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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
79/110

ダンスの相性診断

 話し合いの結果、まず最初に榊原と踊る事となった。


「じゃあ詩音ちゃん、よろしくね~!」

「・・・はい」


 何でこんな事になってるんだろうとうんざりしながら、榊原と向かい合い一度お辞儀をし合ってからお互いに寄り添い手を繋ぐ。

 そしてそれに合わせるかのように音楽が流れてきたので、私達はその音楽に合わせて踊り出したのだ。

 正直少し踊っただけで、榊原が凄く上手い事が分かった。

 それは榊原の見た目に反してとても繊細な踊り方だったが、やはりその中でも楽しんでいるのがよく分かる。


「詩音ちゃ~ん、踊るの凄く上手だね~!」

「ありがとうございます。誠先輩もとてもお上手ですね」

「まあ、仕事柄色んなパーティーに出ないといけなかったから、それで自然と身に付いちゃったんだ~」

「なるほど。モデルの仕事も色々大変ですね」

「そうなんだよ~。あ、良かったら今度あるモデル仲間のパーティーに、パートナーとして一緒に行かない?」

「・・・遠慮します」

「え~残念~!」

「って!いきなりステップ変えないで下さい!!」

「だって~、こっちの方が楽しいかな~と?」


 そう言って榊原はニコニコしながら、さらに複雑なステップを踏み速度も速めてきたのだ。

 私はそれを榊原の挑戦と受け取り、キッと榊原を鋭く見据えながらそのステップと速度に付いていったのだった。

 そうして曲が終わるまでなんとか踊りきった私は、もう一度離れてからお辞儀をし、榊原との踊りを終わらす事が出来たのだ。


「いや~詩音ちゃん凄いね~!今まであの僕のステップに付いてこられた女の子って、詩音ちゃんが初めてだよ!」

「・・・何であんな事?」

「う~ん、詩音ちゃんがどこまで僕に付いてこられるか確かめたかったのと・・・もし足をもつれさせて倒れそうになったら、抱きしめらる口実になると思ったからさ~」

「・・・・」


 皆の下に戻りながら聞いた榊原の話に、私は呆れてもう何も言葉が出なかったのであった。



 榊原の番が終わり、次の相手は桐林である。

 桐林は恭しく私の手を取ると、踊りの場所である中央までエスコートしてくれた。

 そして先程の榊原と同じようにお互いお辞儀をした後、桐林と寄り添い手を繋いで踊り出したのだ。

 桐林の踊り方は、とても規則正しくまるで見本のように完璧な踊り方だった。

 私はなんだか、小さい時に踊りの先生に教わっていた時の事を思い出してしまい、思わずクスクスと笑いが込み上げてきてしまう。

 そして桐林は、そんな私を訝しがって見てきたのだ。


「・・・何がおかしい?」

「ご、ごめんなさい。ちょと昔の事を思い出しちゃって・・・」

「昔の事?」

「確か小さい時に教えてくれたダンスの先生も、こんな風に完璧に踊ってたな~と思い出していたんです」

「・・・つまらない踊りで悪かったな」

「そんな事無いです!とても踊りやすいですよ!!」


 桐林が少し拗ねた表情をしたので、私は慌てて否定した。


「まあ、詩音さんがそう言うのなら・・・そうだ、今度俺に踊りを教えてくれないか?」

「え?」

「出来れば・・・二人っきりで教えて欲しい」

