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勇者のおともだち(連載版)  作者: 富士本仙人掌
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壺男爵は手も足も出ない

「すまない……お前を助けるにはこうするしかなかった……」

 いやいやちょっと待ってくれ。それ、マジかよ、本気かよ、本気と書いてマジかよ。

「どうか、娘を頼む……」

 それは構わないよ。喜んで面倒見てやるよ。あの子はわっしにとっても生きがいなんだから。

「お前たちを残して先に消えてしまう私を、許してくれ……」

 だからって……だからってさぁ……



 壺はないだろ、壺は……



 魂を物質に繋ぎ止めるという魔術は、魔族の間では割とポピュラーな部類である。

 だからって壺はないけどね。普通は鎧とか、『動かしようのあるもの』に繋ぎ止めるけどね。せめて宝箱だよね。せめてミミックにすべきだよね。

 たまたま近くにあったからって壺はないよね。

 魔王の親族を壺にするとかありえないからね。人道的見地から見て大問題だからね。わっしにだって人権あるからね、人間じゃないけどさ。魔族の権利って何? 魔権?


 壺の中から視界に映るのは天井、時々空、稀に星空、中を覗き込む人の顔。

 感覚と呼べるものはほとんどない。

 渇望する肉体がなく、欲を満たしてやる器がないのだから欲らしい欲もない。

 空に手を伸ばしても届かない、ていうか手がない。

 地に足がつかない、ていうか足がない。

 手も足もない代わりに、わっしはあらゆる壺の中を自由自在に行き来できる。

 わっしは世界中の壺であり、世界中の壺がわっしである。

 割れた壺には移動できないので、わっしに会うのが怖い方は家じゅうの壺を割ればいい。もっと言うと、そもそも家に壺なんか置かなければいい。そうすれば皆さんの生活を煩わせることはないのだから。


 このように強力な能力を持っているようにも見えるが、わっしの力と言えば壺の間を行き来するだけである。

 地獄の業火で町を焼き払ってやるだとか、人々を絶対零度の氷の世界に閉じ込めるだとか、そんな力はない。わっしの目を何時間見たって催眠にかかるといった事はない。

 魔王の伯父という肩書があるだけで、何もできない無力な魔族、それが今のわっし。


 壺の間を行き来する程度の能力しかないわっしの役目と言えば、諜報活動くらいなものである。

 だから今日もこうして世界中の壺を渡り歩いては情報を集めているわけだ。


「あなたの傍で、あなたのために一生祈り続けたい……」

 おだやかな、それでいて内に秘めた強さを感じる女性の声。生憎わっしの目には手を伸ばせば届きそうな程に低い木目調の天井が見えるだけ。手がないから伸ばせないけど。

 彼女の姿までは見えないが、今どんな状況なのかくらいはわかる。

 これはこれは……面白いものにでくわしたぞ……

「……え?お前もなの?」

 対する男の声はなんとも間抜けだし、しれっと失言している。

 お前、それではどこかで別の女に告白された事がバレバレではないか……

「……"も"?」

 ほら、バレてる。

「あ、いや、ち、違うんだ、そうじゃなくて……」

「何が違うんですか!? "も"って何ですか!?まさか……」

「……うん。実は、昨夜『告白橋』で……ごめん」

 ああ、これは振られたな。残念。

「うん、うん、そうだよね。あの子、可愛いし、ずっと一緒だったんだもんね……私じゃ、私なんかじゃ最初から盗賊さんとは勝負にならなかったんだよね……わかってたよ……」

「……え? 何言ってるの? 何か誤解してない?」

「いいの! 私はただ、あなたに気持ちを伝えたかった! それだけ、それだけなの!」

「いやいやいやちょっと待って! 俺、告白されたってだけで、オーケーしたわけじゃ!」

「今までありがとう! 短い間だったけど、辛い事もあったけど、一緒にいられて楽しかったよ! さようなら!」

 バタン、と扉が開き、遠ざかる足音。


 この男女は、どこかものすごいすれ違いを起こしている気がするのだが、大丈夫だろうか?


 心配したところでわっし、壺だし、手も足も出ないし。

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