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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
97/110

嫉妬心

 なんとか気持ちを落ち着かせた私は、朝食を食べる為にダイニングルームに向かった。

 すると、昨日と同じように高円寺が扉の前で私を待っていたのだ。


「やあ、詩音おはよう。今朝は挨拶もしないで、突然押し掛けてごめんね」

「あ、おはようございます・・・正直、雅也さんがあんな行動されるとは思っていなかったので、ビックリしました。あ、それで昨日の事なんですが・・・」

「ああ、あれは詩音が悪い訳じゃ無いから、気にしなくて良いよ」

「で、でも!!」

「それよりも、今朝の寝間着姿の詩音は可愛かったよ。いつかじっくりと見たいな」

「っ!!ま、雅也さん!!」

「ふふ、さあそろそろ中に入ろうか」


 私が今朝の事を思い出し、顔を熱くしている様子を高円寺は楽しそうに見ながら、ダイニングルームに入るように促してきたので、私はもうこれ以上何も言わないでおこうと心に決め高円寺と一緒に部屋へ入っていった。

 やはりこちらも昨日と同じように、すでに高円寺夫妻が揃って席に座り、高円寺弟は高円寺母の腰に抱き着いていたのだ。

 しかし昨日と違う事があった。それは、高円寺弟がとても不機嫌な顔で高円寺母に抱き着いている事だ。


・・・まあ今朝あんな感じに、無理矢理連れて行かれたからな~。


 その不機嫌な理由が大体予想がついていたので、私は苦笑しながらも高円寺夫妻に朝の挨拶をする。


「お義父様、お義母様、おはようございます」

「ああおはよう。よく眠れたかい?」

「はい!とてもよく眠れました!」

「それは良かった」

「おはよう詩音さん。・・・どうも瞳也が、ご迷惑掛けたみたいでごめんなさいね」

「いえ!迷惑だなんて!むしろ、瞳也君の抱き心地の良さで逆にぐっすり眠れました!」

「ふふ、それならそれで良かったけれど・・・あまりそのお話すると、雅也の顔がどんどん怖くなるわよ?」

「え?」


 高円寺母の言葉に、私は横に立っている高円寺の顔を伺い見ると、明らかに眉間に皺が寄っているのが見てとれたので、私はすぐに口を噤んだ。


「さあ詩音、いつまでも立っていると食事が始まらないから座ろうか」

「は、はい」


 高円寺にそう促され、私は昨日と同じ席に座る事にした。

 やはり今回も高円寺が素早く先回りして椅子を引いてくれ、私はお礼を言ってその椅子に腰掛ける。

 そしてこれも同じように、高円寺は私の隣の椅子を引いて座ろうとしたのだ。

 すると視界の端に、大急ぎでこちらに駆けてくる高円寺弟の姿が映った。

 私はそれを見て、ああ今日も隣に座りたいんだなと思ったのだ。

 しかし今日の高円寺は、昨日の高円寺と違った。

 その駆けてくる高円寺弟に気が付いたのか、素早い動きでさっさと椅子に座ってしまったのだ。


「あーーー!!そこぼくがすわるの!!!」

「駄目だ」

「なんで!きのうはいいっていったのに!!」

「その昨日言っただろ?『今回だけ』だと」

「でも、ぼくここがいいの!しおんおねえちゃんのとなりがいいの!!」

「駄目だ。詩音の隣は私の場所だ」

「えーーー!!」


 何故か私の隣の席を巡って、高円寺兄弟の言い争いが起こってしまい、私はどうしたら良いか分からずオロオロしてしまう。

 しかしそこに、高円寺母が口を挟んできた。


「あらあら、も~う瞳也、今回は諦めなさい。昨日は雅也に譲って貰ったんだから」

「でも!!」

「・・・瞳也はそんな聞き分けの悪い子じゃ無いわよね?もしそうじゃ無いと・・・お母様泣いてしまうわ」


 そう言って、高円寺母は目を伏せて目元を手で覆う。


