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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
94/110

天使現る!?

 私は高円寺に案内されて、応接室にやってきた。


「ここで待つように言われているんだ。私達が来た事は連絡が行ってるだろうから、すぐに私の両親は来ると思うよ」

「は、はい!」

「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

「で、でも!やはり初めてお会いする雅也さんのご両親ですから、どうしても緊張してしまうんです!」

「本当に大丈夫だよ」


 高円寺はそう言って優しく頭を撫でてくれ、ソファに座るように促してきたのだ。

 私はまだ緊張しながらもなんとかソファに座ると、高円寺も私の隣に座って私の手を握ってきた。


「雅也さん・・・」

「こうしていれば、緊張も解れてくるかと思ってね」

「・・・ありがとうございます」


 高円寺の大きく温かい手の温もりに、次第に緊張の糸が解れていったのだ。

 するとその時、応接室の扉が開きそこから一組の男女が部屋に入って来た。

 男性の方は、ショートカットの髪を後ろに撫で付けるように綺麗に整えてあり、その面立ちはキリッと引き締まった精悍な顔つきをしていたが、眼差しは優しそうだと感じたのだ。

 多分高円寺が年を取ったら、こんな顔立ちになるのだろうと思った。

 次にその隣に立っている女性の方は、肩までで切り揃えてある綺麗な黒髪がよく似合っていて、その顔立ちはとても美しく妖艶な微笑みを浮かべている。

 そしてやはり藤之宮の母親と姉妹なだけあって、どことなく姪である藤之宮と面影が似ていたのだ。


「お待たせしてすまなかったね。私が雅也の父である高円寺 道也だ」

「私は雅也の母の高円寺 杏華よ。貴女が詩音さんね?雅也からよく話を聞いていたけど、思っていた以上に綺麗で可愛らしい方ね!私、貴女にお会いできて本当に嬉しいわ~!」

「は、初めまして!わ、私、早崎 詩音と申します!よろしくお願い致します!!」


 私は慌ててソファから立ち上り、急いで名前を告げて二人にお辞儀をする。


「そんなに畏まらなくていいんだよ。どうぞ気楽にして欲しい。さあ座ってくれ」

「は、はい!」


 そう高円寺父に促され私は再びソファに座ったが、緊張のせいか深くは座る事が出来なかった。

 すると隣に座っている高円寺が、突然私の腰に手を回してきて強く引き寄せてきたのだ。


「ま、雅也さん!?」

「そんな座り方だと、却って疲れてしまうよ?」

「だ、だ、だけど、この状況でこれは・・・」

「ふふ、本当に雅也は詩音さんの事が大好きなのね」

「はい、母さん」

「っ!」

「まあ、二人が仲良い事はよく分かったよ。詩音さん、改めて雅也の事よろしく頼む」

「あ、はい!私の方こそよろしくお願い致します!」


 高円寺父が優しそうに微笑んで私に言ってきたので、私も大きく頷いて返事を返した。


「そうだわ!詩音さんはその内、雅也と結婚して私の娘になるんですもの、もう今から私の事を『お義母様』と呼んで下さらない?」

「え?」

「それは良いな。なら私の事も『お義父様』と呼んでくれないか?」

「ええ!?」


 その二人の楽しそうな表情に、どうしたものかと戸惑い隣にいる高円寺の顔を伺い見る。


「ふふ、どうせいつかは言う事になるんだし、もう今そう呼んで上げて」

「っ!・・・お、お義父様?お義母様?」

「良いね!」

「良いわ!」


 そう二人揃って、喜びの声を上げたのだった。


「やっぱり、女の子にそう呼ばれるのは良いね!」

「そうよねあなた!だって家には、男の子達しかいないんですもの。出来れば娘も欲しかったわ~」


 高円寺母はそう言って、頬に手を添わせながらため息を吐く。

 しかし私はそこで、ある疑問が沸いたのだ。


「男の子『達』?あれ?そう言えば私、雅也さんにご兄弟がいらっしゃるか聞いてなかったですね」

「あれ?言って無かったかな?ごめんね。うん、私には弟がいるんだ」

「弟さんが・・・あれ?それじゃもしかしたら、もう学園に入学されてたりするんですか?」

「ううん。まだしていないよ。何故なら弟は・・・」


 高円寺が何か話そうとしたその時、再び応接室の扉が開く音が聞こえたので、私は思わずその扉の方に視線を向けそして驚愕した。


なっ!?何!?あ、あそこに天使がいる!!!


