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身代わり男装令嬢の憂鬱  作者: 蒼月
高校二年生編
67/110

突然の来訪者

 あのお母様に電話を掛けてから数日経ったが、いまだにお母様から何の音沙汰も無い。

 結局お母様が何を思って最後にああ言ったのか分からないが、ここまで何も起こらないので、もうあまり気にしない事に決めた。

 そうして再びいつもの日常に戻ったのだが、一つだけ変わってしまった事がある。どうも体育祭以降、高円寺を直視する事が出来なくなってしまったのだ。

 視界にチラリと高円寺の姿が映るだけで、すぐにその場から逃げ出してしまうほどだった。

 そして今も、廊下の先でチラリと見えた高円寺から逃げてきたばかりである。


「はぁ~~~~~」

「早崎君、どうかしたの?」


 私が無意識に大きなため息を吐くと、隣を歩いていた三浦が不思議そうに私を見てきた。

 三浦とは逃げていた時に廊下でバッタリと出会い、なんだかんだで一緒に歩いて教室に戻っていたのだ。


「ううん。何でも無いよ。多分、ちょっと疲れてるからさ」

「そっか、最近早崎君凄く生徒会の仕事頑張ってるもんね」

「ま、まあね」


 それはふと気を抜くと、無意識に高円寺の事を考えそうになるので、なるべく仕事に集中し考えないようにしていたのだった。

 だから感心してくる三浦に対し、とても後ろめたい気持ちで返事を返したのだった。


「・・・そう言えば、早崎君の髪だいぶ伸びたよね?」

「そうなんだよね~。そろそろ切らないとって思ってるんだけど、なかなか行く暇が無くってさ」

「まあそこまで伸ばすと、逆に切るの勿体無さそうだけどね」


 そう言って三浦は、私の背中を見てきたのだ。

 入学式の時には肩までだった髪が、今では背中まで伸びていて、邪魔なので後で一つに纏めゴムで留めてある。

 私はその髪を触りながら、寮の中に併設されている美容院にそろそろ行こうかと悩んでいたのだ。

 そうしてその後も、三浦と他愛ない話をしながら教室に戻って行ったのだった。



 今日も何事も無く授業が終わり、放課後に生徒会室へ行くといつもの通り高円寺達がいるので、なるべくそちらを意識しないように仕事に集中し、さっさとやるべき仕事を終わらすと逃げるように生徒会室を後にしたのだ。

 そうして寮の自室で、今日の授業の復習と明日の授業の予習を机に向かって集中していたので、やり終えた頃にはもうすぐ日付が変わろうかとしている時間になってしまっていた。


「ふぁぁ、さすがにもうそろそろ寝ようかな~」


 私は口に手を当て大きな欠伸を一つすると、椅子から立ち上り寝る準備を始めようとしたのだ。

 するとその時、小さくドアをノックする音が聞こえたような気がしたが、特にドアの外から声は聞こえなかったので、気のせいだったと思い寝間着に手を伸ばす。

 だが再び小さなノック音が聞こえてきたので、私は訝しみながらそっとドアに近付き、覗き穴からドアの外を伺い見る。

 するとそこには、カジュアルな服装で大きなリュックを背中に担ぎ、ツバの大きな帽子を目深に被っている人が立っていたのだ。

 その明らかに怪しい格好の人物を見て、こんな時間に一体誰だと怪しんでいると、その人物は私が見ている事に何故か気が付いたのか、目深に被っていた帽子のツバをくっと少し上げ覗き穴にその顔を見せてきた。


