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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校三年生編
86/110

誕生日プレゼント

 あの入学式から数日が経ち、最近響が藤之宮の下に顔を出している所をよく見掛ける。

 しかし構われている方の藤之宮は、迷惑なのか眉間に皺を寄せ響からツンと顔を背けながら、キツイ言い方で響と話していた。

 だけど、そんな口調をされているのに響は全く気にする様子もなく、むしろニコニコしながら藤之宮との会話を楽しんでいるようだ。

 私はそんな響を見て、もしかして響ってMだったの?と少し心配になってしまう程だった。

 そうして今、昼休み中なのだがやはり教室に響の姿は無い。


・・・多分また、藤之宮さんの所なんだろうな~。


 そう呆れながら、自分の席で次の授業の準備をしていた。

 するともうすぐ昼休みが終わるぐらいの時間に響が教室に戻ってきたのだが、その顔は凄く楽しかったのかニコニコしていたのだ。

 その顔を見て、やはり私の予想は当たっていたのだろうと確信したのだ。


「響、お帰り~。その様子だと、また藤之宮さんの所に行ってたの?」

「うん!今日も麗香ちゃんは、面白くて可愛かったよ!」

「・・・あまり嫌がられる事しないでね」

「大丈夫。僕だって本気で嫌がる事はしないからさ」


 私が呆れた表情で響に言うと、意外な事に真面目な顔で響が答えたのに驚いた。


「そ、そう。まあ程々にね」

「分かってるよ。それよりも詩音・・・プレゼントはもう渡したの?」

「へっ?プレゼント?渡した?」

「・・・もしかして、知らないの?」

「何が?」

「・・・あ~高円寺先輩可哀想・・・」

「何で高円寺さんが?」

「ねえ詩音、高円寺先輩の誕生日っていつか知ってる?」

「え?高円寺さんの誕生日?え~と、確か・・・あれ?いつだろう?」

「・・・・」


 私の言葉を聞き、今度は響が呆れた表情をしてため息を吐く。


「僕は他の女の子に聞いたから知ってたけど、彼女である詩音は当然知ってると思ってたよ」

「・・・・・ま、まさか、高円寺さんの誕生日って・・・」

「うん、今日だよ」

「えええーーーーー!!!」


 私は絶叫し、机に手を置いて思わず椅子から立ち上がってしまう。すると私の声に驚いたクラスの皆が一斉に私の方を見てきた。

 そしてその視線に気が付き、私は恥ずかしがりながらすぐに席に座り直す。


「ど、ど、どうしよう。私全然知らなかったから、何も用意してない!」

「う~ん、ちょっと不思議に思ってるんだけど、あの高円寺先輩の誕生日なら去年や一昨年、絶対に学園内で大騒ぎになってたと思うんだけど?」

「・・・そう言えば去年のこの時期、なんか皆ソワソワしてたような・・・だけど正直その時、高円寺さんの事興味無かったから、そんな皆の様子を特に全然気にしてなかったのよね」

「あ~まあ、詩音らしいか。それよりも、どうするのプレゼント?」

「そ、そうよね!・・・どうしよう?」


 私がすがるような目で響を見ると、響は少し考えた後口角を上げてニヤリと笑う。

 そしてなんだか楽しそうな顔で私の耳元に顔を寄せてきて、小声で囁いてきた。


「な、なっ!!」

「絶対高円寺先輩、喜んでくれると思うけど?」

「で、でもーーー!!」


 響の言葉に私は顔を熱くさせ再び絶叫しそうになったその時、授業の開始のチャイムが鳴り響き、そして先生が教室に入ってきたのだ。


「まあ、あくまで僕の案だから、他に良いのがあったらそれで良いと思うよ。頑張ってね」


 そう言って響は私にウインクすると、自分の席に座り授業を受ける準備をしたのだった。



 あれからあっという間に放課後となり、私は一人教室に残って自分の席に座り腕を組んでうんうん唸っている。

 ちなみに私の目の前には、急ごしらえで用意した手作りのクッキーが簡易な袋に入った状態で机の上に乗っていた。

 しかも材料も、カフェの調理場にあったのを少し分けて貰った物で特に凝った物は出来ず、袋も購買で売ってたシンプルな袋だった為、誕生日プレゼントとして渡すのには正直どうかと思うような代物だったのだ。