「・・・お断りします」


 私は目を据わらせ、そうキッパリと断ったのだ。

 そうして桐林とのダンスの時間も終わり、再び桐林にエスコートされながら皆の下に戻った。



 続いては藤堂の番となり、私達は中央に立ってお辞儀をした後、寄り添い手を繋ぐ。

 さすがに藤堂の手は、剣道をずっとやってきただけあって大きくゴツゴツとした固い手をしていた。

 私はその手の感触に、今まで相当沢山の鍛練をしてきたんだと悟り、思わずその手の感触を確かめる為ギュッと握る。

 すると藤堂が驚いた表情で私を見てきたので、私はごめんなさいと一言謝ってその手を緩めた。

 だが今度は、逆に藤堂が繋いでいる私手を強く握ってきたのだ。


「け、健司先輩!?」

「ああ、始まるぞ」


 そう言って藤堂は、楽しそうな表情で踊り始めたのだった。

 藤堂の踊りは体育会系だけあって、とても力強い動きだったのだ。

 だからと言って踊りが下手な訳では無く、どちらかと言うと凄く上手い方である。

 ただ一個一個の動作が豪快で、とても力強いリードをされながらもなんとかその踊りに付いていった。


「健司先輩・・・ダンスは格闘技では無いですよ?」

「それぐらい知ってるぞ?」

「だったら・・・もう少し優雅に動けませんか?」

「優雅に?」

「はい。例えば・・・ここをこうするとか」


 そう言って踊りながら私は藤堂に、踊りの指導をしていったのだ。

 そうして曲が終る頃には、まだ少し力強さは残っているがほぼほぼ優雅に踊る事が出来るようになった。


「詩音さん、ありがとうな」

「べつにそんな難しい事教えて無いですよ?ちょっとコツを教えただけですし、むしろあれだけであんなに変われる健司先輩が凄いですよ!!」

「そうか?詩音さんの教え方が、上手かっただけだと思うぞ?」

「そんな事無いです!」

「まあ良いや、とりあえずお礼をしたいんだが・・・ほっぺにキスで良いか?」

「絶対要らないです!!!」


 藤堂がニヤリと笑いながら言ってきた言葉に、私は全力で拒否し早足で皆の下に戻ったのだ。



 次はカルの番となり、カルは私の手を握って中央まで連れていってくれた。

 そして皆と同じようにお辞儀をした後、カルと寄り添い手を繋いだ。

 曲が流れ出すと、私とカルはどちらからともなく自然に踊り出す。

 カルの踊りは、一言で言うと『懐かしい』である。

 小さい頃から我が家で何度も一緒に踊っていたので、その時の事を思い出しなんだか楽しくなってきた。


「カルとこうやって、一緒に踊るの久しぶりだね~」

「そうだね。昔はオレの両親の演奏で何曲も踊ったな」

「うん!あの時、凄く楽しかったよね!」

「しかし詩音は楽しすぎたのか、なかなか踊りをやめてくれなかったよな。そしていつも、最後オレが限界になって終了してたもんね」

「うっ!その時はまだ子供だったから・・・ごめんね」

「気にしなくて良いよ。だってオレもずっと詩音と踊っていたかったから」

「カル・・・」

「そしてこれからも、ずっとオレとだけ踊っていて欲しい」

「・・・・」


 カルの真摯な眼差しに、私は曖昧な微笑みを浮かべそれ以上何も言えなくなってしまったのだ。

 そうしてそのまま気不味くなってしまった私は、丁度曲が終わったのを幸いとして、スッとカルから離れてお辞儀をしなるべくカルの顔を見ないようにして、皆の下に戻って行ったのだった。



