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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
96/110

おやすみ前の・・・

 高円寺弟の部屋を後にした私達は、部屋に戻る前に当初の目的であった高円寺邸の庭を見ていく事にした。

 今日は前の満月と違い三日月だった事で、月の光は前ほど明るくは無かったのだが、うっすらとしたその明るさがそれはそれで庭を美しく見せる効果を果たしていたのだ。


「綺麗・・・」


 私はうっとりとそう呟き、目の前に広がる庭を眺める。


「ありがとう。でも、詩音の実家の庭に比べると普通だろ?」

「そんな事無いですよ!ここは、とても素敵なお庭じゃないですか!」


 そう私は力強く言い切り、目の前に広がる庭を見渡す。

 その庭は基本的に花は植えられていなかったが、代わりに多くの木が植えられていた。

 しかしその木々は様々な種類があり、そして背の高い木や低い木が計算された位置に植えられていて、さらに葉を綺麗に切り揃えられている。

 その全体的に計算されていて美しい庭を、私は感心しながら見ていたのだ。


「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」


 高円寺はそう言って、嬉しそうに微笑んでくれた。

 そうして私と高円寺は手を繋ぎ、少し庭を散歩する事にしたのだ。


「・・・しかし瞳也が、あそこまで詩音に懐くとは思わなかったな」

「そうなんですか?」

「ああ、実はああ見えて瞳也は人見知りが激しいんだよ」

「え!?全然そうは見えなかったですよ?」

「う~ん普段は私達家族か、この家で働いている使用人の人達にしか懐かなくてね。たまにお客さんが来ると、その懐いている誰かの後ろに隠れて一切懐こうとしなかったんだ」

「ですけど、私の時はすぐに懐いてくれましたよ?」

「正直それは私も驚いたが・・・まあ詩音だからね」

「へっ?それはどう言う意味ですか?」

「詩音には、何故か人を惹き付ける不思議な魅力があるんだよ」


 そう言って高円寺は、じっと私を見つめてきた。


「かく言う私も、初めて君を見た時に君に惹き付けられた一人だからね」

「雅也さん・・・」


 私達はそのまま暫く、月の光を浴びながら見つめ合ったのだ。


「さあ、そろそろ部屋に戻ろうか。部屋まで送って行くよ」

「・・・はい。ありがとうございます」


 そうして私は、高円寺に肩を抱かれながら用意して貰った部屋に向かった。



 部屋の前に到着した私は高円寺にお礼を言う為、顔を高円寺に向ける。


「雅也さん、送って頂きありがとうございました」

「どういたしまして・・・ねえ詩音、おやすみのキスして良いかな?」

「・・・ふふ、今度は聞いてくれるんですね」

「あの時は、詩音の驚く顔が見たかったからね」

「雅也さん!」

「あの時の詩音、可愛かったよ」

「・・・っ!」

「ふふ、今の詩音も可愛いよ。・・・さあ、しても良いかな?」

「・・・はい」


 私は恥ずかしがりながらも小さく頷き、顔を上に向ける。

 すると高円寺は、そんな私を見ながら微笑み目を閉じて顔を寄せてきた。

 私はそんな高円寺を受け入れる為、目を閉じようとしたのだ。

 しかしそこで何か視線を感じ、目だけ動かして横を見て驚愕に目を見開いた。


「瞳也君!?」