「!!!」


 私はその顔を見た瞬間驚きに目を瞠り、慌ててドアの鍵を開けてその人物を中に招き入れたのだ。

 一応ドアを閉める前に、廊下に誰もいない事を確認する事は忘れなかった。

 そしてドアを閉めしっかり鍵を掛けた後、私は急いで部屋の中に戻っていく。

 するとその人物は、ソファに背負っていたリュックを置きベッドの縁に腰掛けて部屋の中を見回していたのだ。


「響!!!」

「やあ詩音、久しぶり~!直接会うのは去年の夏以来だね!」


 そう言って、被っていた帽子を取り私に笑顔を向けてきたのは、今まで散々探しても見付からなかった、私とそっくりの顔を持つ双子の兄である響本人であったのだ。


「響!!あんた何でここに!?と言うか、そもそも今まで何処にいたのよ!!」

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。ちゃんと説明するからさ」

「これが怒らずにいられる訳無いでしょう!・・・はぁはぁ、ま、まあ良いわ。ちゃんと全部説明してよね!!」


 私はまだ沸々と沸く怒りを抑えながら、とりあえず話を聞こうとさっきまで座っていた椅子を持ってきて、響の正面に座った。


「・・・それで?」

「・・・そんなに睨まないでよ。え~と、まず何処から説明すれば良いのかな?」

「まず、あの『自分探しの旅』って一体どう言う事?」

「ああ、あれね。実は・・・ちょっと、自分に自信を無くしてしまっていたんだ」

「・・・響が?」

「そうだよ。こう見えて、僕の心は硝子のように繊細なんだよ?」

「・・・絶対嘘だ」


 そう言って私は、目を据わらせて響を見る。

 小さい時から響の事を見てきたのだ、何事にも動じず飄々として自由奔放な性格の響が、そんな硝子のように繊細な心を持っているとは到底思えなかったのだ。


「信じて貰えないなんて悲しいな~。・・・まあそれはさておき、僕はある事が切っ掛けで、本当に自分に自信を無くしたんだよ?」

「・・・ある事?」

「そう!それは詩音、君の笑顔を見たから!!」

「・・・はぁ?何で私の笑顔見て自信無くすのよ?」

「う~んその様子からだと、いまだに詩音の笑顔の破壊力を自覚してないみたいだね」

「???」

「まあその説明はこの際良いや。それよりも、その笑顔を高校入学前に直視してしまった僕は、不覚にも妹にときめいてしまってね、だいぶその笑顔に耐性が付いていた自信があっただけに、僕結構ショック受けていたんだよ?」

「は、はぁ・・・」


・・・一体響は何を言ってるんだ?


 そう思いながら、真剣に話す響に呆れた表情を向ける。


「それで散々悩んだ僕は、お母様に自分探しの旅へ出て良いか聞いてみたんだ」

「・・・はぁ!?お母様に相談していたの!?」

「うん、そうだよ」


お、お母様ーーーーーーー!!!


「それでね、僕の話を聞いてくれたお母様は少し考えた後に、笑顔で僕の旅を認めてくれたんだ。さらに全面的に、バックアップもしてくれる事になったんだよ」

「・・・・」


 私はそれを聞いて絶句したのだった。


「・・・な、何でお母様はそんな事を?」

「う~ん、どうもお母様にも、何か思う事があったみたいだよ」

「・・・思う事?」

「まあ僕はお母様じゃ無いから、よく分からないけどね。ただ、僕が旅に出るにあたって、いくつか条件を出されたんだ」

「条件?」

「うん。まず第一に、卒業までには必ず学園に復学する事。次に、学校で習う授業内容をしっかり旅先で勉強し、一週間に一回あるお母様からのテストを必ず受ける事・・・」

「ちょ、ちょっと待って!!どうやってその学校で習う授業内容を知る事が出来たの!?それに・・・携帯ずっと電源切ってたのに、どうやってお母様と連絡取ってたの!?」

「ああそれはね・・・」


 私は驚愕の表情で椅子から立ち上り響に詰め寄ると、響はソファに置いてあったリュックを手に取り中を開けて漁り始めたのだ。

 するとその中から、小さなノートパソコンと携帯を一台づつ取り出した。


「このノートパソコンに、授業内容のテキストを送って貰っていたんだよ。そしてこの携帯は、お母様と連絡する為専用の携帯なんだ。勿論全部、お母様が用意してくれたんだよ」

「お、お母様・・・」

「・・・詩音、不思議に思わなかったの?いくら僕でも、高校生の僕一人でプロの捜索の手から逃げ切れる訳無いじゃん。それに・・・あの去年の夏、詩音が必死に僕を探していたのは知っていたけど、その情報を詩音のSPの人経由でお母様から教えて貰ってたんだよ?」

