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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
78/110

二度目のクリスマスパーティー

 展望室でのパーティーも無事に終わり、それから数日が経った今日、今年も学園主催のクリスマスパーティーが行われる日が来た。

 去年は響の振りをしていた為、男用の礼服を着て参加していたが、今年は詩音として参加出来るので勿論今ドレスを着ている。

 私は部屋に置いてある姿見の鏡の前に立ち、自分の姿をチェックしていた。

 私が今着ているドレスは青を基調としたドレスで、腰からふんわりと広がった足元まであるスカート丈に、その上からオーガンジーをふんだんに使っている。

 そしてこのドレスは胸元が開いてはいるが、肩や襟元にもオーガンジーが使われていて、全体的に可愛らしいデザインであった。

 実はこのドレス、お母様が密かにあのハルさんへお願いして作って貰っていた物だったのだ。

 どうやら去年の学園祭で意気投合した二人は、ちゃっかり連絡先を交換しすっかり仲良くなっているらしい。

 私はその話をお母様から電話で聞いて、何だか凄い組み合わせだなと呆れてしまったのだった。

 そんな事を思い出しながら、私はもう一度鏡に映る自分の姿を見る。

 今回このドレスに合わせて、髪の毛をアップで纏めているのだ。

 私は鏡を見ながら、一度クルリとその場で回転しておかしな所が無いか確認する。

 そうして正面を向いた私は、首元をじっと見ながら暫し思案し、そしてよし!と気合いを入れアクセサリーの仕舞ってある棚に向かったのだった。



─────夕刻、クリスマスパーティー会場である講堂内。


 私は講堂内に入りまず見知った相手を探す。すると講堂の一角で、女生徒の集団に囲まれている人を発見した。

 その人は女生徒の集団より背が高く、その人物がカルだと分かると私はそこに向かって近付いて行ったのだ。

 しかしその道中、どうも周りから注目を集めているような気がしてチラリと歩きながら周りを見ると、男子も女子も何故か惚けた表情で私を見ていた。

 一体その表情は何なんだと思いながらも、なるべくその視線を気にしないようにしてカルの下に向かったのだ。


「カル!」

「・・・詩音!」


 私が声を掛けると、困った表情で女生徒を相手にしていたカルが、私を見て一瞬瞠目した後とても嬉しそうな笑顔を向けてきた。

 するとカルを囲んでいた女生徒達が、一斉に私の方を振り返りながら睨み付けて来たのだ。

 しかし私を見た瞬間、何故か皆驚いた表情をしたかと思ったら、すぐに先程見た他の人と同じような惚けた表情になってしまった。

 その様子に頬を引きつらせながら、とりあえずカルの下に近付くとその集団は私に道を譲るように左右に別れ、そして静かに私達から離れて行ってしまったのだ。

 だがしかし遠くに行った訳ではなく、少し離れた位置で停滞しこちらを伺い見ている。

 私はそれを視界の端に捉え小さくため息を吐くと、再びカルに視線を戻す。

 するとそこには、カル以外に響と三浦も一緒に立っていたのだ。

 どうやら先程の集団の輪の中に、この二人もカルと一緒に囲まれていたようなのだった。


「響に三浦君もいたんだね」

「うん・・・でも僕はどちらかと言うと、巻き込まれていただけだけどね」


 そう言って三浦は苦笑を溢したのだ。


「・・・なんかごめんね」

「ううん、気にしないで。もう慣れたから。それよりも・・・詩音さん、そのドレスよく似合ってるね!」

「本当?ありがとう!!」

「・・・それ、お母様が送ってきたドレスだよね?」

「そうだよ。響のもそうだよね?」

「うん、そう!」


 響の礼服は私と同じ生地を使っているようで、同じく青を基調とした物だった。

 そしてその胸元には、濃い青色をしている百合のコサージュが付いていたのだ。

 今年は二年生なので胸元のコサージュは青色の物と決まっており、私の胸元にも同じく濃い青色の薔薇のコサージュが付いている。


「しかし・・・今日の詩音は、結構気合いが入った装いをしてるね」

「そうかな?」

「そうだよ!それに・・・そのネックスもよく似合ってるね」

「・・・ありがとう」


 響はじっと私の首元を見てきたので、私はそっとそのネックスに触れ、はにかみながらお礼を言ったのだ。

 すると胸元に青いアマリリスのコサージュを付け、パーティー用の礼服がよく似合っているカルが私の近くに寄ってきて、じっと私を見つめてくる。


「カル?」

「・・・このまま拐って行きたいほど可愛い。本当に素敵だよ」

「さ、拐うのは勘弁してね。でもありがとう」


 私は苦笑気味に、カルにお礼を言ったのだった。

 そうして暫く四人で話していると、突然入口の方が騒がしくなり黄色い声が聞こえてきたのだ。


「どうやら、お出ましのようだね」


 そう言って響は、その黄色い声がした方を見ながら楽しそうにしているので、私は大体予想出来ているが響の視線を追って入口の方に視線を向ける。

 すると予想通り、高円寺達四人が沢山の女生徒に囲まれながら講堂の中に入って来ていたのだ。


・・・相変わらず凄い人気だな~。


 そう他人事のように思いながらその四人を見ていると、不意に高円寺と目が合い微笑まれてしまった。

 その微笑みに一瞬ドキッとしてしまったが、すぐに深呼吸をしてなんとか落ち着かせる事に成功する。

 しかし高円寺達は何か女生徒達に声を掛け、その言葉を聞いた女生徒達は渋々と言った表情で高円寺達に道を開けると、高円寺達はその開いた道を通って私達の下まで歩いて来たのだ。

