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勇者のおともだち(連載版)  作者: 富士本仙人掌
7/9

村に出没するゴブリンを討伐してください

「もう誰も引き受けてくれなくて……魔女さん、お願いできませんか?」

 赤毛ちゃんが困ったような顔で、両手を合わせてお願いしてきた。

「でもねー。討伐クエストは苦手なんだよねー」

 戦闘が苦手だという意味ではない。

 むしろ私は世界最強だという自負すらある。いや、覇龍と戦ったら私でもかなり危険かもしれないが、そこら辺の魔物には絶対に負けない。


 苦手な理由は別にある。


「とか言いながらいつもやってくれてるじゃないですかぁ」

「それはさぁ……」

 誰もやりたがらない、でも誰かがやらなきゃいけない。

 だから仕方なく引き受けているだけで、

「好きでやっているわけじゃないよ?」

「そこをなんとか!」

 両手をパンパン、さらに頭を下げて懇願する赤毛ちゃん。

「うーん……」

 なんだかわからないけど、赤毛ちゃんのお願いは断りにくいんだよなー。

「『ウサギさんの酒場』で大ラマのバター焼きと氷結エール、奢りなさい」

「魔女さん!」

 赤毛ちゃんの顔がぱぁと明るくなる。

 そう、その笑顔に弱いのだ、私は。ていうか、都の冒険者なら全員、この笑顔には弱いのだ。



 近隣の村からの依頼でゴブリン討伐、これほど初心者冒険者にふさわしいクエストはない。

 勇者だって最初はゴブリン討伐から始めたはずだし、千里の道も一歩から、初心者はまずここから始めるのだ。

 ゴブリンは繁殖力が強いし、群れると厄介だが、単体は貧弱である。

 おまけに襲うのは城壁に囲まれた都市ではなく農村ばかり。

 農村は金銭的に余裕がない事が多く、ゴブリン討伐のクエストは自然と報酬が安くなる。

 そういった複合的な理由が相まって、あまりゴブリン討伐を受けたがる人はいない。私だって出来れば受けたくない。

 どこかの世界にゴブリン討伐を専業にしている人がいるらしいが、尊敬以外の言葉が出てこない。



 ゴブリン討伐ごときに時間はかけたくないので、村の人への挨拶もそこそこに、サクッとゴブリンの住処に到着した。

 早朝に都を出発したのでまだ日は高い。

 これなら今日中に都に帰れるだろう。



 洞窟の入口に目をやると、見張りのゴブリンが二体。

 二体も見張りを立てられるという事は、それなりに大きな群れかもしれない。



 ……だが、そんなことはどうでもいい。



 後方に意識を向ける。

 よし、誰も見ていないな。


 私は木陰から立ち上がり、逃げも隠れもせず、真っすぐに入り口を目指す。

 するとゴブリン達は、

「ギ……ギイギイ(ま……魔王様)!」

 礼儀も何もあったもんじゃないが、精一杯に頭を下げたり膝をついたり、自分たちなりに恐縮してくる。

 うんうん、苦しゅうない。

(大将に会わせて)

 見張り二体に念話を送る。


 まがりなりにも魔王たる者、魔物とコミュニケーションをとれるのは当たり前。私も大体の魔物の言語は聞き取れるし話せるのだが、基本的に念話で話しかける。

 魔物の言葉を発しているところを人に見られたくない、という理由もあるが、魔物の言葉って喉に優しくない言語が多いんだよね。

 ゴブリンの言語とか、発すると喉がイガイガしてくるので特に使いたくない。


「ギイギイ(かしこまりました)! ギギギイ(奥へどうぞ)!」

(嫌だよめんどくさい。連れてきて)

「ギイ(ごめんなさい)!」


 慌てて洞窟の中へ消えていくゴブリンたち。


 これでクエストの九割が終了した。

 残りの一割が一番大変なんだけどね。


 しばらくして洞窟の奥から現れたゴブリンの大将。

 ゴブリンロードと呼ばれるヤツ。

 普通のゴブリンと並んでいるのを見ると相対的にデカいとか、相対的に装備が豪華だとか、一応違いがわかるが、並んでいるのを見ないとわからない。

 これがまた罠で、普通のゴブリンだと思ってなめてかかると意外に強くて初心者パーティ全滅、なんてことはザラにあるわけだ。

 魔王でさえ区別が困難なのだから人間だとさらに見分けがつかないんじゃないかな。

「ギイヤッギヤ(これはこれは魔王様)ギイギイ(お目にかかれて光栄です)」

 あと、相対的に言語の表現が豊かになって礼儀もできているんだけど、それだってただの人間にはわかるはずもない。


 さて、ゴブリンの大将が出てきたところで、この仕事最後の一割をこなす。

 これが一番大変……というか、胸が痛むのだが。


 言いながら、胸の奥がチクッと痛む。





 ごめん。君たち、ここ、出て行って。





「あーりーがーとーですー!」

 私の両肩を掴んでブンブン、赤毛ちゃんの過剰な感謝をいただきながら大ラマを食す。

 相変わらずおいしいね。

「そりゃそうだよー。だって魔女さん毎日大ラマじゃん。私だって毎日大ラマ焼いてたら嫌でも上手くなるよ。もう最近じゃ大ラマならさわっただけで焼き加減がわかるからね」

 ウサギさん、変なスキル覚えさせてごめんね。

「魔女さんのー、おかげでー、うちのギルドはー、成り立っているのですー!」

 はいはい、赤毛ちゃん、わかったから落ち着こうね。

 あなたのせいで大ラマこぼしたら、世界制服企んじゃうよ?


 魔物の住処に行って、ボスに会って、出ていけと命令する。

 クーデターを企てていない限り、魔物たちは私に絶対に逆らわない。

 魔王が魔物を討伐しにいけば、そりゃ百パーセント成功するのだ。当たり前だ。


 だが、魔物たちだって長い旅路の果てにようやく見つけた住処をいきなり「出ていけ」と言われたら、たまったもんじゃない。

 人間と違って多少は頑丈だから、住処を奪われたところで死にはしないが、やっぱり『帰る所』は人間にとっても魔物にとっても必要なものである。


 いやいやながらも私が討伐クエストを受注するのは……人間と魔物、双方の被害を最小限に抑える解決法をとれるのが私だけだからだ。

 魔物たちに「出ていけ」というのは心苦しいが、それで少なくとも誰も血を流さずに済むのだ。


 これを他の人間に任せたら、どちらかの陣営に必ず被害が出る。


 どういうわけか、私たちの想像を超える何かの力が働き、人間と魔物は相容れない存在として創造され、お互いに争うことが宿命づけられている。

 それくらいはわかっている。

 私だっていつか勇者と戦わなければならない。

 それだってわかっている。


 それでも、私はつい考えてしまうのだ。


「しっかし、みんな仲良く過ごせる、平和な未来ってないのかな?」

「ガー」

 赤毛ちゃんは気付けばお休みモード。寝息うるさいな。

「うーん……」

 ウサギさんはしばし思案顔になり、


「勇者が魔王を倒せばいいんじゃないかな?」


 おお、本人の前でそれ言うかー

 それからカウンターからこちらに身を乗り出し、

「だからだからー、魔女さんが勇者のパーティに入ればいいんだって。あそこ、ちょうど魔法使いがいないしさー、魔女さんが勇者と組めば最強パーティだよ! 魔王だってちょちょいのちょいだよ!」


 そうかそうか、私が勇者のパーティに入ったら最強でしょうね。

 魔王なんて・・・・・・


 ――それなら、ますますパーティに入るわけにはいかないね。

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