「う~ん、とりあえず作ってはみたもののこれを渡すべきか・・・それか響が言っていた事を・・・いやいや無理!!」


 私は響が言っていた言葉を思い出し、頭を抱えて激しく首を横に振る。


「・・・・・よし!もうこの際、高円寺さんの誕生日を知らなかったと言う事にして、今日はもう帰ろう!!そして、ちゃんとしたプレゼントを用意出来たら、遅れた謝罪の言葉と一緒に渡す事にしよう!!」


 そう一人決意した私は勢いよく椅子から立ち上り、急いで帰り支度を始めた。

 しかし、鞄に作ったクッキーの袋を入れようとした所で、突然机の上に置いてあった携帯が鳴り出す。

 私はビックリしながら、急いで携帯を手に取り画面に表示された名前を見て固まってしまった。

 そうして私は一瞬逡巡したが、大きく深呼吸をして通話ボタンを押す。


「もしもし・・・」

「ああ詩音さん、今大丈夫?」

「あ、はい」


 電話口から聞こえてきたのは、先程までプレゼントをどうするか悩んでいた相手である高円寺の声だったのだ。


「今日はちょと忙しくて、なかなか会えなくてごめんね」

「いえいえ、お気になさらないで下さい!」

「・・・ちなみに詩音さんは、もう寮に帰ったの?」

「あ、いえ、まだ教室です。でも今から帰ろうかと・・・」

「そっか・・・ねえ、もしよかったら今から少し会えないかな?」

「え?」

「さすがにまだやる事があるから、そんなに長くは一緒にいられないけど・・・詩音さんに会いたいんだ」

「っ!!」

「駄目かな?」

「わ、分かりました!」


 電話口から聞こえた甘えるような高円寺の声音に、私は顔を熱くしながら肯定の返事を返したのだった。

 そうして私は結局高円寺と会う事となり、ため息を吐きながら机の上に置いてあったクッキーの袋を手に取り、高円寺の待つ教室に向かったのである。



 今は使われていない空き教室の扉を開けると、一人机に軽く腰掛けていた高円寺が私の方に顔を向け微笑んできた。

 私はその微笑みを見て頬を熱くさせながらも、やはり会えた事が嬉しいと感じていたのだ。


「やあ詩音さん、わざわざ来て貰ってごめんね」

「いえ、高円寺さんは忙しいんですから、気にしないで下さい」

「それでもごめんね。麗香の用事が終わるまで、ここで待機してないといけないからさ」

「そうなんですか・・・あれ?そのタイピン・・・」

「ああ、これかい?これは今日麗香が、誕生日プレゼントとしてくれた物なんだ」

「藤之宮さんが・・・」


 高円寺のネクタイに付いていたタイピンは、シンプルなデザインのシルバーのタイピンだったが、よく見ると細かい蔦の彫り込みがされており、一部に青い小さな宝石が埋め込まれているとても趣味の良い物だった。

 私はそれが藤之宮からの誕生日プレゼントだと聞き、急いで持っていたクッキーの袋を後ろに隠したのだ。


「ん?詩音さんそれは?」

「え?何がですか?」

「その、今後ろに隠した物だよ」

「・・・え~と」

「詩音さん」

「っ!!・・・ご、ごめんなさい!!」


 高円寺の怪訝な表情に私は言葉を詰まらせ、そして意を決して高円寺に向かい頭を下げた。


「わ、私・・・高円寺さんの誕生日知らなかったんです!昼休みに響から初めてそれを聞いて、私・・・なんとか高円寺さんにプレゼントをとクッキーを作ったのですが・・・やっぱりちゃんとしたプレゼントの方が良いですよね?」