「お、おかあちゃま!ごめんなさい!ぼくいいこにするから、なかないで!!」

「・・・じゃあ、今日はお母様の隣で食べてくれる?」

「うん!ぼく、おかあちゃまのとなりでたべる!」

「ふふ、良い子ね。さあ、こちらにいらっしゃい」

「はぁ~い!」


 私はその高円寺母と高円寺弟の様子を見て、呆気に取られていたのだった。


さ、さすが母親だ・・・。


 そう唖然としていると、あっという間に高円寺母の隣に席と食器が用意され、そこに高円寺弟がお行儀よく座ったのだ。

 そして何事も無かったかのように料理がテーブルに運ばれ、私達はそのまま朝食を取る事になったのだった。



 朝食を終えた私は部屋に戻り、少し休憩してから身支度を整える。

 するとメイドから、帰りの用意が出来たと声を掛けられたので私は手荷物を持ち急いで玄関の外に向かった。

 私が玄関先に到着すると、すでに高円寺達家族四人が立っていて話をしていたのだ。


「すみません!遅くなりました」

「詩音、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ああそれが荷物だね。先に車に乗せておくよ」

「ありがとうございます」


 高円寺は私が持っていた荷物を手に取り、用意してあった車のトランクに仕舞ってくれた。

 そして私はその間に、高円寺夫妻と高円寺弟に別れの挨拶をする事にしたのだ。


「大変お世話になりました」

「詩音さん、またいつでもいらして良いからね」

「はい!お義父様、ありがとうございます!」

「ふふ、本当に待っていますわよ。その時の為に、私沢山服を用意しておきますからね」

「ア、アリガトウゴザイマス・・・」


 高円寺母の微笑みながらのその発言に、私は頬を引きつらせながら返事を返したのだった。

 そして次に、高円寺母のスカートに顔を埋めて明らかに拗ねている高円寺弟に声を掛ける。


「瞳也君・・・またね」

「・・・しおんおねえちゃん、かえっちゃいや!!」


 高円寺弟はそう言いながら、目に涙を一杯溜めた顔で私を見てきたのだ。

 私はその顔に、思わず「帰らない!」と言ってしまいたくなる衝動が沸き起こった。

 だけどさすがにそうする訳にもいかないので、その言葉をグッと堪えて高円寺弟に微笑み掛ける。


「瞳也君、ごめんね。でもまた絶対会いに来るから」

「・・・ほんとう?いつ?あした?」

「い、いや、さすがにそんなすぐには無理だけど、必ず瞳也君に会いに来るからね。だから、お義父様とお義母様の言う事聞いて良い子で待っててね」

「・・・わかった。ぼくいいこでまってる!だからはやくあいにきてね!」

「うん、分かったわ」

「それじゃ、かえるまえにギュッとしてくれる?」

「ふふ、良いわよ。さあ、おいで!」


 私は、そう言ってしゃがみ込み両手を広げた。

 するとそれを見た高円寺弟は、満面の笑顔で私に走り寄りその小さな体で私に抱き着いてきたのだ。

 私はそれを可愛いと思いながらも高円寺弟を優しく抱きしめ、その柔らかい感触の髪を確かめながら頭を撫でてあげた。

 そして高円寺弟はそれが嬉しかったのか、ニコニコしながら私の胸に顔を擦り寄せていたのだ。


「しおんおねえちゃんのおむね、やっぱりだいすき!」


 そう言ってさらに顔を擦り寄せてくる高円寺弟に、私はクスクスと笑いながら頭を撫で続ける。

 するとその時、私の後ろから腕が伸びてきて高円寺弟を無理矢理私から引き剥がしてくる人物がいた。

 私は驚いて顔を上げると、無表情の高円寺が暴れる高円寺弟を胸に抱いていたのだ。


「いや!おろして!まさやにいちゃんのいじわる!!」


 そう言って怒っている高円寺弟を胸に抱きながら、高円寺は無言で高円寺母の下まで歩いていき、高円寺弟を高円寺母に預けた。