「なっ!!」

「・・・昔から、只者じゃ無いと薄々気付いていたけど・・・お母様、絶対敵に回したく無い人だよね」

「・・・・」


 そう苦笑している響を見ながら、私は再び絶句したのだった。


「まあそう言う訳で最後の条件は、お母様が帰ってくるようにと言った場合、何があってもすぐ帰ってくるようにと言われたんだ」

「・・・まさか、今日ここに来たのは」

「うん。その最後の条件でだよ」


 その言葉に、あの電話でお母様が言っていた意味が漸く分かったのだ。


「そ、そう・・・でも、私が聞くのも変だけど、その・・・自分探しはもう良かったの?」

「ああ、うん。もう殆ど理解出来たからさ」

「そうなの?」

「うん。僕色んな所に行って、そこで沢山の女の子達と接してきたんだけど、妹である詩音へのときめきと異性であるその子達へのときめきは、全く別物だと理解出来たからさ!もう詩音にときめいても、自分に自信を無くす事は無いから心配しなくて良いよ!」


 そう自信満々に力説されたが、私には全く理解出来ない話だった。


「ま、まあ・・・響が納得してるなら良いよ。それじゃ、響は学園に通う為ここに来たで良いんだよね?」

「うん、そうだよ」

「それじゃ私は・・・もう響の振りして、男の格好しなくて良いって事?」

「うん!」

「私・・・詩音に戻って良いの?」

「そうだよ。今までありがとうね」


 そう笑顔で言ってきた響を見て、私は体の力が抜け再び椅子に座り込む。


「そう・・・やっと・・・」

「安心してる所悪いんだけど、これからの事話し合わないと」

「そ、そうだった!」


 もう男の振りをしなくて良いと分かって安心していたが、今後の事をしっかり話し合わないと色々大変な事になると思い、もう一度気を引き締め直す。

 とりあえず響との入れ替りは、すでにお母様が色々手配してくれてるらしく、それは特に心配する事は無いと響から教えられた。

 そうして私は響に、入学してから今までに学園であった事を色々説明し、交遊関係や生徒会長の仕事等を事細かく話したのだ。

 そして今は、高円寺に対して何故か気まずくなっており、あまり顔を会わせられなくなっている事を話すと、それを聞いた響は一人考え込み始め、だがすぐに何か思い当たったのか手をポンと叩き納得した顔で小さく呟いた。


「ああなるほど。お母様の思惑はこう言う事か・・・」

「響?」

「ううん、何でも無いよ。まあその高円寺先輩とは、僕が上手くやっておくよ」

「そう?まあ頼むね」


 響が何を呟いていたかよく聞き取れなかったが、まあ響がそう言うので任す事にしたのだ。

 そして大体の打ち合わせが終わったぐらいに、響が懐からさっき見せてくれた携帯とは別の携帯を取り出し、おもむろに何か文字を打ち出した。

 私はそれを不思議に思い眺めていると、響は文字を打ち終わったのか携帯をまた懐に戻し、私に向かってニコッと微笑んできたのだ。


「今、協力者呼んだから」

「・・・協力者?」


 そう不思議そうに問い返すが、響はニコニコ笑っているだけで何も答えてはくれず、仕方が無くその協力者が来るのを大人しく待つ事にした。

 するとそう時間が掛からない内に、ドアをノックする音が聞こえてきたのだ。


「響!オレだよ!カルロスだよ!」


 その声に私はすぐさま椅子から立ち上り、ドアの下まで向かうと静かにドアを開け、困惑した表情でいるカルを部屋の中に招き入れる。


「・・・本当に響だ!!」

「やあカル!久しぶり~!!」


 二人はそう言い合うと、お互い嬉しそうに抱き合ったのだ。


相変わらず仲良いな~。しかし、確かにカルは私の事情知ってるから協力者にうってつけだよね。


 そう心の中で納得し、まだお互い背中を叩き合いながら楽しそうにしている二人を眺めていたのだった。

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