 私が目を見開いて驚きに固まっている視線の先に、扉から少し顔を覗かせてキョロキョロと中を覗き込んでいる小さな男の子がいたのだ。

 その男の子は長めのショートカットの髪型をしていて、頭を動かす度にそのサラサラの髪が揺れている。

 さらに大きくクリクリとした目が、キョロキョロと辺りを見ているのがとても可愛らしかったのである。

 そしてその顔立ちは、きっと大人になったら凄い美形になるだろうと分かる程の美少年だったのだ。

 そのまるで天使のような男の子に、私は内心身悶え目を奪われていた。


「あら?瞳也どうしたの?お部屋で遊んでいたのでは無かったの?」

「おかあちゃま!」


 天使のような男の子は、高円寺母を見つけると溢れんばかりの笑顔で高円寺母の下に駆け寄って行ったのだ。


か、可愛いーーーー!!!!


 私はその姿に思わず両手を祈るように握り合わせ、走っていく姿を凝視していた。しかしそこである疑問沸いたのだ。


「ん?『おかあちゃま』?・・・え?もしかして、あの小さな男の子が雅也さんの弟さん?」

「うん、そうだよ」

「・・・どう見ても、雅也さんと大分歳が離れていますね」

「まあね・・・私がまだ、中学生の時に生まれたんだ」


 高円寺の話を聞きながら、私は高円寺母の胸に抱かれて嬉しそうにしている男の子を見つめた。

 するとその男の子は私の視線に気が付いたのか、私の方に顔を向けじっと私を見てきのだが次の瞬間、顔を輝かせて満面の笑顔を私に向けてきたのだ。


ズッキューーーーン!!


 まさにその音が相応しいと思えるほど、その天使のような笑顔に私の胸は撃ち抜かれたのだった。


「ねえおかあちゃま!このすごくきれいなおねえちゃん、だあれ?」

「そんな言い方は駄目よ瞳也。相手の事を知りたい時は、まず自分からちゃんと名前を言わないといけないのよ?瞳也はそれが出来るわよね?」

「うん!ぼくできるよ!!」


 そう元気よく返事をした高円寺弟は、高円寺母から離れ私の下にテコテコと近付いてきてから、ペコリと可愛らしくお辞儀をする。


「え~と、ぼくのなまえは、こうえんじ とうやです!としは5さいです!おねえちゃんのおなまえは?」

「か、可愛い!!・・・ハッ!え~と、お姉ちゃんの名前は、早崎 詩音です。瞳也君よろしくね!」

「しおんおねえちゃんか~!!ねえねえ!ぼくとあそぼうよ!!」

「え?」


 高円寺弟は私の手をその小さな手で握ってきて、私をソファから立ち上がらせようとしてきた。

 私はその姿に頬が緩むのを感じる。


「まあ、瞳也駄目よ。詩音さんは私と一緒に、お着替えを楽しむんですから」

「・・・へっ?」


 その高円寺母のよく分からない話に、私はキョトンとしてしまう。


「え~!おかあちゃまのおきがえごっこ、ながいからだめ~!!」

「まあまあ、なるべく早く終わるようにするわ。だから瞳也は、その後で詩音さんに遊んで貰いなさいね」

「ぶ~!わかったよ。でもはやくね!!」

「ふふ、分かったわ。さあ詩音さん、別の部屋にお洋服沢山用意してあるから行きましょうね」

「・・・・」


 全く話に付いていけず、私は困惑した表情で高円寺を見つめた。


「詩音・・・ごめんね。ああなった母さんは、もう誰にも止められないんだ」

「えっと・・・お着替えって?」

「ああ、実は母さん・・・気に入った人に、まるで着せ替え人形のように服を着せていくのが趣味なんだ」

「え?ええ!?」

「だからあれは、詩音を気に入っていると言う事なんだ。ちなみに麗香も、あの着せ替え攻撃を食らっていたよ。まあ、さすがに会う度に着せ替えさせられてうんざりしてたから、すっかり母さんに近付かなくなってしまったけどね」