「・・・・」


 頭を下げた状態で必死に言うが、高円寺から何も言葉が返ってこず段々不安になる。

 すると高円寺の足音が聞こえ、私に近付いて来ているのが分かった。

 そして私の近くで立ち止まると、私の頭に手を置き優しく撫でてくれたのだ。


「ありがとう」

「え?」


 優しい声音で高円寺にお礼を言われ、そして私が後ろ手で持っていたクッキーの袋を取られてしまい、私は慌てて頭を上げる。

 私が頭を上げると、高円寺は再び近くの机に軽く腰かけながら、私から取っていったクッキーの袋を開け中から一枚のクッキーを取り出し口にしたのだ。


「うん!美味しい!詩音さん、こんな素敵な誕生日プレゼントありがとうね」

「高円寺さん・・・」


 高円寺の優しさに私は胸を締め付けられ、彼女なのに誕生日の事を気にしなかった自分に自己嫌悪する。

 そして私は一度目を閉じ、じっと響の言葉を思い出してギュッと手を握りしめた。


「・・・どうしたの詩音さん?」


 心配そうに聞いてくる高円寺の声を聞き、私は一度大きく深呼吸してから目を開けじっと高円寺を見つめる。


「高円寺さん・・・もう一つ渡したいプレゼントがあるんです」

「え?私はこれだけでも十分に嬉しいよ?」

「でも、それだけでは私が納得出来ないんです!なので高円寺さん、そのまま座った状態で目を閉じて貰えないでしょうか?」

「目を?」

「はい。お願いします」

「・・・分かった」


 高円寺は戸惑いながらも、私のお願いした通り目を閉じてくれた。

 私はそのとても綺麗な高円寺の顔をじっと見つめ、勇気を出して高円寺に近付く。

 そして高円寺の顔をさらに見つめ続けた私は、目をギュッと閉じ意を決して高円寺の顔に自分の顔を近付けた。

 そうして私は高円寺の唇に、触れるだけの軽いキスをしたのだ。

 私はすぐに顔を離し高円寺から距離を取ったが、絶対私の顔は今真っ赤に染まっている自覚はある。

 しかしそれよりも私のキスに驚いた高円寺が、目を見開いて呆然と私を見つめてくる事に気恥ずかしさを感じ落ち着かなかった。


「え~と・・・やっぱりこんなプレゼントじゃあ、嬉しくは無いですよね?」


 私はそう言いながら、手をモジモジさせて俯いてしまう。

 実はこれは響に、私からキスをしてあげれば絶対高円寺は喜ぶと言われていたのだ。


「そんな事は無い!今まで貰ったプレゼントの中で、一番嬉しい贈り物だよ!!」

「高円寺さん・・・」

「詩音さん、ありがとう」

「いえ、お礼なんて・・・え?」


 私が高円寺の言葉に照れていると、突然高円寺に腕を引かれあっという間に高円寺の膝の上に横向きで座らされてしまった。


「こ、高円寺さん!?」

「君からのプレゼント、凄く嬉しかったよ。だけどもう少し味わいたいかな」

「え?・・・ん!!」


 高円寺は笑顔で言うと、驚く私の唇を素早く奪ってきたのだ。

 私は突然の事に目を白黒させて動揺するが、結局そのまま高円寺のキスを受け入れる事にした。

 そうして暫く高円寺からのキスを受け続けていたのだが、突然高円寺の胸元から振動が伝わってきたのだ。

 それでも高円寺はその振動を無視してキスを続けたが、止まらない振動にとうとう諦めて私から唇を離した。


「・・・残念、もう時間切れらしい」


 そう苦笑しながら胸元に入れていた携帯を取り出し、通話ボタンを押す。

 しかしその間も高円寺は私の腰をしっかりと抱き止め、膝の上から降りれないようにされていたのだ。


「・・・すぐ出なくてごめん。うん、分かった。今から行くよ」


 そう電話口に向かって話した後、携帯の通話を切り再び胸元に携帯を仕舞う。


「藤之宮さん?」

「ああ、すでに出なかった事を怒っていたよ。出来ればもう少し後に連絡して欲しかったな」

「高円寺さん・・・」

「さて、名残惜しいけどそろそろ行かないと、姫のご機嫌がさらに悪くなってしまうからさ。詩音さんごめんね」


 そう言って高円寺は一度私をギュッと抱きしめた後、漸く膝の上から下ろしてくれた。


「今日は二つも、とても素敵なプレゼントをくれてありがとうね!今度何か私からお礼をするよ」

「え?いえいえ、そんな事して頂かなくても良いですよ!って、あ!まだ言ってませんでした!高円寺さん、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう。でもお礼はどうしてもしたいからさ。だから、楽しみにしててね」

「え?あ!ちょっ!高円寺さん!!」


 私が戸惑いの声を上げている内に、高円寺は笑顔で手を振ってさっさと教室から出ていってしまったのだ。

 そうしてその教室には、ただ呆然と教室の入口を見つめる私だけが取り残されたのだった。

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