 私はそう驚きの声を上げ、急いで高円寺から身を離し横を向く。

 何故ならそこには、じっと私達を見つめて立っている寝間着姿の高円寺弟がいたからだ。

 高円寺は私の声に動きを止め、うっすらと目を開けて横を見る。

 そして凄く不満そうな顔で、小さくため息を吐いたのだ。


「・・・瞳也、どうしてここにいるんだ?」

「だって・・・おきたら、しおんおねえちゃんもまさやにいちゃんもいないんだもん!」

「ああごめんね。瞳也君、気持ち良さそうに寝てたから起こしたら悪いと思って・・・」

「ぼく、さみしかったよ・・・だから、きょうはしおんおねえちゃん、ぼくといっしょにねよ!」

「え!?」

「瞳也!!」


 高円寺弟の発言に、私と高円寺は驚きに目を瞠る。


「・・・だめ?」

「うっ!」


 潤んだ瞳で私の事をじっと見つめてくる高円寺弟に、私は声を詰まらせてしまう。


「瞳也!さすがに詩音が困っているから我慢しなさい!」

「え~!」

「あ、雅也さん、私はべつに構わないですよ?」

「詩音!?」

「わぁ~い!やったー!しおんおねえちゃんといっしょにねれる~!」

「ふふ、そんなに喜んでくれるなら私も嬉しいよ」

「くっ、それなら私も・・・」

「いやいや、さすがに雅也さんは無理です!」


 高円寺が悔しそうにしながらそう言ってくるので、私は慌てて拒否した。


「しかし!」

「ねえねえしおんおねえちゃん、さっきまさやにいちゃんとなにしてたの?」

「へっ?」

「ふたりとも、おかおがちかかったけど?」

「うっ!そ、それは・・・」

「ねえねえ、なにしてたの?」


 高円寺弟の純粋な瞳で問い掛けてくるその様子に、私はどう答えれば良いか分からず言い淀んでしまう。

 しかしそんな私達の様子を見た高円寺は、深くため息を吐くと諦めたように高円寺弟を見る。


「おやすみのキスだ」

「なっ!雅也さん!?」

「私は何も間違った事は言ってないよ?」

「そ、そうですけど・・・」

「・・・きすってちゅうのことだよね?それぼくもしてほしい!!しおんおねえちゃん、ぼくにおやすみのちゅうして~!」

「ええ!!」

「瞳也!さすがにそれは駄目だ!」

「え~!まさやにいちゃんだけずるい!ぼくもしてほしいもん!ねえねえ、しおんおねえちゃんおねがい!!」

「・・・分かった。良いわよ」

「詩音!!」

「まあまあ雅也さん、瞳也君はまだ子供なんだしそんなに目くじら立てなくても・・・」

「だが!」

「ねえ、しおんおねえちゃん!はやくやって~!」


 高円寺弟が期待を込めた瞳でじっと私を見つめてくるので、私は苦笑を溢しながら高円寺弟の前にしゃがみこむ。

 そして私は、そっと高円寺弟のおでこに軽くキスをしたのだ。


「うきゃっ!」


 高円寺弟はとても嬉しそうにおでこを両手で押え、頬を赤く染めながらきゃっきゃと喜んでくれた。

 私はそれを微笑ましく見ていたのだが、すぐ近くにいる高円寺からとても冷たい冷気が漂ってきているような感じがして、私は怖くて高円寺の方を見れないでいたのだ。


「じゃあ、ぼくからもおやすみのちゅうしてあげるね!」

「え?私は良いわ・・・ん!!」



 高円寺弟の申し出に、これ以上高円寺の機嫌が悪くなるのを恐れた私は、断りの言葉を言おうとして言い切れなかったのである。

 何故なら、高円寺弟がニッコリと笑いながら私の両頬をその小さな手で挟み、そしてその小さな唇を私の唇に押し当ててきたのだ。


うわぁ~雅也さんとはまた違った柔らかさだ・・・って!さすがに唇は!!


