそうする」


ティーンにはお世話になった。色々教えてくれたし、私なんかにつきあってくれるし。


「そしたら、返し終えてないっていってやるから」

「なんかいった?」

「いや」


なんかぼそっと聞こえた気がしたんだけど。

まぁ、いっか。


「じゃあ、バンジージャンプはどうかしら」

「?」

「ひもでくくってから飛び降りるやつよ。単に飛び降りるよりは安全でしょう?何よりおもしろいし」

「おもしろい?」

「おもしろくない?ばんしーのばんじー」

「むしろ寒いわっ」


自信あったのに、残念。


「そもそもお前、高いところから飛び降りるの怖くないだろ」

「いやそうだけど。やってみたら怖いかもしれないじゃない」

「じゃあ、目をつむってみろ」

「瞑ったわ」

「やっているところ想像してみろ」

「うん」

「怖いか」

「いいえ、まったく。あ、今ちょうど着地した」

「だめじゃん」


そうね、ぜんぜんダメね。


「どうすればなけるかしら」

「俺は何でお前がそんなに泣かないのかがわからない」

「泣けないとこの家に私何にも出来ないわ」

「もう、何もしなくてもいいんじゃね」

「それは私が嫌なの。このうちの人には私よくして貰ったもの」

「そうだな」

「だから私がんばらなくちゃ」


それにしても泣くって難しいのね。

他のバンシーはすぐにわんわん泣くものだからもっと簡単なことだと思ってたのに。


「難しいわね。ティーン他に案はあるかしら」

「・・・」

「聞いてる?ティーン?」

「・・・」

「ねぇ、ティーン?・・・ティーン?」


「お前さ、本気でなくきあんの?」

「あるわよ失礼な」

「じゃあ何で泣くなんて簡単なことさえ出来ないんだよ。もう俺は知らないからな」


そういって走っていってしまうティーン。

もしかして私ティーンに嫌われた?

うそ、嫌だ。そんなの。


私なんかにいつも声をかけてくれるティーン。

いつも笑いながら私と話すティーン。

わたしのつくった変な形の帽子をいつもかぶってくれているティーン。


ティーン、私のこと嫌いなっちゃった。

嫌だ。そんなの嫌だ。

思わず、口から本音が出る。


「い、嫌だ行かないで」


「冗談だって」


「へ?」


後ろからティーンの声がしたと思ったら本当にティーンだった。


「なんで?なんでいるの?」

「なんでっていわれても」

「だって、私のこと嫌いになったんじゃないの」

「ごめん、あれ嘘」

「うそっ!?」

「悪かったって。だからもう泣き止め。お願いだから」

「へ?」

「あぁもうハンカチかしてやるから」

「私泣いてるの?」

「そうだよ」

「ほんとに?」

「ほんとだって」

ほんとだ。頬が濡れてる。

「やった!!!」

ようやくこれでこの家の人に恩返しが出来る。

やった。よかった。


「ほら泣くか喜ぶかどっちかにしろ」

「無理よ。だって泣いたことないんだもの」

やったことないものの終わらせ方なんて知ってるわけないじゃない。

「落ち着けって言ってるんだ」

「落ち着いてなんかられないわ。だって泣いてるのよ、この私が!」


やっと泣けたのだ。やっとやっと、やっと。


「あぁもう。ほら、これでも飲んで落ち着け」


そういって出されたのはティーンの手作りオニオンスープ。

湯気が立ち上る黄金色のスープ。

私の大好物だ。


「うんありがとうおいしい」

「せめて飲んでからおいしいって言え」

「飲まなくてもわかるし」

「そういうことぽんぽんいうな」

「なんで」

「なんでもだよ」

「じゃあ、飲んでから言うね」

「笑顔で言うな」

「もう、注文が多いなあ」


「でも泣けてよかった」

「うんそうだな」

「これで私でも役に立てるかな」

「きっとできるさ」

「ただ、泣き”叫ぶ”が出来てないのよね」

「あっ」


バンシーの道はまだまだ果てしない。


*おわり*



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