「・・・母さん、瞳也の事お願いします」

「あらあら、ふふ、分かったわ」

「おかあちゃまおろして!」


 高円寺母に抱かれながら暴れる高円寺弟と、それを無視してこちらに無表情で歩いてくる高円寺を、呆然と見ながら私は立ち上がる。

 すると目の前まできた高円寺が、突然私を横抱きに抱え上げてきたのだ。


「ま、雅也さん!?」

「・・・さあ、行こう」


 私が驚きの声を上げている内に高円寺は、私を抱え上げたままあっという間に車の所まで歩き、ドアを開けて私を助手席に座らせシートベルトを閉めてくれた。

 そして高円寺も運転席に乗り込み、シートベルトをしてからエンジンを掛ける。

 私はそのエンジン音でハッとし、慌てて窓を開けて高円寺夫妻に別れの挨拶をした。


「お世話になりました!また来ます!」


 そう大きな声で私が言うと、高円寺夫妻は笑顔で手を振ってくれ、高円寺弟も涙目になりながら小さく手を振ってくれたのだ。

 私はその健気さに心を打たれながら、笑顔で手を振り返す。

 そうしている内に高円寺は車を動かし、私の高円寺家訪問は終わりを告げたのだった。



 高円寺の運転で、私の実家に送って貰っている間に昼食と夕食を済ませた私達は、すっかり辺りが暗くなってしまったぐらいに、漸く早崎邸が僅かに見える敷地内の林の中の道路を走っていたのだ。

 私は邸が見えた事で帰ってきたと実感し少しホッとしていた所、何故か突然高円寺が道路の脇に車を停めた。


「あれ?雅也さん、どうかし・・・んん!?」


 助手席の窓から外を見ても周りには何も無かったので、私は不思議に思いながら高円寺の方を振り向き、カチャリとシートベルトの外れる音とシートがギシッと鳴る音が同時に聞こえたかと思った瞬間には、すでに私は高円寺に唇を塞がれていたのだ。

 その突然の事に私は激しく動揺し、目を見開いて目の前にある端正な高円寺の顔を見つめていたが、キスが思った以上に深く耐えられなくて目を瞑ってしまう。

 すると高円寺はさらに私の方に身を寄せてきて、キスを深くしてきたのだ。

 そうして暫く高円寺の激しいキスに翻弄され、漸く離れてくれた時には私はすっかり息が上がってしまっていた。


「ま、雅也・・・さん・・・」

「・・・すまない詩音。だけど、どうしても抑えきれなかったんだ」


 そう言って高円寺は、まだ私の座っているシートに手を掛けながら私の目の前で落ち込んだ顔をする。

 しかし私は、何故そんな顔をするのか息を整えながら不思議に思っていたのだ。


「・・・雅也さん?」

「私は・・・あんな幼い弟に嫉妬していたんだよ。普通に考えれば、あの幼い弟に詩音が取られる事は無いと分かっているのに、どうしても目の前で詩音と仲良くする弟に、私の心の奥底でどす黒い炎が燃え上がっていたんだ」


 そう辛そうに話す高円寺を見て、私は嬉しいと思ってしまった。


雅也さんが嫉妬してくれてる・・・それほど私を思ってくれてたんだ!凄く嬉しい!!


 私はそう思うと、自分のシートベルトを外し目の前にいる高円寺の首に手を回して抱き着いたのだ。


「詩音!?」

「雅也さん、私嬉しいです!!大丈夫ですよ、私は雅也さん以外誰のものにもならないですから!」

「っ!詩音!!」


 高円寺は私の言葉に言葉を詰まらせ、そして私を強く抱きしめてきた。

 私はその高円寺に応える為、私もさらに高円寺を強く抱きしめる。

 そして私達は、再び唇を重ね合わせ暫く二人っきりの世界に浸っていたのだ。

 そうして長いキスを終えた私達は、高円寺の運転で邸の玄関先まで送って貰い、降りる前にもう一度高円寺から軽くキスをされてから、去っていく高円寺の車を見えなくなるまで手を振って見送ったのだった。

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