 私はドアップの高円寺弟の大きな瞳を見つめながら、激しく動揺してしまう。

 そうしている内に、すぐに高円寺弟は私から顔を離しそれはとても良い笑顔を私に向けてきたのだ。

 私はそれを呆然と見つめながら、ぎこちなく高円寺の顔を伺い見ると、高円寺はすっかり無表情になってじっと私達を見ていた。


ヤ、ヤバイ!これは相当怒っているよ・・・。


 高円寺のその無表情を見ながら、私は背中に冷たい汗が流れたのを感じる。


「ま、雅也・・・」

「ねえしおんおねえちゃん、ぼくもうねむい~!もうねようよ!」

「え?ちょっ!待って瞳也君・・・」

「まさやにいちゃん、おやすみなさい!」


 私はなんとか高円寺に言い訳をしようとしたのだが、それよりも早く高円寺弟が私の腕を掴んで部屋の中に引っ張られてしまったのだ。

 そして高円寺弟は扉から顔を出し、廊下で突っ立ったままでいる高円寺に、就寝の挨拶をしてさっさと扉を閉めてしまった。

 私はそれを唖然と見つめていると、高円寺弟はトコトコと歩いて一人で私のベッドに潜り込んでしまったのだ。

 それを目で追って見ていた私は、すぐにハッとして慌てて扉を開けるが、すでにそこには高円寺の姿は無かった。

 私はうなだれながら扉を閉めて、私のベッドに嬉しそうに入り込んでいる高円寺弟を見て小さくため息を吐いたのだ。

 とりあえず明日高円寺に会ったら話をする事に決めて、私は衝立の後ろで寝間着に着替えてから、部屋の電気を消して高円寺弟の隣に入っていく。

 すると高円寺弟は、ニコニコと笑顔のまま私に体を寄せてきて、私の胸に顔を埋めてきた。


「しおんおねえちゃんのおむね、やわらかくてきもちいい!」

「そ、そう?」

「うん!おかあちゃまのおむねのつぎにすき!!」

「・・・ふふ、ありがとう」


 少々コンプレックスだった私の小さな胸を、高円寺弟が喜んでくれたので、私はすっかり気分が良くなってしまったのだ。

 そうして、私の胸に顔を埋めている高円寺弟の髪を優しく撫でている内に、私達はいつの間にか眠りに落ちていたのだった。



 翌朝、私は暖かな朝の光を感じてゆっくりと目を覚ます。


「う~ん・・・もう朝か・・・」


 私はそうぼんやりと呟き、重い瞼を手で擦る。

 そして身を起こそうとして、ふとすぐ近くに暖かい感触を感じ胸の辺りを見た。

 そこには、規則正しい寝息を立てて可愛らしい寝顔をしている高円寺弟がいたのだ。


「ああ、そう言えば一緒に寝たんだった」


 私はそう思い出し、ずれてしまった掛け布団を高円寺弟の肩に掛け直してその寝顔をじっくり観察する。


「ふふ、可愛いな~。きっと雅也さんも、小さい時はこんな感じだったんだろうな~」


 そう思うと益々高円寺弟が愛しく感じて、思わずその頭に軽くキスを落としたのだ。


「ううん・・・・・しおん・・・おねえ・・・ちゃん?」

「あら、起こしちゃった?」


 高円寺弟は目をゴシゴシ擦りながら、まだ虚ろな瞳で私を見てきた。


「ふふ、瞳也君おはよう」

「・・・しおんおねえちゃん、おはようございます」


 そう朝の挨拶をした高円寺弟は、ニッコリと私に微笑んできたのだ。

 そして再び、私の胸に顔を埋めてきた。


「やっぱりしおんおねえちゃんのおむね、やわらかくてきもちいい!!」


 高円寺弟はそう言うと、私の胸に顔をグリグリと押し付けてくる。


「クスクス、瞳也君くすぐったいよ」


 私はその高円寺弟の行動に、くすぐったさを感じてクスクスと笑いながら身を捩っていた。

 するとその時、突然扉が強くノックされそこから高円寺の声が聞こえてきたのだ。


「詩音、起きてるかい?すまないが、瞳也を連れていきたいから入るよ!」

「え?え?ええ!?」


 高円寺の言葉に驚いている内に、高円寺はさっさと扉を開けて中に入って来てしまった。

 そしてベッドの上で、高円寺弟が私の胸に顔を埋めている姿を見て、眉を寄せて明らかに不機嫌な表情になる。

 しかし私は突然の出来事に付いていけず、呆然と高円寺弟を抱きしめたまま身を起こしていた。

 すると高円寺はすっと無表情になり、ずかずかとベッドに近付いてきたのだ。


「瞳也、そろそろ部屋に戻るんだ。メイド達が、瞳也の朝の支度が出来なくて困っているぞ」

「いやーー!!まだしおんおねえちゃんといっしょにねてるの!!!」

「駄目だ。さあ行くぞ」

「いやだ!いやだ!」


 高円寺は嫌がる高円寺弟を無理矢理私から引き剥がし、胸に抱き上げて再び扉に向かって歩いて行く。


「詩音、瞳也が世話になったね。ありがとう。じゃあこれで失礼するよ。また後で」


 そう高円寺は告げると、まだ暴れている高円寺弟を連れて扉から出ていってしまったのだ。

 私はそんな高円寺をただただ唖然と見つめていたのだが、ふと今自分の格好が寝間着だった事に気が付き、私は顔から火が出るほど顔を熱くして掛け布団を顔の辺りまで持ち上げ、朝の支度を手伝いに来てくれたメイドが来るまで、恥ずかしさに身悶えていたのだった。

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