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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校一年生編
9/110

勝負の約束

※本日二回目です。16時に1話更新してありますので、読まれて無い方はそちらからどうぞ!

 私が暴走した馬から女生徒を助けたと言う噂が学園中に広まってしまい、教室にいても休み時間になると他のクラスから私を見に来る人が現れた。それもその見物人に上級生まで混ざっているので正直頭が痛い。

 そしてさらに私の頭を痛くしている問題がある。


「おう!早崎!ちょっとランニング付き合えよ」


 そう言ってわざわざ一年の教室に堂々と入ってきて、爽やかな笑顔で私を運動に誘おうとしてくる藤堂の事だった。

 どうもあの馬暴走事故からさらに私によく絡んで来るようになり、何かしら理由を付けて私の運動能力を確かめようとして来るのだ。


「結構です!」


 私は急いで椅子から立ち上り、藤堂の横をすり抜け教室から逃げ出す。


「お!追いかけっこか?」


 藤堂はそう言って、私の後を楽しそうに笑いながら追いかけて来るのだ。


「違いますから!追い掛けて来ないで下さい!!」


 私の叫びなど完全に無視して追い掛けてくる藤堂から、全速力で校内を逃げ回る羽目に。これがここ最近ずっと続き、こんな事をしているから余計校内で目立ってしまって本当に毎日頭が痛かった。

 私は必死に藤堂から逃げる為、校内を縦横無尽に走り抜け校舎裏辺りで漸く藤堂を撒く事に成功しホッと息を吐いた。

 するとその時近くで何か物がぶつかる音と、小さく「痛っ!」と言う声が聞こえてきたので、その音が気になり人気の無い校舎裏に入っていく。



 少し進むと二人の男子生徒がいる事に気が付いた。

 一人は壁を背にして地面に座り込む眼鏡を掛けた気弱そうな男子と、もう一人の男子は立ちながら強気な態度で座っている男子を、腰に手を当てて見下ろしている。

 私は気弱そうな男子に見覚えがあった。確かこの前のテスト順位が1位の秀才で、私のクラスの委員長をしていて三浦 章太と言う名前だった筈。

 とりあえず私は二人から死角の位置で様子を伺う事にした。


「お前、ちょっと勉強が出来るからって生意気なんだよ!」

「僕そんなつもりは・・・」

「うるさい!俺に口答えすんじゃ無い!お前の親の会社なんか俺の親の会社より規模が小さいくせに!」

「・・・・」


・・・う~ん。これは完全に妬みによる苛めだね。それも、本人には全く関係の無い親の会社の事を盾にするなんて・・・最低な奴だ。


「で、でも・・・」

「口答えするなと言っただろ!」


 強気の男子が怒鳴り右手を上げ、委員長を殴ろうとしている所を見て私は咄嗟に体が動いた。


「あれ~?委員長こんな所で何してるんですか?」


 突然の私の登場に、殴ろうとしていた男子はそのまま動きを止め、頭を庇っていた委員長が驚いた表情で私を見上げてくる。


「お、お前一体誰だ!」

「・・・ほら、委員長こんな所で座ると服汚れるよ?」

「おい!お前!」


 私は怒鳴ってくる男子を無視し、委員長に手を伸ばして立ち上がらせた。そして、服に付いた汚れを払い落としてあげる。


「あれ?委員長!手の平怪我してるじゃないか!急いで医務室行こう!」

「お、お前ーー!!俺を無視するんじゃねぇーーーー!!!」

「あ!危ない!!」


 私がずっと無視し続けた事でキレた男子は、私に向かって殴りかかって来た。そしてそれを見た委員長が叫ぶ。

 もうすぐ私の頭に拳が届く所で私はスッと頭を横に傾ける。すると私の頭が今まであった所を拳が空しく通り過ぎた。


「なっ!く、くそーーー!!どうせまぐれだ!今度こそ!!」


 そう言って今度は私の背中に向かって拳を振り上げ突進してきたのだが、その拳が届く直前委員長の体を引っ張って横にサッと避ける。そうした事で、突進してきた男子は勢いを止められずそのまま校舎の壁に激しく激突していったのだった。


「いってぇーーーー!!」


 校舎の壁に強く打ち付けた拳を押さえ、その場にうずくまる男子を今度は私が腰に手を当てて見下ろしてやる。


「どう?さっきと逆で見下ろされている気分は?」

「お前一体何なんだ!」


 私を激しく睨み付けてくるがそれを平然と見下ろす。すると、委員長が恐る恐る私の袖を引っ張って困った表情で私を見てくる。


「早崎君・・・もう良いよ」

「委員長・・・」

「早崎?もしかしてお前、今騒がれているあの早崎か!?」


 驚愕の表情で私を見上げてきた後、すぐにまた激しく睨んできた。


「お前も前から気に入ら無かったんだよ!ちょっと顔が良いからって女子にちやほやされ、挙げ句にあの生徒会メンバーにまで目を掛けられやがって!」

「・・・別にちやほやされた覚えも無いし、生徒会メンバーも望んで関わっている訳では無いんだが・・・」

「うるさい!気に入らないものは気に入らないんだ!」

「・・・はぁ~、そう言えばさっきも委員長の成績が良い事を妬んでいたけど・・・ちょっとは自分で努力して、委員長を抜かすぐらい頑張ってみようとは思わないのか?」

「お前に成績の事など言われたく無い!俺より下の順位のくせに偉そうに言うな!!」


 私はその言葉にカチンと頭にきて、まだ座り込んでいる男子を冷たい眼差しで見下ろす。するとその眼差しを受け少し怯んだ表情を私に向けてきた。


「・・・なら、勝負をしないか?」

「し、勝負だと?」

「ああ、今度の期末試験での順位を競うんだ」

「・・・その勝負を受けて俺に何の得があるんだ?」

「もし君より僕がの方が順位が下だった場合、僕は下僕になって君の言う事を何でも聞いてやる」

「なんだと!?」

「早崎君!!」

「ただし・・・僕の方が上になった場合、今後一切委員長に手出ししないと約束しろ」

「・・・良いだろう。その勝負受けてたってやる!」

「よし、約束だ」

「ああ、まあ絶対俺が勝つけどな!今からお前を下僕にするのが楽しみだ!」


 そう言って男子は立ち上り、私を小馬鹿にしながら校舎の中に入っていったのだった。


「は、早崎君!僕の為になんて無茶な約束を!」

「別に委員長の為だけでは無いから気にしなくて良いよ。ただ単に僕があいつにムカついただけだから」

「しかし・・・あの人は同学年で隣のクラスの明石 剛士と言って、この前のテスト順位で8位になっていた人なんだよ?」

「・・・・」


なんだ、あいつ意外に成績良かったのか。ならやっぱりもっと頑張れば良いのに・・・。


「早崎君・・・今からでも遅くないから約束無かった事にして貰いに行こうよ?僕も一緒に行くからさ」

「いや、大丈夫だよ。委員長はとりあえず僕の事は気にしないで、普通にテスト頑張ってくれれば良いからさ」

「しかし・・・」

「ほらほら!そんな心配そうな顔しないで!それより委員長の手の怪我治療に医務室行こう!」


 そう言ってまだ心配そうに見つめてくる委員長を引っ張り、医務室に足を向けたのだ。



 その時校舎の窓から、一部始終を静かに見ていた眼鏡の男がいた事を、私は知らなかったのであった。

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