 そして私達の下まで来ると、驚いた表情で繁々と私を見てきた。

 しかし私も近くまで来た高円寺達の姿を見て、目を大きく見開き見入ってしまう。

 今まで何度も高円寺達の礼服姿は見ているのに、何故か今日の四人はとても輝いているような錯覚を覚えるほど礼服姿が格好良く見えてしまったのだ。

 そして特にその中でも、高円寺が一番格好良いと思ってしまっている自分に、正直戸惑っている。


あれ?高円寺先輩って・・・こんなに格好良かったっけ?


 そう自分に、疑問を投げ掛けてしまうほど動揺してしまった。


「うわぁ~!今日の詩音ちゃん、いつにも増して可愛いね~!」

「本当にそう思う。俺もこんなに、綺麗で可愛らしい人は今まで見た事が無い」

「詩音さん、そのドレスよく似合ってて素敵だね!惚れ直したよ!」

「・・・とても美しい。正直このまま私だけが愛でていたいほどだ」

「あ、ありがとうございます・・・」


 榊原、桐林、藤堂、高円寺の順にそんな賛辞を貰ったので、私はとても恥ずかしくなり手をもじもじとさせながら俯き加減にお礼を言ったのだ。


「「「「「可愛い・・・」」」」」


 するとそんな呟きが、高円寺達四人と隣にいるカルから聞こえて来たのだった。


「ねぇねぇ詩音ちゃ~ん、ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」

「お願い?」

「うん!・・・その胸に付けている薔薇のコサージュと、僕のこのチューリップのコサージュと交換してくれないかな?」

「え?」


 榊原が自分の胸元に付いている、赤いチューリップのコサージュを胸元から外し、笑顔で私に差し出して来たのだ。

 しかし私は、そのコサージュを交換する意味を去年三浦から聞いていた為、困った表情をしてそれを受け取る事が出来なかった。

 何故ならこのクリスマスパーティーで、お互いのコサージュを交換した男女は結ばれると言う伝説だったからだ。


「誠と交換するのが嫌なら、俺の水仙のコサージュとどうだ?」


 そう言って桐林が、胸元の赤い水仙のコサージュを差し出してくる。


「それなら俺も!詩音さん、俺の椿のコサージュならどう?」


 藤堂がそう楽しそうに言って、同じく胸元の赤い椿を差し出した。


「私も遅れる訳にはいかないね。・・・どうか私の牡丹のコサージュと交換して欲しい」


 そう微笑みながら、高円寺が胸元の赤い牡丹のコサージュを差し出す。


「・・・今三浦君から、コサージュの交換の意味を聞いた。詩音、オレのこのアマリリスのコサージュと交換して!」


 他の四人に負けじと、カルまでもが胸元から青いアマリリスのコサージュを取り、私に差し出して来たのだ。


「え、えっと・・・」


 五人共笑顔でいながら目がとても真剣だった為、私はどうすれば良いか分からず困惑してしまっていた。

 すると突然私の肩に手が置かれ、私は何だろうと思いながらその手の方に顔を向けると、響がニコニコとした表情で私を見てきていたのだ。


「響?」

「詩音、どうすれば良いのか困っているんだよね?」

「うん、そうだけど・・・」

「多分この様子だと、誰かの受け取らないと治まらなそうだよ?・・・それなら詩音、この五人とダンス踊ってきなよ」

「・・・・・はぁ?」

「誰かに決める決め手が無いみたいだし、だったら一人一人とダンスを踊って、その中で一番良かった人と交換したらどう?」

「ええ!?いやいやそれは・・・」

「じゃあ、誰かに決めれる?」

「うっ!そ、そもそも交換しなくても・・・」

「・・・先輩方とカル、詩音が誰とも交換しなくても納得出来ますか?」

「「「「「出来ない!!」」」」」


 響の問い掛けに、五人は口を揃えて否定し首を横に振る。


「じゃあ詩音が誰か一人選んでも、今回は恨みっこ無しって事で良いですか?」


 さらに響が問い掛けると五人は一瞬考えた後、揃って頷いてきたのだ。


「と、言う訳だから、詩音頑張って踊ってきてね!」

「・・・頑張って踊ってきてね!じゃ無い!!私に拒否権は無いの!?」

「う~ん、この場合無さそうだね」

「そ、そんな~!!」


 そう嘆きの声を上げるが結局どうにもならず、私はこの五人と踊る羽目になってしまったのだった。

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