 そしていよいよ、最後の番である高円寺と踊る事となったのだ。


「さあ詩音さん、行こうか」

「・・・はい」


 高円寺は私に近付くと、自然な流れで私の手を取り腰に手を添えてきた。

 私はその自然な動きに一瞬驚くが、すぐに我に戻って平気な振りをして高円寺に促されるまま中央に向かう。

 しかしさっきから、心臓が盛大に早鐘を打ち鳴らしていて正直内心では動揺しまくっていた。

 そんな状態のまま中央までくると、一旦お互い離れてお辞儀をし、そして再び寄り添って手を繋ぎ曲に合わせて踊り出したのだ。

 そして私は驚いた。

 確かにさっきまでの四人は、とても上手いと思っていたのだが、高円寺は群を抜いて上手かったのだ。

 滑らかな足捌きに私を自然にリードする動き、だが型にはまっただけの踊りでは無く所々アレンジを加えていて、正直踊っていて凄く楽しい。


「高円寺先輩!凄く上手いですね!!」

「そう?少しアレンジして踊ってるけど・・・踊り難く無い?」

「全然!むしろとても踊りやすいです!!」

「それは良かった。さっきまで見ていた君の踊り方で、少しアレンジ加えて踊った方が踊りやすいかと思ったんだ」

「即席なんですか!?」

「まあね」


 そう言って高円寺がニコッと微笑んできたので、私は唖然としながら高円寺を見つめたのだ。


「しかし詩音さんも、このアレンジに普通に付いてこられるから凄いね」

「・・・高円寺先輩のリードが上手いからです」

「そんな事無いと思うよ?・・・ああそう言えば、去年は響君の振りをして男性パート踊ってたよね」

「・・・そんな事もありましたね」


 私はその時の事を思い出し、複雑な表情を浮かべた。


「確かあの時・・・詩音さん泣いてたよね?」

「っ!」

「・・・まあ今となっては、泣いてた理由は大体察しがつくから、これ以上は詮索しないよ。ただ・・・なんだかんだで君の泣顔はよく見掛けるね」

「そ、それは・・・・出来れば全部忘れて頂きたいです」

「それは無理だね。だって、全部君との大事な思い出だから。それに・・・そのネックレスも」

「っ!!」


 そう愛しそうに微笑んで私の首元を見てくる高円寺に、私は一気に顔が熱くなり思わず俯いてしまう。

 すると頭上でクスクスと高円寺の笑い声が聞こえてきて、益々顔が熱くなってしまった。


「そのネックレス、付けてくれたんだね」

「・・・はい」

「ありがとう」


 その優しい高円寺の声音を聞きながら、私は俯いたままそっと胸元のネックレスに触れる。

 それはあの修学旅行の時に、高円寺が詩音用にと買ってくれた月の形をしたネックレスだった。

 パーティーに来る前寮の自室で散々悩んだ私は、今日はなんだかそのネックレスを付けたい気分だったのだ。

 結局私はそのまま俯いた状態で、高円寺との踊りの時間は終わったのだった。



 そうして五人全員と踊り終えた私は、目の前で胸元のコサージュをそれぞれ私に差し出してきている五人を見て困惑している。


・・・結局この状態に戻ってしまったよ。


 そううんざりしながら、五人の真剣な顔を見て一体どうしたら良いかと困ってしまった。

 するとそんな私の近くに響が近寄ってきて、耳元に顔を寄せ小声で話し掛けてきたのだ。


「そんなに悩まなくても良いんじゃない?直感でこの人と踊って一番楽しかったな~と思った人を選べば良いと思うけど?」

「そんな簡単に!」

「べつに簡単で良いと思うよ?だって・・・ここで誰か選んだからって、その人と絶対付き合わなきゃいけない訳じゃ無いと思うよ?」

「・・・・」

「それに今回は誰を選んでも、恨みっこ無しと言う約束だからさ」

「・・・確かに、言われてみればそれもそうね。よし!あまり深くは考えずに選ぶよ!」

「はは、頑張ってね」


 私はそっと目を閉じ、さっきまで踊った状況を一人ずつ思い出し、誰が一番しっくりきたか考える。

 そして私の中である人の顔が浮かび、ゆっくり目を開けて五人の顔を見回す。

 そうしてゆっくり歩を進め、ある人物の前に立つとその手に持っていたコサージュを受け取る。

 それは赤い牡丹のコサージュだった。


「詩音さん・・・受け取ってくれて嬉しいよ」

「べ、べつに他意は無いですよ!ただ単に、高円寺先輩との踊りが一番踊りやすかっただけですから!」

「それでも嬉しいよ。ありがとう」

「っ!そ、それよりも約束ですよね?はい、私の薔薇のコサージュどうぞ」

「ありがとう。大事にするよ」


 そう言って高円寺は、とても嬉しそうに私が渡した青い薔薇のコサージュを胸元に付けたので、私もそれに見習って高円寺から受け取った赤い牡丹のコサージュを自分の胸元に付ける。

 チラリと他の四人に目をやると、四人共凄く不満そうな顔をしていたが、響との約束通り文句は言って来なかったのだ。


「詩音さん、よければもう一曲一緒に踊ってくれないか?」

「・・・良いですよ」


 そうして私と高円寺は、再び中央に向かい踊る事にしたのだった。

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