「麗香さん・・・」

「詩音さんすまないね。多分妻は麗香に出来なくなった反動で、凄い量を着替えさせようとすると思うが・・・よろしく頼むよ」

「お、お義父様!?」


 高円寺も高円寺父も、すまなそうな表情で私を見てきたのだ。

 私はそんな二人を呆然と見つめていると、突然私の肩が掴まれる。


「さあ詩音さん、行きましょうね~」

「・・・はい」


 肩を掴んできた高円寺母の有無を言わせない笑顔に、私は観念して頷き、そしてその高円寺母に連れられて応接室を出ていったのだった。



 高円寺母に連れられて入った部屋の中には、色とりどりの様々な洋服や和服、さらにどこかの国の民族衣装っぽい物まで部屋中に用意されていたのだ。

 私はそれを見た瞬間、解放して貰えるまで相当時間が掛かる事にだろうと悟ったのだった。


「これ全部、詩音さんが来ると聞いて急いで集めたのよ。さあさあ、まずどれから着て貰おうかしら?」


 そう言って高円寺母は上機嫌で服を見渡し、すでに部屋で待機していた数名のメイドと楽しそうに話ながら選び出す。

 そして数着手に持って私の下に戻ってきた高円寺母は、一着ずつ私の服の上から当てて見てきたのだ。


「う~ん、こっちが良いかしら?でもこっちも良さそうね!」


 そう言って何着も私に当ててくる高円寺母を見ながら、もう私はマネキンになったつもりでいようと覚悟した。

 すると楽しそうに服を選んでいた高円寺母が、ふと私に微笑みながら話し掛けてくる。


「それにしても、こんな日が来るなんて夢にも思わなかったわ」

「え?」

「あの雅也が、自分で選んだ彼女・・・それも婚約者を連れてきてくれるなんてね」

「そんなに意外な事なんですか?」

「そうなのよ。あの雅也、母親の私から言うのもなんですけど、あの顔立ちでしょ?昔から凄くモテてはいたみたいなの。だからよく告白もされていたみたい」

「・・・・」

「でもあの子、全員断ってしまっていたらしいのよ。まあ、あの顔と家柄に寄ってきた子がほとんどだったみたいなんだけどね。ただ親としては心配になって、そのままだと将来誰とも結婚出来ないわよ?と言ってみたのよ」

「それで雅也さんは、何と言われたんですか?」

「それがねあの子ったら、跡継ぎとしての役目は果たすつもりでいるから、その時は私達が選んだ人と結婚しますと言ったのよ!私達はそんなつもりで言った訳じゃないのにね。まあ、確かに他の家ではそう言った親の決めた相手と結婚する所もありますけれど、私達夫婦は、私達のように子供にも自分の選んだ好きな人と結婚して欲しいと思っていたのよ」

「お義母様・・・」

「そうしたら突然、雅也から彼女が出来たと報告を受けて私達は本当に喜んだのよ。さらに婚約までしたと言われたんですもの。私なんて泣いて喜んでしまったわ」


 そう言って、高円寺母は恥ずかしそうにはにかんで笑ったのだ。


「だから詩音さん・・・雅也を選んでくれて本当にありがとうね」

「お義母様!はい!絶対に雅也さんを幸せにしますね!」

「ふふ、ありがとう。でも詩音さんも、幸せにならないと駄目ですからね」

「はい!」

「さて、じゃあ続きをしましょうね」

「あ、はい・・・」


 そうして上機嫌な高円寺母の着せ替え時間は、結局夕食の呼び出しが来るまで続いたのであった。

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